<各話の1番最初に飛べます>
70、開会式 71、カンナ 72、シバ 73、キクコ 74、ワタル



70、第1回ポケモンリーグ・開会式




『さあ、今年より名前を変えての開催となりました!!
 自分のポケモンとポケモンとを戦わせ、その頂点を競う(きそう)、
 ポケモンリーグ、ただいまの時刻を持って、開催(かいさい)となりますッ!!!』
レッドはアナウンスの声と同時に沸き立った観客達の歓声(かんせい)に 思わず飲まれそうになった。
その数が、尋常(じんじょう)ではないのだ。
なにせ、何万人と入れるはずのポケモンリーグの観客席は、発券と同時にほぼ完売。
急遽(きゅうきょ)用意された 立見席まで、息が詰まりそうなくらい、人で埋め尽くされているのだ。

『さぁ、今回のポケモンリーグ、予選に応募された人数、のべ1万人以上!!
 その応募者のあまりの多さに 今回から採用されました、各地のバッジを集めると リーグ決勝への出場権が獲得できる、
 『ジムバッジ制度』、適用された人は なんと1人しかいません!!』


「・・・・・・あー・・・決勝に行くまでに、一体、何百人、トレーナーを倒さなきゃいけないんだよ・・・」
空を見上げながら、グリーンは 早くも疲れ切ったような顔でつぶやいた。
その横で 得意満面な顔で ニヤニヤとグリーンのことを見ているのは、レッドだ。
「残念だったな、後1つで『ジムバッジ制度』適用者になれたってのに。
 ま、抽選にあたっただけでも、運が良かったと思うべきなんじゃねーか?」
「お前こそ、その自信だけで実力なしで、俺と戦うまでに さっさとやられてたら 許さないからな。」
「・・・へ? オレ、無条件で決勝じゃねーのか?」
その言葉を聞くと、グリーンは呆れ果てて だまって上のほうを指差した。
スピーカーから 耳が痛くなるほどの大きな声が 会場中に響き渡る。

『なお、ジムバッジを全部集め終わったからといって、油断は禁物!!
 不正をはたらいていないか、その8つのジムバッジを持つのに 本当にふさわしい人物なのか、確かめるべく試練があります。
 題して、『四天王に挑戦!!』今回の為に特別に集められた、各地のポケモントレーナーの強者、
 『四天王』がジムバッジを集めたトレーナーの前に立ちはだかります!!
 トレーナーは、その『四天王』を相手に 休みなしで戦って 勝たなければなりません!!
 はたして今年のポケモンリーグ、勝利の栄冠(えいかん)が頭上に輝くのは、一体誰になることか!?』

「な。」
思いの他 冷静な声に レッドは口をあんぐりと開けたまま、硬直してしまった。
どうやら、全く知らなかったらしい。
約15秒間、奇妙とも言える沈黙が流れる。
「『四天王』は 下手すりゃそこら辺のトレーナーの 何十倍も強いって話だぞ。
 ま、せいぜい頑張って 善戦でもなんでもしておけば・・・・・・」
「よーするに、勝ちゃーいいんだろ、勝ちゃ!?
 うおっしゃーッ、バトルと聞きゃ、負けるわけにはいかねーッ!!!
 ・・・・・・いっくぞぉ―――ッ!!!」
グリーンが、そして なにかを話に来たような様子の ブルーにも話しかける間を与えず、レッドはどこかへと走り去ってしまった。
その背中に向かって、グリーンが『単細胞』、と つぶやいたのは、言うまでもないだろう。



「おっしゃー、オレの勝ちだッ!!」
バトルが近くなっているのと、興奮していたのもあいまって、レッドは道端から勝負を仕掛けて来たトレーナーに 完全勝利していた。
いくら レッドが叫んでも暴れても、四天王と戦うのが ずいぶん先の日だということには変わりはない。
うっぷんばらしというか、退屈しのぎというか、レッドは道々で勝負を仕掛けて来たトレーナー全員と勝負し、そして勝っていた。
30戦目の勝利を終えると、不意にポケモンリーグの会場から 異様なほどの歓声があがってくる。
会場の外側に向かって設置されている 巨大なスクリーンからは 5メートルくらいあるグリーンの顔が映し出されていた。

