<各話の1番最初に飛べます>
1、レッド 2、オーキド博士 3、ポケモン図鑑 4、ニックネーム・ハナ



1、レッド




10歳くらいの男の子が 空をぼぉっと見上げていた。
赤いキャップ、赤い上着、と とにかく赤い色が 印象的な男の子だ。
彼の名前はレッド、マサラタウンに住んでいる少年だ。
「ふぁ〜・・・・ひまだ〜」
少年はそんな 独り言をつぶやくと森の方に歩き出した。

レッドが 森の草を かきわけながら進んでいくと 不意に後ろから 小さな物体が飛び出してくる。
一瞬、警戒の表情を作った少年だったが、すぐにそれは笑顔へと変わった。
「よお! ポッポ!!」
「クルックー」
小さな鳥が レッドの腕に止まったとき、レッドはその鳥に向かって話しかける。
ポッポと呼ばれた その鳥は しきりに羽をばたつかせる。
「ん? どうしたんだ?」
いつもと様子が違うらしく、レッドは眉を少しあげた。
ポッポは レッドの腕から飛び立つと、障害物を器用に避けながら 森の奥へ進んでいった。
レッドも、その後を追う。

がさがさと草をかき分けながら進むと、やがて、森の奥から 聞いた事のない鳴き声がすることに気がついた。
どうやらポッポは その鳴き声の主の所へ レッドを連れていきたいようだ。
「ここか?」
森の1番大きな木の下に降り立ったポッポは その場で 小さな羽をばたつかせる。
太く伸びた根がからみあう、レッドや、森に住む生き物たちの格好の遊び場、
その奥にいつもは見かけない『お客さん』が来ていることは、1発で見分けがついた。
「そんなトコにいないで出てこいよ!
 だ〜いじょうぶ、なにもしないって。」
レッドたちの『秘密基地』に居座っている影しか見えない生き物に向かってレッドは話しかけた。
警戒心はまだ解かれていないようだが、ぴくりと影が動く。
「グ・・・・・」
のそのそと出てきた生物は、大きさは、レッドのひざくらいだろうか、背中に大きな種をしょっている 緑色の動物だった。
カエルにも似ているが、飛び跳ねることはなく、赤い瞳でレッドのことを睨みつけている。
「ほら、こっちこいよ。」
友達に話しかけるような口調で、レッドは緑色の動物に手を差し出す。

・・・・・・・・・・ぱくっ!!

「〜〜〜〜〜っ!!!!」
差し出した手を噛み付かれて レッドは声にならない悲鳴をあげようとした。
・・・しかし・・・・

「・・・く・・・・くすぐってぇ・・・・・」
緑色のポケモンは 歯が生えてなかったらしい。
自分の手を なめまわされて、レッドは 笑い声をあげていた。
「結構かわいいな、ほら、ビスケット食うか?」
「むあ・・・・」
差し出されたビスケットを 緑色の動物はべちゃべちゃと口の中でなめまわす。
どうやら、小さな友情が生まれたようだ・・・・





「あ―――っ!! 何をやっているの!!」
突然、背後から響いてきた甲高い声に レッドは思わず振り向いた。
「フシギダネに 人間の食べ物なんて与えて!!
 中毒でも起こしたら どう責任を取るつもりなの!?」
後ろにいた声の主は レッドと同じ位の年齢の少女だった。
黒い袖なしのワンピースを着て、腰まである長い髪は茶色、
ぱっちりした大きな瞳は 銀色がかっていた。

「へ? フシギダネってこいつのことか?
 ・・・・・・ってか 誰だ? おまえ・・・」
レッドの後ろで仁王立ちになっていた少女は、フシギダネと呼んだ 動物の方につかつかと歩み寄ってきて、
「とにかく、フシギダネは研究所に連れて帰りますからね!!」
・・・と、緑色の動物をつかまえ、もと来た道を一直線に歩き出した。
ぽかん、とその様子を見守っていたレッドは、慌てて少女へと駆け寄り、肩をつかんで引き止める。
「おい!! ちょっと待てよ!!」
「・・・なに?
 私はフシギダネを早く研究所に連れてかなければいけないんだから、邪魔をしないでほしいのだけど?」
「そいつ、嫌がっているじゃないか、やめろよ!!」
確かに、少女の腕の中にいるフシギダネは 足をばたつかせ、研究所に戻るまいと 必至で抵抗しているようだった。
そんなことは関係無しに、少女は顔をしかめ、『遊んでばかりの世間知らずの少年』に反論する。
「何で、そんな事が分かると言うの?
 それに、フシギダネは最近発見されたばかりの新種なの!! 外に出して 万一悪い菌でも付いたりしたら・・・」


