<各話の1番最初に飛べます>
24、潮風の香る街 25、3つの夕焼け色 26、サントアンヌ・トレーナーズ 27、命がけ 28、デッキ
24、潮風の香る街
「へへっ、ここなら 見つかりっこないよね!!」
街一番の『かくれんぼ王』と呼ばれていた少女は、船に乗せるための積荷の中で、くすくす笑っていた。
その日、クチバシティの子供達は 『かくれんぼ』で遊んでいた。
本日の天気は晴天。 遊ぶなら もってこいの日和である。
「『パーティ』の準備は、進んでいるのか?」
港にある積荷の中で 隠れていた少女は、
いつも 自分を見つけては叱る 『ふなのり』達とは違う、女の声に耳をすました。
「へい、ご注文どーりの爆薬を、サントアンヌ号の中に、しかけておきやしたぜ!!
これで、このスイッチ1つで、中のトレーナー達は ドカーン!! ってわけです。」
少女が積荷のふたを そっと開けて外の様子をうかがってみると、
そこには 髪の長い、顔立ちの整った 背の高い女性と、もう夏も近いというのに 上下とも真っ黒な服を着た 男性の
奇妙な2人組が 怪しげな会話をしていた。
「くれぐれも、火薬の量を間違えるなよ。
トレーナーと一緒に ポケモンまで吹っ飛んだら 話にならない。」
「へい!! それは重々 承知してまさぁ!!
サントアンヌの『パーティ』に来るトレーナーのポケモンと、それに・・・・」
黒服の男は 足元にあった 金属製の檻(おり)をちらりと見やった。
その中で暴れているのは、目つきが 尋常ではないポケモン。
「この ロケット団の改造した ポケモン達は 絶対に傷つけないように しときやす!!」
「そうか、ではしくじるなよ。」
女性は、そう言うと 街の方に向かって 歩いていった。
「・・・・けっ、なーにが『しくじるなよ』だ!!
自分が 捕まる心配がないからって、お高くとまりやがって!!」
黒服の男は女性が 完全に立ち去るのを見ると、文句をつぶやいて、『ロケット団のポケモン』が入った檻を蹴飛ばした。
「キュピッ!!!」
少女の入った積荷の後ろから、身長は、0,4メートルくらいだろうか?
丸っこい体に 全身あみだくじのような 模様の入ったポケモンが飛び出してきた。
「・・・サンドだ。」
少女はつぶやいた。サンドというのは このポケモンの名前。
クチバ付近では 大量に生息しており、少女もよく見かけるポケモンだ。
サンドは、『ロケット団のポケモン』の入った檻に近づくと、必死で キュピキュピ鳴き声をあげた。
「何だ? こいつ、まさかサンドパンの ガキか?」
サンドは『サンドパン』と呼ばれているポケモンの檻を 揺らしたり、引っ掻いたりして中のサンドパンを出そうとしているようだった。
「ムダムダ、お前みたいな ちびっこいのが いくら頑張ったところで その檻は開かねえよ。
それにな・・・・・」
少女は様子を見ていて、背筋の凍る思いだった。
檻の中に入っていたサンドパンが、サンドに向けて『きりさく』攻撃を放ったのである。
「お前の知ってる『やさしいママ』は、もう ここには いねえんだよ!!」
黒服の男は 重傷のサンドを見て一笑した。
そして、さらに追い討ちとばかりに ボロボロの体に 自ら蹴りをいれる。
「・・・・サンドッ!!」
少女は居ても立ってもいられず、隠れていた積荷から 飛び出した。
そして、自分が その場に隠れつづけなかった事を 後悔する。
「ガキ・・・・まさか、今のを見ていたのか?」
「・・あ・・・・」
少女は、積荷の中から見ていた時より、さらに酷い(ひどい)風景を 見ているような気がした。
倒れたまま ぴくりとも動かないサンド、
自分と同族のポケモンを傷つけても まったく動じず、ひたすら檻の中で 暴れまわっているサンドパン。
―――――――それに、
「見てたってんなら、帰すわけには いかねえなぁ・・・・・」
凄みをきかせて 自分の方に近づいてくる黒服の男に、少女は 恐怖で首を横に振ることしかできなかった。
「やだっ!! はなして!!」
男が ものすごい力で 少女の手首を掴んで連れていこうとするので、 少女は 目一杯の悲鳴を上げた。
「いいから、こっちへ来るんだ!!」
突如、黒服の男の手首に ムチのようなものが打たれ、男は思わず 少女を掴んでいた手を離した。
「いてぇ・・・誰だ!!」
少女を救出した人間は、黒服の男の 質問に答えることなく、
「ピカ、『でんきショック』、めいっぱい やっていいぞ!!」
いつの間にやら、黒服の男の足元に 黄色の 小さなポケモンがくっ付いていた。
バリバリバリバリッ!!!
