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29、ピカの意地 30、オレンジバッジ
29、ピカの意地
ガサゴソ・・・ガサゴソ・・・
「あーっ、もうっ!! なんだって こんなとことに部屋のスイッチを隠したりするんだよ!!
ここのジムリーダーは!!」
サントアンヌの事件から数日後、1通りの捜査も終わり、
レッド達は 事件の時に出かけていた クチバシティジムのジムリーダーに挑戦しに来ていた。
そして、今 そのクチバシティジムの中にあるごみ箱を 必至であさっている。
「まったく・・・ジムリーダーがごみ箱の中に部屋のスイッチを隠したりしなければ、
こんな ごみだらけにならずに済むのにっ!!
・・・・・・って、ピカ、ユウ? 何やってんだ?」
部屋中に存在しているごみ箱の中に手を突っ込みながら、レッドはふと、外に出していたポケモン達に目をやった。
そうすると、部屋の片隅で ピカチュウのピカとサンドのユウが その辺に束ねられていたコードを噛み切っている。
「あーっ!! またやったな!? ピカ、ユウ、感電したらどうすんだよ!!
・・・・・・って、サン!?」
レッドは ごみ箱の中で動けなくなって暴れまわるサンを見て またしても仰天する。
どうやら、レッドの仕事を手伝おうとして、ごみ箱の中に入ったはいいが、抜けられなくなったらしいのだ。
「あ〜あ・・・、手伝ってくれるのは嬉しいんだけどさ・・・・よっこらしょっと!!」
ピッ ピピッ ・・・ピンポーン!!
サンを持ち上げた時、奇妙な電子音がして、レッドはごみ箱の中をのぞきこんだ。
よく見ると、サンがはまっていたごみ箱の底に 赤いボタンが取り付けられている。
「やっと開いた・・・ジムリーダーの部屋への扉・・・・
これ、ポケモン達に 感謝するべきなのかな?」
『本来はやってはいけないこと』で リーダーへの扉が開いたことで、レッドはちょっと複雑な気分になった。
「よく来たな、ジムバトルか?」
「・・・ああ。」
部屋の中にいたのは レッドよりもずっとガタイのいい外国人だった。
サングラスを外して レッドの事を見る瞳は、レッドが今までに見た事も無いような ビー玉のような青い色をしていた。
「・・・自己紹介が遅れたが、俺はクチバシティジムリーダー、マチス。
人呼んで、『イナズマアメリカン』だ!!」
「そりゃどうも。 オレはレッド、マサラタウンから来た。」
ここに来るまでに精神的に疲れていたレッドは あまり興味もなさそうにそっけなく答えた。
「バトルは 2VS2、どちらかのポケモンが 全部倒れるまで戦う、イイナ?」
「OK、分かった。」
両者は それぞれ1匹目のポケモンを構える。
「GO!! ビリリダマ!!」「ピカ、1番手はおまえだ!!」
開始早々、先手を取ったのはピカの方だった。
『でんこうせっか』で 小さいながらも ビリリダマの丸い体に傷をつける。
「・・・なんだありゃあ!? モンスターボールが 動いて戦ってる!?」
いつも使っている モンスターボールそっくりの物体に レッドは ポケモン図鑑を広げた。
「ビリリダマ、ボールポケモン・・・え、あれも ポケモンなのか!?」
「ビリリダマ、『たいあたり』だ!!」
マチスが叫ぶと ビリリダマはボールそっくりの自分の体を ピカの黄色い体めがけて 突進させてくる。
「げっ・・・あいつ 見た目より速い!?
スピード戦ってわけか・・・ 面白いじゃねーか、受けて立ってやる!!」
俊足を誇るピカと、磁石のように体を浮遊させて突っ込んでくるビリリダマ、戦いは当然ながら、スピード戦となっていた。
「よっしゃ、ピカ、あいつスピードは速いけど、体力は思ったより低いぞ!!
あと1発だ、『でんこう・・・・」
「『じばく』!!」
レッドとピカが『?』と思うよりも早く、ビリリダマは ピカのふところまで自慢のスピードで飛び込み、
小さな丸い体を 爆発させた。
「・・ピ・・・カ・・・・・ピカ!?」
リングサイドまで吹き飛ばされた ピカの小さな体にレッドが気付くまで 一瞬の間があった。
ピカは当たりどころが悪かったらしく、土の上でぐったりとしている。
「ピカ、ピカ!! おい、しっかりしろ!!」
レッドが何度も体をゆすり、必至で声をかけると、ピカはようやく うっすらと目をあけ、レッドの方を見つめる。
「ピカチュウ、戦闘不能、だな。
早いところ 病院にでも行ったほうがいいんじゃないか?」
マチスがニヤニヤした顔で レッドとピカを見下ろしている。
確かに、今のピカの状態は 今すぐにでもポケモンセンターに連れていった方がいいくらいなのだが、
ここでセンターに行くと、試合放棄となって、レッドはバトルに負けたことになってしまう。
・・・もっとも、それがマチスの狙いでもあったのかもしれないが。
それでも・・・・
「そうだな、早く、ポケモンセンターに連れてかないと・・・」
その言葉を聞くと、ピカは眉をしかめ(ピカチュウに眉は無いが)自分の肩を抱いているレッドの指に、思いっきり噛みついた。
「痛てッ・・・・・・ピカ?」
突然噛み付かれて、レッドは驚いた顔で ピカの方を見つめる。 ピカは 可愛らしいなりの顔で、レッドの瞳をキッと睨みつけていた。
その目を見ていると、レッドはピカに会った日を思い出した。
ピカに 自分の事をいくら話してもなついてもらえず、目一杯の電撃を受けた日だ。
(オレ、世界一のポケモントレーナーになるんだ!!
