ポケモンセンターに戻ってきたリーフたち一行を出迎えたのは、何とも言えない・・・
・・・いや、どこからどう見てもヲタクの3文字の似合う寂れ風味の男と、その横にいる眼鏡美人という、違和感のある2人組だった。
自分たちが船から降りてきた地点で前に進み出てきたから、まずD.Dの誰かに用事だというのは間違いない。
眼鏡美人の方は、リーフが船を降り切るとカツカツとヒールの音を響かせて近付いてきた。
だが、リーフに用事という訳ではないようだ。 彼の横をすり抜けるように歩くと、ゆっくりとヘリをまたぐグリーンと、彼にしがみついているファイアの前で立ち止まる。
「白丘・・・桃子ちゃんですか?」
ファイアは顔を上げた。 青いながらも怪訝そうな顔をして、灰色の瞳で眼鏡の女を見ている。
彼女を地面の上へと乗せながら、グリーンは油断のない動きで相手へと視線を向けた。
「誰だ?」
「ジョウトから来ました、ヨシノ大学病院の者です。
 私は看護師の真木、後ろが内科医の青木です。
 白丘さんが定期健診を受けていないようですので、健診に参りました。
 桃子ちゃん、ちょっといいかしら?」
いささか怪しい2人を見て、止めに入ろうとリーフが動いたとき、背後でそれほど大きくないクラクションの音が鳴る。
「リーフ!」
「ニシキさん・・・!」
慌ててリーフは真木と名乗った女の前からファイアをさらうようにして手を引き、クラクションを鳴らした車の前まで走っていく。
助手席のウインドウから顔をのぞかせるニシキに顔を近づけると、ひそひそ声を出しながら後ろの男女を指差した。
「ニシキさん、あいつら・・・」
「あぁ、本土からのお医者さんだよ。 聞かなかったかい?」
怪しい二人組とほとんど同じ説明をされ、リーフは言葉に詰まった。
リーフも、目の前から患者を奪われた真木も呆然としているが、1番戸惑っているのが、恐らく当事者なのであろうファイア。
ニシキと、リーフと、真木の顔を順々に見ながら、相当困った顔をしている。
まぁ、健診なら大丈夫だろうと思いつつ、悪いことしたかなぁなどと反省しながら、リーフはファイアを、真木と名乗った看護師に引き渡した。
少し不安そうな顔をしたファイアがニシキのそれとは別の車に乗せられ、診療所へと向かって行くのを見送りつつ、リーフは、ニシキの乗った車の後部座席に乗り込む。
同じように後部座席に乗り込んだグリーンと(ちなみに運転席にはマサキが乗っている)取っ組み合いのケンカが始まり、大騒ぎしながらも小さな車は走り出した。




「リーフ。」
ケンカも(それなりに体格のいい2人がケンカしてたものだから後ろのシートはボロボロだ)ひと段落した頃、ニシキはそれほど大きくない声でリーフのことを呼ぶ。
顔がチリチリ痛むのを気にしながら、リーフは返答として「ん?」と小さく声を上げる。
窓枠にひじをつきながら、のろのろと決して平坦ではない道が動いていく様を横目にニシキは、サイドミラー越しにリーフの顔を見た。
少し、話を自分の中でためるようにしてから、ゆっくりと口が動く。
「ひとつ・・・知っておいて欲しいことがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
「・・・おい。」
とがめるような声を出しながら、グリーンはニシキを見る。
車がひとつ揺れて眼鏡にかかった前髪を払うと、ニシキはなだめるようにグリーンの方を見ながら微笑んだ。
「まぁまぁ、大丈夫ですよ。 リーフは信用置ける人間ですし、だからこそD.Dに引き入れる許可もくれたんでしょう?
