<各話の1番最初に飛べます>
67、暴走ポケモンを止める為 68、暴走ポケモン捕獲作戦 69、こいつに教えること



67、暴走ポケモンを止める為




『ああ、そうや。 でっかい怪物みたいなポケモンが ちっさな男の子巻き込んで こっちで暴れとる!!
 ロケット団はわんさかわいとるし、警察の手にも負えんしで、こっち、大変な騒ぎやで!!』
受話器越しに 聞き覚えのある声が耳を通過した。
ピリピリとした緊張の中では、普段ならあっという間のポケモンの回復すら、遅すぎるように感じてしまう。
「マサキ、そのポケモンと男の子、無事か?」
レッドは相手の見えない公衆電話へと向かって 叫ぶように訊いた。
『今んとこは大丈夫みたいや、警察も 関係ない子供が巻き込まれとるから、下手に攻撃できんらしい。』
「・・・そっか、さんきゅ。」
何かを言いかけたマサキの言葉をさえぎって レッドは緑色の受話器を戻した。
回復終了のアナウンスと同時にポケモンを受け取り、冷たい風を巻き起こしながら 一気に上昇する。
ポケモンセンターのテレビ画面には『謎のポケモン、ハナダで暴れまわる!!』と、大きくテロップが流れていた。



「・・・・・・・・・・・・」
騒ぎを聞きつけてやってきたグリーンは 言葉を失っていた。
本来、自然に溶け込む形で生存しているのが 野生のポケモンというものなのだが、
目の前で暴れまわっているものは、完全にその摂理(せつり)から外れてしまっている。
まして、テレビカメラが回り、レポーターがぎゃんぎゃんとはやしたてているのだ、怪獣映画の撮影を見ていると
一瞬、勘違いしそうになるのをこらえるのが精一杯だった。

突然、グリーンの背後で 何か大きなものが 水に落ちる音が響き渡った。
それが何かを確認する間もなく、1面、『しろいきり』に包まれ、視界が0に限りなく近くなっていく。
続いて、何かをガツガツと削るような音が聞こえた後、辺りを緊張させていた『怪物』の気配が消え去った。
辺りを包んでいた霧(きり)が まるで幕を引くように消え去ると、後に残ったのは何もない荒れた土地と、
コードがぷっつりと切られたテレビカメラを始めとする、撮影用の機材たちだった。
「きっ、きゃあぁ!!
 なによ、これ、これじゃ 中継続けられないじゃない!!」
レポーターのキンキン声を無視して、グリーンは周囲に注意を払った。
ハナダに流れる運河の向こうに 小さなピカチュウが1匹、自分のことをじっと見つめて 川向こうの洞窟の奥へと消えて行く。
その瞬間、グリーンは全てが飲み込めたような気がした。
「・・・あいつか、単細胞!!」
自慢の水ポケモンを使い、あっというまに川を渡る。
すぐさまピカチュウの入っていった洞窟へと飛びこむと、見覚えのある赤い服を着た少年が『怪物』と 対峙している所だった。

「ま、これで あいつがギャーギャー騒がれる可能性は、ちったー、減ったかな?
 よくやったよ、ユウ。」
レッドは ぼこぼこと土を盛り上げて 下から登場したユウの頭を、ポンポン、と叩いた。
目の前には 日の光の差しこまない洞窟の中で 怯える(おびえる)ようにして震えてうずくまっている少年がいる。
ピカの照らした光で、かろうじてレッド達の視界は保たれているが、それでも、数メートル先が見えないくらい、洞窟の中は暗い。


「・・・・・・何しに来たの?」
それまで、瞳すら閉じてじっとうずくまっていた少年が おもむろに口を開いた。
うっすらと、そして、ゆっくりと瞳を開き、ぞっとするような視線をレッドへと向ける。
レッドは その瞳の色が、今度は少しだけ濃い色の紫へと変わっていることに 気が付いた。
「ハナダの方でさ、ポケモンが暴れまわってるって聞いて、飛んできたんだよ。
 何が何でも止めなきゃって・・・・・・」
「・・・君が? ボクを?」
少年は立ちあがると、可笑しそう(おかしそう)に笑いながら、レッドのすぐ側まで歩み寄ってきた。
その直後に 暗闇から浮き上がるようにミュウツーが姿を現す。
「一体どうやって 止めるっていうんだい?
 全ての生物よりも はるかに高い能力を持つよう造られた、この・・・ボクを・・・」
その瞬間、目の前の少年の言葉は、ミュウツーによって発せられたものだということを レッドは理解した。
心までどうなっているのかはわからないが、少なくとも口だけは ミュウツーに支配されている。

