<各話の1番最初に飛べます>
13、おつきみやま 14、ロケット団 15、妖精 16、なにかの化石



13、おつきみやま




「へへっ、グレーバッジ、か・・・」
レッドは、ニビシティで手に入れたばかりのバッジを空にかざして まぶしそうに眺めていた。
ここは『おつきみやま』。
夜になると、月とともに妖精たちがやってくるという、ちょっとした噂のある山だ。





「へぇ〜、妖精ね・・・
 ほんとに そんなのいるのかね?」
レッドはポケモンセンターの真ん中で『おつきみやまガイド』と書いてあるパンフレットを広げ、しげしげと眺めていた。
ポケモンたちの回復を待つ間の、しばしの休憩である。

「あら、『火のないところに煙は立たず』っていう ことわざ、
 ・・・・・知らないの?」
レッドの後ろから、澄んだ女の子の声が聞こえてきた。
振り向くとそこにいるのは、すぐ前の街でも会った、茶色い髪の女の子。
「ブ、ブルー!?
 ・・・・おまえ、ほんとに 神出鬼没だな・・・・・」
「あら、今日は私だけではないわよ?」
そう言って、ブルーは腰につけていたモンスターボールをポンッと開いた。
中から出てきたのは、大きな瞳をレッドに向ける、丸くピンク色をした なかなか可愛らしいポケモンだ。
「可愛いでしょう?
 プリンの、プウちゃんで〜す!!」
ブルーは、手に入れたばかりらしいピンク色のポケモンを抱き上げ、レッドに向かってパチッとウインクした。
それに合わせて、プリンもパチッとウインクする、その可愛らしい様は、心臓をすりこぎで叩いたような衝動を覚えさせる。



「レッドたちも、おつきみやまに行くの?」
唐突な切り出し方をしたのはブルーだった。
「あ、あぁ、この山の向こうに街があるって話だし、行ってみようかなって・・・・・・」

「ね、一緒に行ってもいい?」
上目づかいにブルーが頼みごとをしてきたので、レッドは少々固まってしまった。
バクバクする心臓を何とか押さえながら、必死に声をしぼりだす。
「べ、べつにいいけど、どうしたんだよ?
 『一緒に行ってもいい?』なんて、ブルーらしくもない・・・」
「だって、おつきみやまの中、おかしな黒服の人たちがいっぱいで、なんだか怖いのよ。」
「・・・・・おかしな、黒服の人たち?」
レッドは、オウム返しに聞き返した。
「えぇ、同じ服を着た人が 2〜3人が固まって歩いていたから、「何かあるのですか」って訊いたら、
 いきなり、『邪魔だ、ガキはとっとと帰れ!!』なんて、いうんですもの!!」

「そういえば・・・トキワでもそんな感じの奴ら、いたっけ。
 あっ、ブルー? その黒服の奴ら、もしかして胸に『R』のマークを付けてたりなんて・・・・」
「・・・・・そういえば、そんなマーク、付けてたわ。
 真っ黒で風変わりな服を・・・制服みたいなの、着てたわね。」
レッドはふざけて言ったつもりだった。
しかし、その言葉は洒落(しゃれ)になっていない、というわけだ。





「よし、確かめに行こう!!」
レッドはそう言うと、ポケモンセンターの待合室の椅子から 元気よく立ち上がった。
「ちょっと、確かめに行くって、何を!?」
「オレがトキワで見た、あのむっかつく黒服の奴と、ブルーの見た黒服の奴が同じかどうかだよ。
 もし、同じ人物だったら、今度こそとっちめてやるんだ!!」


レッドはそう言うと、ブルーが止めるのも聞かず、ハナとピカを連れてポケモンセンターから飛び出した。
どうやらこの熱血君は、一度言ったら なにがなんでもやり遂げないと、気が済まないらしい。


14、ロケット団




「ブルー、あいつらか?
 おまえが見たっていう、『おかしな黒服の人たち』って・・・・・」
「えぇ、間違いないわ。」

上下とも、真っ黒な『R』のロゴ入りの 服、
この季節にしては、どう考えたって暑すぎるブーツに、ひじまである手袋。
それに、これまた真っ黒な帽子までかぶっている人間が、
おつきみやまの暗い洞窟の中、うろうろしているというのだから、もし、『怪しい風景コンテスト』でもあろうものなら、
間違いなく1等を取りそうなくらい怪しい光景が レッドたちの目の前には広がっていた。





「俺が見たのも、あんな格好をした奴らだったな・・・・・・
 あー・・・・思い出したら、腹立ってきた。」
レッドはがに股で 黒服の男たちの方に歩み寄ると、
「やいやいやい!! おまえの仲間がな、トキワのジムに侵入企ててたんだぞ!!
 おまえ、同じ格好してる仲間なら、ちゃんと叱っとけ!!」

