Tap! Tap! Tap! Tap! Tap! さぁ、踊ろう
ふたつの手 打ち合わせれば
Tap! Tap! Tap! Tap! Tap! さぁ、歌おう
リズムができて 誰かに届く
誰でもできる 1人でもできる
すてきな セレモニー

Tap! Tap! Tap! Tap! Tap! さぁ、踊ろう
小さな靴で 大地揺らせば
Tap! Tap! Tap! Tap! Tap! さぁ、歌おう
リズムができて 街に広がる
誰でもできる 2人でもできる
ゆかいな セレモニー

誰かが歌うメロディ乗っかって 別の誰かが歌いだすよ
誰かが歌うメロディ広がって 街中みんなが オーケストラ (さいこう!)


Tap! Tap! Tap! Tap! Tap! さぁ、踊ろう
Tap! Tap! Tap! Tap! Tap! さぁ、歌おう
リズムに乗って、メロディ口ずさみ
誰でもできる みんなと一緒にできる
たのしい セレモニー

ラジオネームはサトママさんのリクエストで、『おまつりびより』でした。
5歳になる息子さんもこの曲が大好き! だろうです。
サトママさん、いつまでも仲良し親子でいてくださいね!!

‘Music&Letters’今日はジョウト地方ヨシノシティから生放送です!
ちょっ〜と風は強いけど、海岸はたくさんの観光客でにぎわってます!

いいなぁ、あたしも海入りたい・・・

もう、ルビーちゃん! そういうのは番組が終わってから・・・・・・ッ!

前触れなく飛んできた何かに当てられこめかみを押さえたルビーに、DJのクルミは思わず声を上げそうになるのを必死で抑えた。
そうしなかったのは、机をはさんで座っている彼女がクルミの手を押さえ、彼女にしか分からないように小さく首を振ったからだ。
打たれた箇所を手で押さえると、ルビーは飛び出してこようとしたポケモンたちに目で合図を送る。 「来るな」と。
反対の手で自分の目頭を押さえると、無理矢理笑顔を作ってルビーは音を拾わなくなったマイクに向かって一気に喋った。

それじゃ、次のおハガキの紹介です! 『るびーだいすき、いっぱいいぱいうたってね!』
・・・・・・ありがとうっ! それじゃ、次はPink Sapphire『旅立ちのうた』、聞いてください!



手紙を読み上げると、ルビーは手早く指示を出して全てのマイクのスイッチを切った。
ステージを降りて痛んだこめかみから手を離すと、手のひらに広がる血を見て、胸がざわざわするのを必死で抑える。
「ちょ、ちょっと血が出てる!! ルビーちゃん、大丈夫!?」
「うん・・・少し切ったけど、そんなに深くはないみたい・・・」
少しうつむくと、ルビーはスタッフからタオルを受け取り、足元に駆け寄ってきたチコリータのメロディに軽く触れた。
それほど痛みはないが、メロディや他のスタッフたちが驚くほど出血が多い。
救急箱を待つ間ルビーは眉を潜めると、同じように心配そうな顔をしているクルミへと向かって顔を上げた。
「クルミさん、ごめん。 これじゃすぐにステージ上がれない。
 曲終わったら、あたしが復帰出来るまで少しトーク頑張ってもらえますか?」
「復帰・・・出来るの?」
「見た目ほど酷くはないから。」
淡々と言うと、ルビーは血のついたグローブを脱いでそれをマネージャーへと渡した。
消毒液の感触に、軽く顔をしかめる。 冷静でなければならない、そう何度も自分に言い聞かせながら。
曲のエンディングが近付き、どよめくギャラリーに見守られながらクルミはステージの上に復帰していった。
こめかみに貼られた白いガーゼを隠すようにルビーは頭にバンダナを巻きつけ、私物として持ってきたポシェットの中を探る。
「イオンとアクセント、連れてく。 いいよね?」
「そ、それは構いませんが・・・攻撃してきた誰かも捕まってないのにまたステージに立とうだなんて無茶するにも程がありますよ!そもそもクルミさんもクルミさんで番組を中止してでも自分たちの身の安全をまず第一に考えなければいけないというのに簡単にまたステージの上へと出て行ってしまって!これが石でなくポケモンの攻撃だったりもっと危険な武器、例えばナイフとかだったりしたときは一体どうするつもりなんですか、あぁもうプロ意識も大切ですがあなたアイドルなんですからもっと自分の身を大切に」
ほとんど話を右から左へと聞き流して、「平気」とだけつぶやくと、ルビーはステージ上へと駆け上がる。
心配そうに見上げる観光客へと笑顔で手を振ると、パフォーマンス代わりに2つのモンスターボールを天へ投げて見せた。
石(?)を投げつけられたときとは違う、ざわめきの声が上がる。
虚勢ならいくらでも張れる。 そう信じてルビーは思い切り胸を張って席へと戻る。
既に、本当に心配な目をして彼女のことを見ている人間はクルミだけとなっていた。