「レッ・・・!!」
洞窟の入り口から響いてきた声に、2人と1匹は 全く同時に反応した。
ミュウツーの腕から 淡い紫色に輝く球が発射され、洞窟の入り口を吹き飛ばす。
「やめろっ、お前を造ったロケット団なら、さっき解散したんだ!!
 お前は、もう何も壊さなくたっていいんだよ!!」
レッドが思わず少年の肩を掴んで叫ぶと、少年は眉をひそめ、レッドの手を振り払って 突き飛ばした。
「ならば、ボクは何のために生まれてきたんだ?
 少し前に埋めこまれた破壊の遺伝子が 全てを壊せとボクに命令している。
 ボクは 全てを壊すために生まれてきた。 試験管に向かって、何度も何度も そう聞かされた。
 『破壊すること』をのぞいたら、一体ボクに、何が残るって言うんだい?」

一瞬レッドが押し黙ったスキをついて 女の子の甲高い声が 洞窟の中に反響する。
「・・・・・・まったく、とんでもないきかんぼうね。
 2匹分の『ひかりのかべ』を使って、攻撃を止めるのがやっとなんて・・・・・・」
「こんなポケモン、後先考えない単細胞に 扱えるわけがないな。
 それに、俺もいい加減、見せ場作っとかねーと・・・・・・」
少しだけ広くなった洞窟の入り口から レッドと同じ年頃の2人の少年少女のシルエットが浮かび上がる。
「グリーン!? ブルー!?」
「後からきてポケモンを横取りとは、ずいぶん姑息(こそく)な手を考えついたものだな。
 トレーナーとしての腕、落ちちゃいないよな、レッド?」
相変わらずの嫌味を グリーンが飛ばしてきた。
「まっ、どれだけ強い相手だろうと、向こうは1匹、こっちは6匹×3人で18匹!!
 負けるわけがないわよね!!」
ブルーの言った言葉に レッドな妙な安堵感(あんどかん)を覚えるとともに、不思議と哀しい気持ちが胸の中にこみ上げてきた。
薄く くちびるを噛む(かむ)と、スノを除く残りの3匹、ハナ、ラプ、コウを 1度に出した。
そして、グリーン達の方へと 視線を向ける。
「・・・・・・悪いんだけどさ、あいつとは、オレ1人で戦いたいんだ。
 少し、待っててくれねーか?」
親指と人差し指で『少し』を示す 平行な空間を作ると、レッドは祈るように両手を合わせた。

「わーってるよ。」
グリーンのいらだたしげな言葉に レッドは顔を上げた。
「最初に『しろいきり』を使ってそのポケモンを隔離(かくり)してた時から、そんな気はしてたんだ。
 お前の無茶はいつものことだ、いまさら・・・」
首の痛くなるような長ゼリフを続けるグリーンの横で ブルーも黙ってうなずくのが視界に入った。


68、暴走ポケモン捕獲作戦




クスクスと不気味な笑いを浮かべるミュウツーに 先制攻撃・・・というか、奇襲を仕掛けたのはピカだった。
黄色いゴムまりのように弾け飛んできたピカの『でんこうせっか』を なんなくかわすと、
ミュウツーはレッドの足元にいるハナに エネルギー弾を発射する。
レッド、ハナ、ともども、何とか回避することには成功したのだが、それまでハナがミュウツーを睨んでいた場所には、大穴があいていた。
「おい、レッド!! あのポケモン、テレビで放送されてたとおり、本当に『化け物』だぞ!?
 そんな原始的なやり方で、勝算はあるのかよ!?」
「あるっ!!」