 マサキさんも聞いておいてくれますか? これからのことを考えると、知っておいた方がいいと思うんです。」


車がまた1つ揺れると、ニシキは小さく息を吐いた。
「ポケモントレーナーの中には、『神眼』という特別な能力を持った人たちがいるんだ。」
「シンガン?」
リーフは聞き返す。
眼鏡の奥にある優しい目を彼へと向けると、ニシキはうなずき、先を続けた。
「神の目って書いて『シンガン』。 文字の通り、神に魅入みいられたとされる人たちが持つ能力で、強いチカラを持つ人は瞳の色が変わるんだ。
 このチカラを持つ人は、ポケモンを思いのままに操ったり・・・逆に、操られたりすることもある。」
隣に座るグリーンの喉が動くのを、リーフは黙って見ていた。
車の移動速度が、心なしか遅くなったような気がする。
エンジンとタイヤの音しか聞こえない車の中、ふと思いついた疑問をリーフは口にした。
「・・・なぁ、それのどこが「神様」なんだよ? 操ったり操られたりって、かなり悲惨なんじゃねぇ?」
「『神眼』は、ポケモンの能力を大幅に引き上げる。」
隣にいたグリーンが、口をはさんだ。
「多少の例外はあるが、『神眼』大きく分けて3種類ある。
 赤い瞳の『紅眼こうがん』、青い瞳の『蒼眼そうがん』、それと緑の瞳を持つ『緑眼りょくがん』。  それぞれ、ポケモンの攻撃力、防御力、素早さを上げることが出来る。」
「だから・・・」
「要は、チカラを向ける方向だ。
 紅眼だって、山火事を消すだけのチカラを街に向ければ、悪魔と呼ばれることもあるし、蒼眼も、守る相手次第でどうとでも解釈が変わる。
 強い緑眼の能力を用いれば、通常不可能なスピードで移動することも出来るんだ、いくらでも先回りは出来る。
 『神眼』という名は後からついたモンだ。 能力チカラを持たない人間がそれをどうとらえるかによって、そいつらは、神にも悪魔にも変わる。」
話の内容について考え込んでいるのか、理解しようとしているのか、リーフは難しい顔をしてうつむいた。
運転していたマサキは、何かを言いたそうにしながら、ニシキの方へとチラリと目を向ける。
それには気付かず、ニシキは後部座席のリーフへと顔を向けると、左側のツルに触れて、眼鏡を軽く直した。
「この『神眼』が、今回の事件に、大きく関わっているらしいんだ。」
「何で?」
リーフは聞き返す。
ポケモンに関わった何か、ということくらいは分かるけど、ただの道案内役であるリーフは、話の内容をほとんど聞かされていない。
「さぁ? D.Dのリーダーがそう言ってたから・・・くらいしか、ボクも分からないしね。」
「「さぁ」って・・・案外ニシキさんもアテになんないのな。」
苦笑しながら、リーフは言った。
その隣にいるグリーンの暗い顔を、見つめないようにしながら。






業務連絡、業務連絡。
新たに挑戦者が現れました、ファクトリーヘッドは至急バトルファクトリー5番ホールへと移動して下さい。
繰り返します、新たに挑戦者が・・・

手の上に乗せた本のページをめくっていた男は顔を上げた。
軽く眉を寄せると、本の間にしおりをはさんで机に置き、重い腰を上げて建物内を歩き出す。
「ったく、誰だよ、こんな朝っぱらから・・・
 オレの出番ありすぎだろうが、バトルシミュレーター故障してんじゃねぇのか?」
ぶつぶつと言いながら、男はスタッフ専用の細い廊下を進み続けた。