ラジオネーム最強のポケモントレーナー!さんからのお便りです。
『いつも楽しく聞いています。クルミちゃんもルビーちゃんもめちゃめちゃ好きっす!
 もうすぐポケモンリーグですね、お2人はどんな感じでリーグの観戦をしますか?』
だってだって。 ここはポケモン通のルビーちゃんに聞いてみましょう。 ルビーちゃん、どうかな?

そりゃやっぱ、生で見るのが1番でしょう!
1回ポケモンリーグのイメージガールやったんだけど、あの舞台すっごい広くって、なんかすごい圧倒されちゃうんですよ!
楽しみですね、チャンピオンズリーグ!!

アハハ、ハイテンションだねぇ。
それじゃ、今日最後の曲は、ラジオネーム最強のポケモントレーナー!さんからのリクエストで、double scoreの『FIRE!!』






ミシロタウン、オダマキ研究所は学会前、長男の晴れ舞台を前にして暗い雰囲気に包まれていた。
エネコの手も借りたいほどの書類は山積みのまま、1つの机をはさんで向かい合った親子は深刻な顔をして話し合っている。
「そうか、タカが家出な・・・」
昨日エメラルドを連れ帰ってきたサファイアから事情を聞いたオダマキ博士は、研究用の机にひじをつくと小さく息を吐いた。
サファイアはコチコチと鳴る時計の音を聞きながら天井を見上げる。
子供の頃からずっとそこについているシミ。 それが怪物に見えて眠れなくなり、おねしょして母親にしかられた日を思い出す。
「狙いはワシだったみたいなんやけど、トレーナーにさしたるっつーて、もう何匹かポケモンも渡してたみたいや。」
「タカは負けず嫌いじゃけん、雄貴がチャンピオンになりよったのが気に入らなかったんやろうな。」
そうは言われてもサファイアにはイマイチ分からないところがあったが。
昔から勉強でバカにされ逆上がりも先を越されゲームをやれば連戦連敗するような相手にライバル視されていると言われても。


イスをきしませると、サファイアは正面の相手に顔を向けた。
「でもタカも『神隠し』さえなければ、ポケモンもらえるハズだったんよな。」
オダマキ博士は小さくうなずいた。
おしゃれなのかそり忘れなのか分からないヒゲをボリボリとかくと、大人にあるまじき姿でイスの上であぐらをかく。
「ヒノアラシな・・・まさか『神隠し』にあうなんて思ってなかったけん、内緒にして驚かそうと思っとったが・・・渡せんまま誕生日過ぎてしもうたな。」
「ルビーも気にしとったみたいやけど・・・別のポケモン捕まえてこよかって。」
「スターター・・・1番最初にもらうポケモンは、そういう訳いかんとばい。
 雄貴もカナ見とったら分かるやろう。 トレーナーが最初に手にするポケモンは、ただのチームリーダーとしてじゃなく、そいつが次のポケモンを捕まえて育て上げるまでトレーナーを守り、そいつにポケモンとトレーナーとの在り方を教えなければならんとよ。
 昨日今日捕まえたポケモンを渡すわけにはいかんとよ・・・」
深刻な顔をしながらも、サファイアはいずれ自分も水虫の恐怖と戦うのだろうかといらぬ心配を頭の隅っこに追いやる。
重要な話・・・だったが、そろそろ集中力も限界。 事務イスのキャスターを転がすと、後ろ前に座って顔を父親の方へと向けた。
言わなきゃいけないことは、忘れないうちに。 帽子の下をボリボリかくとサファイアはオダマキ博士から目をそらし、口をとんがらせる。
「あんな、親父。 もしかしたらタカの奴、近いうちにまた家出するかもしれん。
 ・・・けどな、そん時あいつのこと探さないでやって欲しいねん。」
「・・・何言っとぅ?」
「あいつがトレーナーなら、自分を待ってるポケモンのことは裏切れんよ。」
サファイアは壊れたフローリングの継ぎ目を見た。 いつか、ここで転んだときに手当てしてくれた弟のことを思い出しながら。



