1の島に来てから、ファイアにはたくさんの友達が出来ました。
一昨日リーフと一緒にいたマサオは、いつも朝、船で1の島へとやってきて、夕方、船でどこかに帰っていきます。
マサオは、ファイアよりも小さな男の子です。 彼はいつもニャースのぬいぐるみをだっこしていました。
ファイアたちが寝泊りしているネットワークセンターまで、誰かに付き添われてやってくるミスズは、ファイアより1個下の女の子です。
白い杖を持っていたのでファイアが不思議そうにしていたら、自分は目が見えないので手で触ったり杖で前のものを確認して進むのだと言っていました。
ファイアには、それがどういうことかよく分かりませんでしたが、友達が増えたのは嬉しいことでした。
今日は、みんなと一緒に、この1の島のすぐ近くにある「ともしびやま」までピクニックに行くことになっていました。
昨日、リーフにそのことを言われてから、ファイアは今日をとても楽しみにしていました。
ファイアの友達、ムチュールのナナは、ナナミさんに頼んでお弁当を作ってもらいました。
可愛らしいランチョマットにくるまれたお弁当をバッグに詰めると、ファイアはお気に入りの帽子を被ってリーフを待っていました。
時計の長い針が一番てっぺんまで来たとき、リーフはファイアを迎えにやってきました。
何か難しいことをやっているマサキさんとニシキさんの代わりに、グリーンとナナミさんが見送ってくれます。
「じゃあ、リーフ君、ファイアをよろしくお願いします。
ファイア、ケガしないように気をつけて行ってらっしゃい!」
「いってきまぁす!!」
ファイアが元気よく手を振ると、ナナミさんも手を振りました。
グリーンは何も言わず、リーフはグリーンにあっかんべーをしていました。
どうしてあっかんべーをしているのかファイアはリーフに聞きましたが、リーフは
「ひーみーつ。」
と、言って、教えてくれませんでした。
「よーし、全員そろったな!
そんじゃおくりびやま探検隊出発だ!!」
リーフが元気よく言うと、マサオとミスズは「おー!」と返事しました。
坂道をたくさん歩くと、砂浜に小さなボートが置いてあります。
マサオとミスズにボートに乗るように言うと、リーフはファイアをボートに乗せました。
その船に背中のリュックを乗せると、リーフはファイアの乗ったボートを押して海の上に浮かべます。
「じゃ、行こうぜ!!」
リーフがボートに乗ると、それはゆらゆらと揺れました。
「ちょっと、このボート、オールもついてないじゃない。
これでどうやって、あんたが言ってた『ほてりのみち』まで行くの?」
「スクリューもオールも帆も
ところが、こんなボートでも自在に操ることは出来るんだな、これが。
ミヤ、『バブルこうせん』だ!!」
元気よくリーフが叫ぶと、突然ボコンという音を出して、船は動き出しました。
ファイアが覗き込むと、船底に灰色の小さなポケモンが張り付いています。
大きさと形に特徴があったので、ファイアはそのポケモンが何だか、すぐに分かりました。
「‘テッポウオ’!!」
「そ、テッポウオのミヤ。 背中の吸盤でくっつけば、このくらいのボートなら動かせるってワケ。」
「へぇ〜! やるじゃない、案外あんたポケモンマスター狙ってたりするんじゃないの?」
「ひーみーつ。」
「リーフ、もっとポケモン見たい!!」
「それも秘密。」
「出たぁ、リーフの秘密主義!!」
クスクスと笑いながら、ミスズが言いました。
風が気になるのか目をつぶっていますが、髪がパラパラと動くのが楽しそうです。
ほどなくして、ファイアたちの乗った船は『ほてりのみち』に到着しました。
ほてりのみちは、おくりびやまに行くために通過する、炎ポケモンがたくさんいる道路なのだとリーフが教えてくれました。
「わぁっ!」
船が浜に着くと、ファイアは歓喜の声を上げました。
ねずみ色の砂がまっすぐに伸びていく道の先に、少ないながらも生き生きとした緑が生息しています。
ナナが砂粒を1つ拾うと、少し大きな砂はキラキラと光っていました。
きれいだなぁと思って、ファイアもそれを見ていると、後ろをポニータとギャロップの親子がひょこひょこと歩いていきます。
「こんな海近くまで、炎ポケモンが?」
「火山が近くにあるんだ。 この近くは炎ポケモンのたまり場だよ。」
リーフがそう言いながらミスズをボートから降ろすと、少しゆらゆらと揺れました。
一緒の船に乗っていたマサオが、転びそうになってあわてて船にしがみつきます。 そろそろと船を降りかけたマサオは、走り去っていくポニータの親子の向こうを見ると、急に騒ぎだしました。
「エーフィ! ニャー見て、ねぇエーフィがいるよ!!」
「はっ?」
リーフはミスズを抱えたまま、思いっきり吐いた息ごと声を出しました。
2つに別れた尻尾を持っているポケモンが、岩を駆け登り、リーフたちのことをちらりと見てから走っていきます。
