<各話の1番最初に飛べます>
46、抜けられないゲート 47、ミュウ 48、研究室 49、それぞれの行動 50、1人で奥へ 51、11階の戦い 52、別れ、そして…



46、抜けられないゲート




「一体どうしてですか!?
 ここは、ただの通用門のはず、出入りを封鎖されることは 条約に違反しています!!」
ヤマブキシティの西側で 女の子の甲高い声が響いた。
茶色い髪が 無造作にゆれ、銀色の瞳は 半ば、怒りに燃えている。
「通行禁止は通行禁止なんだ。 子供は早く帰った帰った!!」
警備員は少女の話を聞こうともせず、つまみ出すように追い出した。


「・・・お、オイオイオイ・・・一体どうしたんだよ、ブルー?」
ヤマブキシティ、西側通用門の前で 閉まっている扉に向かって 謎の外国語を叫びつづけているブルーを見つけるまで、10分と経たなかった。
ブルーはレッドの姿を見つけると、まだ怒りがおさまらない、といった様子で 歩み寄ってくる。
「もうっ!! 頭きちゃうっていうのよね、こういうの!!
 ゲートの警備員、『ただいま中で緊急事態が発生した為(ため)立ち入り禁止です』の1点張りなんだもの!!」
「まあまあ、落ちつけって。」
「私、レッドのママじゃないわよ!?」
「・・・は?」

怒り狂っているブルーを何とか落ちつかせると、レッドは一息ついた。
「・・・つまり、ゲートが閉まってて、ヤマブキシティの中へ入れないってことか?」
「ええ。」
レッドはとりあえず、その場に座り込んで考えた。
どういう教育を受けてきたのかは知らないが、ブルーは時々、ものすごく規則にうるさくて 融通(ゆうずう)がきかない。
納得いかないことには 全力で反対する、という、レッドからしてみれば すごく疲れそうな性格をしていた。
「・・・とにかくさ、中で何か起こってんのは ほぼ間違いないんだから、
 強行突破でも なんでもやっちまおうぜ?」
「だめよ、それじゃ。 他の警備員が駆けつけて あっという間に追い出されるのは分かりきってるじゃない!!
 下手をすれば、捕まってしまうかも・・・・・・」
「・・・オイ、どうしたんだよ? 2人揃って(そろって)。」
口論を続けているところに グリーンが登場する。
それを見ると、レッドは 1つの作戦を思いついた。


「なあ、警備員のおっさん!!」
「お、おっさんだと!?」
レッドはゲートの中へと入ると なるべく子供らしく、可愛らしく見えるように 猫なで声を使って話しかけた。
「ここ、通してくれねーかな? 子供3人!!」
「だ、だめだ だめだ!! 何者も通さないよう、上司からいわれているんだ!!」
レッドは予想通りの展開を目で確認すると、ふ〜ん、と鼻で息を鳴らした。
「それじゃ、通れるようになるまで、ここで待たしてもらおーかな?」
「・・・言っておくが、いつになるかは分からんぞ?
 1ヶ月後か、1年後か・・・それまで、お前が待つつもりなら、話は別だがな。」
レッドは「じゃー、待ってる。」とだけ言うと、そこら辺にあったイスに どっかり腰掛けた。

「・・・暑いな。」
しばらくすると、警備員はレッドに話しかけてきた。
「夏ですからねぇ。」
「しかし、今日の暑さは普通ではないだろう? まるで、炎に焼かれているようだ・・・
 あぁ、のどが乾いてきた・・・・・・」
レッドはそれを聞くと ニヤリと笑った。
おもむろに背負っているリュックを降ろすと 中から缶ジュースをひとつ、取り出す。
「あ・・・それは、おいしそうな飲み物・・・」
「・・・3人、ここを通してくれたら、あげないでもないんだけどなぁ?」
警備員は頭を滅茶苦茶に振って 自分の中の考えを消そうと必死になっている。
「だ、だめだ!! 私はまじめな警備員!! 何があろうと、ここを通すわけには行かない!!」
レッドは 影に隠れていたブルーと 何か、合図を交わす。


「・・・結局、最後は殴り倒すのかよ・・・
 せっかく、リザードで協力してやったっていうのに・・・」
ヤマブキシティの街中を走りながら グリーンはつぶやいた。
「いやあ、でも、あの熱さで あの警備員の思考回路が鈍って(にぶって)たわけだからさ、助かったよ、グリーン!!」
「気持ち悪いな、単細胞が礼言うなんて・・・・・・」
グリーンは そっぽを向いて べー、と 吐くようなまねをして見せる。
レッドはちょっとだけ カチンときたが、あえて今回『だけ』は 突っかからないように 自分を抑えた(おさえた)。

「・・・ねえ、あれ、もしかして ロケ・・・」
「何者だ!! お前等は!!」
ブルーが黒ずくめの集団を見つけ、それを知らせようとするまえに レッド達はロケット団に見つかっていた。
反射的に 3人は 猛スピードで街中を逃げ回る。



「こっち!!」
グリーンとブルーは 塀(へい)の影から飛び出してきた小さな子供に腕を引かれ、建物の中へと引き込まれた。
ただ1人、逃げ遅れたレッドだけが ロケット団に殴り倒され、引きずられて どこかへ連れ去られて行くのが確認できる。
「・・・・・・あの、単細胞・・・」
グリーンはつぶやいた。
どうしていつも ああも どんくさいんだ、と いくつも レッドに対する責め苦が 頭の中を駆け巡る。
ブルーは モンスターボールを取りだし、すぐにでも レッドを取り返そうと 建物の外へと飛び出そうとした。
その腕を何者かが掴み、引き止める。