冷たい壁を背にして、エメラルドはしゃがみ込んだ。
改めて思う。 この研究所、壁がボロすぎだ。
筒抜けてきた声に、かすかな怒りを覚えながら、バトルフロンティアに置いてきたポケモンたちのことを思い出す。
サファイアが言うとおり、ウシヤマたちは自分のことを待っているのだろうか。
だとしたら・・・
「・・・なんのために?」
昨日殴られた頬がうずき、ポリポリとひっかく。
あれに従うのはシャクだが、確かに兄が言うとおり、自分はポケモンのためになるとは思えないことをやってきた。
気がついたら有名人になっていた彼がうらやましくて張り合っていただけだ。
ぐずぐずする鼻を思い切り吸い上げると、中でイスがきしむ音が聞こえ、エメラルドは立ち上がる。
「・・・ほな、親父。 ちょっと出てくるな。 ランに飯食わせたらなアカンし。」
「おぉ、気ぃつけてき。」
何か悪いことをしている気分になって、エメラルドは研究所の裏手へと逃げ込む。
扉が開き、のんびりした足音が2回。 サファイアはすぐに移動する様子を見せない。
早く行け、と心の中で念じていると、ボケッとした表情の兄は手を頭の後ろで組み、割と大きな声で独り言をつぶやいた。
「そういや、送られてきた船のチケットどないしょーか?
 人の宣伝するためにわざわざバトルフロンティアまで行く気せんし、ハギのじーちゃんに言えば船賃安くしてくれるしのう・・・」
エメラルドはピクリと反応した。
「机の上に置きっぱなしやけど、ゴミ箱行きかもしれんな〜 あぁ、もったいな!」
わざとらしく声を上げると、サファイアはコトキタウンの方へと歩き出した。
完全に姿が見えなくなるまで待ってから、エメラルドは自宅の方へと走る。
怒りで、肩が震えているのがわかった。 いつも「これ」で、負けているような気分になる。
エメラルドはサファイアのことが嫌いだった。 優しいからこそ、嫌いだった。






「・・・この人?」
控え室代わりに使っていた小さなワゴンから降りて、ルビーはスタッフが捕まえてきたという中年の女性を見下ろした。
攻撃的な視線にメロディが威嚇しかえそうとするのを、頭についている葉っぱの付け根をくすぐって抑えさせる。
首をかしげる。 10〜20代ならともかく、この年代の人に恨みを買うようなことをした覚えがない。
それとも意識していないところで何かやってしまっていたのだろうか、相手を睨むチコリータを抱いたままステップに座ると、ルビーは小さくうつむく。
「警察に届けます?」
「いいよ、騒ぎにしたくないし。」
スタッフの提案をルビーは首を横に振って断った。
見覚えのない女性を冷めた目で見つめると、相手はスタッフの制止を振り切って立ち上がりルビーにつかみかかろうと手を伸ばす。
「悪魔! あんた、ジョウトに近づくんじゃないよ!!」
飛び出してきたイオンに押さえられながらも、相手は怒り狂った目で睨み付けながらルビーへと向かって怒鳴りつけた。
腕を払ってイオンを遠ざけると、女性は駆けつけたスタッフに押さえつけられる。
既に騒ぎになっている気もするが、あくまで冷静を装ってルビーはじっと組み伏せられる相手を見下ろす。
「あたし、何かしたっけ?」
「とぼけるんじゃないよ!! お前のせいで、あたしたちの家はなくなった!!」
閉じ込めていた記憶が頭をよぎり、ルビーの目が一瞬だけ赤く変わる。
それを相手は見逃さなかった。
爪で地面を削り、彼女へと投げつける。 避けられないわけではなかったが、口に入った砂を吐き出すとルビーはおびえるメロディに目を向けた。
「何が『神の子』・・・何が『ポケモントレーナー』・・・!!
 その目で一体何人焼き殺してきたんだい! 自分が気に入らなければ何をやってもいいと・・・」
「殺してないッ!!」
とっさに飛び出したチコリータが『ひかりのかべ』で渦巻く炎を受け止めた。
悲鳴が上がり、ルビーは1度閉じた瞳を見開かせる。
足の震えが止まらない。 味方であるはずのイオンから攻撃され、立ち上がるチカラも失ったメロディ。
誰も助けに行けなかった。 しんと静まりかえった空間に彼女がボールへと戻されるポンッという音が鳴ると、信じられないといった顔で、炎を吐いたバシャーモは自分の体を見下ろした。
「・・・殺される・・・」
なお震える声でそう言った女の人を見上げ、ルビーは首を横に振る。
「殺される、殺されるよ・・・! 悪魔の子だ・・・ほら、みんな見ていただろう!?
 ぼやぼやしてるとみんな殺されるよ! 早くこの子を・・・!!」