ファイアはその後を追いかけていきます。
ですが、一生懸命走っても、ファイアの足ではエーフィに追いつくことは出来ませんでした。
しょんぼりとしてファイアが帰ろうとしたとき、何かチラチラと光る赤いものが見えて、ファイアは立ち止まります。
「なんかいる。」
ポケモンかもしれないと思って、ファイアはそーっとチラチラ光る赤いものに近づきます。
少しずつ、少しずつ近づいていくと、チラチラした光は動いて、ファイアのことに気付きました。 どうやら、ポケモンのようです。
ファイアが近づいてきても、ポケモンは逃げませんでした。
不思議そうな顔をしながら、興味深そうに自分のことを見ているファイアの顔をじっと見ています。
「・・・ヒトカゲだぁ!」
名前を知っているポケモンを見つけて、ファイアはうれしくなりました。
オレンジ色のヒトカゲというポケモンは、ちょっと驚いたようにおどおどしていますが、やっぱり逃げません。
チロチロと光っている尻尾の先がきれいだなと思ったファイアは、さわってみようとして、手を伸ばしてみました。
するとヒトカゲは、たいそうびっくりした様子で尻尾を引っ込め、ファイアにさわられないように体の後ろに隠します。
ヒトカゲの尻尾の先で光っているのは、まぎれもない炎そのものです。 ヒトカゲも自分の炎で、どこの誰かも知らない子供をヤケドさせたくはありません。
「くぁっ!」
大きな鳴き声を出して、ヒトカゲは尻尾の炎をファイアから遠ざけました。
赤い炎が自分から遠ざけられるので、面白くなってファイアが追いかけると、ヒトカゲは逃げます。
危なっかしいファイアの動きを、振り返り振り返りヒトカゲが動くので、なかなか距離は広がりませんでした。
そうこうしているうちに、ファイアを追いかけてきたリーフたちがその光景を見て、首をかしげます。
「ヒトカゲだ! ニャー、ヒトカゲがいるよ!」
「ヒトカゲ? ヒトカゲって、あのヒトカゲ?」
リーフに手を引かれてやってきたミスズが、マサオに尋ねました。
ミスズの耳に、元気に走り回っている足音は聞こえますが、それがヒトカゲかどうかは分かりません。
延々と終わらない鬼ごっこをしているファイアとヒトカゲを見ると、リーフは見かねて飛び出しました。
そっと回り込むと、後ろ向きに走っていたヒトカゲの頭をつかんで逃げられないようにします。
ヒトカゲは振り払おうと短い腕をバタバタと動かしましたが、頭のてっぺんに手が届きません。 ファイアが近づいて来たのが見えると、尻尾を地面すれすれのところに下ろして身構えました。 そうすれば簡単に手が出せないからです。
「ファイア、捕まえないのか?」
ずっとヒトカゲのことを見ていたファイアは、名前を呼ばれてリーフの方に顔を上げました。
すぐに逃げられないようにヒトカゲの背中につかまったナナが、不思議そうな顔をしているファイアの代わりに説明します。
「ムリよ、この子ポケモンの捕まえ方知らないもの。
ファイアが持ってるポケモン、みんな人からもらったものなの。」
「ふーん、じゃ、ポケモン捕まえるのはこれが初めてか。 ファイア、ヒトカゲ捕まえるか?」
「やる!!」
「・・・意味分かって言ってんのか? まぁ、いいか。
それじゃ、このテレビのお兄さんが言ってるとおりにやってみな。 行くぜ!」
リーフはヒトカゲから手を離すと、大きなリュックの中から小さなテレビのようなものを取り出しました。
手早くスイッチを入れると、小さな黄色いテレビから男の人の声が聞こえてきます。
よいこの トレーナーさん、こーんにーちはー!
・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・
どうした 元気が たりないぞ? こんにちはあー!! テレビの お兄さんだよー!
今日は お兄さん、ポケモンの つかまえ方を 教えて あげちゃうぞ!
ふと 見つけた 野生の すてきな ポケモン・・・
ああ ほしい ほしい
つかまえたい つかまえたい!
かなえましょう 教えましょう その方法を!
じゃあ いくよ!
スーパーお兄さんショー、はーじまーるよー!
「ほら、ポケモン出せよ。 こっちに気付かせないとヒトカゲ逃げちゃうだろ?」
じりじりと下がっていくヒトカゲを指差しながら、リーフはファイアに言いました。
ファイアは肩からさげたバッグからモンスターボールを1つ選び出すと、えーいとヒトカゲに向かって投げます。
ボールは地面を1回弾むと、ポンとかわいらしい音を立てて2つに割れました。
元気に手足を伸ばして飛び出してきたのは、まん丸な体と、おなかのぐるぐる模様が特徴のニョロゾというポケモンです。
リーフは一瞬そのポケモンを見て目を丸くしましたが、すぐに手に持ったテレビを抱えなおします。
つかまえる時は、すぐに ボールを 投げちゃダメ!