「・・・どうするつもりだ? たかだか子供1人に 何ができる?」
ブルーとグリーンが振り向くと 地面まで届きそうな長い黒髪をたらした女性が 自分たちのことを 見下ろしていた。
「紹介します!! こちら、ヤマブキシティジムリーダーのナツメ姉!!
 そいで、あたしは ヤマブキのマスコット♪ 人呼んで、『ものまねむすめ』!!」
建物の中へとグリーン達を連れてきた子供が 軽い口調で自分たちのことを紹介した。

「・・・・・・そういうことだ。
 一体、この街に 何をしに来た? ただの、子供3人が・・・・・・」
風もないのに 扉がひとりでに閉まった。 ナツメと呼ばれる女が指を鳴らすと 鍵の閉まる音も鳴った。


47、ミュウ




「起きろ。」
何もない部屋の中、レッドは前髪を掴まれ(つかまれ)、無理矢理に 眠りから叩き(たたき)起こされた。
ぼんやりと瞳を開く。 誰だかはわからないけど、女の顔が見える。
痛みとともに だんだん 意識がはっきりしてきた。
レッドは グリーンやブルーと一緒に ヤマブキに忍び込んだまではよかったが、ロケット団に見つかって捕まってしまったのだ。

「いってぇなあ、オレ、ケガ人なんだぞ? ちょっとは いたわれよ。」
柔らかく指を動かすと、額(ひたい)の痛みを和らげるため、足に少しだけ力を入れた。
体の隅々まで 神経が行き届いたのを確認すると、掴まれている自分の髪の根元側を レッドは自分で掴む。
「それは、お前が 我々の質問に答えてからの話だな。」
痛めつけられないのが分かると、女はレッドの髪を レッドごと床に叩きつけた。
レッドは ようやく、相手の顔が確認できる。
・・・・・・幹部のツバキだ。


レッドは両手両足とも 縛られ(しばられ)てなどいなかった。
ポケモンも 6匹全員、モンスターボールに入ったまま、レッドの腰についているのが確認できる。
「一体、何のつもりなんだよ? オレに、一体何のようだ?」
答えが返ってくることは 期待しないで質問してみる。
ツバキは 薄く笑みを浮かべると、1つしかない扉の ノブを壊し、口を開いた。
「貴様は ボスのお気に入りだからな。 特別に 無事にすましといてやってんのさ。
 その代わり、こっちの質問に答えることね。」
「質問?」
レッドは眉をひそめる。



「答えろ、『ミュウ』に 一体いつ、どこで会った?」
「・・・『ミュウ』? 何のことだよ、それ?
 オレ、そんなモン、見たことも聞いたこともねぇぞ?」
レッドは頭の上に『?』を 3つくらい作って 聞き返した。
ツバキは 部屋の隅に置いてあったレッドのリュックから 1冊のノートを取り出すと、その3ページ目を開く。
そこには、レッドがトキワシティで見た グリーン達にさんざん笑われた 未発見のポケモンが描いてあった。

「・・・このポケモンだ。
 描いてあるということは、貴様はこのポケモンに どこかで出会ったのだろう?」
自分が会ったポケモン達を たった7色の色鉛筆で30秒で描き上げる 手製の『ポケモン図鑑』。
薄い ピンクとも紫色とも言える 体色をしたポケモンは その白い紙の上で ふわふわと浮いていた。
「知らねぇなあ、オレ、そんなポケモン、見たこともねぇぞ?
 オレが気付かないうちに 誰か、別の奴が書いたんじゃねーか?」
レッドはうそをついた。
ここで 正直に答えたところで、無事に帰してもらえるという保証なんて、ない。

・・・ガッッ!!

突然、わき腹の辺りに攻撃を受け、レッドは1メートル近く、左側へと飛ばされた。
「うそをつくもんじゃない。 いくらボスの命(めい)といえど、お前が 無事に帰れる保証がなくなるのだぞ。」
「・・・別に、うそなんてついてねーし、『知ってる』って言ったトコで、帰れる保証なんて、どこにもねーんだけどな。」
レッドはモンスターボールから ラッキーの『コウ』を出した。
黙ってここでやられるつもりなど、全くない。
「ふん、おとなしく答えていれば、お前の『友達』ともども、無事に帰してやらんでもない、というところを・・・
 ・・・・・・やれ、サワムラー。」
再び、攻撃をするために レッドへと迫ってきた物体を コウがすばやく捕まえる。
コウはバネのような物体を そのまま、勢いを殺さないように反動をつけて反対側の壁へと叩きつけた。

茶色い体を持ったポケモンは 壁に叩きつけられ、そのまま伸びてしまった。
「・・・ふん、所詮は、ジム争いに敗れた 負けポケモン・・・
 では、こちらではどうかな?」
コウが次の戦闘態勢に入る前に ツバキは人型をした ボクサーのようなポケモンをコウに向けて 攻撃させる。
グローブのような拳から 炎が沸き(わき)あがった。
「いくら、そのラッキーの『カウンター』が強力だろうと、力で、炎に対抗することは出来ないだろう?
 エビワラー、『ほのおのパンチ』!!」
「やべっ!! コウ、『タマゴう・・・」
レッドが技の指示を出す前に コウが行動する必要がなくなった。
エビワラーの体が 突然見えない力のようなものに襲われ、弾き飛ばされたのだ。
「!?」
倒れたエビワラーに注意が向いているツバキとは反対に レッドは反対側の空間を見つめていた。
何もないところから突然、ピンク色のポケモンが現われたのだ。
ピンクポケモンは 瞬時(しゅんじ)にラッキーへと姿を変えると、そのまま、『うたう』で ツバキを眠らせた。