「・・ストレートすぎるわよ、レッド・・・・」
物陰から様子を見ていたブルーは、あまりのレッドの単純さに呆れていた。



「はっ、ばかばかしい、
 ボウヤ、さっさとお家まで帰りな!!」
黒服の男は、レッドの言葉など、まるで相手にしていない、といった様子だ。
それでもレッドは、まるで物怖じする様子など見せなかった。
「そういう訳にもいかねーんだよな、
 お前らの悪人相で、女の子が怖がって、ここ通れなくなってんだから、
 ちゃんと通行できるまで、『帰る』なんて、できねーよ!!」
悪人相、と言われて黒服の男の口角がぴくっと引きつる。

「何事だ?」
ざっと10人位はいる 黒服の男たちの間をすり抜け、1人の男がレッドと言い争っている男に話しかけてきた。

「はっ、申し訳ございません!!
 この子供が、トキワジムの一件を見ていたようで・・・・・」
「だから、なんなんだよ、お前ら!!
 おれ、ここを通れるようになるまでずーっと怒鳴りつづけるからな!!」
レッドは、仁王立ちになって、黒服の男たちを睨みつけた。
後からやってきた男は そのレッドを見て、にやりと笑う。
「ボウズ、お前、ポケモントレーナーか?
 それならば、この俺とポケモンバトルをして、お前が勝ったらここは通してやる。
 ・・・・・・それでどうだ?」
近づいてきた方の男は、レッドにそう言うと、不気味な笑いを浮かべた。

「なんだよ、それ。 もともとお前らが勝手にここに陣取ってんだろ!!
 そんなめちゃくちゃな条件、飲めるわけないだろ!!」
レッドはそう言いながらも、腰についているモンスターボールを構える。




「ボウズ、世の中には 知らなくてもいい事だってあるのだよ。
 お前は『知らなくてもいい世界』に入ってしまった。 残念だが、返すわけにはいかない。
 まあ、運が悪かったと思って、諦めるんだな。」
「最初から、そのつもりってわけか・・・・・」
嫌な空気をレッドは体で感じていた。
気が付くと、レッドの周りは、大勢の黒服の男たちでいっぱいになっている。
「フッ、このポケモンマフィア、ロケット団の領域(テリトリー)に迷い込んだのが運の尽き、
 せいぜい、苦しまないように神様にでも、祈っておくことだな!!」

黒服の男たち、いや、ロケット団と名乗った男たちは、一斉にモンスターボールを開いて レッドに襲い掛かってきた。
いくらなんでも人数が多すぎる、レッドは襲いかかってくる男たちに反応できずにいる。


『プウちゃん、『うたう』よ!!』

甲高い声が洞窟の中に響き渡ったかと思うと、
間髪を入れずに心地よくなるような歌声が鳴り響いてきた。

『な、なんだ、この歌声は!?』

『眠く・・・なってき・・・グウ・・・』

レッドの周りにいたロケット団たちが次々と眠気で倒れていくなか、
洞窟の奥の方から、さきほどの甲高い声が響いてくる。
『レッド、こっち!!』


レッドは迷わず 声の方向に走り出した。
ブルーが、助け舟を出してくれたのだ。


15、妖精




「・・・・・・さ、さんきゅ、ブルー。」
息を切らしながら、レッドはブルーに向かって礼を言った。
「まったく、無茶するわよ。
 あんな怪しい人物に 正面から堂々と突っ込んでいくなんて思いもしなかったわ。」
呆れきった声を出しながら、ブルーはさっさと歩き出す。
暗い洞くつの 更に暗い方向へと進む彼女のあとをレッドはゆっくりと追いかける。



「レッド、どうしてあの怪しい人たちがここにいるのか、分かったわ。」
ブルーが洞窟の奥に進む途中、レッドに話してくれた。
「レッドがあの黒服人たちに突っかかっていたときに、偶然聞いたのよ。
 あの男たち、この『おつきみやま』にある『化石』を探しているみたい。
 それで、どういうつもりかは知らないけど、人払いをして、探しているらしいわ。」
「『化石』って、ニビにあったような、あれか?」
レッドはモンスターボールを ベルトに戻しながらブルーにたずねる。
「さあ、『おつきみやまに化石がある』なんて話、聞いたことないもの。」


レッドは洞窟の穴が 2つに分かれているところまで来て、ふと 足を止めた。
「どうしたのよ、レッド?」





「・・・妖精だ。」
レッドは そう言うと一目散(いちもくさん)に 洞窟の奥まで駆け出した。
「レッド!?」
突然のことに反応し切れず、今度はブルーがレッドのことを追いかける。