だから、そのバトル、ピカも出てくれよ、
オレは 名前だけのチームリーダーでいい、な、どうかな?)
「『負けたくない、戦いを止めるな』
・・・そう言いたいのか? ピカ・・・・・・」
ピカは『ピィーカッ!!』と、大きくうなずくと レッドの手を跳ねのけて、自力でその場に座り込んだ。
「おっけ(OK)、 そうだよな、世界一のトレーナーが こんな所で 負けるわけにはいかないよな!!
よっしゃ、任せとけ、ピカ!!
未来のポケモンマスターが いま、クチバジムリーダーを倒してやるからな!!」
レッドは重傷のピカをボールの中に戻すと、2匹目のポケモンを構えた。
30、オレンジバッジ
「ハッ、それだけボロボロになったポケモンを 放っといたまま戦うのか、トレーナー失格だな!!」
マチスはレッドの決断を一笑した。
「ほっとけよ、それこそ余計なお世話だ。
ピカが負けたくないって言ってんだ、オレはそれを聞いてるだけさ。」
マチスは フンッ、と鼻で笑うと、2匹目のポケモンを繰り出した。
「何だ? オレンジ色の・・・ピカチュウ?」
「ピカチュウの進化系、ライチュウさ!! さっきのおまえのピカチュウより、断然、電気の量が違うゼ!!」
2匹目の『ライチュウ』は、ピカチュウと同じようなつぶらな瞳、両ほほについた、黄色い電気袋。
1メートルくらいある体についた長い尻尾をくねらせ、弧を描くような耳を持っていた。
「ふ〜ん、それなら、こっちはこいつだ!!」
レッドは持っていたモンスターボールを 力いっぱい投げ飛ばす。 その中から出てきたポケモンに、マチスは またしても大笑いした。
「キュ・・・」
「気にすんな、ユウ。 オレ達が勝って、見返してやればいいだけじゃねーか!!」
そう、レッドが出したのは ライチュウの半分も無い大きさの サンドのユウ。
「ハハハハ・・・ずいぶんと リトル・・・可愛らしいポケモンを出してくれるじゃないか!!
それとも、おまえが小さいから 小さいものは小さいもの同士、ってことか?」
「ユウ、『きりさく』。」
マチスが笑っている間に、ユウは小さいながらも鋭いつめで ライチュウのほおに 一撃くらわせた。
「ほう・・・やってくれるじゃないか。 ライチュウ『でんきショック』!!」
ライチュウは あたりの景色がくらむくらいの閃光とともに 電撃を放つが、
ユウは直撃を受けても 平気な顔をしてライチュウに次の一撃を加える。
「『地面』が『電気』を吸収したんだよ。
ユウの・・・サンドの皮膚の表面は、地面と同じだからな。」
「クッ・・・・・・、ライチュウ、『のしかかり』!!」
「ユウ!!」
マチスの指示で、ライチュウは 巨大な体をユウに向けて倒してきた。
「終わったな、それじゃ、おちびさん、早いところ自分のポケモンをセンターに・・・・・・」
「・・・何が終わってるって?」
レッドの声で、ライチュウは ハッと気付いたように フィールドに寝かせていた自分の体を起こした。
そこには、ユウの姿はなく、代わりに50センチくらいの小さな穴が出来ている。
「What(なに)!?」
「今だ、ユウ『あなをほる』攻撃!!」
レッドの掛け声とともに 小さな穴から 穴と同じ大きさの茶色い物体が飛び出す。
そして、ライチュウの巨体を 自分で掘った穴の中に引きずり込んだ。
辺りの地面に自分の貯めこんでいた電気を吸い取られ、それを自分のエネルギー源としていたライチュウは くたっと失神した。
「もういいよ、ユウ、出してやれ。」
レッドが声をかけると、ユウは穴の中に埋まっていたライチュウの体を外に出すと、地面の中を通ってレッドの足元まで戻り、
そして、傷の付いている左手で、グッと ガッツポーズを作ってみせた。
「・・・油断したな、お前ら、小さい体でもすっげえパワーだぜ!!」
マチスは レッドのもとまで歩いてくると、大きな手で 太陽の形をしたバッジを差し出した。
「さんきゅ。」
レッドは それを受け取ると、回れ右してジムの外に走り出し、振り向きざまにマチスに叫ぶ。
「マチスも強かった!! でも、また戦るときでも、オレ、負けないぜ!!」
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