「・・・おまえ、・・・・・・『ミュウ』?」
変身ラッキーは レッドの方を見つめると、元の姿へと戻っていく。
薄く、光の加減で白にも紫にもピンクにも見える 細い体、長い尻尾、ガラスのように透き通る 青色の瞳。
間違いなく、トキワで レッドが見かけたポケモンだ。
「・・・みゅう?」
「どうして、こんなとこに!?
 おまえ、ロケット団から狙われてんだぞ、こんなとこにいたら、捕まっちまうかもしれないじゃねーか!!」
ミュウは そんなことお構いなしに 楽しそうに レッドの周りをくるくると飛び回る。
呆然と見上げていたコウを見かけ、その体を 尻尾でちょいちょいっとつつくと、コウの体力が一気に回復した。
「な、何だよ何だよ、何なんだよ!?
 『ポケモントレーナーの側なら大丈夫』だって、自信でもあんのか?
 オレだって、おまえを守りきれる自信なんて、全然ねーんだからな!!」
レッドはちょっとだけ照れくさくなって、ほおが赤くなる。
ミュウは それを見ると、クスクスッと笑って、尻尾の先から 何か光を出し、宙に文字を書き始めた。

『私じゃないよ。 守ってほしいのは、黒き者達に捕まった 可哀相(かわいそう)な3羽の鳥達。』

「・・・『3羽の鳥』?」
レッドが 不思議そうな顔で ミュウに聞き返す。
ミュウは何かを訴えるような瞳でレッドを見つめると、そのまま、『テレポート』で どこかへと消えていった。


48、研究室




レッドは 自分の身の回りで起こったことを1分30秒くらい考えると、とりあえず、ドアノブの壊れた扉を蹴破り(けやぶり)、中を調べることにした。
ところが、15秒と経たないうちに 迷子になる。
他と模様の違う床のパネルを踏んだ瞬間、全く知らない空間へとテレポートしていたのだ。

「あ〜あ、早くも迷子ってわけか。
 これから・・・ってこと、考えられねーか。」
周りを見渡すと、数え切れないくらいの数の ロケット団に囲まれている。
その全てが ニヤついた顔をしていた。 ・・・・・・はめられた、というわけだ。
「・・・しゃーねーなぁ、こんだけ数が多い時は、と。」
レッドがごそごそと モンスターボールを取り出している間に 大勢いるロケット団達は 一斉にレッドに向かって襲いかかってくる。
しかし、その2秒後には ほとんどの人間、ポケモンが ばたばたと倒れていった。
「・・・・・・ピカの『10まんボルト』。」
『じめん』タイプで 電撃の効かなかったポケモン達を ユウに倒させながらレッドは しれっと言い放った。
帽子は いつのまにか深く かぶり直している。


「・・・てかさ、一体、ここ、どこなんだよ?
 え〜っと、『シルフカンパニー本社 案内図』・・・お。」
床に転がっている 数十人いるロケット団達を上手く避けながら レッドは 階段近くにある看板へと近寄った。
よくよく 案内図を確認してみると、自分が今いる建物は11階建て、色々な階ごとに 何をするべき場所か 分かれているようだ。
「・・・・・・で、今いるここが、2階ってワケか。
 『お客様案内用の階』ってわけだな。」
レッドは 倒れているロケット団員から 制服を1枚拝借(はいしゃく)すると、それを服の上から着込む。
近くにあったエレベーターへと乗り込むと、『研究セクション』と書いてある 5階行きのボタンを押した。

「・・・ふ〜ん、静かだな。」
予想通りというか、実験器具やら謎の機械やらが 各部屋に山積みになっている間の廊下を レッドは怪しまれないように ゆっくりと歩いていく。
扉の影から 怪しげな白衣を着た研究員が 様々な実験を行っている様子がのぞいた。

・・・パリンッ!!

「・・・何だ?」
何か、ガラス器具の割れるような音が 廊下の中に響き渡る。
続いて、男のだみ声が 廊下いっぱいに怒鳴り散らされた。

『どういうことだ、これは!!』
わかりやすすぎるくらい、大声の放たれた部屋を レッドはひっそりとのぞく。
中では ロケット団の1人が 何やら必死に頭を下げている研究員に 何かを怒鳴り散らしていた。
「申し訳ございません!! しかし、私にはこれ以上・・・」
「そんなこと、どうでもいい!! さっさと 研究を進めろと言っている!! 
 お前、ロケット団に逆らったら、どうなるか・・・」

「・・・どうなるんだ?」
なんだか腹が立ってきて、レッドはとりあえず 2人の間に立ちはだかってみた。
黒服のロケット団は 眉を吊り上げ、レッドの顔をまじまじと見つめる。
「何だ? お前・・・・・・B班は2階で『お客様』のお出迎えだろうが!!
 こんなところで、油売ってないで・・・」
「ああ、それなら、もう終わったもんで。
 それより、一体どうなるんだ? ロケット団に逆らったら・・・?」
レッドは サン、ポコ、ユウの3匹がかりで 怒鳴っていたロケット団を取り押さえた。
仕上げに、ハナの『ねむりごな』で 大声を出せないようにして。


