「・・・マズイわ、こりゃ。」
クリスはそうつぶやいた。 口調は軽かったが、本当に状況はまずかった。
すでにマボロシ島に閉じ込められてから2日。 今のところ島に自生していたきのみなどで食いつないではいるが、栄養のかたよりは本人も自覚していた。
彼女自身の飛行ポケモンは置いてきてしまったし、サファイアの持っているチルタリスでは2人を連れて空を飛ぶなどという芸当は出来ない。
どちらか1人が脱出して助けを呼ぶというのも考えなかったワケではないが、考えるに、この島は既に「消えて」いる。
外に出て、戻ってこられないとなると、それこそ大問題だ。
もし次に入ってくる人が現れたときに干からびたチャンピオンのミイラがありましたとかいう話は、洒落にならない。
どうしたもんかと考えながら、およそ女らしからぬポーズでうなっていると、眠っていたサファイアが起き上がる姿が横目に映った。
バッグの中を探る。
まだ「げんきのかけら」も「かいふくのくすり」も「ピーピーエイダー」も数はある。
彼をあまり休ませてもおけない。 第3ラウンドの始まりだ。



「みぞれ、『でんこうせっか』!」
「‘シロガネ’『みずでっぽう』!!」
反応速度上々、昨日よりも更に正確さを増している。
グリーンにバトル指導のしかたを教わったかいがあった。 日増しに、それも際限なくサファイアは伸びていく。
ゾクゾクする。 用意していたスピーダーを、みぞれへと向かって投げる。
せわしなく動き回っていたニューラのスピードが、さらに加速され、相手のワニノコが戸惑っているのがはっきりとわかった。
相手の反応を待つ。 意外と思えるくらい早く、サファイアは次の手を打ってきた。
左手で大きく地面を叩き、右手でみぞれのいる方向を指差す。 一瞬動きが止まったのは、こちら。
「‘シロガネ’『ひみつのちから』!!」
伸びた草がみぞれを直撃する。 ギャッとあがった悲鳴で、彼女が毒を浴びたのだとクリスは直感した。
こうなればサファイアは守りに入るに違いない。 現在いまの状況下で長期戦に持ち込むのは、ニューラの体力的に言って、まず不可能なことだ。
1秒だけ考える間を取り、クリスはみぞれをボールの中へと戻した。
悔しさと、嬉しさが混じって、少し複雑な気分で笑う。 自分以外の誰かが自分以上に強くなることで喜ぶなんて、おかしいのではないかと少し感じていたからだ。
不意打ちの可能性まで考慮し今なお構えているサファイアへと向かって、もう戦わないとジェスチャーした。
ボールの中にいるニューラに「どくけし」を与えると、一応作った朝ごはん「らしきもの」をサファイアに渡し、自分の対面に座るよう彼にうながす。
なんとなく自覚し始めていた感覚に、サファイアも気付いているようだった。
即席で作ったお茶を飲み干すと、クリスは大きく息をつく。




「なぁ、クリス?」
彼女が口を開くよりも先に、相手の方が話しかけてくる。
目だけを上げれば、話をうながしていることは相手に通じる。
微妙にボソボソしたきのみをくちゃくちゃさせながら、サファイアはクリスへと向かって言葉を続けた。
「ええの? 帰る方法も探さんと、バトルの特訓ばっかやっとって・・・」
「実は、あんまりよくないんだよね。」
ひょうひょうと言いのけたクリスを見て、サファイアは青ざめた。
よくないとか言われて、一体彼は何を信じて生きていけばいいというのか。 考えすぎです、現チャンピオン。
あまり気の強くない彼を見て、元チャンピオンは口元で少しだけ笑った。
彼女は何も恐れていなかった。 海岸の裏にあった岩礁から小さな貝がらを取ってきてくれたデンリュウを見て、それを再認識する。
「ヘーキ。 まる1日帰らなければあのニブチンシルバーもおかしいと思って助けに来てくれるだろうしね。
 なんなら、お話でもする? 退屈しのぎになるでしょ。」
「話?」
さっきまでやっていたバトルの特訓はどうなったんだという疑問を持ちながら、サファイアは聞き返した。
「うん。 化け物って呼ばれた、小さな子供の話。」
クリスはうなずいてサファイアのことを見る。
その目に、サファイアは何か挑戦的な、挑発的な『何か』を感じ取った。