「殺さないよ!!」
車のボディーを強く叩くと、バシャーモが振り回した爪でルビーと女の人をはさむ地面にパックリと裂け目が出来る。
どよめきが上がった。 尋常ではないスピードで上がっていく気温と、彼女が触れた部分から黒く変色していく車体。
「・・・・・・帰って。」
「ひっ。」
「頼むから・・・帰って。」
必死で押さえた声は震え、相当強くぶつけたはずの手にも痛みを感じなかった。
震えた息遣いを出す口を手で押さえると、ルビーは目をつぶって戸惑うイオンの腕を引く。
「・・・連れてって、その人。」
抑えた声を出すと、避けた地面を見てなお叫び声を上げる女の人はスタッフに両脇を固められ、引きずられるようにルビーから遠ざかっていった。
無造作に転がされたモンスターボールをアクセントが拾ってルビーへと手渡すと、ヒザを折り曲げ小さくなる。



人とは違う空気をまとう少女に、話しかけられる人間はいなかった。
それが彼女にはありがたくもあり、寂しくもある。 押しつぶさない程度に強く抱いたプラスルが高い鳴き声をあげるのを聞きながら、ルビーはとにかくたかぶった気を落ち着けようと、薄目を開けて自分のポケモンたちに神経を向ける。
その行動は周りへの集中力も上昇させる。 近づいてきた人の気配に気付くと、ルビーは相手の手が自分に触れる前に顔を上げた。
「触っちゃダメ!!」
「・・・す、すいません。」
肩を叩こうとした手を引っ込めて謝るマネージャーを見て、ルビーはほっと息をついた。
「いや、ゴメン・・・前にこれでヤケドした人がいたからさ。」
真っ赤になったその時の相手の手を思い出して、ルビーは口元を押さえた。
あの時も、逃げるように他の地へと引っ越すことになった。 改めて自分のチカラが持つ危うさにうつむくと、マネージャーは彼女の隣に腰掛ける。
「時間に融通の利く仕事はキャンセルしてきました、その傷でグラビアを撮るわけにもいきませんから。 1週間は時間が取れると思います。」
「ありがとう、イシハラさん。」
長い耳をパタパタと揺らしたアクセントを見て、チカラはないがルビーに笑みが戻る。
「ヒマになっちゃいますねぇ・・・行きますか? ホウエン・・・」
「行かない。」
意外そうな顔をして、マネージャーはルビーの顔を見た。
肩へとよじ登ってきたプラスルの頭をなでながら、彼女は遠くで波打つ海に視線を向ける。
「・・・帰るよ、ホウエンに。」






海に近いこともあり、ミシロに熱帯夜が訪れる日は少ない。
それでも真夜中に目を覚ました理由を、サファイアは口で説明できずにいた。
コチコチと鳴る時計の音を聞きながら視線を横に向けるが、人1人入れる分のスペースがあるだけで、ベッドは広い。
額に手を当てると、じっとりと張り付いた汗が流れてこめかみへと伝う。
目を開くと、サファイアは当分眠れそうにないことを実感した。 仕方なく起き上がると、窓の外に目を向けながら服を着替える。
時計に目を向けると、真夜中過ぎを差している。
今なら外にトレーナーが潜んでいることもないだろう。 腕や足のストレッチを行うと、ポケットに手を突っ込んでサファイアは夜の町へと歩き出した。