まずは つかまえる ポケモンの 体力を 減らすんだ。
「‘スー’『みずでっぽ・・・!」
「おぉーっと!? ちょっと待った!?」
リーフは技の指示を出そうとしたファイアの口を押さえて、それを止めました。
なだめるようにファイアの肩を叩くと、きょとんとしているヒトカゲとニョロゾのことを指差します。
「いいか? ヒトカゲは炎タイプでお前が出そうとした『みずでっぽう』は水タイプ、それ
「ワザ出さないの?」
「違う、そーじゃなくて、えーと・・・とにかく! 違う技にしろ、な?」
首をかしげると、ファイアはヒトカゲのことを指差しました。
「‘スー’『おうふくビンタ』!!」
スーと呼ばれたニョロゾは、ヒトカゲが逃げられないように回り込むと、大きな平手を使ってパンパンッと2回ヒトカゲのほっぺたを叩きました。
いきなり攻撃されたヒトカゲは、ちょっと怒って尻尾の炎をスーに向けて飛ばします。
スーは何てことない顔をしていましたが、近くにいたナナがちょっと嫌そうな顔をしていました。
さあ このくらいだな。
でも 出来れば つかまえる時に 相手の ポケモンを 眠りやマヒ・・・
つまり・・・・・・ 状態異常にすると、ずっと つかまえやすく なるよ!
「そのニョロゾ、『さいみんじゅつ』は覚えてるのか?」
「うん!」
「じゃあ使ってみろよ、ボール当てやすくなるぜ。」
うん! と、大きくうなずくと、ファイアは1度スーの様子を見てからヒトカゲを指差します。
思い切りたくさん息を吸い込むと、「さいみんじゅつ!」と、大きな声でニョロゾに指示を出しました。
スーは先ほどヒトカゲをビンタした手を動かし、ヒトカゲを眠らせようとチカラを集中させますが、ただごとではない雰囲気に気付いたヒトカゲは、スーに背中を向けて走って逃げ出しました。
「あ! ちょっと、逃げるなぁ!」
真っ先に気付いたナナが、ヒトカゲの背中にしがみついて逃げないように引き止めようとしました。
ですが、元々そっちの方がチカラが強かったのでしょう。 ヒトカゲはナナを背中に乗せたまま、どんどんファイアたちの方から逃げていってしまいます。
ファイアのトレーナーカードからピコピコと音が鳴り出すと、突然ヒトカゲは後ろから何かに引っ張られたようにのけぞりました。
その弾みでナナがヒトカゲの背中から落ち、尻尾の炎にぶつかってしまいます。
「くぁ!?」
「‘ナナ’!!」
ファイアが駆け寄るよりも前に、ヒトカゲはナナを抱き上げ、体についた炎を叩き消しました。
尻尾の炎が当たってしまった部分が、黒くヤケドしてしまって、ナナはとても痛そうにしています。
ケガした部分を見ると、ヒトカゲはナナを肩にかつぎました。
そして、ファイアたちの方を1度振り返ると、ヒトカゲは『ほてりのみち』を奥へ奥へと向かって走り出します。
別に追いかけなくてもナナはファイアから20メートル以上離れることはないのですが、ファイアがヒトカゲとナナを追いかけて走り出してしまったので、リーフたちもその後を追いかけるしかありませんでした。
置いてけぼりにならないように、リーフはミスズを抱えて追いかけます。
ヒトカゲは一生懸命走りながら、時々後ろを振り返りました。
まるでヒトカゲがファイアを案内しているようだ、と、リーフは考えていました。
気のせいなのかもしれませんが、そのおかげで、ヒトカゲとファイアがはぐれることはありません。
なかなか終わらない鬼ごっこに疲れてきた頃、リーフに背負われていたミスズが、顔を上げました。
道は段々と下っていきます。 両側には切り立った崖がそびえ立ち、5人が進む方向を狭めていきました。
1度立ち止まると、ヒトカゲはファイアのことをジッと見て、少し距離を縮めながら道をまっすぐに走らずに奥へと進みます。
ファイアがふと自分の横を見ると、地面を流れる水から泡が立っていました。
「ファイア、水が
ここらの水温は80度以上あるから、ヤケドするぞ!」
一応リーフは注意しましたが、ファイアは全く聞いている様子がありません。
ですが、ヒトカゲがちゃんと危ない場所を避けて走っていったので、ファイアが危険な源泉近くに行くことはありませんでした。
ヒトカゲは奥へ奥へと進んでいくと、地面のくぼみにお湯がたまっている場所を見つけては顔を近づけてニオイをかいでいきました。
ファイアが近づいてくると少しだけ逃げて、6つほどニオイをかいでから、7つ目のくぼみにたまっているお湯のニオイをかぐと、ヒトカゲはそのお湯の中にそっとナナを入れます。
何をしているのか知りたくてファイアがヒトカゲに近づこうとしたとき、ずるっという音がして頭が空の方に向きました。
コケで足をすべらせて、転びそうになっているのです。
どぼんっ!
と、いう、大きな音がしましたが、ファイアは水の中に落ちていませんでした。
きょとんとしている彼女の目の前で、温泉の色がついてちょっと赤みがかってしまったニョロゾのスーが、やれやれ、と困ったような顔をしています。
温泉に浮かんでいたナナは、びっくりした顔でファイアとスーのことを見ていました。
「ちょっと、大丈夫!? 歩くときはちゃんと足元確認しなきゃダメじゃない!