『勝利ですッ!!
 予選G会場、グリーン選手、15人抜き!! 見事予選を突破しました!!
 彼は、かの有名なオーキド博士の孫だそうです、2次予選でどのような活躍を見せてくれるのでしょうか!?』

「・・・グリーン・・・・・・」
レッドがスクリーンを食い入るように見つめていると、不意にレッドに向かって、
いや、テレビカメラに向かってだろうが、グリーンが顔を向けずに 親指を立てて見せた。
レッドも、それに答えて、はるか上のほうにあるスクリーンに映ったグリーンに向け、親指を立てたポーズをとる。

巨大な会場に背を向け、トレーニングし直しに走り出そうとした時、再びスクリーンから、大きな歓声が上がった。
振りかえると、画面に映っているのは、どこかへと向かってウインクしている、茶髪の女の子。
「ブルーッ・・・!!」
ブルーは自分のポケモンを呼び寄せると、会場に来ている大勢の人間に向かって、愛想を振りまいていた。
心なしか、負けたはずの対戦相手さえ、彼女に見とれているように見える。

『こちら、予選I(アイ)会場!!
 2次予選に歩を進めたのは、なんと女の子ッ!!
 マサラタウンのブルー選手です!!』

レッドは改めてスクリーンを見つめると、気を改めてどこかへと走り出した。
ほとんど誰もいないようなところまで到達すると、高揚(こうよう)してきた気分に任せて 自分の持っている全てのモンスターボールを開く。
「絶対負けてらんねーぞ!!! みんな、絶対勝ちぬくんだ!!」
レッドが叫ぶと、ポケモン達はそれに応えるように トレーニングを開始した。
・・・とは言っても、ほとんど 実戦に近い戦いが繰り広げられている。
しかし、レッドがそれを止めることはなかった。 試合まで少しの期間があるのだ、全力を出しても、問題はない。
・・・・・・・・・はずだった。


「・・・そんな、無茶苦茶な!?
 オレ、試合を明日に控えてるんですよ!?」
数日後、レッドが戦う直前になって ハプニングは起きた。
ポケモンセンターに疲れ切ったポケモンを預けようとしたところ、断られたのだ。
「そう言われましても・・・あまりにも利用人数が多くて、マシンが壊れてしまったんですよ・・・
 申し訳ございません、代わりにもならないと思いますが、リーグ公認『かいふくのくすり』を お渡ししていますので・・・」
「そんなっ・・・・・・」

レッドは 大事な試合を明日に控えているのだ。


71、ポケモンリーグ 四天王に挑戦!
   〜レッドの場合――カンナ




『さぁ、いよいよやってきました、『四天王に挑戦!』
 ジムリーダーをも上回る実力者、『四天王』に 各地の8つ以上のジムを勝ち抜いてきたトレーナーが挑みます!!
 しかしですね、昨日、ポケモンセンターの機能が故障してしまったため、本日は特別ルールとして、
 特別に、全対戦を通じて6回!! 『かいふくのくすり』を使うことが許されます。
 しかし、それは『四天王』も同じこと、マサラタウンのレッド選手、この過酷(かこく)な状況を どう切り抜けるのでしょうか!?』


「災難だったわね。 悪いんだけど、容赦(ようしゃ)しないわよ。」
「・・・うるせーっ、それはこっちのセリフだ!!」
レッドの前に すらりと立ちはだかった四天王の1人、カンナは不敵な笑みを浮かべていた。
試合に出すポケモンを決めると、レッドは強く出ようと大声で反論する。

『試合形式は2対6、チャレンジャーは『四天王』が次々と繰り出してくる2匹ずつのポケモンを
 自分の持ちポケモン全てを使って 倒して行かなければいけません。
 4人のトレーナーが2匹ずつ、つまり 事実上は8対6の バトルになるわけです!!
 試合中の交代は チャレンジャーのみ許されています、それでは皆様、試合のルールは分かりましたでしょうか?
 『四天王に挑戦!』ただいまより始まります!!』