「まだ、「ポケモン」という名前があまり知られていなかった頃、あまり大きくはない街に1人の小さな子供が住んでいました。
 その子は明るく、たくさんの人たちから愛されていました。
 その子を愛しているのは人間だけではありませんでした。 その子は、たくさんのポケモンたちからも、愛されていたのです。
 だけど、その頃、人間とポケモンはあまり仲のいい間柄ではありませんでした。
 ポケモンを嫌っている人間も多く、よくポケモンと一緒にいるその子は、そういった人たちからは、恐れられていました。

 その子は不思議なチカラの持ち主でもありました。
 ある時は、山から下りてきてしまった凶暴といわれるポケモンを、そのチカラで追い返しました。
 また、別の日には海で溺れていた子供を、ポケモンに命令して助けさせたりもしました。
 小さすぎて、まだ不思議を不思議と思わない子供たちから、その子はとても頼りにされていました。
 けど、大人たちは、その子が恐ろしくてたまりません。
 いつ、その不思議なチカラを自分たちに向けるか分からない、そう考えていたのです。
 そしてある日、大人たちはその子を罠にはめようと考えました。

 いつものように遊んでいると、とても仲のよかった近所のおばさんが、血相を変えてその子のもとへとやってきました。
 聞くと、そのおばさんの家に何かが入り込み、家の中にある大切なものをいくつも奪っていったと言うのです。
 部屋の中には、ポケモンの爪あとのようなものがいくつもついていたと、その人は言います。
 なぜ、不思議なチカラでポケモンを追い返してくれなかったのかと、その人は尋ねました。
 「今ポケモンたちは眠っているから、山から下りてくることはない」と、その子は答えます。
 ですが、信用してもらえませんでした。
 当時、誰もポケモンの生態など知らなかったからです。
 そんな時に誰かが言いました。 「その子がポケモンをけしかけて、おばさんの家を襲ったのではないか?」と。
 人々は、たちまちその「誰か」の言うことを信用し、その子を疑うようになりました。
 最後には、街にいられなくなるほどに。」

「終わりか?」
サファイアが尋ねると、クリスは特に表情を変えることもなくうなずいた。
「「めでたしめでたし」かと思うたわ。」
「そういうお話の方が好きだった?」
「いや、そういうワケでもないんやけど、こういうトキやから、気ィ滅入るめいるわ。」
ため息をつきながらサファイアがそう言うと、クリスは体を傾ける。
それが笑いをこらえているのだと気付いたのは、押さえ切れない声が上がってからだった。
「アハハ、ごめんごめん。 次はもっと明るい話、用意しとくから。」
「・・・あるんか? 次・・・」
暗い声を出したサファイアの方へと、彼女は顔を向ける。
声の調子から言って、「まだ話があるのか」というよりは、「次の機会があるのか」と受け取った方がよさそうだ。
どうやら、2日間の無人島生活で相当気が滅入っているらしい。
クリスは少しせわしなく辺りを走り回っていたデンリュウをモンスターボールへと戻すと、目をつぶって、小さく息を吐いた。
「あるよ。」
彼女がそうしたのは、近付いてくる羽音を聞き取るためだった。
立ち上がると、海の方へと向かって大きく手を振る。
すると、段々と影のようなものがこちらへと近付いてきていることが、サファイアにも分かった。
「ホラ来た!」
耳をすまさないと聞こえないほどの羽音を彼女が聞き取ることが出来たのは、その音を信用しているからだった。
結局サファイアがその音を聞き取ることはないまま、その飛んでいるものは海岸へとやってきた。
赤い髪が流れて揺れているのがわかる。
砂浜に足をつけるなり、その誰かは他のものには目もくれず、クリスの方へと歩いた。
右手が振り上げられたのを見てサファイアが止めに入るが、頂上で静止したまま動かす気配がなかったので、引っ張った途端にひじがゴキッと変な音を立てる。
サファイアは青ざめたが、彼は1つも表情を変えなかった。
クリスが肩をすくめる。
シルバーは目標をまっすぐ見つめたまま、顔を赤くして大きく息を吸い込んだ。