骨が見えそうなほどの 強烈な電撃を食らった男は 体中をプスプスいわせながら その場に倒れこんだ。
「・・・ったく、ま〜た ロケット団かよ。」
港に積んである コンテナの上から飛び降りてきたのは まだ10歳前後の少年だった。
赤い服をなびかせながら、傷ついたサンドの方に駆け寄っていく。
「まだ 息はあるな。
ハナ、ピカ、このポケモン、ポケモンセンターまで連れていくぞ!!」
少年が呼びかけると、ロケット団に電撃を浴びせたポケモンと、
積荷の陰から少女を助けた、背中に種を背負ったポケモンが、赤い服の少年の元へと駆け寄ってきた。
赤い服の少年は 少女の方を向くと、微笑みながらしゃべり出した。
「大丈夫だった?
あのさ、このポケモンケガしてて、治療しなきゃいけないから、
悪いんだけど、ポケモンセンターまで 案内してくれないかな?」
25、3つの夕焼け色
「そっか、ロケット団がサントアンヌに・・・・・」
緊張の糸が解けて、泣きじゃくっている少女から、レッドは港であった事を聞き出した。
少女は 相当怖かったのだろう、大粒の涙を流しながら レッドの腕に しがみついている。
「サンドの治療、終わりましたよ。」
集中治療室の扉が開き、中で治療をしていた 医師がレッドに話し掛けた。
レッドは話し掛けてきた医師に一礼すると、脇でまだ泣いている少女の頭を ポンポン、とやさしくたたいた。
怪我をしていても、意識はあったらしく、サンドは 病室のベッドの上にちょこんと座っていた。
「左腕の傷、跡が残るってさ。 オレもそうなんだ、偶然だな。」
レッドは 左手の包帯を サンドに見せた。
サンドは、そっぽを向いたまま レッドの方を見ようともしない。
「ロケット団のこと、嫌いか?」
その言葉に、トラウマでも出来てしまったのだろうか、
サンドも レッドの後ろでべそをかいていた女の子も びくっと体を震わせた。
「オレも嫌いだ。 だから ロケット団を見かけたら とりあえず倒すことにしてる。
なあ、お前も手伝ってくれないか?