「・・・あ、ありがとう。 しかし、君は誰だね?
 ロケット団ではないようだが・・・?」
怒鳴られていた 気の弱そうな研究員が レッドの方へと目を向けた。
この場では 制服を着ていたところで意味がないと考え、レッドは汗臭い ロケット団の黒服を脱ぐ。
「あ〜、いっくら怪しまれないためっていっても、・・・・・・うっとおしかった〜・・・
 そういう おっさんこそ、ロケット団じゃねーのか?」
気の弱そうな研究員は 制服の下から現われた子供に 目を丸くした。
「あ、ああ、私は、シルフカンパニーで働いていた、ただの研究員だよ。
 それにしても・・・君のような子供に助けられるとは・・・」

「ポケモントレーナーに、大人も子供も関係ねーだろ? 子供だから出来ることだって、あるだろうしさ。
 おっさん、ロケット団じゃねーなら、ここで逆らってると、やばいんじゃないか?」
レッドが 何事もないかのように言い放つと、研究員は小さく ヒッ、と声をあげた。
「そ、そうなんだ・・・しかし、私には、もう出来ないんだよ『こおり』タイプが どこまで熱に耐えられるかの実験なんて・・・
 娘にも、もう、申し訳が立たなくて・・・」
研究員はそういうと、青色と白色で分けられたモンスターボールを レッドに見せた。
中では、水色の首の長いポケモンが まるで海の中にいるような青色の中で すやすやと眠っている。
「のりものポケモン、ラプラス。 もともとは ここの研究用のポケモンだったんだ。
 ところが、ロケット団の連中が、突然・・・・・・」
「・・・もーいーよ。 ポコ、このおっさん、守ってやれ。
 オレ達は これからロケット団のボスを ぶっ叩いてくるから、ここでじっとしてろよ。」
研究員はその言葉を聞くと、一瞬だけ安心したような表情を見せ、すぐに また、子犬のような表情へと変わった。
「い、いや、君のポケモンに 頼るわけにはいかない!!
 もし、このポリゴンを置いていくと言うのなら、せめて、このラプラスを受け取ってくれ!!
 こいつは 性格こそ温和だが、戦闘面では役に立つはずだ。」


レッドは無言のまま、青色のスーパーボール(モンスターボールより1段性能が良いもの)を しばらく見つめていた。
しばらくすると、それを腰のホルダーに取りつけ、ポコの頭をポンポン、と撫でる。
「少ししたら、すぐに戻ってくるからな。
 それまで、しっかり このおっさんを守ってるんだぞ、ポコ!!」

「・・・キュイン!!」
ポコは大きくうなずいた。
それを 確認するかしないかのうちに レッドは次から次へ、上の階へと階段を駆け上がっていた。


49、それぞれの行動




『あっちに逃げたぞ!! 追えッ!!』
ヤマブキシティの市街では ロケット団達と2人組の 命がけの追いかけっこが展開されていた。
2人組の1人は男、遺伝の影響なのか、とび色の髪の毛が爆発しきっている。
紫のすその長いトレーナーの上から、ロザリオ代わりなのか、ペンダントをぶら下げていた。
もう1人は女、腰まである茶色い髪と その中からのぞく 細く、白い腕が特徴的。
黒色のワンピース、ハイネックのものを着用し、女らしさを印象付けていた。


「・・・とうとう、追い詰めたぞ。 ガキども・・・
 散々、てこずらせやがって・・・!!」
細い路地(ろじ)の裏で 黒い服を着たロケット団が 腹立たしそうに言葉を吐き捨てる。
ロケット団は、ゆっくりと1歩ずつ、2人に迫っていた。

「・・・全く、この程度のチンピラの相手をすることになるとは・・・落ちたものだな、私も。」
不意に、女が口を開く。
落ちついたアルトの声、大人である。
2人は被って(かぶって)いた かつらを、一気に投げ捨てた。
茶色い髪の下から 長い長い黒髪が 姿を現す。
もう1人の男が 気の弱そうな声を出した。
「ナ、ナツメ・・・本当に大丈夫なのか? すぐに 大量のロケット団がやってくるかも・・・」
「問題ない。」
女は笑う。



「・・・・・・まあ、あっちの方は ナツメ姉達が 何とかしてくれるだろうから、大丈夫だよ。」
シルフカンパニー本社の中で 8歳くらいに見える少女は 倒れたロケット団を背にしながら のんびりと答えた。
「それはいいが、本当にここで合ってるのか? ロケット団の本拠地は・・・」
とび色の髪の少年が 疑問形で 幼い少女に尋ねる(たずねる)。
「あら、わざわざ私達を助けてくれた 恩人の言葉を疑うの? グリーン!」
茶髪の少女が 挑発するような口調で とび色の髪の少年を 呼んだ。
「そうそう!! いいこと言うねぇ〜、ブルー姉!!
 ねえ、それよりもさ、もう1度聞きたいんだけど。 その さらわれたレッドっていう人の特徴。」

ブルーと呼ばれた茶髪の少女は 銀色の瞳を 瞬かせながら答える。
「そうねえ、黒い目、黒い髪、日焼けした肌・・・」
「うんうん。」
「赤い帽子に、赤い上着。 そうそう、下は黒だったっけ。」
「うんうん。」
「Gパン履いて(はいて)、あぁ、手に 指だけ見えるようなグローブ付けてたかな、黒くて、手首の部分が白くなっている物を・・・」