「位置についてください!!」
審判の合図でレッドと、四天王の1人、先鋒(せんぽう)のカンナは同時にボールを構えた。
それまで地響きすらしそうな歓声が響いていた中、その一瞬だけ ピタッと静かになる。

「試合開始です!!」
旗(はた)の振られる バサバサッという音を最後に 会場は再び歓声で声も聞こえないほどうるさくなった。
カンナが1匹目に出したひとがたポケモン、ルージュラは フィールドの中央でくるくると踊っている。
一方、レッドのポケモンは 姿を見せていない。
開かれたモンスターボールが 真ん中で転がっているだけだ。
「・・・なるほど、速さで姿すら消してしまう、スピード自慢のポケモンっていう訳ね。
 姿を消すための技なら、いくつかあるわね、『とける』、『フラッシュ』、『ちいさくなる』・・・それに、」
姿の見えない相手にもひるむことなく、冷静に判断を下すカンナに向けて、レッドは指示の体勢をとりだした。
フィールドの真ん中では 相変わらずルージュラが くるくると踊り続けている。
「『かみつく』攻撃!!」
「なるほど、『かげぶんしん』ね。
 右よ、ルージュラ、『れいとうパンチ』」
カンナの言うとおり、ルージュラの右側から現れたサンは 冷気のこもったパンチにぶつかってしまう。
レッドは口の中で舌打ちすると、サンにモンスターボールの中に戻るように命じた。

『おおっ、レッド選手、早くも交代です!!
 さすがは四天王、カンナ嬢、圧倒的な力、そして、冷静な判断を下します!!』

しかし、カンナも苦々しげな顔をしていた。
その視線の先には 傷ついた拳(こぶし)を痛々しくも見つめる ルージュラの姿がある。
「ルージュラ、か、厄介(やっかい)な相手だよな・・・
 そっちが特殊(とくしゅ)攻撃で来るんだったら、こっちは・・・・・・」
レッドはモンスターボールを投げる、中から飛び出したポケモンは 大きな声でひと鳴きすると、辺りに『れいとうビーム』を撃ち出した。
辺りの気温は 一気に下がって行く。
「ラプ、戦いやすくなったろう!? そのまま『のしかかり』だ!!」
ルージュラに 反撃させるひまを与えず、ラプラスのラプは200キロはある大きな体で ルージュラのことを押しつぶした。
すぐにルージュラはダウンし、カンナはポケモンの交代を余儀(よぎ)なくされる。

カンナは2つ目、最後のモンスターボールを構えながら、レッドのラプをメガネ越しに見つめていた。
その顔には 不敵な笑みが浮かんでいる。
「なるほど、よく育てられた ラプラスね。
 でも、面白いこともあったものだわ、私のもう1匹のポケモンも・・・・・・」
カンナはポケモンを繰り出した、その中から、しっかりした顔つきのラプラスが レッドのラプを睨みつける。
「・・・ラプラスよ。」
カンナのメガネのはしが光った。
その妙な殺気に レッドは攻撃の瞬間を予測する。
「・・・・・・ピカに交代しようかとも思ったけど・・・・・・負けたくねーよな、なぁ、ラプ!!」
もっとも、カンナが交代するようなヒマを与えるとも思えなかった。
レッドは作った握り(にぎり)こぶしに力を込めると、相手のラプラスを見つめ、攻撃のチャンスを待ちつづける。
すぐに、カンナの攻撃の瞬間はやってきた。
「今だ、ラプ、『れいとうビーム』!!」
大技を繰り出そうとしていたラプラスの首筋に 冷凍光線が当る、その反動でラプラスの溜めていた冷気は 一気にどこかへと飛んで行く。
会場の温度は ますます下がって行った。
「ラプ、『のしかかり』!!」
強力なラプラスの『のしかかり』が決まり、カンナのラプラスは 一気に体力を削られていく。
「『ふぶき』。」
ラプの攻撃が一瞬止まった合間に カンナはまたしても冷気をラプラスに放たせた。
もはや、会場の中は 氷ポケモンの作った冷凍庫状態になっている。
「・・・な、何をたくらんでいるんだ!?
 ポケモンリーグの会場を、南極にでもするつもりかよ!?」
「さぁ、どうかしらね、私はただ・・・・・・」
いいかけたところで、ラプの『のしかかり』が決まった。
四天王との戦いに 1つの区切りが付く。