サントアンヌ号に 爆弾が仕掛けられたらしいんだけど、
どうにかするのに、オレ達4人じゃ、ちょーっと、不安なんだ。」
サンドはレッドの方を見た。
レッドは躊躇することなく 栗色の瞳で サンドの方をまっすぐ見つめている。
「今すぐ決めろとは 言わないよ。
明日、また来るから その時までに 決めといてくれよな!!」
レッドはそう言い残すと、まだべそをかいている女の子の手を引いて、広い病室を後にした。
「名前は?」
ハナとピカを連れてポケモンセンターから出たレッドは 女の子に名前を尋ねた。
「・・・ひっく・うぃう・・・・えぶうぃ、ひっく・・・・」
女の子は 泣き声で言葉になっていないことに気付くと、だまって 夕焼けを指差した。
「・・・・・夕焼け?」
少女は 大きくうなずいた。
「そっか、それじゃ『ユウ』にしよっかな?」
突然、レッドが 訳のわからないことを言い出すので 少女は『?』といった顔で レッドを見上げていた。
「サンドのニックネーム、夕焼け色の街で、夕焼けの女の子に会って、
あいつとは 夕焼けと一緒に出会ったから、
だから、もし仲間になってくれるなら、『ユウ』って名前がいいかな、って!!」
「1人で 家まで帰れるよな?」
「うん!!」
すっかり泣き止んだ女の子は 笑顔で手を振りながら 家路についていった。
「おにいちゃん、『ユウ』と 仲良くね!!」
まだ 仲間になるとも決まっていなかったので、レッドは 黙って手を振ることしか出来なかった。
・・・・・が、
「・・・・・・サンド!?」
ポケモンセンターに泊めてもらおうと 来た道を引き返そうと 振り向いたところに、
あの、左腕に傷のある サンドが立っていたのだ。
「おまえ、今日はポケモンセンターで寝てなきゃ だめだって!!」
サンドは そんなことはお構いなしといった感じで レッドに向かって攻撃してきた。
『ひっかく』攻撃が、レッドの服の端を かすめていく。
「うわっ、あぶねっ!! 何すんだよ、このやろう!!」
なおも 攻撃姿勢をとっているサンドに 危険を感じたレッドは 思わず モンスターボールをほおり投げた。
「あ、あれ? やけに あっさり 捕まったな?」
普通、モンスターボールに入ったポケモンは 完全にふたが閉じるまで暴れまわるものだが、
サンドは 暴れることなく 一瞬でモンスターボールの中に 収まってしまった。
「もしかして、おまえ、最初から捕まるつもりで・・・・・?」
「・・・・・ったく、たいしたやつだよ、おまえは。
いいか? 今日から おまえの名前は『ユウ』だ!! 夕焼けの『ユウ』!!
オレは、マサラタウンのレッド、 世界一のポケモントレーナーになる男さ!!」
レッドは 捕獲したばかりのポケモンが入っているモンスターボールを拾い上げると、それに向かって話し掛けた。
「さあ、今日は ゆっくり休まないとな!!
明日は ロケット団と 正面から戦う事になるかもしれないし!!」
レッドは名前のごとく、夕日で顔を 真っ赤に染めながら、ハナ、ピカ、サン、ユウの 4匹のポケモンに向かって話し掛けた。
「大丈夫、たとえ どんな敵が来たとしても、
オレ達、無敵のチームだから 絶対負けないさ!!」
26、サントアンヌ・トレーナーズ
「この船に 爆弾が仕掛けられてる!?」
サントアンヌ号の中で 突然聞かされた事実に グリーンは 驚きの色を隠せなかった。
「ああ、間違いないと思うぜ。」
レッドは 驚愕しているグリーンを横目で見ながら、買ったばかりのグローブに手を通していた。
もう左手の傷は ふさがっていたが、傷跡を見た人に いちいち理由を聞かれるのが わずらわしかったからだ。
「どうして、他の人たちが乗船する前に その事を船員に 言わなかったんだ!?」
「そりゃ、最初は言おうとしたさ。
でも、さっき船員の顔を見たら、その中に ロケット団が混じってる事に 気が付いたんだ。
下手したら、船員全員 ロケット団かもしれないし・・・・・」
あせっているグリーンとは対照的に レッドは結構冷静だった。
「船が到着する前に行動を起こしたり、パーティに出席する人たち 全員を非難させようとしたら、
ロケット団の性格からいって、他の乗客、人質に取りかねないし・・・
つまり、パーティが始まる前に オレ達で 爆弾を全部取り除くっていうのが 1番いいと思うんだ。」
下手をしたら 自分が死にかねないような作戦を レッドはあっさり言ってのけた。
「グリーンは 爆弾を起爆させるリモコンを 探し出して、破壊してくれねーか?
多分、この船の近くにあるはずだから。」
「い、いいけど、それじゃ、レッドが『爆弾を取り除く役』、するっていうのか!?」
「大丈夫、絶対 成功させて見せるさ。 それじゃ、リモコンの方 頼むぜ!!」
レッドはモンスターボールから 4匹のポケモンを取り出すと、
帽子を深くかぶりなおし、パーティ会場に向かって 歩き出した。
「それじゃ、ハナ、ピカ、ユウ、よろしく頼むぜ!!