「この、バカッ!!」
言いすぎだ、と、サファイアは感じた。
帰れなくなるような事態になったのは別に彼女の責任ではないはずだ、それを、言うに事欠いて「バカ」で済ませるのは、あまりに彼らしくない。
「・・・反省シテマス。」
彼女にしては小さすぎる声をクリスは出した。
サファイアが思ったほど感傷的になってはいないようだ。
手早く荷物をまとめさせると、シルバーは連れてきた3匹(3羽?)の飛行ポケモンたちをモンスターボールから呼び出す。
いずれも、縦横無尽に空を飛びまわれるような、立派な羽根を生やしたポケモンたちばかりだ。
「早く帰らないと、また帰れなくなるぞ。
 とても不安定な位置にこの島は存在するんだ。」
はーい、と、先ほどの落ち込みがウソのような明るい返事をすると、クリスはそそくさと荷物を持って飛行ポケモンのいるところへと向かう。
ぽかんとしているサファイアへと近付くと、気付かれないようにそっと耳打ちした。
「合図なのよ。」
「?」
サファイアは首をかしげる。
「ああやって腕を振り上げる動作。 「おれは本気で怒っているんだ!」っていうね。
 あたし、1回もシルバーに殴られたことないわよ? あいつあんな無愛想だけどね、あれで、心配してくれてたのよ。」
「おぃ、何話してるんだ? 行くぞ!」
「はぁい!」
その声の様子を聞いて、サファイアは2人の間に何があったのかを大体理解した。
自分のことはからっきしだが、人の心に鈍いわけではない。
あまり邪魔をしないよう、2人から1番離れた茶色い大きなポケモンの背中に乗せてもらう。
なんだかそのポケモンにギリギリ振り落とされるかどうかの線で暴れられて、ちょっぴり嫌な鳴き声をされたのは、気のせいということにしておいた。
シルバーとクリスもそれぞれ別のポケモンに乗り込み、さぁ飛び立とうという段階になって、急に動かなく・・・正確には、動「け」なく、なっていた。
振り返ると、見送りにでも来たつもりなのか、ソーナノたちが飛行ポケモンの「かげ」をふみ、しっかりと動きを止めてしまっている。
本当ならほほえましいし、このポケモンからおりて抱きしめながら「ぷきゅ」とか音が鳴るのを感じていたいが、シルバーが言っていたとおり、時間はない。
あわあわと手を振りながら、サファイアはこのかわいい悪魔たちからどう逃れるべきか必死に考えた。
すると、シルバーが自分の乗る飛行ポケモンから身を乗り出し、サファイアの方へと銀色の瞳を向ける。
「サファイア、そのポケモンの首に、しっかり腕回してつかまってろ。」
「へ?」と妙な返事をしながらも、サファイアは言うとおりにする。
すると、茶色い大きな鳥ポケモンは直立するように背伸びして、大きな翼を横に広げる。
まるで壁のように大きくなったその鳥に対し、シルバーは命令の視線を向けた。
指差す先は、ソーナノたちが群れなしている、砂浜。
「ピーたろう『ふきとばし』!!」
弾き飛ばされるかと思うような衝撃があって、サファイアは思わずポケモンの首に回していた腕にチカラをこめた。
強い風に巻き込まれ、次々と空に飛んでいくソーナノたち。
「なのぉ〜」とか「なぁ〜」とか「そなな〜」とか鳴き声はあがっているが、あまり緊迫感はない。
けど、おおごと。 こんな絶海の孤島(とサファイアは思っている)で吹き飛ばされたら、どこへ落ちても命は助からない。
そう思ってまたシルバーにどなりつけようとしたとき、「ピーたろう」とかいう名前で呼ばれていた鳥ポケモンが体をひるがえし、砂を蹴って飛び上がった。
いつもフラフラのクウの飛び方と違って、風圧が顔面に直接吹きかけてきて、つかまっているのでいっぱいいっぱい。
なので、クリスに後ろを見るように言われたときも、顔をそっちの方向に向けるのが精一杯だった。
それでもちゃんと見えたのは、器用に縦一列に積み重なってこちらへと手(?)を振っている、ソーナノたちの姿。
「シルバーは相手にダメージを与えずに戦う名手なの!」
「待てクリス! そんなこと言った覚えないぞ!?」
言い争う2人にこっそりごちそうさまを言って、サファイアは巨大鳥の首につかまることに専念した。
すぐにキリは晴れ、確かに後ろにあったはずのマボロシ島が見えなくなる。
サファイアは24時間ぶりに空と海の青色を同時に瞳に映した。