1から20までの数字が割り振られた扉を見渡すと、大きく5と書かれた扉を開き、対戦相手を見て苦笑いする。
「いよいよ壊れてんじゃねぇか?」
皮肉った目で見る男の前には、風変わりな服を着た、小さな少年の姿があった。
気張ってはいるようだが、冷や汗が首筋を流れているのが見える。
彼がシミュレーションとはいえ初めての人間相手のポケモンバトルに緊張しているのは、火を見るよりも明らかだった。
ガチガチに固まっている少年のプロフィールを、小さなモニターが映していた。 彼のトレーナーネームは「エメラルド」。



エメラルドは肩にチカラを込めると、存在しないモンスターボールを強く握り締める。
部屋の隅に据え付けられたカメラが動くと、体がすくんで、足が少しずれた。
ヘルメット越しに、ファクトリーヘッドと称号のつけられた男がこちらへと向かう姿が見えた。
間違いなく、昨日トイレでぶつかった男だ。 空中に浮かぶモンスターボールを手に取るファクトリーヘッドを見て、エメラルドはそう確信する。
「・・・ったくよぉ、こっちもおめぇみたいなガキの相手してられっほど、暇じゃねえんだよ。 ま、規則は規則、おめぇがここまで来ちまったもんはしょーがねぇ。
 オレはダツラ、このバトルファクトリーの所長、ファクトリーヘッドだ。
 入り口のアナウンスで聞いたと思うが、このバトルファクトリーでは3週抜くごとにオレと戦うことになっている。
 オレもお前と同じようにレンタルポケモンで戦う、条件は同じだ。
 全力でぶっつぶしてやるから、おめぇの脳みそフル回転させて、死ぬ気でかかってこいや!」
「・・・・・・っ!?」
それほど大きく行動にはあらわさなかったが、エメラルドは驚いた。
ダツラの瞳が一瞬赤く光り、昨日見たものが気のせいではなかったことを知る。 すぐに光は消え、我に返ったエメラルドは慌てて最初に戦うポケモンのモンスターボールを手に取った。
相手のモンスターボールが開かれると、真っ黒な土偶のようなポケモンが現れ、エメラルドははっと息をのむ。
だが、既に自分のポケモンは手から離れてしまっている。 今さら撤回も利かない。
「昨日の・・・ネンドール? なろっ、戻れサンダース!」
エメラルドが手を向けると、黄色いトゲトゲしたポケモンはモンスターボールの形に変わり、その小さな手のひらの奥へと吸い込まれた。
必死で次のポケモンを選ぶエメラルドの様子を見て、ダツラは小さく鼻で笑い、右手を前に突き出す。


「ちったぁ、考えるようになったみてぇじゃねえか。
 おめぇ、一昨日のデータじゃモロ地面タイプのダグドリオに向かって『かみなり』放ったらしいな。」
「じゃかましか! 昨日と同じだと思ってんじゃなかよ!」
歯ぎしりすると、エメラルドは残り2匹の技を見比べて、ぎゅっと手を閉じた。
中央のモンスターボールを選ぶと、思い切り相手をにらみつけ、はっきり色づいたそれを黒い土人形へと向かって放り投げる。
「ギャラドス!!」
小さな球体が回転すると、竜のような蛇のような、巨大な青い生物が身をよじらせ、相手へと向かって吼えかかる。
ネンドールは一瞬身じろいだが、すぐに体勢を立て直すと、昨日エメラルドも見た緑色の光をギャラドスへと向けた。
エメラルドはフロンティアパスと一緒に持ってきた「ポケモンバトル基本概念」から、付箋をつけてあるページを開き、すぐに技の名前と効果を調べる。
「『ソーラービーム』、太陽の光で強化される草タイプの大技・・・!