「交代よ、シバ。
 あなたの有利になるように フィールドを作り変えておいたから。」
「・・・余計なことを。
 俺の力が 信じられないのか?」
ハイタッチしながら入れ替わって行く2人のトレーナーを見て、レッドはカンナが フィールドそのものを冷やしていることに気がついた。
すでに巨大なフィールドは 氷点下を超える冷凍庫。
小型で すぐに体の冷えてしまうピカチュウや、草系で寒さに弱いフシギバナを出せる状況ではないのだ。
「・・・・・・まずいな、はめられた。」

フィールドの上に立った大男、太い筋肉で肉体を固めている・・・は、冷静、かつ燃えるような瞳で レッドの事を見つめていた。
やがて、ゆっくりとした口調で、レッドに話しかける。
「俺の名はシバ・・・
 人もポケモンも 闘い、鍛えれば(きたえれば)どこまでも強くなる。
 俺はそんな 鍛えぬかれたポケモンと 共に生きてきた。
 そして、これからもな・・・」

四天王・次峰(じほう)、シバのモンスターボールがうなる。


72、ポケモンリーグ 四天王に挑戦!
   〜レッドの場合――シバ




「・・・出でよ、イワーク!!」

『さぁー、四天王2の将、シバ、ポケモンを繰り出しました!!
 本来なら、すぐにでも バトルを始めるところなのですが・・・
 特別ルールによって、ここで 回復するかしないかを選択できます、しかし、渡された『かいふくのくすり』は わずか6つ!!
 レッド選手、どうしますか?』

「・・・・・・回復しない!!
 そっちがイワークで来るなら・・・こっちは、こいつだ、コウッ!!」
レッドはポケモンを交代し、ラプラスのラプに代わり、ラッキーのコウを登場させる。
コウは寒さにふるえながらも、氷のフィールドの上で くるくると踊り出した。
まるで、さきほどの カンナのルージュラに対抗(たいこう)するかのように。


「・・・ふっ、
 『いわ』に『ノーマル』、か、なかなか面白いことをしてくれる。
 きさまの力、試させてもらうぞ、イワーク!!」
シバが合図すると、巨大なイワークは その体をくねらせ、岩で出来た体を コウの方へと向かって突進させていった。
その迫りくる巨大なポケモンを レッドとコウは力強い笑いで迎える。
「教えさせてもらったよ、フィールドもバトルをする時の 戦略の一つだっていうことを・・・
 今のフィールドが 相手に有利になるように作りかえられたものだったら、今度はこっちが作りかえればいい!!
 コウ、『カウンター』、イワークを氷の上に 叩きつけるんだッ!!!」
作戦は成功していた、コウが受けたダメージも大きかったが、イワークが受けたダメージは その更に倍である。
当然、耐えられるわけもなく、次々と出来た巨大な氷の柱をなぎ倒しながら イワークは倒れて行く。

「なるほど、考えたものだな。
 しかし、その小さなラッキーでは、このカイリキーの スーパーパワーは 受けきれまい!!
 ウーッ、ハーッ!!」
シバは 手際良くポケモンを交代する、続けて登場したのは、弱点の少ないノーマルタイプの 唯一の弱点、
『かくとう』タイプの かいりきポケモン、カイリキー。
4本の腕で 手近な氷を 握りつぶして見せる。