Decomposition Defend TEAM、略称「D.D」の中に、リーフの家がある場所を知っている人間はいない。
リーフ自身、ポケモンセンターで寝ることに慣れていたので、誰もその光景を不自然には思っていなかった。
だが、今日今さら、グリーンは目の前で寝ている彼に不自然さを感じていた。
ニシキから聞いた話では、背こそ高いが、リーフはファイアと同じ、12歳のはず。
家庭の事情にもよるが、1人で旅に出す年齢としては早すぎる。
よっぽど能天気な親なのかと思ったが、それにしても、2週間以上経って1度も連絡しないとなると、少し不自然だ。
今なら寝ぼけている。 問いただそうかとも考えたが、それもフェアではない。
ひとまずグリーンは、自分の仕事に集中することにした。 とはいえ、たいしたことではなかったが。
「おぃ、リーフ! 起きろ、船に乗るぞ。」
布団ごと体を揺らすと、まだ少し寝ぼけた顔をしている少年が起き上がる。
「・・・船?」
目をこすりながらリーフは尋ねる。 昨日は移動の話なんてなかったはずだ。
心なしかいつもよりもトゲのない視線に、グリーンは心の中でため息をついていた。 普段そんなに信用がないのか、と。
「今朝、情報があった。 4の島でロケット団を見たという住民がいたらしい。
 目的も真偽のほども定かじゃないが、無視は出来ない。 だから朝一の船に乗って、移動する。」
「・・・4の島・・・4の島!?」


リーフは飛び起きた。
頭から水をかけられたような驚きようだ。
「ちょっと待てよ! 4の島ってメチャメチャ遠いじゃねーか!
 船のチケットだって、オレ、トライパスしか買えなかったんだぞ!?」
「落ち着け、朝っぱらから大声出すな。
 これは仕事なんだ。 4の島と、5の島、6の島、7の島に移動可能な「レインボーパス」がポケモンリーグから発行される。 乗船前には届くはずだ。」
「ポケモンリーグ? 何で?」
グリーンは目を丸くした。 リーフがD.Dに配属されてから10日目にしてやっと彼からマトモな質問が飛び出してきた。
不自然がられるだろうから、返答に時間はかけられない。
驚いていることを悟られないよう出来るだけ早く、グリーンは的確な回答を探す。
「今、俺とお前が配属されているのがDecomposition Defend TEAM、略称D.D。
 これはトレーナーポリスTPの中で作られたチーム、俺がTPでお前は協力者、ここまでは分かるな?」
素直にうなずいたリーフを見て、グリーンは普段もこのくらいだったら扱いやすいのにと思っていた。
「警察とTPは協力関係にはあるが、全く別の組織だ。 政府の組織である警察と違って、俺たちTPはポケモンリーグ運営の、自衛組織っていう扱いになる。
 だから、もしロケット団を捕まえたとしても、後は警察に引き渡すだけで拘束しておくことは出来ない。」
「結構冷めてんのな。」
服を着替えながらリーフは言った。
彼なりの嫌味も含められているのだと気付いてはいたが、グリーンはあえて反論しなかった。 ここで焦ったり怒ったりしたら負けだ。
やや諦め気味にため息などつきながら、グリーンは悩んでいた。
どうしてこのチームには、こうも原因不明の理由わけありが多いのだろう。