 そんなら、ギャラドス! 『あまごい』や!」
「ネンドール『ソーラービーム』!」
バンッと本を閉じながらエメラルドが叫ぶと、ギャラドスは大きく体を動かしながら、天に向かって吼えた。
バトルスペースを照らすライトの光が弱くなり、細かい水滴がフィールドの上に降り注ぐ。
直後に相手の黒いポケモンは貯めていたエネルギーをギャラドスへと向かって発射した。
機械の効果で苦しんでいるようなリアクションこそあるが、機械に表示されるゲージはそれほど減っていない。 エメラルドは相手に視線を向けると、口元をゆるませる。
「よっしゃ! こっちの方が早か!」
むっとする空気の中、エメラルドは息を止めるようにして体にチカラを入れた。
本のページに指をすべらせ、次の技を探すと、黒いポケモンの周りにぐるっとついている目をにらむようにしながら声を出す。
「ギャラドス『なみのり』!!」
声を上げると、ギャラドスの太くて大きな尻尾が迫ってきて、エメラルドは思わず身をすくませた。
青い水が自分たちの真上を飛び、黒い人形の体を押し流していく。
エメラルドがぐっと奥歯を噛みしめると、ダツラはギャラドスに右手を向け、声を上げた。
「ネンドール『にほんばれ』!」
技の効果を調べるためにエメラルドは本を開こうとしたが、目的のページへとたどりつく前にその効果がわかる。
ギャラドスの起こした雨が止まり、代わりに肌を焼くような暑さが天井から降り注ぐ。
本の角を握り締めると、エメラルドは天井の光を手でさえぎり、汗の吹き出しそうな鼻を押さえながら声を上げた。
「ギャラドス、もう1回『あまごい』!!」
「ネンドール『サイコキネシス』!!」
ジリジリと地面を焼き始めていた光が覆われていくのと同時に、ギャラドスの巨体が揺り動かされ、地面に叩きつけられる。
低い声がうなり、少年の肌を揺らした。
ダツラが次の指示を出そうとしているのに気付き、あせってエメラルドは相手のネンドールを指差した。
空中に浮かび上がる文字を読み取り、高い声に乗せて指示を出す。
「『なみのり』!!」
まるで何かの生き物かのようにうねる水が当たると、ネンドールはフィールドの端へと押し流され、赤と白のモンスターボールへと変わり、ダツラの元へと飛んでいった。
消えていくモンスターボールを受け取ろうともせずに、次に出すポケモンを選びながらダツラはにっと笑う。
「へ、ちったぁ成長してんじゃねえかよ。 しかし、何だ。 こいつの戦い方・・・
 昨日のじゃじゃ馬娘そっくりだっつの・・・」
チッと舌打ちすると、ダツラは残り2つのモンスターボールの片方を取り、四角い部屋の中央へと投げる。
放射状に光が放たれると、まとまった光は精霊を思わせる鳥の形になった。
薄い羽根が三日月のような弧を描いて開き、無感動な瞳がギャラドスを見据える。
そのポケモンの足がふんわりと地面についたのを見ると、ダツラはひゅっと音の鳴らしてこぶしを体の後ろに引いた。
「ネイティオ『ドリルくちばし』!!」
「ギャラドス『かみなり』!!」
自分で指示した技ながら、空気の裂けるような音が鳴り響いたせいで、エメラルドは耳をふさぐ。
元々感情を持たないコンピューターが映し出しているせいか、ネイティオは表情1つ変えず、小さな体を回転させてギャラドスの胴体を突き刺した。
ギャラドスが身をよじってネイティオを弾き返した直後、黄色い光が放たれ、エメラルドは思わず目をつぶった。
とどろきわたる雷鳴に、耳がマヒする。
アテにならない感覚だけを頼りにほとぼりが冷めるのを待つと、エメラルドは恐る恐る目を開いた。
威力の低い『かみなり』では倒しきれなかったネイティオが、床の上をすべるように飛んでいる。
自分のポケモンの状態を知らせるモニターからは、アラート警報音が鳴り響いていた。 限界ではあるが、まだ倒されてはいない。
「『かみなり』ッ!!」
エメラルドの声に機敏に反応すると、ギャラドスは大きく動き、再び爆音と閃光をバトルフィールドの上に放った。
相手が反応できないうちに、それは空中を舞っていたネイティオへと命中し、完全に体力を奪い去って赤と白の球体へと変化させる。



ダツラは突然の閃光から目を守るため、顔の前で覆っていた腕を解くと、小さく舌打ちした。
「・・・せんせいのツメ、か・・・!」
