<各話の1番最初に飛べます>
21、ハナダシティのカスミ 22、水の戦い 23、信じられない決断
21、ハナダシティのカスミ
『ねえねえ、これ イーブイでしょ? どこで捕まえたの?』
『キャー、こっちのフシギダネもかわいー!!』
1人の女の子が見つけると、それをどこから聞きつけたのやら、2人、3人と女の子達は増えていく。
「やめろ!! サンは見世物じゃないんだ!!」
女の子の 腕の中で怯えているサンを レッドは 無理矢理ひったくると、
グリーンに目で『また会おう』というサインを送り、ハナを連れて逃げ出した。
「ふう、災難だったな。 大丈夫か、サン?」
レッドは 人のこなさそうな場所まで来ると、ハナをしまい、足を止めた。
サンは、レッドが片手で持ち上げる事が出来るほど、小さくて軽い。
それに容姿も 可愛いときたものだから、女の子にとっては 格好の的だろう。
「ごめん、オレがしっかりしてれば、あんな事には ならなかっただろうに・・・」
サンは、『それは違う!!』とでも言いたげに、首を振り、やさしく レッドのほほをなめた。
「まるでサンは、オレの言葉が 分かってるみたいだな。
ありがと、元気付けなきゃならないのは、おまえの方なのに・・・・」
「あら、こんなところで何してんの?」
道向こうから女の子の声がして、レッドは びくっと体を振るわせた、ブルーの声ではない。
(かくれてろ、サン)
レッドは サンにそうささやくと、上着の中にサンを隠した。
「あ、今、服の中になんか隠したでしょ!!
まさか、あなた何か 盗みでも働いたんじゃないでしょうね!!」
「な、何でオレが 泥棒をしなきゃなんないんだよ!?」
レッドに詰め寄ってきたのは、ショートヘアーで、左側の前髪を ちょこんと横に結わえ付けている女の子だった。
「だったら、今 服の中に隠したもの、見せなさいよ。
このジムリーダー、カスミさまの目は ごまかせないんだからね!!」
「ジムリーダー?」
両手を腰に当て、レッドの事を睨んでいる少女に レッドは聞き返した。
「そーよ!! あたしは これでも一応、ジムリーダーなんだから。
犯罪かもしれないってのに、黙って見過ごすなんてできないわ!!」
「わーったよ、出て来い、サン。」
ジムリーダーなら、少なくとも さっきの女の子達みたいに むやみに撫でまわしたりはしないだろう。
「・・・イーブイ? あなたが盗んだの?」
カスミは『泥棒』の話題から、まだ離れていないようだ。
「ちーがーう!!
さっき 街頭でこいつが 女の子達にたかられてたから、仕方なく隠してたんだよ!!」
「それよりさ、あんたジムリーダーなら、バッジを賭けた勝負、受けてくれるよな!!」
レッドは 夢いっぱいの瞳で カスミに問い掛けた。
「ええ、あなたがまともな人物と分かった以上、ジムリーダーとして、断ることはできないわね。
ま、考えなくっても、あたしの勝ちでしょうけど?」
「・・・・・な、なんだよそれ!?
やりもしないうちから どうしてそんな事が分かるんだよ!!」
「それもそうね、『奇跡』っていう言葉もあるくらいだし・・・・・」
カスミは 自信を持った笑い方をして その場を立ち去ろうとした。
レッドとの距離が いくらか離れたところでカスミは立ち止まった。
「あ、そうそう それと・・・・・」
「なんだよ?」
「そのイーブイ、普段はボールの中に入れるようにしておいた方が 安全なんじゃない?
女の子に、追っかけられてるんでしょ?」
「あ・・・・・・」
22、水の戦い
翌日、ロケット団との戦いの傷を ポケモンセンターで癒したレッド達は、
ハナダシティジムへと足を運んだ。
レッド自身の左手の怪我は まだ治っていなかったが、利き手ではないので バトルに差し支えはない。
「あら、レッドじゃない!!」
ジムの入り口でばったり出会ったのは・・・・・
「出た、神出鬼没少女・・・・・」
茶色い髪をなびかせて、レッドと同じくらいの少女が ちょこんと立っている。
「なによ、人をお化けみたいに!!
あ、そうそう レッドはジムに挑戦した?」
「これから行くところ。
・・・・・ブルーは、終わったみたいだな、その様子じゃ。」
ブルーのいつにないハイテンションぶりに、レッドは ブルーが切り出したい 話の方向が 大体読めてきた。
「そのとーりー!! ほら、ブルーバッジ!!
グリーンも さっき終わったみたいよ、私とすれ違いだったもの。」
「そっか、じゃあオレももう行くから、またな。」
「OK,see you!!」
「・・・・・何だって?」
「『またね』って意味!!」
「ずいぶん、遅かったわね、
てっきり逃げ出したのかとおもったわ!!」
ブルーとの会話で 少々お疲れのレッドに カスミはさらに追い討ちをかけるようなことを言った。
「ちょっと、女の子に捕まってたんだよ。
『到着』はしてるから、逃げ出してはいないだろ?」
「また、イーブイ?」
レッドは首を横に振った。 それ以上、答える気にはなれない。
「さっさと 始めようぜ。」
レッドは 帽子を深くかぶりなおした。 どうやら、そうすることで気合が入るらしい。
「ええ、そうね、それじゃ、こっちの1番手は・・・・・ヒトちゃん、おねがい!!」
カスミはモンスターボールから、星型の水ポケモンを呼び出した。 ほしがたポケモン、ヒトデマンだ。
「よし、それじゃこっちは、ハナ、行け!!」
バトルフィールドは海岸さながら、相手にとって有利な場所、というわけだ。
「ヒトちゃん、先制よ『みずでっぽう』!!」
ヒトデマンは 中心にある宝石のような核から、ハナに向かって水を飛ばしてきた。
「ハナ、『つるのむち』!!」
ハナは『つるのむち』を『みずでっぽう』にぶつけて盾にする。
見事に水の勢いはなくなり、ハナ自身には わずかな水しぶきが飛んできたくらいだった。
「ヒトちゃん!?」
もう一度放った『つるのむち』で ヒトデマンは気絶し、戦える状態ではなくなった。
「さすがね、ヒトちゃんを こうもあっさり倒すなんて・・・
でも、あたしの切り札は こっちよ、いっけぇ、マイ ステディ!!」
カスミが出したのは、『なぞのポケモン』、紫色のヒトデマンが 2匹重なったような・・・・・
「スターミーの スタちゃんよ!!
