<各話の1番最初に飛べます>
40、サファリゾーンのタマゴポケモン 41、狂った進化 42、哀しいポケモン



40、サファリゾーンのタマゴポケモン




「っひゃぁ〜!! 速えぇ――!!」
タマムシから南に位置するキキョウシティへの通り道『サイクリングロード』で レッドは歓喜の声を上げていた。
急な坂道が続く この自転車専用通路は わざわざ苦労してペダルをこぐまでもなく 大変なスピードが出る。
レッドは 真っ赤なボディの自転車の上で そのスピード感に酔いしれていた。

「らき?」
「えっ、ちょっ・・・わっ、おわああぁぁ!?」
突如、草むらの影からポケモンが飛び出し、レッドは慌ててハンドルを切った。
坂道でスピードがついていたせいでレッドを乗せた自転車は 一気にバランスを崩し 転倒する。



「いってぇ、・・・・・・何だ? 一体・・・」
自転車から放り出され、仰向けになったまま 衝撃でパチパチする目を ゆっくり開くと、
ピンク色をしたタマゴのような体を持ったポケモンが 心配そうにレッドの事を見下ろしている。
「・・・らっき?」
ピンク色のポケモンは 3つに分かれている耳を不安そうに顔にくっ付けながら びくびくと痛むレッドの頭に前足を差し出した。
「あ、さんきゅ・・・」
レッドが差し出された手(?)に つかまろうとした瞬間、
先程、このポケモンが飛び出してきた草むらが がさがさと音を立て、タマゴ型の ポケモンはビクッと体を震わせた。

「見つけたぞ、ラッキー!!
 勝手にサファリゾーンを逃げ出したりして・・・・・・ん?」
草むらから 動物園の飼育係のような格好をした男が 顔をのぞかせる。
男は、ラッキーと呼んだポケモンを睨みつけると、次に仰向け(あおむけ)に寝転がっているレッドの事に気付き、顔を青くした。
「あの・・・もしかして園のポケモンが何か・・・・・・」
男はちょっとおどかしたらすぐにでも卒倒(そっとう)しそうな顔をして レッドに声を掛ける。
「いや、草むらからこいつが飛び出してきたんで、避けようとしたら ガッシャーンって・・・」
レッドは自分のひじを見つめながら 足の反動を使って起きあがった。
自転車から放り出された衝撃で 腕が少々擦り剥け(すりむけ)、ヒリヒリした痛みを残している。

飼育係(?)は ますます顔を青ざめさせた。(レッドは男が卒倒しないかどうか、そっちの方が不安だ)
「申し訳ございません!! ぜひとも、お詫びさせてください!!」
「いや、いいって・・・・・・ 別にこれくらい、たいしたケガじゃねーし。」
レッドが断ろうとすると、飼育員風の男は 今にも泣き出しそうな顔で レッドにすがり付いてきた。
「本当、お詫びさせてください!!
 これで 何もしないで帰ってきたなんて園長に知れたら、僕、クビになっちゃうんっすよぉ〜!!
 自転車の事もありますし・・・・・・」


「・・・自転車?」
レッドは 男に言われて初めて 今まで自分が乗っていた自転車の事を思い出した。
横目で自転車のある方向を見やると、そこには 哀れ(あわれ)、登場から1回と持たずに大崩壊している
赤い塗装のついた鉄のかたまりが転がっている。

「ありゃま。」
もともと、ただでもらった物だったので あまりダメージを受けることはなかったが、レッドは思わず声に出してしまっていた。
もし、自分が あの鉄のかたまりと同じくらいの衝撃を受けていたかと思うと、ぞっとする。
「本当、ぜひ来て下さいよぉ〜・・・ お願いします。」
飼育員風の男は 半泣きになっていた。 そこまで泣きつかれて 『やだ』と言えるほど レッドも冷酷ではない。
「・・・わかったよ。 行けばいいんだろ?」



その後、自分自身でも訳のわからないまま レッドは『お詫び』のしるしに サファリゾーンを1回無料でやらせてもらえる事になっていた。
灰色のコンクリートで出来たゲートをくぐり抜けると レッドの目の前にはジャングルさながらの風景が広がっている。