「関係無い!!」
少年(レッドのことだが)の 予想外の反発に 少女は大きな眼をぱちくりさせた。
とことん反撃する体制で、レッドは少女から視線をそらさない。
「その・・・フシギダネだって生きてるんだ!!
 遊びたいときくらい 遊ばせてやればいいじゃないか!!
 ポケモンは人間の物じゃないんだから!!」

フシギダネは 少女の腕をすり抜けて
家に帰りたくないと言う子供のように、レッドの後ろに ぴったりくっついた。
「おまえ、もしかしてずーっと『研究所』の中にいたんじゃないか?
 外、出てみたかったんだろ」
レッドは、フシギダネの頭を 撫でながら話しかけた。
フシギダネは答えなかったが、その笑顔が 「YES」のサインだと言う事は 誰の目にも 明らかだった。


2、オーキド博士




「ブルー。」
長い髪の少女の 後ろから 白髪の老人が現れた。
「オ、オーキド博士・・・・・」
ブルーと呼ばれたその少女は 現れた老人の存在に驚いたようだ。
「博士・・・・フシギダネが 回収できないんです・・・
 へんな子供が邪魔をして・・・・・」
「おいっ!! 『回収』って何だよ!! それにへんな子供って!!」
自分やフシギダネの事を 悪く言われたレッドは 頭にきて怒鳴った。

「おっさん!!あんたも大人なら、自分の孫くらい、ちゃんとしつけとけ!!」
「なっ・・・・!! 何を言ってるのよ!?
 ポケモン研究の権威、オーキド博士に向かって『おっさん』なんて!!」
「権威だかなんだか しらねーけど 嫌がる奴を 無理矢理連れて帰るような奴に こいつは渡さない!!」
「ちょ・・・こらこら、ケンカはよくないぞ。
 ・・・ブルー、一体何があったんじゃ?」
老人は 事情が飲み込めていないらしい。(今来たばかりなので当たり前と言えば当たり前だが)
困った顔をして、少女の方へと質問を投げかける。



ブルーという少女が 事情を説明して『オーキド博士』は ようやく何が起こっているか 理解したらしい。

「ふむ・・・確かにその少年の言う事も一理あるのう・・・」
「何を言っているんですか!?
 もし、フシギダネが病気にでもかかったりしたら・・・」
「しかし・・・・・・・」
オーキド博士は フシギダネの方を見た。
フシギダネはレッドの足に ぴったりとくっついて 本来飼い主であるはずの、少女たちの方を警戒している。
「すっかりフシギダネは君になついてしまったようだしのう・・・・・」

(・・・・・・彼に『アレ』を渡してみるか)

オーキド博士の脳裏に ある提案が浮かんでいた。
「君、ちょっと来てくれるかな?」
「な、なんだよ、警察ならいかねーぞ!?」
「そうじゃないさ。」
そういって博士は 町のほうに歩き出した。
警戒心を解かず、レッドはその後を慎重に追いかける。


「・・・・・・なによ。」
その後をついていく レッドの後ろから ちょこちょこ小走りに ついていくフシギダネが
・・・・・・ブルーは 気に入らなかったようだ。


3、ポケモン図鑑




レッドが案内されたのは レッドも住む町、マサラタウンの中心にある 白い大きな建物だった。
「オーキド・・・・・研究所?」
看板を見て、確かに「それっぽい」、とレッドは思った。
オーキド博士は その建物の扉をノックもせず開く。
人1人が通ることの出来る広さよりも大きく扉を広げられ、レッドはその白い建物の中へと通された。