あ、もも・・・ファイア!! 早くスカート直しなさい! スー、手伝ってあげて!!」
追いついたリーフの顔に『みずでっぽう』を当てると、スーは手早くファイアを立たせ、スカートをまんべんなく叩いて泥を払いました。
ナナは、ついついっと泳いで地面の上に戻り、バッグにも泥がついている、とか、スカートのひだがちゃんと直ってない、とか、スーに細かく指示します。
リーフたちはファイアの元へ行くと、すっかりケガの治っているナナを見て目を丸くします。
「・・・へーっ、初めて知った。 ともしび温泉にポケモンの回復効果があるなんてな。」
「ありがと、リーフ。 ナナちゃん、大丈夫?」
「うん、もう平気よ。 ヤケドもすっかり治ったみたい。」
ミスズに向かって返事すると、ナナはここまで運んできてくれたヒトカゲに向かって、ぴょこんとおじぎしました。
自分にさわろうとしているマサオの手をひょいとかわすと、ヒトカゲは、走ってファイアたちから少しだけ離れました。
谷のさらに奥へと行くと立ち止まり、振り返って尻尾の炎を揺らします。
みんなが不思議そうにしていると、リーフが頭の後ろで手を組みながら、言いました。
「なんか、まだ連れてきたいところがあるみたいだな。」
どこかから見られているような感じがして、マサオはニャース人形のニャーをだっこしながら、辺りを見回しました。
岩の陰で、何かピンク色のものが見えたと思ったら、それはまた、すぐに引っ込んでこっちの方を見ています。
上手に隠れているつもりなのでしょうが、ピンク色の何かは貝がらで出来た頭の先っぽを隠しきれていませんでした。
「まことにようやく、追いつきましてございますわ。
じょおうは目を開けたまま水面を泳がれてございまし、水が目に入りましてファイア様を見失ってしまいましたのでございます。
いざこれにてファイア様を見つけられたのでありますが、このように他の人間様とご一緒してさしあげていらっしゃるご様子。
じょおうは少し様子をご覧になるのでございますわ。」
こそこそ隠れているピンク色の何かが、マサオはとても気になっていました。
どうしてあんなに目立っているものに気付かないんだろうと、腕を引いてリーフに教えます。
「リーフ、ニャーがね、あっちに変な生き物がいるよって!」
「あぁ、気にすんな。 目ェ合わせるとからまれるぞ。」
トレーナー・ポリス オペレーションセンターより各員へ。
20日深夜確認された生命体は、現在もなお逃走中です。
確認されているのは2体。 それぞれカントーとホウエンに飛来していますが、同一の個体だと思われます。
捕獲に当たったトレーナーが3名、この個体による攻撃により負傷、3人とも現在意識不明です。
各員へ告ぎます。 この生命体、コードネーム「デオキシス」を発見し次第、各所属本部へと連絡、速やかに付近住民への警告を行い、捕獲に当たってください。
繰り返します―
連絡用として持たされていた無線のスイッチをグリーンは切る。
いまだ発展の気配を見せない、ニシキのコンピューター作業を見ると、いらだたしげに腰に手を当てた。
その様子を見て、姉のナナミはコーヒーを入れていた手を止める。
「まだ、気に病んでるの?」
「そんなんじゃない。」
首を横に振ると、グリーンのとび色の髪はその動きに合わせて揺れる。
勧められたコーヒーを断り、窓際で指を叩く仕草からは、彼の内なる怒りのようなものが見て取れた。
作業の手を一旦止めると、ニシキはグリーンの方へと向き直り、頭を下げる。
「すみません、グリーンさん。 まだ時間かかりそうなんです。
今朝リーフに必要なパーツを探してくるよう頼んできたので、夕方には少しマシになると思うんですけど・・・」
ヒトカゲが案内するとおりに進んでいくと、海に浮かぶ山が見えました。
それほど高くはありませんが、山のところどころから白い煙のようなものが立ち昇っています。
リーフやナナがそれを見ていると、ヒトカゲは尻尾の炎をファイアに触られないように隠して、その山を指しました。
「ともしびやま?」
リーフが言うと、ファイアとナナがなんだろうと首をかしげました。
「ほらファイア、海の向こうに島みたいなのが見えるだろ?
あれが、ともしびやまって言って、今は活動してない火山なんだけどな、夜中になるとあのてっぺんで炎が燃えるっていうウワサがあるんだ。
オレ、密かにあの山に伝説のポケモンとか住んでるんじゃねーかと思ってるんだけど、もしかしたら、このヒトカゲ、そこまで案内してくれるのかも・・・!」
「伝説のポケモン!」
わくわくする響きに、ファイアは叫びました。
自分のすぐ近くに今まで見たことのないポケモンがいるのだと考えると、胸がドキドキしてきます。
ファイアはさっきよりももっと元気になって、ヒトカゲの後を追いかけました。
追いかけるナナとスーも大変そうです。
トシという名前のリーフのガラガラに手伝ってもらって、ファイアたちはイカダを作りました。
子供たちだけで作ったイカダはつなぎ目からボロボロで、いつ自壊してもおかしくない代物でしたが、それでも海を数10メートル渡るくらいなら、それで十分でした。
イカダというよりは、ほとんど丸太に乗る感じで、5人はともしびやまに向かうため、海に出ました。
リーフのミヤと、ファイアのスーがイカダを押して、子供たちが落ちないようにゆっくりとですが、進んでいきました。
道案内のヒトカゲは、1番後ろに乗っかっていました。 ヒトカゲは尻尾の炎が消えると死んでしまうので、海に落ちないかどうか、少し不安そうです。
「なぁ、もし伝説のポケモンに会ったらどうする?」
ともしびやまに到着すると、リーフはみんなに質問しました。
1番最初に元気よく手を上げたのは、マサオです。
「ニャーにね、見せてあげる! パパやママが帰ってきたら、お話するんだ!」
「出来れば・・・だけど、あたし触ってみたいなぁ。
伝説って言われるくらいだから、何か他のポケモンと違うのか、確かめてみたい。」
ミスズがちょっと小さな声で言いました。
「・・・やっぱ、無理かな?」
ちょっと恥ずかしそうにしながらミスズが言うと、リーフは首を横に振ります。
「そんなことねーって! 伝説ったって、ポケモンはポケモンだろ?