サンは、オレと一緒に行動だ、何か 変な音とかしないか よーく注意しろよ!!」
すでに10数人 人の集まっているパーティ会場に レッドは 自分のポケモン達を放った。
ポケモンと共同して 爆弾を探し出そうという作戦である。
しかし・・・・・・・・
「あーっ!! ピカはオレのポケモンです、迷子じゃないって!!
・・・ハナッ!? オレのハナを連れてくな!!
・・・・・・ユウ、何やってんだ!?」
珍しさで連れていかれそうになる ハナとサン、可愛らしさで注目を集めてしまうピカ、
おまけに 捕まえたばかりで まだなついていないユウが あちこちで悪戯をして『捜査』は 困難を極めていた。
「あ〜あ、ライトの配線、切っちまって・・・・
後で怒られんの、オレなんだぞ?」
レッドは ユウの悪戯で ぶっつりと2つに切れてしまった コードを見つめながら ため息をついていた。
パーティまで 後30分、時間がないというのに、まだ爆弾は1つも見つかっていない。
「せめて、グリーンがリモコン持っているやつを 見つけてくれればいいんだけど、
もし爆弾が、時限式とかだったら、オレ、アウトじゃん・・・」
命にかかわる問題なのにも関わらず、レッドの態度は まるでテストの点数を気にする子供のようだった。
「サン、ほんっとーに 何にも聞こえないのか?」
視覚で探せないほど 人が集まり始めて、結局は ポケモンの優れた聴覚を信じるくらいしか 方法が無くなってきていた。
後15分、ポケモン達もさすがに『やばい』と思っているらしく、表情に緊張が走る。
「キュイッ!!」
目を閉じて 精神を集中させていたサンが、急に何かを感じ取ったらしく、パーティ会場の真ん中に向かって 走り出した。
サンが 向かった先は・・・・・・
「うわっ、会場の ど真ん中じゃねーか、 なんで今まで気付かなかったんだよ・・・・・」
そう、パーティ会場の 中央に設置されていた 巨大な人型のオブジェ。
その中に 爆弾が 埋め込まれているらしいのだ。
「どうすっかな〜、あんな デカイもん、破壊したら すぐばれちまう・・・・・」
レッドは 奇怪とも言えるオブジェと にらめっこしながら 頭を悩ませていた。
『おや、イーブイですか? 珍しいですね。』
「・・・・・まただよ。」
サンや、ハナ目当ての ポケモンコレクター、
レッド達はポケモンを出して 会場の中を歩き回っているので どうしても 『そういった人達』の的になってしまう。
「交換なら、やらねーからな。」
レッドは つっけんどんに 返した。
『そう言わずに、なんなら 伝説のポケモンと 交換と言うのは・・・・・』
「しつこい!! 交換しねーって、何度も・・・・!!」
言葉が途中で途切れたので、サンは一瞬、レッドが自分の事を 手放してしまうのではないのかと 不安な表情を見せた。
しかし、どうやら違うようだ。
「ハナ!!『つるのムチ』で オブジェを壊すんだ!!」
レッドが表情を変えたのは、話し掛けて来た男に ロケット団の臭いを感じたこと。
それと、チラッと見えた 時計の数字が・・・・・・
「全員走れっ!! 後5分しかない!!」
レッドは 爆弾の入っていた オブジェの頭の部分を 急いで拾い上げると、
どよめいている 乗客達の間をくぐり抜け、全力疾走で走り出した。
27、命がけ
『まてっ、小僧!! 逃がさんぞ!!』
「うえ〜・・・・いったい何人いるんだよ・・・・・」
レッドは 後ろから10人、20人と迫ってくるロケット団達を 横目で見ながら ぶつくさ文句を言った。
レッドは『ロケット団ごときに 捕まるほど足は遅くない』という 自信はあったが、
さすがに、男の頭型をした爆弾を持って、いつまでも この黒服集団と 鬼ごっこをする気にはなれない。
「悪いな、こっちは人の命がかかってるんだ、 ピカ、『でんきショック』!!」
ピカは迷うことなく 廊下の向こうから追いかけてくるロケット団達に向かって、『でんきショック』を浴びせた。
「追い詰めたぞ、小僧!!」
ロケット団員の1人が 勝ち誇ったように一笑した。
レッド達は(達、というのはポケモンの事である)いつのまにか サントアンヌ号のデッキの先端まで 追い詰められていた。
「・・・追い詰めた? バカ言うなよ。
『たどり着いた』んだよ、・・・サントアンヌの甲板まで!!」
レッドは 甲板を埋め尽くすほどの ロケット団達に余裕にも見えるような 笑顔を見せた。
実際、このサントアンヌ号の甲板が『目的地』だったのだが、船から出来るだけ遠くに飛ばさないと、意味がない。
この1キロくらいある物体を 遠くまで飛ばそうとなれば、結構な力が必要だろう。
「ハナ、こいつを遠くまで飛ばしてくれ。 出来るだけ遠くに!!