外に出ると、嵐の前特有の強くて生暖かい風が少し寒いように感じた。
自分だけに限ったものではないだろうが、死に掛けた嵐の日を思い出すから特にこういった日は海に近づきたくない。
星の浮かぶ空を見上げ、小さく息をつきサファイアは歩き出す。
ポケモンも持たず警戒しないで歩けるのも、何ヶ月ぶりだろう。 バトル好きにはたまらないのかもしれないが、チャンピオンになった後というのは思っていたよりラクじゃない。
どこにいるとも知れない友人の顔を思い浮かべながら、サファイアは開発のあおりをうけて使われなくなった灯台の真下へと辿り着く。
本当なら立ち入り禁止だったが、よく忍び込んでは景色をながめていた。
今日とて例外ではなく、カギがかかっていないのをいいことに中へ入り込むと長い螺旋らせん階段を上る。
途中、1度足を止めてから上りきるとサファイアは大きな目を見開かせた。
茶色い髪をなびかせて夜の海を見つめている人物が、自分の感じた気配が気のせいではないことを証明していた。
笑っていないのだけは確かだが、彼女が一体何を思っているのか、起きているのか眠っているのかさえもわからない。
1歩進んだ足音でようやく気付いたように顔を上げ、サファイアの方へと向ける。
星と月が共存する夜空に、彼女の赤い瞳はよく映えた。
「どうして・・・ケガしとる!
 ルビー、どうしたん?」
バンダナの下に見えた包帯に驚きサファイアは近づこうとすると、ルビーは顔をうつむける。
サファイアは涙の跡に気付いてしまった自分に怒りを覚えた。
額に手を当てて、はぁと強くため息をつくと、ルビーは聞こえるか聞こえないかくらいの声で話す。
「・・・こんな顔、あんたに見られたくなかった。」
「すまん・・・」
何が悪くて何が「すまん」なのかも分からなかったが、サファイアはうつむく。
「謝るんじゃないよ、話続かないだろ?」
「すまん・・・」
言ってからサファイアは変な顔をした。
1度出した手を引っ込め、それを見つめるとルビーに背を向け床に座り込む。



介錯を待つ侍みたいだ。
自分に背を向けるサファイアを、ルビーはそう心の中で表現した。
気を使っているのか、普段マシンガントークの彼が一言も喋らない。
心遣いと気味の悪さとを感じながら寄り添うように彼の背中にもたれかかると、おびえたようにサファイアはビクッと痙攣けいれんした。
「・・・初めて・・・あんたの背中見たの、『りゅうせいの滝』を出たときだった。」
かすかなサファイアのまぶたの動きを、ルビーは背中で感じ取った。
「頼りなかったよ。 男のクセに、人に甘えてばっかりで、自分から動こうともしなくて。
 次に見たのが、フエンから出て111番道路で1度別れたとき。 実はこっそり振り返ってたんだ。
 仲良さそうに走ってくサファイアとクリスの背中が段々小さくなって・・・少し、寂しかった。」
震える息を落ち着けるため、サファイアはゆっくりと息を吐き出す。
その息遣いは、ルビーのところまで届いていた。
ひざに顔を埋めると、空に流れた星を見上げながら、ゆっくりと続ける。
「・・・次が、121番道路。」
数字だけはピンとこなかったサファイアは、振り向きたくなる衝動を必死で抑えていた。
「あの日、アメタマに襲われたとき・・・前よりずっと大きくなった背中を見て、初めてあんたに守られてるんだってこと、知った。
 ずっとただの『トモダチ』で『ライバル』なんだと思ってたから、少し悔しくて・・・心強かった。
 何が何だかわかんないくらいパニクってたけど、どっかで、あんたが止めてくれること、信じてたんだと思う。」
サファイアは何も言えなかった。
自分の中でいろんな感情が渦巻いて、それを表現することが出来ない。
悶々もんもんとしたまま難しい表情で固まっていると、ことん、と、ルビーが自分に預けてきた頭の重みに飛び上がる。
「あんた・・・いつ、こんなに背中大きくなったんだろうね?」
破裂しそうな心臓を押さえながら、首をかしげる。
声が声にならない。 白みはじめた視界を気にしながら、サファイアはポケモンリーグ以上の緊張に必死で耐えた。
「サファイア・・・しばらく、こうしてていい?」
「あ、う、おぅ・・・」
子供そのもののサファイアの反応にクスリと笑うと、ルビーはチカラを抜いてサファイアに体重を預けた。
甘えるつもりなどなくても、帰る場所があるというだけでこんなに気が楽なものなのか。
雲の押し寄せてくる空を見上げながら、ルビーはゆっくりと目をつむった。