ファイアは? お前伝説のポケモンに会ったらどうする?」
リーフに聞かれると、ヒトカゲと追いかけっこをしていたファイアは立ち止まりました。
落っこちそうだったお気に入りの白い帽子を1度外してからまたかぶると、質問に答えます。
「お話するの。 いっぱい!」
ナナに服にシワが寄っているとか、帽子がちゃんとまっすぐになってない、とか言われ始めたファイアを見て、リーフは笑いました。
ヒトカゲがまたどこかへと行こうとしているのを見て、立ち上がります。
ファイアもヒトカゲのことに気付くと、ナナをよいしょと抱き上げて走り出しました。
それからリーフに呼ばれて、立ち止まりました。 ミスズが少し遅れてしまっているからです。
ごつごつした山道はあまり歩きやすくはありませんでした。
まして、体の小さなマサオや早く歩けないミスズも一緒なのですから、みんなの歩く速度はほてりの道を歩いているときよりも、ずっとずっと遅いのです。
それでも道を見失わずに歩いていけるのは、ヒトカゲが時々ファイアたちの方を振り返って、はぐれそうになった時はちゃんと待っていてくれるからでした。
ヒトカゲは尻尾の炎を揺らせばファイアがついてくることに気がついていました。
階段状になった岩の上に上ると、少し下の道を歩く大人たちを見つめます。
黒い服を着たその人たちを見るヒトカゲの目は、少し怒っているようでした。
「どうしたの?」
ファイアは下の方を見ているヒトカゲを見ると、首をかしげました。
ヒトカゲはファイアから尻尾の炎を遠ざけて、下の方にいる黒い服の人たちを指差します。
何だろうと思って、ファイアが下の方を見ると、途端に体がすくんで、ファイアは登っていた石の上から足をすべらせました。
「・・・やっ!」
それほど高い場所ではなかったので、ファイアはかすり傷ひとつ負いませんでしたが、その場に座り込んで動けなくなってしまいました。
首の後ろを押さえ、ガタガタと震えだします。
みんなが心配して駆け寄ってきますが、スーが目の前で手をぱたぱたさせても、ファイアは反応しません。
「どうしたの、ファイア? 大丈夫?」
「やだ、顔が真っ青よ!」
ナナがファイアのひざに手をつくと、ファイアはようやくみんなが近くにいることに気付いて顔を上げました。
ぎゅっとナナのことを抱きしめると、震えながら一生懸命声を出します。
「・・・・・・帰る・・・」
「どうしちゃったのよ、ファイア? みんなにも教えて!」
「ロケット団・・・」
聞き慣れない言葉にみんなが不思議そうにするなか、スーだけがその言葉に驚いて身を震わせました。
「ロケット団、いた・・・」
「ロケット団?」
「あの、ポケモンを使って悪いことしてるっていう、アレ?」
「ファイア、見間違いじゃない? ロケット団はもう何年も前にいなくなったのよ?」
そこから一言も喋らなくなってしまったので、みんなはファイアがどう思っているのかを知ることが出来なくなってしまいました。
リーフは少し高いところに登って辺りの様子を探ってみますが、ともしびやまの上にも下にも、子供たち以外には誰も見当たりません。
自分以外の子供たちのところへと戻ると、リーフは考えました。
見たものが何にせよ、これだけおびえきっているファイアをこの離れ小島に置いておくわけにはいきません。
どの道を通れば1番安全に帰れるかを考え、本島に帰ろうと座り込んでいるファイアを立たせようとしたとき、ふっと風に消えそうな声で、マサオがつぶやきました。
「・・・ねぇ、帰ろう?」
マサオの意見に、みんな納得しました。
ファイアの言うロケット団というものが一体何なのか、気になっていたのですが、このまま彼女をここに置いておく方がかわいそうだと思ったからです。
「なぁ、ナナ・・・みんなを連れて帰れるか?
オレ、ニシキさんに頼みごとされてるから、それ済ましてからじゃねぇと帰れないんだよ。」
「ちょっ・・・!? 何言ってるのよ!?