「・・・・・・で、何で 見る間に お前は、その通りの格好に変わっていってるんだ?」
グリーンが 少女を指摘する。
ブルーとグリーン、2人の前には さらわれた少年の格好、そのままに変装した 幼い少女の姿があった。
「だってぇ、あたしってば『ものまねむすめ』だからぁ、人の『ものまね』すんの、大好きなんだよね!!
 ナツメ姉達の 変装手伝ったのも、あたしなわけだしぃ!!」
「・・・ってか、どこに こんな変装セット、隠し持ってたんだ?」
グリーンは 軽くため息を付いた。

「でも、心配なのは あたしのパパなんだよねぇ。
 シルフで 研究員やってるの、捕まってなきゃいいんだけど・・・」
ふう、と『ものまねむすめ』は 軽く息をついた。



「・・・・・・なんで、また会っちまうかな・・・?」
気絶したロケット団が 山積みになっている廊下で レッドは軽くため息を付いた。
目の前には ロケット団の格好をした警察官、ユリが 軽く腕組みをして 仁王立ちになっている。
「まあ、私の仕事は ロケット団内部に潜入し、やつらを全滅(ぜんめつ)させること、だからね。
 似たような目的を持っていたら、ばったりでくわしても、おかしくない、ってことか。」
ユリは さほど困った様子もなく 簡潔(かんけつ)に 状況を口で表す。

「・・・んじゃさ、悪いんだけど、オレ、今から ロケット団のボスをぶっ倒しに行くから、そこどいてくんない?」
「そういうわけにも いかないわね。」
ユリは 迷うことなく言った。
「いくら 君が腕利きのトレーナーでも、子供は子供。 大人相手じゃ、どうしようもないことだって、たくさんあるわ。
 まして、ロケット団のボスは 相当の使い手、そんな危ない所に行かせるなんて、警察官として、許すわけにはいかないわね。」
「こないだ(この間)と、言ってることが違うじゃんか・・・」
「この間は この間。 今日は今日!!」

「じゃあ、強行突破する。」
レッドは 赤いモンスターボールを握り締めた。
ここ前で来るのに『10まんボルト』を放っていたピカも 戦闘態勢に入っている。
それを見るとユリは はあ、と ため息を1つ ついた。
「・・・それは、困るわね。
 ここで私が気絶したら、ロケット団のボスに 手錠をかけられる人間がいなくなっちゃうもの。
 OK、分かったわ。 先に進みなさい。



レッドは返事をしないまま、ユリのわきを抜けて 奥へと進んでいった。
振り向くこともせず、警戒も怠らず(おこたらず)。
ただ、ピカだけが レッドの後を ちょこちょこと歩きながら ちらちらと後ろを気にしていた。

道の先には 数時間しか経っていないのに、なぜか懐かしい2人(+知らない1人)の 姿が見える。


50、1人で奥へ




「レッド、無事だった!?
 ・・・・・・って、そんな事言ってる場合じゃないのよ、大変なの!!」
ブルーが フルートのようなソプラノの声をひっくり返しながら 必死に叫んだ。
隣で 名前も知らない女の子が なぜか自分の格好そっくりに変装して 目の前の事態に 驚きまくっている。

騒ぎの原因は グリーンだった。
自分のポケモン、ピジョットを繰り出し、少女2人に 襲いかかっているのだ。
・・・・・・とはいえ、グリーンのポケモン自身、主人の奇怪な行動に疑問を持ち、その行動は隙(すき)だらけなのだが。


「グリーン!? お、おい、操られてんのか!?」
「何、言ってるのよ!!
 操られている人間が、そんなこと 答えられるわけないでしょ!?」
ブルーに指摘され、レッドは自分が奇妙な質問をしていることに ようやく気が付いた。

「・・・まいったな、これがロケット団だったら、『10まんボルト』で1発なんだけど・・・
 だったら・・・・・・ポコ!! サー・・・」
モンスターボールから 2メートル以上ある 巨大な水ポケモンが飛び出し、レッドは自分の手元に ポコがいないことに気付いた。
ポコは 研究室で 研究員の警護にあたっている真っ最中なのだ。
「そうだ、今あいつ、いないんだっけ・・・
 ラプ、とにかく グリーンを抑えつけろ!!」
ラプラスは 言われたとおりに グリーンを大きなひれで抑えつけ、身動きが取れないようにした。
ブルーがその隙(すき)に バリヤードを繰り出し、自我を失っているトレーナーの 操っている犯人を探し出す。


「ニイちゃん!! グリーンを暴れないように抑えておいて!!
 レッド、敵は11階よ、ここは 私に任せて、レッドは上へ!!」
ニドリーナに グリーンの両手両足を封じさせると、ブルーは自分のポケモンを 何匹か繰り出し、レッドに叫んだ。
戸惑い(とまどい)ながらもうなずくレッドに 銀行のキャッシュカードのような物を持たせる。
「ここまで来るのに、いくつか 開かない扉があったでしょう? それで 多分開くはずよ。
 レッド、これで この戦いの明暗が レッドの腕にかかってることになったのよ、失敗したら許さないんだからね!!」
「あ、ああ・・・」
ブルーの気迫に押されながらも、レッドは最上階を目指し、走り出した。



「・・・・・・だぁ〜ッ!! どうなってんだよ、この会社は!!
 11階、壁しかねーじゃねーか!!」
エレベーターも使わず、律儀(りちぎ)に11階まで 階段を使って登ってきたレッドは ひたすらに白い壁を どんっ! と殴りつけた。
そこは、部屋どころか、人1人すらいない。
一応は一般企業の建物なのだから、壊すわけにもいかない。