他のやつらは ハナのサポートだ、何が何でも 成功させるぞ!!」
レッドは、男の頭、いや爆弾を ハナの『つる』が受け取ったのを確認すると、
ロケット団の方を睨み、ハナ抜きの 3匹で戦う構えを取った。
「急げよ、ハナ。 後30秒しかない。」
爆弾は、やはり時限式だったようだ。
レッドは 男の首からチラッと見えた『00:32』の数字を見て、自分のこめかみに 冷たさが走るのを感じた。
「さあ、1発勝負だ、いくぜ!!」
レッドは 右のこぶしでグーを作ると、ロケット団が驚くぐらいの大声で 自分のメンバーに活を入れた。
その後ろでは ハナが爆弾を遠くへ飛ばすべく、『つるのムチ』をぐるぐる回して 反動をつけている。
「かかれっ!!」
ロケット団員の1人が そう指示すると、20、30といる男達は 一斉に各自のモンスターボールを取り、レッドに襲い掛かった。
自分達だけなら、この数でもかわしながら 攻撃を与えるのは簡単だが、
今回は『ハナを守りながら』戦わなくてはならないので、そうもいかない。
「サン、伏せろ!! ピカ『でんきショック』!!」
レッドは出来るだけタイプの相性を考えながら 広範囲に向かって、攻撃を指示していく。
それも、ロケット団の指示よりも早く やらなければならないから、精神的にはへとへとだ。
「ユウ『きりさく』!!」
ハナも、守らなくてはいけないのだし。
「ハナ、今だ!!
出来るだけ遠くにほおり投げろ!!」
残り15秒、レッドの合図で、ハナは爆弾をサントアンヌ号から 目一杯遠くへ飛ばせるように ほおり投げた。
これで、作戦は 成功のはずだった。
―――――――が、
『スリープ、《ねんりき》』
「えっ!?」
突如、レッドの体が 宙に浮かんだかと思うと、そのまま爆弾の方に向かって 吹き飛ばされたのだ。
「ハナッ、みんな!!」
慌てたハナが 『つるのムチ』で レッドの腕を掴み引き戻そうとするが、『ねんりき』の 押し出す力の方が強く、到底 間に合いそうにない。
どういうわけか、宙に浮きっぱなしの爆弾の 首の部分から、『00:05』の数字が見える。
(・・・・・オレ、死んじゃうのか?
ハハ、走馬灯なんて 見てる時間はないな、せめて あいつらだけでも助かれば・・・・)
レッドは 一瞬、本当に自分が 死と隣り合わせの状況にいることを実感した。
「カメきち『みずでっぽう』!!」
自分の顔の横を ウォーターガンのような水がかすめ、レッドは我に返った。
船の方を見ると、ハナの『つる』の上を 青い亀を背負った、ピエロのようなポケモンが 猛スピードでこっちに迫ってくる。
レッドは 爆弾のタイマーを見た。 残り『00:02』秒。
「やめろ、ブルー!! おまえのポケモンまで巻き込まれる!!」
「『バリアー』よ、バリきち!!」
ピエロのようなポケモンは レッドと爆弾の間に割り込んだかと思うと、
肉球のようなものがついた手を ぱぱっと動かし、透明な 板のような物を作り出した。
次の瞬間、レッドは目の痛くなるような光と、鼓膜の破けそうな爆発音の中にいた。
「・・・・・生き・・・てる?」
目はチカチカするし、耳鳴りだってひどいものだが、レッドの腕には 確かにハナが伸ばした『つるのムチ』の感触があった。
レッドは 煙を吸い込んで 咳き込んだ。
―――――生きている 証拠だ。
28、デッキ
「さんきゅ、ブルー。」
『ねんりき』の効果が解けて、レッドは ようやくサントアンヌ号の甲板に戻ってくることが出来た。
あれだけ大勢いたロケット団も、全員倒され、甲板の上は 黒1色で埋め尽くされている。
その『黒』の中に溶け込むような、黒のワンピースを着てレッドの前にちょこんと立っていたのは、
マサラから 同じ日に 同じ目的で旅立った、女トレーナー、ブルーだった。
「まったく、私、あんなに ひやひやしたの、初めてよ!!