「へぇ、キミが、このボクを倒すって?
 出来るものならやってごらんよ、打ち砕いてあげるよ?」
突き出している岩の上から飛びかかったコウを弾き飛ばすと、ミュウツーはラプに狙いを定めた。
もともと陸の上ではすばやく動けないラプだ、レッドは軽く舌打ちすると、ラプをボールへと戻す。
「(・・・倒さなくてもいいんだ、せめて、少しの間だけでも動きが止められたら・・・・・・・・・
 オレが、あいつの所まで 行かれれば・・・・・・!!)」
ポケットの中に忍ばせているマスターボールに 軽く手を触れる。
笑っているのにもかかわらず、どこか悲しげに見える 少年の表情に レッドは気持ちを動かされた。
「ユウ、『きりさく』!!」
いくつもの岩場の重なり合った場所をくぐり抜けて 茶色い針のかたまりが ミュウツーの白い肌に傷をつけた。
すぐにユウは飛ばされ、硬い岩の上に叩きつけられる。
「・・・・・・痛いなぁ、まったく。
 キミも、結局、他の人間たちと 一緒なんだね。」
ミュウツーが 軽く傷をつけられた箇所(かしょ)に触れると、あっという間にユウの付けた傷が治っていく。
少年とミュウツーの4つの紫色の眼が、レッドへと向けられていた。
「眼を、初めて開いた時、1番最初に見たのがキミだった。
 嬉しそうな顔でこっちを見上げて、よくわかんないことを話しかけてきて・・・・・・
 ボクは、キミのことを てっきり自分の親だと思ったよ、でも、違う。
 キミもボクに『破壊』を求める、怖い人間なんだ・・・」
「違う!!」
哀しげなミュウツーの視線に耐えかねるかのように レッドは激しく首を横に振った。
話している意味がわからないらしく、グリーンとブルーが顔を見合わせている。
「確かに、ポケモンのことを おもちゃや戦いの道具くらいにしか考えていない人間、たくさんいるよ・・・
 でも、だからこそ、ポケモントレーナーがいるんだ!!
 こいつらはおもちゃじゃない、同じ血の通った、同じ世界に生まれてきた仲間だって、教えるために・・・・・・!!」


少年の表情が 一瞬だけミュウツーと違ったものになった。
驚いたような顔が レッドの足元へと向けられ、レッドは思わず、自分の足元に視線を動かした。
地面の茶色に混じって判りにくいが、30センチあるかないかのポッポが、少年のことを心配そうに見上げている。
「・・・おまえ、もしかして、あのボウズの・・・?」
レッドがミュウツーの攻撃を受けないようにと ポッポを地面から持ち上げると、
小さなポッポは嫌がってピィピィと鳴きながら(普通、ポッポの鳴き声は『クルックー』なのだが)羽根を羽ばたかせた。
「・・・・・・だったら、教えてよ!!
 ボクは、一体 どうやって生きていけばいいの!? 本当の親は、一体誰なの!?」
ミュウツーに操られた少年が それだけの言葉を一気に発した瞬間、少年のこめかみの辺りに 淡い光が 一瞬灯ったかと思うと、
表情が固まり、そのまま、崩れこむようにして 小さな少年は倒れた。
同時に意外と高い 洞窟の天井の側に ピンク色の光が灯り、全員の視線が その1点に集中する。
「ミュウッ!!」
ピンクとも紫ともつかない色をしたポケモンが、宝石のような薄紫色の瞳をミュウツーへと向けていた。
鋭く鳴いたその一声に ミュウツーは意外そうな表情をして 固まっている。

「・・・・・・今しかないッ!!」
レッドは一気に駆け出すと、ハナをモンスターボールへと戻し、ミュウツーの真下まで走り込んだ。
それとほぼ同時に またしても岩を伝って上へと上がっていたコウが 真上から『カウンター』を構えた態勢で落下してくる。
急にはエネルギー弾を作れないらしく、ミュウツーはスピードを上げて下へ下へと逃げだす。
地面すれすれまで接近した時、ミュウツーのすぐ近くの地面が盛り上がった。
「ユウ、『あなをほる』攻撃!!」
いきなりミュウツーの鼻先に現れたユウは 後先考えずにミュウツーへと鋭い爪を振り上げた。
攻撃を受けてたまるか、とばかりに、ミュウツーはコウを避けて 再び上昇する。
それに合わせるように レッドは右と左で1つづつモンスターボールを開いた。
白の混ざった水色のポケモン達が 上昇したミュウツーを睨みつける。
「ラプ、スノ、『れいとうビーム』!!」
薄く差しこんだ光を跳ね返して光る 冷たい光線は ミュウツーの足を直撃した。
突然冷え切った足に ミュウツーの動きが止まる。
「今だ、ハナ、『ソーラービーム』ッ!!」
ピカから明かりをもらって力を蓄えて(たくわえて)いたハナは 光の力を一気に発射した。
甘ったるい匂いをさせていた花のつぼみが その反動でゆっくりと開いていく。
「行くぞ、ピカ、『ひかりのかべ』!!」
レッドは不安そうな顔をしたピカを抱えると、ユウとコウに足がかりを手伝ってもらい、『ソーラービーム』の発射されている真上に飛び出した。
その瞬間に ピカがレッドの足元へと向かって『ひかりのかべ』を作り出す。
どちらの効果か、はたまた両方かもしれなかったが、レッドは一瞬にしてミュウツーの上へと飛びあがった。
ポケットの中からきれいに磨かれた(みがかれた)紫色の球体を取り出すと、狙いを定めて、ミュウツーへと向かって 投げ飛ばす。