ほこりっぽい部屋の中に入ったレッドが見たのは、
たくさんの書類の山、それに、訳の分からない 実験器具のようなものと
それと・・・・・
「あれは、『モンスターボール』?」
レッドの視線の先には ちょうど、子供の手の中に収まるくらいの赤と白で 半分ずつに色分けされた、球体が2つある。
つい最近のテレビ番組で知った、1部の動物を閉じ込めておける特殊な機械。
「そうじゃ、最近発見されたばかりの 新種のポケモンが入っておる。
 ポケットモンスター、縮めてポケモン、君が『友達』として見ておる生物たちについた名前じゃ。」
「じゃあ、そいつらも、ずっとこの建物の中に・・・・」
オーキド博士はレッドの問いに 笑って答えた。
「いいや、それは無い。
 あのポケモン達は これからブルー達の旅に ついていくことになっておる。」
「ブルーって、さっきの女の子?」
「ああ。」
姿をもう1度見ようと、レッドは扉の向こうへと視線を向ける。
しかし、いつのまにか ブルーの姿はなくなっていた。


オーキド博士は レッドの足に 歩きにくいくらいに くっついた フシギダネを見やって こう付け足した。
「そして、そのフシギダネもな。」
フシギダネが びくっと体を震わせたので レッドは転びそうになった。
「こいつ・・・・なんか 嫌がってないか?
 さっきから ずっとあんた達を 避けてるみたいだけど・・・」
レッドは 震えているフシギダネの背中の種を 優しくさすりながら 心で思った事を そのままぶつけてみる。
にやりと、オーキド博士は笑うと、口を動かす。
「確かにそうじゃのう、だが、おまえさんには なついておる。」
「・・・・・・どういうことだよ?」

すっかり 訳のわからなくなっている レッドをまっすぐ見て、オーキド博士は言った。
「単刀直入に言おう。
 わしは、おまえさんに ポケモン集めの旅に出てほしい。」
「・・・は?」
オーキド博士は 自分の後ろにある
電子手帳のような物を レッドに差し出して言った。


「世界中に どのくらいの ポケモンがいるか、知っているかね?」
「いや・・・・・」
レッドは 首を横に振った。
「種類によって様々な能力を持つ この不可思議な生き物達は 数多くの研究者がこぞって研究を進めているが
 『どのくらいいるか』となると、100匹とも、200匹とも言われており、正確な数は 誰にも知られていない。
 そう、この世界に どのくらいのポケモンがいるのか、誰も知らない。
 わしはな、それを調べようと 思っておるのじゃ。
 しかし、わしのようなジジイでは、ポケモンを捕まえようにも 体力が足りんじゃろう。」
「・・・それで、オレに そのポケモン集めをやれって?」
「そう言う事じゃ。」


・・・・・バタンッ

突然、レッドの背後の扉が 乱暴に開き、
レッドと 同じ位の年齢の少年が、眉をしかめながら ずかずかと入りこんできた。
「グリーン!?」
入って来たのは、レッドの幼なじみ、
遺伝の影響なのか、ツンツン立った髪の毛は薄茶色、
紫色の服を着た 目つきの鋭い少年 グリーンだった。

グリーンは レッドの方を ちらりと見やると、オーキド博士に向かって
「どういうつもりだよ、じーさん。 ・・・まさか レッドにポケモン図鑑を 渡すつもりじゃねーだろうな?」
「なんじゃ、グリーン。 知りあいだったのか。
 そうじゃよ、彼に ポケモン図鑑を託すつもりじゃ。」

次から次へと 訳のわからない事が起こり、すっかりレッドは 訳がわからなくなってきていた。
「冗談じゃないっての!!
 こんな、一日の半分を 森の中で過ごしてるような野生児に・・・・」


「・・・・・・すとぉ―――――――――っぷ!!!!!」


研究所の窓ガラスが 割れるような大声で レッドは叫んだ。
割れそうな頭の中にめぐる怒りに任せ、とにかく大声で、レッドは2人に向けてまくしたてる。
「一体、何が起こってるんだよ!?
 オレにも分かるように ちゃんと説明しろ!!」

