39、草対草




「ども。」
まるで植物園のような建物の中をレッドは見渡した。
人ごみにまぎれている植物達を見ていると、そこは とてもポケモンジムだとは考えにくい風貌(ふうぼう)をしている。

「すっげーな、このジム・・・ とても ここでバトルするとは思えねーよ。」
レッドの目の前にいた女の子が話し返してきた。 先日ここで会った ジムトレーナーの中の1人である。
「それが狙いでもあるのよ、これだけ きれいな植物達に囲まれてると、戦う気、なくなっちゃうでしょ?
 そうすればいつもこの環境になじんでいるエリカ様は 苦労することなく相手を倒せるってワケ!!」
「卑怯くさくねーか? それ・・・・・・」
レッドは 眉をひそめて尋ねてみた。
「あら、そのくらい克服できないようじゃ、エリカ様には 到底勝てないわよ!!
 言っとくけど、あたし達、まぐれでロケット団を倒したって、あんたのこと、まだ認めたわけじゃないからね!!
 ホラ、そろそろあんたの番よ!! さっさと行ってやられちゃいなさいよ!!」



そう言うと、女の子はレッドの背中を乱暴に押し出した。
「あらあら、ずいぶんと仲良くなれたようですわね、良かったですわ。」
相変わらずのマイペースぶりを見せつけるエリカに レッドは返す言葉が見つからない。
「・・・いいよ、もう。 さっさとバトル、始めようぜ!!」



『試合開始!!』
場内にアナウンスが響き渡った。
『本日の12番目の挑戦者、マサラタウンのレッド選手、いかなる健闘ぶりを見せてくれるのでしょうか?
 勝負は 1対1。 1匹のポケモンへの愛情が試される試合です!!
 さあ、いまそれぞれ ポケモンをモンスターボールから解き放ちました、
 タマムシシティの1輪の花、自然を愛するお嬢様ことエリカ様は・・・おおっと、ラフレシア!!
 対してレッド選手は・・・フシギソウだァ!!』

レッドはやや自軍にかたよりがちな実況を 何とか無視しようと気分を落ちつけながら 帽子を深くかぶりなおす。
「・・・っしゃあ!! 行けッ、ハナ『やどりぎのたね』!!」
ハナは4本の足をしっかりと踏みしめると 背中のつぼみから 黄緑色をした種を 勢いよくラフレシアに向けて飛ばした。

『さあ、レッド選手のフシギソウ、いきなりの先制攻撃!!
 『やどりぎのたね』が放たれましたが・・・・・・おおっ、さすがはエリカ様のラフレシア!! 華麗にかわすぅ!!」

「ラフレシア、『どくのこな』です!!」
エリカが扇子をかざすと、ラフレシアは 頭についた1メートル以上もある巨大な花から 毒々しい色の粉を ハナに向かって振りまいた。
「ハナ、無視して『たいあたり』!!」
レッドは大声で叫んだ。 その気持ちに応えるかのように ハナは怪しげな色の粉をかいくぐって 自分の体をラフレシアにぶつけた。

『ああっ!! ラフレシア、1発 当たってしまったァ!!
 しかし、ダメージはたいしたことないようだ、再び攻撃態勢にはいった!!・・・・・・おや?』

「・・・ふえっくし!! ぶぇっしょん!! ぶえッしゅ!!
 ・・・な、なんだよ、この粉・・・!?」
レッドは 突然激しいくしゃみに襲われ、慌てて鼻をつまんだ。
原因をラフレシアと睨み、ステージ上で戦いの構えを取っているラフレシアに ポケモン図鑑を向ける。

『ラフレシア フラワーポケモン
 あたまについている せかいいち おおきなはなから アレルギーをひきおこす かふんを まきちらす。』

「・・・・・・マジかよ・・・ふぇっくし!!」
レッドは 人差し指で鼻をこすった。 手の甲でカユカユになっているまぶたをこする。

「ラフレシア、『はなびらのまい』!!」
いつもここにいるせいか、花粉症にもならず 平気な顔でエリカはラフレシアに指示を飛ばす。
ラフレシアは 頭に付いた大きな花を中心にぐるぐると回転して 毒々しい赤色をした花びらを ハナに向けて打ち放った。

『でたーーッ!! エリカ様のラフレシアの大技『はなびらのまい』炸裂(さくれつ)!!!
 フシギソウ、これは よけられなーい!!』

「ハナッ!! 戦えるか!?」
レッドは『はなびらのまい』を もろに受けて 足元をふらつかせているハナに声をかけた。
ハナはレッドの声に答えるかのように 頭を振って意識をはっきりさせると レッドが指示を出す前に ラフレシアに向かって走り出した。
「ラフレシア!! 『ねむりごな』です!!」
予想外にハナが早く立ち向かってきたので エリカは慌てた様子でラフレシアに叫んだ。
しかし、『はなびらのまい』の自分の回転で目を回したのか、ラフレシアはハナの位置を見定められず、千鳥足(ちどりあし)でふらついている。


「『いあいぎり』だ!!!」
バランスを崩したラフレシアに 自分のツルで目一杯の1撃を与えると、ハナは落ち着いた目つきでラフレシアの方を見据えた。
視線の先には 攻撃を受けて吹っ飛ばされ、倒れたまま 戦う事も出来ず動けなくなっているラフレシア。
ジムの中は一瞬、しん、という効果音が付けられそうなくらい 静まりかえった。

『フ、フシギソウの『いあいぎり』!! なんと、ラフレシアが戦闘不能になってしまった!!
 ジムリーダー戦、なんとレッド選手、突破!!』

驚愕(きょうがく)した 実況アナウンスの声が 会場中に響き渡ると、ジムの中は どよめきにつつまれた。
「おつかれ、ハナ!! もどってこい。」
「ぐうぅ!!」
レッドが呼ぶと ハナは嬉しそうにレッドの足元まで駆け寄り、気持ちよさそうに喉(のど)を鳴らしながら頭を撫でてもらった。



「さすが、ポケモンマスターを目指すだけあって、お強いですわね。
 いいでしょう、このレインボーバッジ、お受け取りください。」
エリカはラフレシアをモンスターボールに戻すと 笑顔で近寄って レッドに色とりどりの花びらのついた
花のような形をしたバッジを 包み込むように手渡した。
そして、ハナの方を優しい表情で見つめると、
「まさか、植物ポケモンの使い手のこの私が 同じ草ポケモンに負けるとは 思いもしませんでしたわ。
 私も、まだまだ修行不足ですわね!! もっとがんばらないといけませんわ!!
 レッドさん、この先、色々と大変な事もおありでしょうが、・・・・・・がんばってくださいね!!」
エリカは ハナの背中のつぼみに触れながら話すと、両手でレッドの手を包み込んだ。

「ど、ども・・・」
レッドは先程から ジムトレーナー達の睨むような いや〜な視線を感じる。

「それじゃ、オレ、先急ぐんで、さいならッ!!」
・・・触らぬ神に祟りなし。 レッドはジムの女の子達の攻撃を受ける前に その場から逃げるように立ち去った。
4つのジムバッジを持つ 腕利きのトレーナーも、常に連結して動く 強力な女の子達の前には 形無しだ。


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