激しく暴れまわる尻尾に隠されて見えなかった白い物体を見て、ダツラはつぶやく。
あれだけの攻撃を受け、なお平然と次の手を待つギャラドス立体映像に苦笑すると、手を横に向け、モンスターボールを実体化させた。
「バトルシミュレーター最大の長所は、受けた傷でポケモンの動きが鈍らないことだな。
 なら、一撃で仕留めるだけ。 行けっ!!」
赤い瞳でエメラルドをにらむと、ダツラは最後のモンスターボールを放ってきた。
赤色のモンスターボールは砕け、童話に出てくる人魚を思わせるシルエットを作り出す。
やがてその光が白い色へと変わると、小さな角を持つ尾ひれのついたポケモンが、ゆっくりとした動作でギャラドスのことを見つめた。
しんと冷えた空気と、今なお降り続く雨の音が、2人の緊張を高める。
「ギャラドス『かみなり』だ!!」
「ジュゴン『ぜったいれいど』!!」
続けざまに放たれる光と音に、エメラルドは思わず目をつぶった。
騒音レベルでは済まされない雷鳴に頭が痛くなるが、薄く開いた目に映った赤と白の球体に、意識が引き戻される。
小さな球体がエメラルドの胸を通過すると、残り2匹のポケモンを選択せよという指示が空中に現れた。
手をかざし、残されたポケモンたちの状態を確かめる。
まだチリチリする耳に手を当てると、エメラルドは宙に浮いた球体を手にとって、相手の白いポケモンへと向かって放り投げた。
機械音で再現されるボールの開く音が、いつもよりも鈍く感じられる。
光をまといながら実体化したポケモンを見て、エメラルドは眉を潜めた。
体の横でこぶしを固めると、指示を出すために、冷たい空気を思い切り吸い込む。
「ラグラージ『じし・・・」
「ジュゴン『つのドリル』!!」
1つ前の攻撃で凍りついた地面をすべり、ジュゴンはラグラージが攻撃するよりも前にふところに飛び込み、額の角を胴体の真ん中に押し付ける。
『なみのり』や『じしん』とは違うドンッという低い音が鳴ると、ラグラージは地面に叩きつける直前の腕をぶら下げたまま、動かなくなった。
白い流線型のポケモンが身を引くと、地面に倒れ、ラグラージは何も技を放てないままモンスターボールの中へと吸い込まれていく。
呆然としながら一連の動作を見守っていたエメラルドは、我に返ると今度は腹が立ってきて、残されたモンスターボールを引っつかんだ。
「サンダース! 『10まんボルト』!!」
地に落ちたモンスターボールから放たれた小柄なポケモンは、全身の毛を逆立てると、ジュゴンへと向かって電撃を放った。
ムチのようにしなりながら進む電撃に当てられると、ジュゴンは大きく体をのけぞらせ、悲鳴を上げながら小さな球体の姿へと変わっていく。
その姿が完全に見えなくなると、フィールドを覆っていた湿気と肌寒さがなくなり、空中に大きくWINの3文字が浮かび上がった。
唯一部屋の真ん中に立っていたはずのサンダースもいなくなり、エメラルドがあっけに取られた顔をして立ちすくんでいると、部屋の反対側にいたダツラは自らが被っていたヘルメットを脱ぎ、チッと舌を鳴らす。




「・・・おっけ。 上出来、ルーキー君!
 思いがけず欲しかったデータも手に入っちゃったし・・・仲良くしとこっかな、あの子。」
モニターに映し出された幼い顔を見ながら、昨日ファクトリーヘッドに勝利した少女は口の端を上げた。
長い髪が、海風に吹かれてさらさらと流れる。
背後から近づいてくる気配に、少女は小さなポーチに手を当てて構える。
それが至極普通のトレーナーだと気付いた後にも。
「あんた、昨日バトルファクトリーで42連勝した女だな。」
彼女はあくまでも今気付いたそぶりで、振り返って見せた。
「え、なぁに?」
「見てわかんねぇのか? ポケモンバトル申し込んでんだよ。」
「どこが・・・」
人にキノガッサの爪を向けておいて申し込むも何もないものだと少女は思っていたが、あえて口に出すことはせず、つぶやくだけに止めておいた。
少女の長い髪の下で何かが動き、体を伝って肩の上まで登ってくる。
ピチューという学名のついた小さな黄色いポケモンに軽く触れると、少女は多少伏し目がちに相手のトレーナーのことを見やった。
「っとに、テル兄が見たら悲しむよね。 いいよ、その勝負受けたげる。」