トレーナー・ポリスは何かと忙しい。
あまり開拓されていないこの世界で、新しいことに発見したらまず報告。 事件に遭遇してもまた報告。
普通の警察に頼まれて捜査に協力したときも報告。 病気のポケモンを発見して治療したときもやっぱり報告。
彼らの仕事に、報告書用の紙とペンは必要不可欠だ。
ちゃんとまとめなくてはならないから、それなりに時間もかかる。 そんなときにも、事件が起こって新たな依頼者が飛び込んできたりする。
クリスの場合も、例外ではなかった。
マボロシ島からカイナシティまで直行して、そのまま報告書の作成。
半分ほど終わりかけたところで、コイキングが大量に浜に打ち上げられていると血相を変えて飛び込んできた人がいるので、そっちに協力せざるを得なくなった。
サファイアとシルバーに報告書の方を任せ、海の方へと飛んでいってしまう。
困ったのはサファイアの方。 いい加減疲れてるわけだし、体ぬめってるし、帰ってひとっ風呂浴びたかったのに、反論するまえに引き止められてしまった。
マボロシ島の内部をほとんど見ていなかったシルバーには質問攻めにされるし、何だか別の報告書も混じっていたようで、量が半端じゃないし、目が回る。
散々手伝わされた挙句、結局帰ることが出来たのは夜もずいぶんふけてからだ。




甲板の上から白い雲を見上げて、リーフは眉を曇らせていた。
気味が悪いと感じるほど、波は立たず、小さな島は船を出迎えている。
あまり整備はされず、突き出した岩の見える港。 ゆっくりと速度を落とすと、船は足を休めるため、コの字に折れ曲がった港の中へと入っていった。

「・・・今度は船酔いか。」
背中にファイアを乗せながら、グリーンはちょっと呆れ気味に言いました。
D.Dの人たちはとても長い時間、船に乗り続けていました。 ファイアだけでなく、ナナミさんも少し気分悪そうにしています。
船が港に到着してから、みんなが陸に下りるまでの間、ファイアはずっと目をつぶっていました。
目を開けていられないくらい、気分が悪くなっていたからです。
「まぁ、また高いところが怖いだのなんだので騒がなくて、結果的には良かったかもな。」
グリーンが言いました。
ファイアは揺れない地面の上に降ろしてもらうと、その場でしゃがみ込みます。
4の島の空気は、夏とは思えないほど冷たく、乾いていました。
「かわいそうだろ、そんなこと言ったら。
 ファイア、吐きそうならエチケット袋もらってくるけど・・・」
ファイアのひたいを、大きな手がなぞりました。
それは、とても懐かしい感触がしました。 ファイアは反射的に目を開きます。
目の前には、リーフの顔がありました。
少し悲しくなって、ファイアの目に涙が浮かんできたとき、空から冷たいものが降ってきて、ファイアの鼻の頭に乗っかります。
上を見上げると、白く曇った空から小さなホコリのようなものが、少しずつ、降り注いできます。
「雪・・・?」
差し出されたリーフの手の上で、ほろほろとそれは溶けていきました。
8月に、雪。 ファイアたちが持っていた常識は完全に崩れます。
寒さで震える体を抱えながら、ファイアはずっと上を見上げていました。






「・・・ただいまぁ〜・・・」
いきなりのサバイバル生活のこともあり、玄関を開けた途端、どっと疲れが出た。
自律神経すらまともに動かない体を引きずって、昼間、脳にインプットした通りひとっ風呂浴びて、晩ごはんも食べずに自分の部屋へと直行する。
部屋の扉を開けて、なんとなく違和感。
なんとなく、部屋の中が片付いているような・・・ 目をこらしてみると、気のせいではないことに気付く。
自分のベッドの上に、何かが乗っかっていることにも。
ぼんやりした頭のままそれに近付き、しゃがみこんで観察する。
いつもよりもきれいに整えられた自分のベッドの上には、小さく丸まった眠り姫。
「・・・そこ、ワシのベッドなんやけど。」
ちっちゃな声で呼びかけてみるが、返事はない。
普段、どんな仕事をしているのか想像もつかないが、よほど疲れたのだろう、安心しきった顔で、ぐっすりと眠っている。
「・・・しゃあないなぁ。」
サファイアはソファの上にあるものをどかすと、その上に横になった。
まどろむ頭で、彼は考えていた。
きっと明日晴れるから、彼女を、どこへ連れて行こうか・・・