もしあんたがロケット団と鉢合わせしたりしたら・・・勝てる相手じゃないのよ!?」
「心配ないない、オレに勝てる奴なんていねーよ!」
浜まで一緒に行く、と言って、リーフは自分の持っているモンスターボールを手の中で転がしながら、先に歩き出しました。
慣れたもので、ミスズでも簡単に歩ける道も、すぐに見つかります。
やっぱりファイアの思い違いだったんだ、と、少し安心しながら歩いていたとき、はたと目の端に止まるものがあって、リーフは立ち止まりました。
見間違いではないか、と目をこすって、もう1度睨むようにそれを見つめました。
胸に「R」という文字の入ったそろいの黒服を着た、明らかに島の人ではない大人たちが、6、7人。
嫌な予感がして、リーフは他の子供たちのもとへと引き返しました。
まだ青い顔をしたファイアと、ミスズの手をつかむと、それまでの進路を変えて山の奥へと急ぎます。
急に戻ってきたリーフに、ミスズは質問しました。
「リーフ、どうしたの?」
「海岸に変な奴らがいた。 何もないとは思うんだけどさ、一応遠回りして行こう。」
変な奴ら、という言葉に、ファイアがびくりと震えました。
背後から近づいてくる足跡を聞くと、リーフの手を振り払って走り出します。
引き止めようとリーフが小さな背中に向かって叫ぼうとしたとき、あのヒトカゲがファイアの行く手をふさぎ、立ち止まらせました。
「くぅっ」と小さくひと鳴きすると、尻尾の炎を揺らして山肌に空いた穴の中へと走っていきます。
「ニャー、あのヒトカゲ、ボクたちについてきてほしいって言ってるみたいに聞こえない?」
マサオがずっと抱き続けているニャースのぬいぐるみに尋ねました。
返事はありません。 リーフは少し考えるとヒトカゲが入っていった穴へと向かって歩き出しました。
「乗りかかった船だ、行くだけ行ってみるか。 ミスズ、歩けるか?」
「多分。」
「ファイア、行くか?」
少し驚いたように跳ね上がってから振り向くと、ファイアはゆっくりとうなずきました。
「行く。」
ナナを抱き上げ、ファイアはみんなよりも先に歩き出しました。
洞窟のような空洞の入り口で、ヒトカゲは待っています。
ファイアが空洞の中に足を踏み入れると、中は思っていたよりも広く、道がずっと奥の方へと続いていました。
本当の洞窟のようにも見えますが、それにしては地面が平らすぎる。 ファイアの後に続いて入ったリーフはそう考えていました。
しばらくは平坦でまっすぐな道が続いていました。 リーフは1度後ろを振り返ると、みんなを先に急がせます。
地面の下へとさがっていく道に差し掛かったとき、みんなの後ろから大人たちの声が聞こえてきました。
何を言っているのかまではよく聞き取れませんが、子供たちの緊張は高まります。
「リーフ・・・」
「しっ! 声を立てるな。 このまま出来るだけ静かに洞窟の奥まで行くんだ、運が良ければやり過ごせるかもしれない。」
リーフはおびえるマサオの背中を押しました。
ミスズもみんなに遅れまいと壁を手でこするように早足で歩いていますし、マサオも持っているニャースのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめます。
みんなを囲む空気の中に焦りが見え始めるなか、ファイアだけが変わりませんでした。
それだけに集中しているかのように、ひたすらに、必死でヒトカゲのことを追い続けています。
しばらくすると道が2つに分かれていて、リーフは少しほっとしました。
これで、後ろからやってくる大人たちをまくことが出来るかもしれないと思ったからです。
ヒトカゲが右の道に入っていったので、リーフはミスズをそっちの方へと誘導します。
「後ろの人たち、段々近づいてくるね。」
左手を壁につくと、ミスズはひそひそとリーフに話します。
急ぎ足で歩きますが、時々地面のでっぱりに足を取られて転びそうになり、そのたびに他の子供たちに支えられていました。
ミスズは下の唇を噛みながら、もう1度壁に手をつきます。
ですが、さわった場所が今までのような土で出来た壁ではなかったので、ミスズは少し驚いて声を出しました。
ちょっと大きな声で、他の子供たちも地面や壁の違いに気付きます。
それまで岩や土のむき出た天然の洞窟のようだったところが、ミスズがさわったところから急に、地面はレンガ敷きに壁は金属の板に変わっていました。
敏感なミスズの耳が、後ろから近づく人たちの足音を聞きつけます。
誰かが声を上げるよりも先に、彼女は歩き出しました。 冷たい金属の表面についた何かに、ミスズの指先が触れます。
「ボツボツしてる・・・」
リーフが壁を見ると、金属で出来た壁の表面にポツポツと点で出来た模様のようなものがついているのが分かりました。