とんでもない大声に、オーキド博士も グリーンも レッドの足元にいた フシギダネも
そして、研究所に戻ってきていた ブルーも目が点になっていた。


4、ニックネーム・ハナ




「すまんすまん、内輪だけの話になってしまって・・・」
上目づかいに オーキド博士の方を 睨んでいるレッドに向かい、オーキド博士は ぺこぺこと謝った。
「・・・・・ったく、一体オレに 何させようってんだよ!?
 ちゃんと 最初から説明しろ!!」
オーキド博士は、腰でもう一度 レッドに謝ると、
先ほどの電子手帳のような物を取り出し、レッドへと手渡す。

「これは、『ポケモン図鑑』と言うものじゃ。
 君らが ポケモン達と出会うごとに その生態を記録していくという機械じゃ。
 この『ポケモン図鑑』に、すべてのポケモンのデータを 記録してもらいたい。」
「ポケモンの・・・・・・データ?」
レッドは まだ何が起こっているか 分かっていないようだった。
手にした図鑑をながめながら、疑問の眼差しを向け続けている。
「そう、君がポケモンを捕まえるごとに 図鑑にデータが増えていく、
 最終的には、すべてのポケモンを このポケモン図鑑に 記録してほしいんじゃ。」
「・・・・・・オレが?」
オーキド博士が言ったことの意味を レッドは ようやく理解する。


「・・・・・・無茶言うなよ、オレに、あんなでっかい動物を 捕まえさせるなんて・・・・
 人間の力が ポケモンに、かなうわけないじゃんか!」
オーキド博士は その言葉を聞くと、にんまりと口元をゆるませた。
「トレーナーならできるじゃろう?」
「・・・・・・・・・トレーナー?
 あの、動物を捕まえて 戦わせるってやつか?
 でも あれは 動物・・・ポケモンっつったっけか?
 とにかく、そいつをを持ってることが 最低条件、オレ、1匹も持ってないっての。」
オーキド博士はレッドの足元を指差し、
「そこにおるではないか!」
そう言うと、にんまりと口元を緩ませた。
レッドが指差された足元に 視線を落とすと、そこには 瞳を輝かせたフシギダネが じっとレッドを見つめている。


「それと、同じ仕事を そこにいる2人にも 頼んでおる。」
レッドと 森であった少女が
「そーよ、今日はパートナーとなるポケモンを 私とグリーンが受け取るはずだったの。
 なのに、そのフシギダネったら、研究所から逃げ出しちゃって・・・・」
「まあまあ、せっかく3匹ポケモンを用意したんじゃから、
 ブルーたちも、ポケモンを選ぶがよい!!」

グリーンとブルーは 少しふくれがおで
机の上にあったモンスターボールを どちらがどっちを取るか、相談を始めた。

レッドは 足元から じっと自分の事を見つめている フシギダネの方を見ると、
フシギダネと 話が出来るように その場に座り込んで
「フシギダネ、だっけ、おまえはどうしたい?
 このまま 研究所に残るって 手もあるけど・・・・」
「むうぅ!!」
フシギダネは 大きく首を 横に振った。
「そっか、じゃあ オレが連れ出してやるよ。
 2人で 世界制覇ってのも 悪くないよな、フシ・・・・・・」
「ぐ?」 
「・・・・・・・フシギダネって 長ったらしい学名で 呼ぶのもなんだよな、 そうだ、ニックネームにしようぜ?
 ・・・・・・・・そうだな、おまえは・・・・・・・・・」


「ハナ!!
 おまえ、背中に種しょってるだろ?
 いつかそれが、大きな花に なるだろうから、
 だから おまえは 今日から『ハナ』だ!!」
「だっせー名前!!」
ほとんど間髪をいれず、後ろから グリーンが 口を挟んできた。

「ポケモンをニックネームで呼ぶ?
 よくそんな 恥ずかしい真似が できるな!!
 ポケモンは 学名で呼ぶって言うのが常識だろ?」
「いいじゃねーかよ!!別にそんなの・・・・・
 ・・・・・・なー、ハナ?」
「ぐぅ!!」



フシギダネ・・・・・いや、ハナは この名前が気に入ったようだ。
かくして レッド達の 珍道中とも言える旅は 幕を切ったのである。


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