「あれ、いなくなっちまった・・・・・」
おつきみやまの洞窟の かなり奥深いところまで来て、レッドはようやく足を止めた。
「レッド、大丈夫なの!?
 いきなり『妖精だ』なんて言ったりして・・・」
今度は ブルーが息を切らす番。
そんなことは全く気にもせず、レッドは振り返ると叫ぶように話す。
「だって、本当に 妖精が見えたんだ。
 ピンク色で、ちっちゃくって、羽が生えてた!!」
奇異なものを見るような眼をしたブルーに レッドは必至で弁解した。
「そりゃ、私『火のないところに煙は立たず』なんて言ったけど・・・・・」

レッドが、何かに気付いたようにブルーを片手で静止する。
「ちょっと、だまって・・・」
レッドは 赤い帽子を深くかぶりなおすと、目をつぶって辺りの音に全神経を集中させた。
「・・・聞こえる・・・」
そう つぶやいたかと思うと、レッドは ものすごい勢いで 駆け出した。



今度は ブルーは 追いつけなかったらしい。
レッド1人が、おつきみやま中央の『広場』のような場所に迷い込んでいた。
山の真ん中にぽっかりと穴があき、暗い洞くつを抜けた先で、そこだけ空が見えている。
「妖精・・・ほんとにいたんだ・・・・・・」

レッドは 栗色の瞳を 大きく開いて 辺りを見まわした。
そこにいたのは、ピンク色で、羽が生えていて、小さな・・・ポケモン。
『妖精』たちは、その小さな体を寄せ合い、レッドの方を見つめ、怯えていた。
「人間が、怖いのか?
 ・・・・・・しゃあねぇな、あんな真っ黒け連中が、洞窟の中をうろうろしてんだもんな。
 ハナ、ピカ、あいつらと遊んできな!」
レッドはモンスターボールから、ハナとピカを呼び出し小さなポケモンたちの元へ向かわせる。



17時30分、
ハナとピカは、『ようせいポケモン』たちとすっかり仲良くなり、楽しそうに遊んでいた。
レッド1人、蚊帳(かや)の外だったが、彼自身はあまりそんなことを気にするような様子はない。

「今夜は、満月か・・・・・」
夕刻の透明感のあるブルーの中に黄白色の月が浮かんでいた。
レッドは、『妖精』たちが見せる、神秘的なこの空間にいられる、それだけでも嬉しかった。


16、なにかの化石




いつのまにか眠りこけていたレッドは、深夜になって、大勢の人間の足音で目を覚ました。
起き上がって辺りを見回すと、暗くなったせいだけではない、辺りの様子が1変している。
「まさか、こんな空間があったとはな・・・・」
先頭に立っていた男が、うれしそうに呟いた。


「お前ら、さっきの真っ黒集団!? どうしてこんなところまで・・・・」
レッドが立ちあがると、レッドの近くまで集まっていた
『ようせいポケモン』たちが(どうやら 動かないので危険がないと判断したらしい)クモの子を散らすように逃げ出した。

「『真っ黒集団』ではない、ロケット団だ。
 ここまで来れたのは、このお嬢ちゃんが、ご親切に教えてくれたのさ。」
そう言うと、ロケット団の 上役らしき男は部下の1人に、1人の少女を連れてこさせた。
茶色い髪に銀色の瞳、黒いワンピースの女の子。
「ブルー!?」
「ごめん、レッド、捕まっちゃった・・・」
よく見ると、ブルーの顔や体にはあちこち殴られたような傷やあざが出来ていた。
あまり効いていないように振舞っているが、どこをどう考えても、見るからに痛々しい。
「お前ら、ブルーに何をした?」
レッドは 赤い帽子を深くかぶりなおし、怒りに満ちた眼でロケット団の男たちを睨みつけた。
「なに、そのお嬢ちゃん、なかなか我々の質問に答えてくれないものでね、
 少々、痛い目を見てもらったのさ。」


いつのまにか、ハナピカはレッドの足元まで来て、戦闘準備を整えていた。
「許さねーぞ、お前ら!!」
レッドとポケモンたちは、目で合図を交わすと、
一斉にロケット団のほうに向かって、攻撃を開始する。

ハナが捕まっていたブルーを ロケット団員から引き離したかと思うと、レッドたちの猛攻が始まった。
「ブルー、『妖精』たちを頼む!!」
そう言い残したかと思うと、レッドは 何十人といるロケット団たちに向かって突っ込む。
スピードで勝負するピカ、パワーで圧倒するハナ、2匹のコンビネーションで、
あらかたの ロケット団は倒れていった。