一見すると何かの模様にも見えますが、規則性のようなものがあり、単に壁を飾っているだけだとは思えません。
ヒトカゲが立ち止まり、ファイアもそれに合わせて立ち止まって、後ろを振り返りました。
壁のボツボツに手を触れるミスズが、そっと声を出します。
「ものごとにわ、いみが、ある。」
ファイアは、ぴたりと止まりました。 ミスズの壁についた手はゆっくりとすべり、それに合わせて声が響きます。
「そんざいにわ、いみが、ある。 いきることにわ、いみが、ある。
ゆめを もて、ちからを つかえ。」
「何だ、それ?」
リーフはミスズに尋ねました。
言葉はそこで切れているようで、ミスズはその先に何もないことを確認すると、壁を伝うようにして再び歩き出します。
「分からないけど・・・この壁に書いてあったの。
このボツボツ、点字になってるみたい。」
点字というものは、目の見えない人でも読めるように、小さなでっぱった点の組み合わせで作られた文字のことです。
視覚を使って探してみても、続きの文章は見つかりませんでしたので、リーフはミスズに続いて歩きました。
先ほどよりも足音が響かなくなり、洞くつの行き止まりが近いことが分かります。
後ろの人たちと鉢合わせすることの心配をしていて、リーフはミスズとファイアがぶつかりそうになっていることに気が付きませんでした。
リーフの目の前で、ボーっとしていたファイアとミスズが正面衝突して、両方とも転んでしまいます。
「あちゃー・・・、ごめんね、大丈夫?」
ミスズは謝りながら自力で起きて、ぶつかってしまった相手を探しました。
お人形のように転がってしまったファイアも、スーやナナに支えられながらちゃんと起き上がっています。
地面をこするようにして動いていた手が、彼女の小さな手に触れると、ミスズはその熱さにとても驚きました。
「近くにいる。」
スーに髪についたホコリを払ってもらっているファイアが、そう言い、リーフたちは首をかしげます。
「何が、近くにいるんだ?」
「近くにいるの! あのね・・・!!」
「バッ・・・! そんな大声出したら・・・っ!」
リーフの不安は的中し、後ろから歩いてくる人たちの声の感じが変わりました。
ファイアはぴょんと立ち上がると、足音を響かせどんどんと道の奥へと走っていってしまいます。
口を固く閉じると、リーフはミスズを立たせ、ぬいぐるみにしがみつくようにしいているマサオの背中を叩きます。
先に行ってしまったファイアを追いかけ、4人は走りました。
その後ろから、誰のものともわからない足音がたくさん、ついてきています。
道は小さな部屋へと続いていました。
先ほどまでとは打って変わり、黒いガラス質の岩に囲まれた空間で、床の狭さに比べて天井が高く、てっぺんを見ることは出来ません。
真ん中には台座のようなものがあり、赤く光る石が置かれていました。
リーフは少し驚いた顔をしてその台座へと近づくと、上に置かれた石を手にとってながめます。
「ニシキさんに頼まれてたルビー・・・こんなところにあったのか。」
鮮やかな色をした宝石をヒトカゲの炎ですかして見ると、夏の夕焼けで染まった太陽のような光がゆらゆらと揺れていました。
指先で触れて感触を確かめると、リーフはそれをハンカチに包んでリュックの中にしまいました。
背中から光を当てられ、リーフは眉を潜めます。 後ろから来ている人たちに、とうとう見つかってしまったのです。
「リーフ!」
マサオが声を上げましたが、リーフは振り向かずにモンスターボールを手に取るだけにとどめました。
目の前にいるファイアは歯をカチカチと鳴らしながら震えています。 強く抱きしめられたナナが、窒息しそうになっていました。
「何だ、余計な心配させやがって・・・ 声がすると思えば、ただのガキじゃねぇか。
おぃお前! こいつらの保護者か?」
誰だかわからない大人は、子供たちのなかで1番背の高いリーフへと向かって話しかけてきました。
背中に手に持ったモンスターボールを隠し、リーフは振り向きます。
集団の異様な様相に、リーフは少し驚きました。 この暑い季節に、全員上から下まで黒ずくめの服装で、胸に赤い色で「R」という文字がプリントされています。
ほとんどが男のようでしたが、中には女も混ざっているのがわかりました。
短い時間を使ってリーフは考えてみましたが、あまり平和的に物事を解決できる雰囲気ではありません。
「ひーみーつ。」
空いている方の手を使って、リーフは口の前で指を1本立てて見せました。
身長こそあるものの、顔から幼さの抜けきっていないリーフを見て、黒い服の男はチッと舌打ちします。
「こいつもガキか。 おぃ、お前らよく聞け!