『ようこそ、サファリゾーンへ!!
 ここでは 珍しいポケモン達が 野生そのままの姿で暮らしています。
 パーク専用ボール『サファリボール』で たぁーっくさん!! 珍しいポケモンをゲットしてくださいね!!』

アナウンスの黄色い声が飛び交うと、カゴに詰まったボールを渡され、代わりに自分の手持ちのポケモンを 一時的に預ける。
レッドは更に奥へとうながされ、緑色の網を抜けると、街の中にあるとは思えないほど、目の前に広い草原が広がっていた。

『それでは、サファリゾーンを楽しんでくださいね!!
 制限時間は1時間 スタート!!』

『スタート』の言葉と同時に レッドは撃ち出された弾丸のように 広い草原へと走り出した。
成り行きで始まったとはいえ、子供なのだからこういったゲームは好きだ。
「よっしゃ!! やるからには 目一杯捕まえるぞ!!」



「らき?」
がさがさと やたらと大きな足音を立てて(これでは野生のポケモンは逃げ出してしまうだろう)草っ原を走りまわるレッドを
ピンク色のタマゴ型のポケモンがつけていた。
タマゴ型のポケモンは お腹についたポケットのような袋に入ったタマゴを ぴょんっと跳ねて直すと、
レッドが向かう方向へと ちょこちょこと小走りについていった。


41、狂った進化




「うぇ〜・・・全然 見つからねーじゃねーかよ・・・」
レッドは1本だけぽつんと突っ立っている 大きな木の下で これまた大きなため息をついた。
すでに開始から制限時間の半分、30分が経過している。 その間にレッドはポケモンを1匹も捕まえられずにいた。
まあ、野生のポケモンの前で やたらめったらと大きな音を立てているのだから、逃げてしまうのは当然と言えば当然なのだが・・・



「あ〜あッ!! 1匹も捕まらね―じゃねーか!!」
レッドはしびれを切らして 巨木の下でごろんと横になった。
一気に動きまわって疲れたのか、黄金色の日差しを感じながら ゆっくりとまぶたを閉じる。

「・・・っとに、こんなに何もない原っぱばっかで、ホントにポケモンがいるのかね〜?」
「らっきー?」
「そーそー、よっぽどラッキーな奴じゃなきゃ、珍しいポケモンなんて・・・・・・って、あれ?」

レッドは頭上から響いた 奇妙な鳴き声を疑問に思い、1度閉じたまぶたを再び開く。
「らき?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
 ・・・おまえ、さっきの・・・」
葉と葉の間からこぼれた光の糸の間に 穏やかな表情をしたポケモンが レッドの事を不思議そうに見下ろしている。
レッドがここに来る原因にもなった タマゴ型のポケモンだ。

『ラッキー たまごポケモン
 1にちに いくつか たまごを うむ。 その たまごは えいようまんてんで ものすごく おいしい らしい。』

レッドは起きあがってポケモン図鑑を開いた。
ラッキーは逃げる様子もなく、不思議そうな顔をして レッドが取り出したポケモン図鑑をつついている。

「ラッキー、か。 ・・・・・・よっしゃ!!」
レッドは サファリボールを掴むと 足の反動を使い、立ちあがった。
ラッキーはそれを見ると、ちょこちょこと跳ねるように歩いて 距離を取り、レッドの事を見つめた。
「らっっきぃー♪」
「・・・らっきぃ?」
ラッキーは 少し離れたところで 小さな手を ぶんぶんと振りまわしている。
「・・・・・・ついて来いってことか?」
レッドは ラッキーの後について走った。



「うわぁ〜っ!!」
ラッキーの後をついていったレッドが見たものは 1面、深い蒼(あお)い色の 占(し)める 大きな湖だった。
近づいて 底まで透けそうな 蒼い水面を見つめていると、水の中に 大蛇のような影が走る。
「らっき?」
「すげー、ラッキー!!
 サファリゾーンの中に こんな湖があったんだ・・・・・・
 ラッキーが 教えてくれなかったら このまんま 帰るとこだった、ありがとな、ラッキー!!」