紫色の球体に 巨大なポケモンは吸いこまれた。


69、こいつに教えること




「・・・・・・うわわわわぁ〜ッ!!!」
ピカを抱えたまま、背中から まっ逆さまに墜落して行くレッドに 小さな風が当たった。
そのおかげで、飛びあがった後につきものの 落下の衝撃は 多少は抑えられたが、それでも、じんとする衝撃に 一瞬息が止まる。
「・・・大丈夫?」
ぼやけている世界から ゆっくりと目を覚ますと、2つの真っ黒な瞳が レッドのことを覗き込んでいた。
酸素を求めて少しずつ息を吸いこみながら起き上がると、カン、という音が、2回ほど響いたあとに ようやくピカの顔が見えてきた。
右の太ももの辺りで 小さなポッポがちょこんとレッドを見上げている。
「あぁ、そっか、『かぜおこし』で 落っこちる時の衝撃を 和らげて(やわらげて)くれたんだな。
 さんきゅ!! ・・・・・・っと、あれ?」
さっきまで操られていた少年が 嬉しそうに自分のポケモンをほめているとき、レッドはその向こうにある 2つの物体が目についた。
手のひらくらいの大きさの紫色のボールと、何か、液体の入った透明なふたのついた試験管。
レッドがそれに手を伸ばす前に、それらはブルーの手によって拾われてしまった。
「この試験管の中にある薬で、相手を攻撃するように指示されていたのね。
 ・・・・・・まったく、今でも目の前で起こったこと、信じられないけど、何が起こったかくらいは教えてくれるわよね、レッド達?」


レッドは軽くため息をつくと、グレンからのこれまでのいきさつを 咳(せき)混じりに話した。
それらの話をグリーンとブルーは 唖然とした顔で聞いていたが、なんとか、納得はしたようだった。
「・・・・・・でもさ、どうしても、悔しくってしょーがねーんだよな・・・
 オレ、あいつに『本当の親は誰か』って、教えてやれなかった、それだけが・・・」
「ぼく、知ってるよ。」
暗い雰囲気の中に響いた 緊張感のない声は 全員の注目を浴びるには充分だった。
連れているポッポをひざの上へと乗せると、小さな少年は黒い瞳を瞬かせた。
「しろ君(ミュウツーのことらしい)のお母さん、みゅーちゃんだって。 さっきね、言ってたよ。」
「誰が?」
グリーンの問いに 少年は黙って自分の真上を指差した。
ぷくぷくした少年の指の先で ピンク色のミュウが ゆったりと浮きながらレッド達のことを見下ろしている。
「あいつが? ・・・・・・・・・・・・あっ!
 ・・・『2月6日、ミュウが子供を産む、生まれたばかりのジュニアをミュウツーと呼ぶことに・・・・・・』」
「何だよ、それは?」
「グレンタウンの研究所にあった、研究者の日誌の1つね。
 とりあえず、これでミュウツーの知りたがっていた謎の1つは 解けたわけになるわね。
 もう1つ、『ミュウツーがどうやって生きていけばいいか』、
 その答えは・・・・・・・・・」
ブルーは手に持った紫色のボールを レッドの前へと置いた。
全員の視線が そのマスターボールへ、そして レッドへと集まる。
「この子のトレーナーであるレッド、あなたが決めなさい。」