「・・・ほう、こんな所まで来られるとは、さすがは オーキド博士の見こんだトレーナー、と言うべきか・・・」
壁の向こうから 女の声が響いてくる。
「誰だッ!!」
レッドは 声の主を探して 頭を左右に振った。
「・・・・・・ふっ、わらわの声すら、忘れてしまったのか?
 もの覚えの悪いトレーナーじゃのう・・・!!」
「『じゃのう』・・・って、その喋り(しゃべり)方、ハギ!?
 どこにいるんだ、隠れてないで 出て来い!!」
「わらわは、逃げも隠れもせん・・・」

レッドは反射的に 窓の外へ身を乗り出した。
すると、ナツメに勝るとも劣らないくらい 長い黒髪をたなびかせながら 宙に浮いたハギが レッドのことを見下ろしている。
「・・・・・・どうして、宙に浮いて・・・!?」
「わらわのポケモンの力を使えば、この位は軽いことじゃ。
 驚くのは まだ早いぞ・・・・・・!!」


ハギは 右手に3つのボールを取り出すと、その全てを1度に放り投げた。
中からは レッドが今まで見たこともないような 巨大な鳥ポケモンが3匹、大きなビルの周りを 旋回(せんかい)しながら登場する。
「サンダー、ファイアー、そして、フリーザー・・・・・・
 全ての気象をつかさどる、伝説のポケモンたち・・・」
「伝説のポケモン!?」
レッドは身を乗り出した。 飛行ポケモンがいないので、3羽の鳥の近くまで行くことが出来ない。

「ファイアー、侵入者を 暖めてやるがよかろう。」
ハギの指示1つで 体中に炎をまとった不死鳥のような鳥は クチバシの先から炎を吹き出し、ビル全体を 炎でおおっていく。
「うあっ!? あちちちち、あちッ!!!
 ラプ、『みずでっぽう』で 火を消すんだ!!」
レッドは 突然熱せられ、パニックを起こしかけながら、必死にラプラスに 消火活動するように指示した。
ハギは そんなレッドの様子を見つめながら 更に にやついた顔で ビルの方を指差す。
「・・・サンダー。」
体からバチバチと音がする 巨大な黄色の鳥ポケモンが1鳴きすると、ビルの上に雷雲が立ち込め、爆音とともに 雷が降り注いだ。
連続して鳴り響く 鼓膜の破れそうになる音に レッドは思わず耳をふさぐ。
「フリーザー。」
ビルのガラス窓を打ち破り、冬空のような色の羽根をもった鳥ポケモンが レッドの真正面に降り立つ。
アクアマリンのような 透明な瞳に睨まれると、レッドは体中に寒気が走った。

『・・・守ってほしいのは、黒き者達に捕まった 可哀相(かわいそう)な3羽の鳥達。』

ミュウが書いた文字が 頭の中をよぎる。
「・・・まさか、ミュウが守ってほしかったのって、こいつらのこと・・・!?」
ゆっくり考える暇もなく、フリーザーが 冷気を放って攻撃してくる。
レッドを守るべく ラプが放った『みずでっぽう』は、氷の柱となり、数秒もしないうちに パキパキと音を立てて崩れていった。


「・・・・・・冗談だろ?
 こんな、力から生まれてきたようなポケモン達、しかも3匹も相手に、オレに、一体何をしろって・・・?」
3羽の鳥と1人の人間が レッドを睨む。
レッドは この冒険を始めてから、初めて足がすくんだ。


51、11階の戦い




・・・1筋の 涙が流れる。
それは、落ちる前に凍りつき、カン、という音を立てて 床の上を転がった。

「・・・・・・フリーザー?」
レッドの目の前で 伝説のポケモン、フリーザーが ポロポロと涙を流しているのが見える。
壁は崩れ、雷雲(らいうん)のたち込める空を背に フリーザーは大きな翼で レッドに風を送った。



「うっ、うわああぁぁぁッ!!」
心までも凍りつきそうな冷気が レッド達を襲う。
かろうじて 『こおり』タイプのラプが レッドの体が凍りつくのを守っているが、
ラプ自身、次から次へと飛んでくる 小さな氷のかたまりに当てられ、いつまで持つか わからない。
「・・・やめろっ!! やめるんだ、フリーザー!!
 おめー、泣いてるじゃねーか、こんなの、やりたくねーんだろ!?」
一瞬だけフリーザーが放つ冷気が弱まったが、すぐにまた、凍りつきそうな寒さに襲われる。
「無駄じゃ。 今、このフリーザーは わらわの支配下に置かれている。
 貴様ごときが 何を言ったところでフリーザーには届かない、哀れなものじゃのう!!」
ハギは フリーザーと対峙しているレッドを見て 一笑した。
おもむろに 右耳に手をあてると、イヤリングのような物を その耳から取り外した。
「この ジムバッジさえあれば、伝説のポケモンさえも 自分の思いのままに 操ることが出来る・・・
 ・・・知っておったか?
 これだけの素晴らしい、『破壊の力』・・・放っておくのは 勿体無い(もったいない)、そうは思わぬか?」