いつのまにか ラッキーが レッドのそばにつき、レッド達はしばらく、その蒼い世界に 見とれていた。
水の中を優雅に泳いでいた影が キラキラと水飛沫(みずしぶき)を上げて 宙を舞う。

『ミニリュウ ドラゴンポケモン
 こどもでも しんちょうは 2メートルいじょう。 だっぴを くりかえして おおきくなる。』

レッドのポケモン図鑑が 大蛇の正体を 画面に表示した。
トレーナーの性なのか、レッドはいつのまにか サファリボールを 右手に掴んでいる。
「・・・・・・やめとくか。」
「らき?」
レッドは ボールを カゴの中に戻した。
「オーキド博士が知ったら・・・・・・怒っちまうかな?
 景色を壊したくないから ポケモンを捕まえなかったなんて・・・・・・」



「・・・!?」
突然、湖の様子が一変した。
水の中を楽しむかのように ゆったりと泳いでいた ミニリュウが 突然苦しみだしたのだ。

「オ、オイ・・・どうした、ミニリュウ!? ・・・・・・・・・うわっ!!」
ミニリュウは レッドが今まで見た事のない技を 顔の横ぎりぎりに向かって放つと、大きな体をくねらせた。
体は光に包まれ、そのままでも大きな体は さらに大きく、4メートル以上まで巨大化していく。
レッドは 反射的に ポケモン図鑑を 巨大なポケモンにかざした。

『ハクリュー ドラゴンポケモン
 うみや みずうみなどに すむという。 はねをもたないが たまに そらを とぶ すがたが もくげきされる。』


「うそだろ!? オイ!!
 何の原因もなしに 野生のポケモンが進化するなんて・・・・・・!?」
苦しみながら暴れまわる ハクリューの攻撃を避けながら レッドは叫んだ。


「そうねぇ、『何の原因もなしに』ってのは、まず有り得ないわね。」
いつのまにか 対岸に 人の影が見えていた。 何度も見た事のある その顔。
「おまえ・・・・・・ツバキ!?」


ツバキは ラズベリーピンクの唇(くちびる)の角(かど)を 少し吊り上げ、にっと笑った。
「ロケット団・エボリューションプロジェクト。
 見てしまったからには、あなたにも 手伝ってもらおうかしら? ・・・・・・レッド!!」


42、哀しいポケモン




ハクリューは 苦痛に耐えるかのように暴れまわっていた。
長い尻尾をばたつかせ、幾度(いくど)となく とんでもない威力の光線を 無差別に撃ち出している。
サファリゾーンに入る前に ポケモンをすべて預けてしまったため、なす術(すべ)もなく レッドは攻撃を避けまわった。



「ハクリュー!! 『たたきつける』!!」
「キュウゥッ!!」
ハクリューは ツバキの言葉すら 耳に入っていないようだ。 勢いで『でんじは』を ツバキに向けて放つ。
「何をやっている!! 『たたきつける』だと言っただろう!!」
ツバキは狂ったように ハクリューに向かって叫んだ。

数分前まで 確かにそこに存在した美しい風景は 一瞬にして 地獄絵図に近いものになっていた。
怪光線で 広い草原は焼き切られ、暴れまわった影響で 水は濁り(にごり)始めている。
「・・・・・・まずい、あいつ、ほとんど自分を見失ってる・・・
 何とかしないと、このままじゃ、サファリゾーン全体が・・・・・・!!」
レッドは 独り言のようにつぶやいた。


「フンッ、なるほど、実験は失敗というわけか。
 違う種類の 新薬を 試す必要があるな・・・・・・」
ツバキはそう言い残すと きびすを返して その場から去っていった。
残されたハクリューは 自分で何をしているのかも分からないくらい ひたすら暴れまわっている。


「あ、あいつぅ〜!!! 逃げやがったな!!?」
レッドは 去っていくツバキの後ろ姿に 目一杯の 怒りをぶつけた。
しかし、そんなのが届くはずもなく、加えて・・・・・・
「・・・うわっと!? あぶね、またあの光線かよ・・・!!」
ハクリューの攻撃は まだ続いているのだ。