あんたのポケモンより、ずっと強いんだから!!」
「いーや、こっちのポケモンの方が、ず〜っと強い!!」
自分のポケモンを馬鹿にされて 平気でいられるトレーナーなどいない。
レッドも ご多分に漏れず、負けじとカスミに言い返した。
「ま、それは バトルで決める事でしょう?
スタちゃん、『バブルこうせん』!!」
カスミが叫ぶと、スターミーは『あわ』に よく似た気泡を ハナに向けて発射した。
「ハナ、『やどりぎのたね』だ!!」
ハナは『バブルこうせん』を体で受け止めながらも、『たね』をスターミーに命中させた。
『やどりぎのたね』はすぐに成長し、スターミーの動きを鈍らせるほどに 大きくなっていく。
「『つるのむち』!!」
ハナの一撃で、スターミーは 致命傷(命まで奪うわけではないが)を受けたかのように見えた。
しかし、スターミーは 立ちあがったかと思うと、体中の傷が みるみる回復していく。
「スタちゃんの技、『じこさいせい』よ。
それに、『たいあたり』っ!!」
スターミーの体が激突し、ハナはフィールドの端まで 吹っ飛んだ。
ハナは倒れこむと、そのまま 動けなくなった。
「ハナ、・・・・・もう戦えないみたいだな、いいよ、ゆっくり休んでな。」
レッドは やさしくハナを抱き起こすと ボールの中に戻した。
「さあ、もう 品切れってことはないでしょ? 早く 次のポケモンを 出しなさいよ!!」
カスミは 自信たっぷりに 次のポケモンを出すよう うながした。
「ああ、それじゃ・・・・・」
レッドは 腰のホルダーから ボールを取り外すと、ボールに向かってささやいた。
「・・・・・・いくぜ!!」
23、信じられない決断
「ちょっと、本気で そのポケモンで戦う気なの!?」
レッドが出したのは、イーブイのサン。
進化させてからならばともかく、普通はペット等にするポケモンだ。
「別に、間違っちゃいないぜ? オレはこの サンで戦う。」
サン自身、自分が戦うというのを 信じられない様子だった。
尻込みしながら レッドの方を ちらちら見ている。
「大丈夫だ、サン。 オレを信じろ!!」
レッドが あまりにも自信たっぷりに言うので、サンは 仕方なしに戦闘態勢にはいった。
「いいわ、たとえ姿が可愛くっても、容赦しないんだから!!
スタちゃん、『たいあたり』よ!!」
「サン、かわして こっちも『たいあたり』だ!!」
スターミーは サンに向かって突っ込んでくるが、ハナの『やどりぎのたね』が邪魔をして、うまく移動できない。
サンは『たいあたり』を なんとかかわすと、スターミーの体を壁に向けて 突き飛ばした。
「くっ、それなら遠距離攻撃!! 『バブルこうせん』!!」
「『すなかけ』だ、サン!!」
『バブルこうせん』は またしても放った直後に 『やどりぎ』に阻まれ、
なんとか サンに向けて 撃てたものも、『すなかけ』の砂が割り、その効果を打ち消していった。
おまけに『眼』に当たるところ(スターミーに眼はない)に砂が入ったらしく、方向を見失って スターミーはおろおろしている。
「スタちゃん、水に入って砂を洗い流すのよ!!」
スターミーはふらふらしながらも、何とか水場を見つけ、その中へ潜っていく。
「さあ、勝負どころだぞ、サン!!」
レッドは 水面を睨んでいるサンに発破をかけた。
サンは大きくうなずくと、水を見つめて 精神を集中させる。
『今だ!!』
叫んだのは2人同時だった。
水面が 一瞬揺れたかと思うと、星の影がサンを狙って突進する。
「サン!!」
紙一重で スターミーの『たいあたり』をかわすと、その小さな体を 全身全霊を込めて、スターミーにぶつける。
「よくやった、サン!!」
スターミーの星型の体は、砂浜に転がり、そのまま動かなくなった。
サンの『たいあたり』が 決まったのだ。
「う・・・そ、スタちゃんが・・・・・」
カスミは呆然と その場に腰を落とした。
「キュイ!!」
サンは その日、初めてレッドに笑顔を見せた。 晴れやかで、とても生き生きしている。
それこそが レッドの狙いでもあったのだが。
「やったな、サン!! へへっ、いい顔するじゃねーか!!」
レッドは 痛む左手で サンを抱えあげると、カスミの方に 空いている右手を差し出した。
「ああ、バッジだったわね・・・」
「ちがう、握手だよ。
すっげー楽しかったからさ、またバトルしようぜ!!」
「えっ?」
カスミはこの時 レッドが大きく見えた。
別に、見上げていたからではない 他人を 認めることが出来る、その心の大きさにだ。
「・・・・・そうね、あたしも楽しかったわ!!
また、機会があったら バトルしましょ!!」
カスミは レッドの手を借りて立ちあがると、固い握手を交わした。
<次に進む>
<目次に戻る>