「・・・っざけんなよ!! こんな泣いてるポケモンにまで 指示を押しつけて、
 人を傷つけて、物を傷つけて、ポケモンを傷つけて・・・そんなの、楽しくないじゃねーかよ!!
 ラプ、前進できるか? 出来たら、やってくれねーか?」
レッドは ハギに怒鳴りかかると、自ら(みずから)の涙で 氷の球を作っているフリーザーの方に向き直った。
「フリーザー!! おまえもやめちまえ!! こんな奴の側にいるのなんて!!」
タイプ上、凍りつくことのないラプに援護を任せ、自分の体が凍りつくのも気にせず、レッドはフリーザーに歩み寄る。
指がかじかみ、まともに動かない手で 2つのモンスターボールを腰のホルダーから外すと、それを床に転がした。
レッドはフリーザーと 1メートルと離れていない場所まで 何とか足を進めると 涙でにじんでいる瞳を 真っ直ぐに見つめる。
「・・・大丈夫、絶対、オレが おまえのこと助けてやっから!!
 ハナ、サン!!」

レッドが叫ぶと、赤と白のモンスターボールの中から フシギソウの『ハナ』が登場する。
ハギに反応する暇を与えず、ハナは隣(となり)に転がっていた もうひとつのボールを ハギ目掛け、ツルで投げ飛ばした。
「サン、『でんこうせっか』!!」
ボールの中から飛び出したサンが ツルの反動も利用し、ハギの方へと向かって突進して行く。
宙に浮いているハギの足に掴まると そのまま体を伝って移動し、彼女の右手に 思いっきり噛みついた。
「・・・ッ!!」
ハギの手から3つのボールが零れ(こぼれ)落ちるのと、サンが振り払われて 宙に放り出されるのは 同時だった。
ハナが『つるのむち』で 救い出そうと試みるが、あと数センチのところで サンの体は ツルをすり抜けてしまう。
「・・・・・・サンッ!!」

その瞬間、レッドは 自分が無茶な作戦を指示したことを 身が張り裂けそうなほどに 後悔した。
小さな体は ぐんぐんと遠くなり、ものの数秒で 見えなくなってしまう。
「・・・・・・くッ・・・!!」
「残念じゃったのう、せっかくの作戦は良くとも、自分のポケモンが犠牲になっているのではのう・・・」
ハギが 自分の右手の傷口をなめながら レッドを見下ろし、笑っている。

・・・・・・ボッ

暗くなっている地面に 1つの明かりが灯った。
赤い光は 誰もが反応できない間にどんどん大きくなり、ついには レッドの身長を追い越しそうなほどにまで 巨大化している。
「・・・ふぃうッ!!」
サンの鳴き声が その場にこだました。
幻聴(げんちょう)などではない。 なぜなら、一瞬後に そのサンが レッドの腕の中へと飛びこんできたのだから・・・
「サン? ・・・サンなのか!?」
レッドの腕の中のイーブイは 嬉しそうに1鳴きすると、壊れた壁の向こうを見つめた。
その向こうで 巨大な炎の鳥が 得意満面な笑顔でレッドたちのことを見ている。
「・・・ファイヤー・・・!!」
炎の鳥は 1度うなずくと、ハギの方へと 怒りの表情を向けた。

「おのれ・・・裏切ったな!? ファイヤー!!」
「・・・裏切ったわけじゃねーだろ。
 おまえが持ってたモンスターボールが壊れたことによって、こいつらがコントロールから 開放されたんだよ!!」
ハギは レッドの言葉に驚き、自分の右手を見つめた。
そこにあった3つのボールは 手元から離れてしまっている。 サンが噛みついた時に 3つとも取り落としたのだ。

レッドは 自分のポケモン全てを その場に召喚した。
今までに出ていたポケモン達を含めて、その全てがハギのことを 怒りのこもった瞳で見つめている。
「・・・ピカ、『10まんボルト』。」
レッドの声を合図に ピカはありったけの電撃を ハギの後ろに目掛けて撃った。
すると、何もなかったはずの空間がゆらめき、1匹のスリーパーが 姿を現す。
それを合図に ポケモンたちの 猛反撃が始まった。
伝説のポケモンたちも手伝い、サンが『かみつく』で攻撃し、ピカの『でんきショック』、ユウの『きりさく』、
ラプの『みずでっぽう』が命中したとき、サンダーが 上空をおおっていた雲を取り払った。
「・・・・・・ハナ、『ソーラービーム』!!」
緑色を含んだ虹色の光線が スリーパーを貫く。
スリーパーは戦う力がなくなり、自分達を宙に浮かしていた『ねんりき』の力を失って、
ハギとスリーパーの体は 宙をぐらつき、地面へと向かって落下していく。



「フリーザー!!」
地面に落ちる前に 青銀色の巨大な鳥が ハギ達のことを救出する。
フリーザーは 11階まで 大きな翼で戻っていくと、レッドとそのポケモン達の前に 1人と1匹を着地させた。

「・・・・・・なぜ、助けた?」
ハギは レッドのことを 憎しみすらこもった瞳で 睨みつける。
すると、コウが つかつかと前へ出て来て レッドに何かを たずねるような視線を送った。
レッドがそれにうなずくと、コウは ハギのほおに 思いっきり平手打ちをする。

「・・・あーそーだよ、あんただって、ロケット団だって 嫌いだよ、憎いよ、めっちゃくちゃ むかついてるよ!!」
「だったら、見捨てていればよかろうに・・・」
ハギが 薄く笑いながら つぶやくと、今度はハギのほおに レッドの平手打ちが飛んだ。
「だけどな、おまえらだって、一応、生き物だから。
 どんだけ性根(しょうね)が腐って(くさって)ようが、世界に生まれてきちまった 1部だからな・・・」


レッドはそれだけ言うと、ハギに背を向けて ここまで来た道を引き返し始めた。
30段ほど、階段を降りて行った時、上の階から 狂ったような 女の笑い声が響いてきたが、レッドは振り返ることはなかった。