しかし・・・・・・・

「あーもうっ!! きりがねえ!!」
倒しても倒しても、ゴキブリのごとく現れてくるロケット団に、レッドたちの体力はだんだん限界へと差し掛かかる。
小さく受ける攻撃も、度重なる(たびかさなる)と致命傷となりかねない。
「ピカ!?」
ドガースの『スモッグ』攻撃で毒が回ったピカが、
攻撃を受けて、地面に倒れていくのを見て、レッドは愕然(がくぜん)とした。
「だめだ、完全にやられてて、ピカはもう戦えねえ・・・・」
ハナに『たいあたり』の指示を出しながら、レッドは傷ついたピカをモンスターボールに収める。


「・・・マジかよ・・・・・・!?」
残ったハナで、ロケット団との 激しいバトルを繰り広げているなか、
ピンク色の小物体がその中に迷い込んでいるのを見て、レッドは背筋が凍りつきそうな思いをする。
「妖精・・・!? ハナ、『つるのむち』!!」
ハナの出した『つる』で、ロケット団が 5、6人倒れるのを確認すると、レッドは全力疾走で迷い込んだポケモンの方に向かった。

「大丈夫か? どっか、怪我とかしてないよな?」
レッドは『ようせいポケモン』を抱き上げると、すぐさまハナの方へ向き直った。
ハナは、レッドの姿が急に見えなくなったので、パニックを起こして辺りをひたすら見まわしている。
ロケット団からしてみれば、それは絶好のチャンス。
「ハナ!!」
自分を呼ぶ声にハナは何かに頼りたげな顔でレッドのいる方向へと頭を向ける。
その隙が狙われる、『たいあたり』で ハナは、瀕死寸前まで追い込まれていた。

「大丈夫か!? ハナ!!」
攻撃はかろうじて急所を外れていたらしいが、それでもハナは 立つのが精一杯。
「どうやら、これまでらしいな、ボウズ。」
上役(らしい)男が、嫌味な笑みを浮かべながら、レッドに近づいてきた。


「・・・・・・うるせー!! オレたちは絶対、お前らなんかには やられねーよ!!
 ほら、この『妖精』だって負けねーんだ、指振って、余裕あるじゃんか!!」
耳がつぶれそうなほどの大声が響く。
レッドは抱えている『ようせいポケモン』が指を振っているのを見て、必至で強がって見せた。
「ふっ、負け惜しみを・・・・!?」


突然、『ようせいポケモン』の体からまるい物体が出てきたかと思うと、それがハナに当たり、破裂した。
「ハナ!? ・・・・・・回復していく!?」
「これは・・・『タマゴうみ』!?」
ロケット団の周りから続々と『妖精』たちが出現して、広場は、一面ピンク色のじゅうたんを敷いたようだ。
その『妖精』たちのいずれも、指を振っていて、それが終了すると同時に、様々な技が繰り出されていた。


水を出すもの、空を飛ぶもの、火を吐くもの、ただ跳ねるもの・・・・


「・・・ピッピの、『ゆびをふる』って技よ。
 指を振る事によって脳を刺激し、ランダムにいろんな技を繰り出すの。」
ブルーが奥から現れ、技の説明をしてくれた。
「あのピッピたち、ロケット団に山を荒らされたことに相当怒りを覚えているみたいね、
 一致団結して、立ちあがってくれたのよ。」

とどめに 3匹ほどのピッピが『はかいこうせん』を放って、ロケット団は空へと飛んでいった。
「ありがとな、『妖精』さん!! おかげで助かったよ!!」
レッドのことを怖がるピッピはもういなかった。
みんな、レッドの足元に集まったり、中には飛びつくものもいた。



「・・・・なんだ、ありゃ?」
ピッピの『はかいこうせん』が当たった壁が崩れ、岩以外の何かがあることに レッドは気付いた。
そこのあったのは、渦巻き状、それに中華鍋のような形をした、他とは色の違う『石』。
「もしかしたら、これが、『化石』?」
ブルーが『化石』を 興味深そうに眺めている。
「すごい、おつきみやまの中から化石が発見されるなんて・・・・・
 これを学会に発表すれば・・・・・」

「・・・・・・そっとしておいてやろうぜ。」
レッドは見つかった『化石』を手のひらでなでながら言った。
栗色の瞳が 柔らかい光りを放つ。
「かわいそうじゃねーか、死んじゃって、それでも研究の材料にされるなんて、
 それにさ・・・・・」
レッドは ピッピたちの方を見て、言葉を詰まらせた。


「・・・・・わかった。」
ブルーが承諾すると、とたんにレッドの顔は輝いた。
「その代わり! ピッピのデータは取って行きますからね。 そのくらいは問題ないでしょう?」
「ああ!! ありがとう、ブルー!!」



『ナンバー35、ピッピ、 記録完了!!』

レッドたちの旅は、まだまだ続く・・・


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