「・・・ちっくしょぉ〜、ポケモンさえ使えれば、こんな奴・・・」
そんな事言ったって、預けてしまったのだから レッドのポケモンがここに来るはずもない。
いると言えば・・・・・

「らき!?」
「・・・あっ!!」
レッドは 一緒になって逃げ回っている ラッキーに目を向けた。
「そーだ、ラッキー!! なあ、あいつを止めるの、手伝ってくれよ!!
 このまんまじゃ、ホント ゾーン全体が あのハクリューに ぶっ壊されちまうしさ・・・・・・頼むッ!!」
逃げる事もままらなくなり、ひたすらおろおろしているラッキーに向かって、レッドは深々と 頭を下げた。
ラッキーは いまいち状況が理解できていないようで レッドの方を見つめて おろおろを続けている。


「・・・頼むッ!!」
レッドは もう1度頭を下げた。
ラッキーは レッドの顔を覗きこむと なにかを決心したような表情で サファリボールの詰まったカゴの中に飛びこんだ。

ボールの中に納まったラッキーを見つめると、レッドは1度、大きく深呼吸して 暴れまわっているハクリューに向き直った。
「ありがとな、ラッキー。
 ・・・絶対、お前の故郷、オレが守るからな!!」
レッドは ボールの中のラッキーに向かって ポケモン図鑑を開く。
ハクリューの攻撃を避けながら 内容に1通り目を通すと かばんの中から 箱のような物を取り出した。
「・・・っし!! 『これ』を使えば、きっと勝てるはずだ。
 ・・・・・・頼むぞ。」
箱状の物体の中に ラッキーの入ったボールを入れると レッドは箱についた赤いボタンを押した。
ピピッっという 機械音と共に 四角い箱はまっぷたつに裂ける。
それを確認すると レッドは ボールを 地面に放り投げ、開いた。

「・・・行くぞッ!!」
巨大な体をうねらせ こちらに向かってくるハクリューを睨み、レッドは ラッキーに叫んだ。
ハクリューが 水晶のような球のついた尻尾を 叩きつけると ラッキーはそれを避けようともせず 自分の体全体を使って受けとめる。
「今だッ!! ラッキー、『カウンター』!!」
レッドが叫ぶと タマゴ型の体全体で ダメージを受けとめた反動を使い、ラッキーはハクリューに向かい 突っ込んでいった。
自分で与えた 倍近くのダメージを受け、ハクリューは 焼けた地面の上に倒れこむ。



「よくやった、ラッキー。」
レッドは 倒れたハクリューに近づくと カゴからサファリボールを取りだし、大きな体を収めた。
その場に座り込み、ボール越しに傷ついたポケモンを見ていると、自分でも気付かないうちに ほおを 何か 熱いものが 伝っている。
「・・・・・・こいつが、悪いわけじゃねーのにな・・・」

その様子を見ていたラッキーは レッドの袖を引っ張った。
「・・・ラッキー?」
ラッキーは お腹についているポケットのような袋から タマゴを1つ取り出すと レッドが持っているボールに そっと近づける。
タマゴは ぽんっ と 軽い音を立てて弾けると、光の粒となって ボールの中に吸い込まれていった。
すると、微動だにしなかったボールが 微か(かすか)だが レッドの手の中で揺れている。
「ラッキー、これ、お前の技か?」
ラッキーは 軽くうなずいた。 レッドが 何の技か調べようと ポケモン図鑑を開こうとした時、
不意に レッドの腕を掴んでいた感触が強くなり、次に トサッ と 草むらに 何かが倒れるような音が響いた。
レッドが振り向くと 体力を使い果たし、本能的に ボールの中に戻り 休んでいるラッキーの姿がある。


・・・『タマゴうみ』は 自分の体力を削って 他のポケモンを 回復させる事の出来る技。


「・・・・・・バカだろ、おまえ・・・ でも、ありがとな。」
レッドは 地面に転がっているボールを拾い上げ、ささやく。


『番号、71番のレッド様。 時間切れです、至急、正面入り口までお戻りください。』
アナウンスの 女性の声が 園内に響いた。


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