レッドは地面の上へと置かれたボールを拾うと、ブルーの方へと視線を上げた。
「開けても、大丈夫だよな?」
「ええ、ミュウツーを狂わせていた遺伝子は 抜けているはずだもの。」
レッドは手元へと視線を戻すと、紫色のモンスターボールを開いた。 ばつの悪そうな顔をした 2メートルを越すポケモンが
全員の顔を見渡して 首をすくめる。
「聞いてたよな、え〜っと・・・・・・名前・・・」
「『ミュウツー』でいいじゃねーか、面倒くさい。」
「・・・しろっ!!!」
大声で楽しそうに叫んだのは 小さな男の子だった。
他の人より1回まばたきを多くすると、レッドはミュウツーの方へと視線を戻す。
「そうだな、じゃ、お前は今日から『シロ』だ!! ちょっと、なんだけど、いいよな。
 とりあえず、お前の母親なら、そこにいる。」
レッドは 上から4人と7匹のことを見下ろしているポケモンのことを 指差した。
ミュウツーはそれに ゆっくりとうなずく。
「それに、もう1つの質問の方『どうやって生きていけばいいか』、だったよな。
 それにはな・・・・・・答えなんてないんだ。」
レッドが放った言葉に レッド以外の全員が『?』といった表情を向けた。 てっきり、レッドならば、明確な答えを持っていると思ったからだ。
「だって、オレだってそんなむずかしー質問、答えらんねーよ!! 『いきかた』なんて、誰も同じもの、持っちゃいねーもん!!
 でもさ、形はどうあれ、こーやって、同じ場所に生まれてきたんだから、それを大事にしててもいいと思うんだよな。
 『今、命があるから、生きてる』ってだけでもさ。
 そのうち、他の所へ行きたいって言うんなら、それでもいいし・・・
 あ、でも・・・・・・」
レッドはミュウツー・シロの前で ピッと人差し指を突き出した。

「しばらくは、オレのところにいてもらうぞ!!
 おめー、まだ子供なんだから、いっくら知ったかぶってても 知らないことが多すぎる!!
 これは、『おや』としての、オレの責任だから!!」
その言葉に 小さな少年が 少しだけ吹き出した。
シロを含め、その場の全員が 自然に笑顔へと戻っていく。
誰が言い出すでもなく、1人ずつ、ゆっくりと立ちあがった。
レッドは 自分のポケモン達(シロを含めて)を モンスターボールの中へと戻していく。
「帰ろうか、マサラへ!!」



―――数日後―――

「・・・・・・で、これからどうするんだ? おまえは・・・」
白く長い尻尾の先から 光が放たれ、空中に 丁寧(ていねい)な文字が書かれていく。
ポケモンリーグが 始まるまでの一時、レッドの部屋では 言葉に対して文字で返されるという 奇妙な筆談が行われていた。
『あの 男の子を見張るわ。
 操られていたとはいえ、家屋を3件も破壊してしまったのだもの、思い出すと、辛く(つらく)なるでしょう。
 そのときは、私が 記憶を封印する。』
「・・・そっか、おまえなら、それも出来そうだな。 頼むぜ、ミュウ!!」
ミュウは微笑むと、薄ピンク色の光を残して その場を去っていった。
その直後、家の外から 耳をつんざくような怒鳴り声が響き渡る。

「・・・あぁ―――、もうっ!!! ちっくしょーッ!!!」
「どーしたんだよ、グリーン・・・
 あ、さては おじさんにボロッボロに惨敗(ざんぱい)したとか・・・」
窓から顔を出したレッドに グリーンの強烈な怒鳴り声がぶつかる。
「逆だ逆!!
 今日行ったら、トキワシティのジム、リーダーが辞めるとかいう理由で 閉鎖されてたんだ!!
 あぁ、そうだ、レッド!!」
危うくレッドの顔にぶつかりそうになる位置に グリーンは赤白のモンスターボールを投げ飛ばした。
じんじんと痛む(相当強い力で投げられたらしい)手のひらの上で カタカタとボールは揺れている。
「中身はサンドパンだ!! どういうわけか知らないけど、ジムのど真ん中に置き去りにされてた!!
 最後にジムに行ったのがお前だったよな、どういうことか、なんか知ってんじゃねーか!?」


レッドは 手の上で揺れているモンスターボールを握り締めると、グリーンへと向かって投げ返した。
外へ抜け出す時の為に置いてある靴へと 3秒で履きかえると、窓の外から勢いよく飛び出した。
「・・・知ってるけど、教えてやんねーよ!!
 ま、ポケモンリーグの優先権、もらえなくって残念だったな!!
 オレと戦いたければ、決勝リーグまで勝ちあがってくるってことだぁ!!」
「・・・・・・んだと―――ッ!!!?」
マサラの少年達は 勢いよく駆け出した。


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