52、別れ、そして・・・




「ありがとう。」
「・・・あ、ども・・・」
何気なく差し出された手を レッドは思わずつかみ返し、握手する態勢へとなった。
目の前にいる髪の長い女性は あまり笑うこともなく レッドの手を掴んでいる。

「・・・・・・で、あんた、誰?」
「ヤマブキシティの ジムリーダー、ナツメだ。
 私が救いきれなかったこの街を レッド、お前は救ってくれた、礼を言おう。」
目の前にいる女性は うっすらと笑みを浮かべると ジムの方へと歩いて行った。
少しずつだが 小さくなっていく背中を見つめながら レッドはつぶやいた。
「・・・・・・あれぇ? オレ、あいつに 名前、言ったっけかな?」


レッド達が ロケット団との戦いから・・・・・・いや、正確には レッドがハギとの戦いを終わらせてから、約1日。
ロケット団達は シルフカンパニーの建物から引き払い、今、その場所は 警察の 現場検証だの、事後処理だので ごった返している。
もちろん、立ち入り禁止。
『いろいろなこと』が続いて、すっかり徹夜になってしまったレッドは 何度もあくびをしながら ヤマブキの街を歩いていた。


「ぐっもーにん!! レッド!!」
「・・・あぁ、おはよ、ブルー・・・・・・」
朝からハイテンションなブルーが 背後から走りこんでくる。
「ずいぶんと眠そうね、朝っぱらから どこへ行こうとしてるの?」
「シルフの研究員の所。
 ポコを預けっぱなしなんだよ。 そろそろ、あの おっさんも、事情聴取とか 終わった頃だろうし・・・」
レッドは またあくびをして歩き続けた。

「・・・・・・やあ、君は・・・!!」
10分ほど歩いたころ、レッドは1人の中年の男から 声を掛けられた。 まぎれもなく、あの 研究員の男である。
警察からの取調べも終わったらしく、私服で道を歩いていた男は レッドの方に走りよってくる。
「あ、おっさん!! 今からそっちの方、行こうと思ってたんだよ。
 いいかげん、ラプも返さねーとだし、ポコも返してもらわねーとだし・・・・・・」
それを聞くと、研究員は 複雑そうな表情を浮かべる。
「・・・あ、いや、実は・・・そのことなんだが・・・・・・」
「?」

「・・・パパァ!!」
男の後ろにあった 小さな家から レッドより2つか3つ、年下だと思われる少女が 飛び出してきた。
その少女の腕の中には 見間違うはずもない、レッドのポコが しっかりと抱かれている。
「ねぇねぇ、パパ!!
 この子、ロケット団が忘れてったんだよね、あたしがもらってもいい?
 今度、友達とトレードするんだ!!」
「い、いや・・・・・・そのポリゴンは、ね・・・」
研究員は 言い出しづらいのか、言葉の尻尾が にごっている。

「・・・・・・それじゃ、研究員さん、ラプ、もらっていって良いんですよね?」
レッドが言い出した言葉に研究員は驚いて目を見張った。
ラプの入ったボールを1度空へ放り投げると、レッドはポコの側まで歩み寄り、2人に聞こえないように何かをささやいた。
「じゃ、研究員さん!! ロケット団から保護したポリゴン、大事にしてくださいよ!!
 オレ、これからジム戦にでも行きますんで!!」

ポコの視線を背中に感じながら、レッドはどこへ行くでもなく歩き出した。
出きるだけ、後ろを見ないようにしながら。
「・・・・・・やったぁ!! それじゃ、ポコ!! あなたの名前はポコよ!!」
背後から 女の子の声が響いてきた。



「・・・・・・泣くほど辛いんなら、あげなきゃ良かったろうが。
 ほんっと、おまえって単細胞としか 言いようがねーよな!!」
適当な所に座って 休んでいるレッドに 声を掛けてきたのは グリーンだった。
「うるせーッ!! 泣いてなんかねーよッ!!」
「だったら、その目からボロボロ流れてるモンは 一体何だって言うんだよ。」
「はっ、鼻水だよ、はなみず!!」
「・・・目から?」


レッドとグリーンが言い争いをしている時、不意に 冷たい風が 2人の間をすり抜けた。
グリーンの着ている服がこすれ、パチッと音を立てる。


『ふたごじまで 待ってる・・・』


レッドの頭の中に 若い女のような声が響いてきた。
ざわざわとした 頭の中のノイズが消えていくと同時に 体力を奪い(うばい)そうなほどの猛暑が 2人を襲う。
「なあ、グリーン、変な声聞こえなかったか?」
「・・・・・・いつもなら、また、『んなわけねーだろ、単細胞』って言えるとこなんだけどな。
 残念ながら、聞こえたよ、俺も。」

レッドは 白みを帯びた(おびた)青い空を見つめながら 少し考えるようにして つぶやいた。
「・・・『ふたごじま』、か。」
「俺は、『無人発電所』、だとさ。」
グリーンが つぶやくように話した。
面倒くさそうに 額に手をあて、大きく1つ、ため息をつく。


「・・・・・・まあ、なんにせよ、オレ達の旅は まだまだ 終わりゃーしねーってことだな!!
 さぁ!! 眠気、ぶっ飛ばしたら ジム戦にでも行ってくっかぁ!!」
レッドは立ち上がると 大きく1つ 伸びをした。

新しい歴史が 始まろうとしている・・・・・・


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