この場所は今からロケット団が使う、子供は帰って宿題でもしていろ!」
「言われなくても帰るところだよ。 行こーぜ、みんな。」
リーフは震えているファイアの肩を抱くと、男たちの横を通り過ぎようとしました。
ところが、黒服の集団は子供たちの前で通せんぼして、帰り道を通してくれません。
「・・・何だよ。」
むっとした顔でリーフが言うと、黒服の男は先ほどリーフが宝石を取った台座を指差します。
「お前たち、あそこにあるものを取ったりしなかったろうな?」
「そんなん知るかよ。 チビがおびえてるだろ、おめーらこそ、もうちょっと平和的に話とか出来ないワケ?」
「ふん、何も知らないガキが。 ウソをつくとロクな目に遭わないぞ。」
黒い服の男がそう言うと、別の男がミスズを自分たちの方へと引き寄せました。
突然誰かも分からない人に腕をつかまれ、ミスズは驚いて手をバタバタさせています。
「おぃっ!? 何すんだよ!」
リーフは相手の方に詰め寄ろうとして、1度身を引きました。
モンスターボールの開く音がして、アーボという毒を持ったポケモンが出すシューっという音が聞こえてきたからです。
「言ったはずだ。 逆らうとロクな目に遭わないと。」
「おめーら、汚ねーぞ! バトルならオレがまとめて相手になってやる! ミスズを離せよ!!」
「リーフ!」
ミスズは相手を振り払おうと腕を大きく振りながらリーフのもとに駆け寄ろうとして、足をつまずかせました。
腕をつかまれていたせいで地面にぶつかることはありませんでしたが、強い負担がかかった手首を痛そうにしています。
彼女の腕をつかんでいた男は、少し赤くなった手首を見て低い声で言いました。
「目が悪いらしいな。」
「好都合だ。」
そう言った黒服の男を見て、リーフの中で何かが切れました。
隠し持っていたモンスターボールを大きく振りかぶって投げようとすると、黒服の男は捕らえられているミスズを指差します。
「逆らうと痛い目見るのはこいつだぞ。」
「ぐっ・・・!」
キリ、と、音を立てるほど歯を噛みしめると、リーフはしぶしぶモンスターボールを下ろします。
黒服の男はスーになだめられているファイアにも気付くと、白い帽子に向かって指を差しました。
「おぃ、そこのチビ! お前もだ。
そのニョロゾとヒトカゲをモンスターボールにしまえ。 抱えているムチュールもだ。」
ファイアはビクッと身を震わせると、男たちから顔をそらしました。
ナナが何かを言っているようでしたが、それを聞いている様子すらありません。
小さな体をさらに小さくして震えているファイアに、男たちの1人が近づいていきました。
白い帽子の下をのぞきこむようにすると、軽く眉を潜めます。
「こいつ、どこかで・・・?」
「ファイアさまぁッ! おどきになられてごらんなさいませぇ〜!!」
突然大きな声が聞こえてきたかと思うと、巨大なサーフボードが迫ってきて、ファイアの近くにいる黒服の男をなぎ倒しました。
気絶したロケット団の上でサーフボートのようなものが消えたかと思うと、2メートルはある大きなピンク色のポケモンが、誰かが何かを言うよりも前に気絶した男を持ち上げ、ミスズをつかまえている男へと向かって投げつけます。
いきなりそんなことをされては、いかにトレーナーといえどもひとたまりもありません。
逃げる間もなく倒されてしまった男に、ミスズは訳も分からず目をパチパチさせていました。
「ロケット団! ご主人がお許しになられてもじょおうはお許されないのでございますわ!
ファイア様にかすり傷1つでもおつけになられてごらんあそばせ、じょおうはヤドキングのホコリにかけてロケット団を倒すのでございますわ!!」
いろんな意味で、黒服の集団はどよめきました。
リーフも一瞬ひるみますが、相手がこの巨大なピンク色の生物に気を取られている今がチャンスだと考えます。
足でマサオとファイアのすねを軽く叩くと、部屋の出口の方を指しミスズのもとへと走りました。
急いでミスズを背負うと、男たちがリーフのやっていることに気付きます。
「走れ!!」
リーフは大きな声で叫ぶと、ミスズを背負ったまま出口へと向かって走り出しました。
ピンク色の生物はぎょっとした顔をしてファイアたちのことを見ましたが、気にしていられる時間はありません。
ファイアが走るとヒトカゲも走り、5人の前へと出て行って誘導します。
上り坂が続き、みんな息が切れていましたが、スピードは落ちませんでした。
外に飛び出すと、リーフはモンスターボールを投げ、ガラガラのトシを呼び出します。
トシは太い骨を思い切り振り下ろすと、洞くつの入り口を壊し、黒服の集団が追ってこられないようにしました。
はぁはぁと息を切らすと、リーフは、背中からミスズを降ろします。
「けっこ、ヤバかったな。」
「怖かったよぉ・・・!」
マサオはずっと抱き続けていたニャースのぬいぐるみを持ち上げながら言いました。
強く強く抱きしめていたためにおなかの辺りが少しつぶれているぬいぐるみをなでてから、ファイアはガレキで埋まった入り口を見て言います。
「あいつら、何だったんだろうな。」
「あんたが取った石に用があったみたいだったわね。」
「え!? リーフ知らないフリしてたの? ヒドイよぉ、こんな可愛い子がつかまってるっていうのにぃ・・・」
ミスズがほっぺたをふくらませると、リーフは「悪い悪い」と笑いながら謝りました。
頭の後ろで手を組むと、リーフは色の白くなってきた空を見上げます。
「てっきり、伝説のポケモンを呼び出すアイテムでもあると思ったのに。」
「伝説のポケモンかぁ・・・いたのかな、ホントに?」
夕方になってきたのに気温は高く、じりじりと肌の焼ける感じがします。
ファイアも暑そうに帽子を直していると、ふと視線が空を向きました。
先ほどリーフが取った宝石の色にも似た真っ赤な炎が、空を飛んで、大きな翼を広げます。
「ファイヤー!」
ファイアは叫びました。
大きなオレンジ色の炎をまとった鳥は、光り輝く翼をはためかせると、空を高く高くへと飛んでいきます。
しばらくは、みんな美しい鳥にみとれていました。
ほうっと息をつくと、リーフは小さな声でつぶやきます。
「・・・いたんだ、伝説のポケモン。」
リーフがとても驚いた顔をしていたので、ファイアは目をパチパチさせました。
もうファイヤーの姿は見えません。 ヒトカゲがファイアのひざを叩くと、そっちに顔を向けてにこっと笑いました。
空は赤く焼け始めています、早くナナミさんやグリーンのところまで帰らなくてはなりません。
ファイアはみんなに「かえろう」と言うと、浜辺までの道を歩き出しました。