うちのバリきちと、レッドのハナちゃんがいなかったら、どうなってたことか!!」
ブルーは腰に手を当てて、まるで叱り飛ばすかのように レッドに食って掛かった。
「・・・・・ハナ?」
レッドの腕を しっかりと掴んでいた ハナの『つる』は、いつのまにか、一回り太くなっていた。
『つる』の先を見ると、ハナ自身も、一回り大きくなり、
背中の種は、なにかの花の つぼみのような植物へと 変化している。
「レッドを助けようとしてたときに『進化』したのよ。
もう、旅を始めてから ずいぶん経つし、ハナちゃん、がんばりやさんだものね!!」
ブルーが ハナに起きた変化について、説明してくれた。
この、体の大きな変化は『進化』といい、体力の向上や、他にも様々な理由で ポケモンが体の形を変化させたものらしい。
ポケモンの種類によっては、進化しなかったり、あるいは一生のうちに2回『進化』するものもいるという。
「・・・・・でね、私のカメきちも、この間『進化』したのよ。
だから、今は『ゼニガメのカメきち』じゃなくて、『カメールのカメきち』ってわけ!!」
ブルーのカメきちは、大きさは ゼニガメだった時の倍近く、
尻尾は以前よりさらに大きく、長くなり、 頭には、羽のような、きれいな耳が付いたポケモンへと『進化』していた。
「くっ、甘いな、ガキども・・・・・」
倒れていたロケット団の1人が レッド達を見上げ、苦々しく吐き捨てた。
「パーティ会場に・・・・・仕掛けていた爆弾は、あれ1つじゃねーんだよ。
万が一に備えて、会場に・・・リモコン式の強烈な・・爆弾を・・・・」
男は、そう言うと自分のポケットから ライター型をした、恐らく 爆弾の起爆装置だと思われる物を 取り出した。
「ざまあ・・・みやがれ!!」
ロケット団は、レッド達に 止める隙を与えないよう、さっさとライターの中に入っていた赤いボタンを押した。
「・・・・・・・・なにも、起きないわね?」
豪快な爆発音がするだろうと、耳をふさいでいたブルーは 意外な結果に目をぱちくりさせていた。
ロケット団員も、うんともすんとも 言わないライター相手に がちがちと 必死に格闘している。
「ば、ばかな!?
確かに、会場のライトに特大の 爆弾を仕掛けておいたはず・・・!!」
「・・・ライト?」
レッドは、なおもボタンを押しつづけるロケット団から ライターを取り上げ、複雑そうな表情を見せた。
「それって、もしかして会場の一番奥に設置されてた、スクリーンを映すような、でっかいやつか?
悪りぃ、 あれ、うちのユウが悪戯して コード切っちまったんだわ。」
レッドはたいして悪びれた様子もなく、あっさりと言った。
ロケット団員は、あまりの事態に声を出す事も出来なくなっていた。
天下のポケモンマフィア、ロケット団の 一大計画が わずか10歳前後の少年に 台無しにされたのである。
「どうやら、悪運も尽きたみたいね。 ほら、聞こえる? パトカーの音。
ここに来る前に 私が呼んでおいたのよ!!」
ブルーは、勝ち誇った表情で、 えっへん、と胸を張った。
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