「行くぞ、カイリキー、『じごくぐるま』!!」
カイリキーの人並みの身長だが、力強い肉体が コウに襲いかかる。
レッドの鼻先が ピクッと動く。
「受けとめるんだ!!」
「無駄だ、もともと防御の力など、ラッキーには ほとんどそなわっていない!!
 この攻撃の陣、カイリキーにかなうわけが・・・・・・」
途端、猛突進を続けていた カイリキーの動きが止まる。
「・・・・・・だ〜れが、コウに カイリキーを受けとめろなんて言ったんだよ?
 選手は、ハナだ。」
ハナは頭の先でとらえたカイリキーを 力任せに投げ飛ばした。
反動でハナの体もずりずりと後ろに下がるが、それでもカイリキーのダメージの方が大きいのは 誰の目にも明らかだった。
しかし、とがった氷の先で 削り取られた足の裏が 痛々しい。
「・・・ふっ、この氷のフィールドの上では その草タイプでは 戦えたところで、ただでは済まないだろう。
 早く、ポケモンを交代したほうが 賢い(かしこい)のではないか?」
「・・・・・・・・・」

『おぉっ? レッド選手、一体何をしているのでしょう?
 自分の靴を 脱いでおります・・・・・・そして・・・・・・?・・・!?』

レッドは靴を脱ぎ捨てると、裸足(はだし)のままバトルフィールドの上に 立った。
そのまま、力強い足取りを見せているハナと 目と目で合図を交わす。
「・・・・・・なんの真似(まね)だ?」
「靴はいてちゃ、フィールドの地面の温度も、足をケガしちまったハナの痛みも、わかりゃーしねーだろ?
 オレはポケモンじゃない、バトルをしたときの痛み、知らねーんだ。
 だから、これくらいしか、出来ることなんて、ないんだ。
 ・・・でも、さすがに、これはつらいな、・・・ハナぁ、よく大丈夫でいられんな?」
レッドが足の冷たさに ぴょんぴょんと跳ねると、ハナは自慢げに笑った。
すぐ次の瞬間には、カイリキーに向かって 『ソーラービーム』が 発射される。
「おー、外した外した。
 やっぱ、すぐに当るなんて、都合よくはいかねーか?」
「・・・・・・ずいぶんと、姑息(こそく)な真似をしてくれる。
 自分の体を使ってまで、『ソーラービーム』の発射時間を稼ぐとはな・・・」
そう言ったシバのすぐ横を 再び『ソーラービーム』が 突き抜けて行った。
あとには 焼け焦げたような跡だけが残る。
レッドとハナの顔から 笑みが浮かび、本日3度目の『ソーラービーム』が 発射された。
これはカイリキーにあたり、カイリキーは 片ひざをつくほどのダメージを受ける。
「『はっぱカッター』だ!!」
「カイリキー、『からてチョップ』!!」
シバのカイリキーの放った『からてチョップ』が ハナのひたいにあたった瞬間、ハナの『はっぱカッター』が カイリキーの体を切り刻んでいった。
無数に放たれた葉の1つが 急所をついたらしく、カイリキーはハナの目の前で崩れこむ。

『カイリキー、ダウン!!
 レッド選手、フィールド上の不利をくつがえし、軍配をあげました!!』

「・・・・・・・・・フィールド?
 まさか、あの当てる気のほとんど無かった 3発の『ソーラービーム』は・・・・・・!!」
シバは 3度の光線で 焼け焦げたフィールドを見まわして、レッドに視線を送った。
「これからの戦いで、オレのポケモンたちが 戦いやすくするため。
 実際、はだしで氷の上に立ってみて分かったよ、この上で戦うっていうのは かなりキツイ・・・ってな。」


「フェフェフェ・・・完敗じゃないのかえ、シバ?」
四天王の3人目が 薄暗く見えた控え室から 姿を現した。
相当年を食っているらしく、白髪混じりの頭、それに、樫の木で作られたような杖をついている。
「すまない、キクコ。」
シバがすれ違いざまに 声を掛けると、キクコと呼ばれた老婆の杖が 音を立てた。
「いいさ、あたしだって、あのボウズと戦いたかったんだ。
 ポケモンを集めて喜んでいるような、あの あまちゃんオーキドに毒された、あのボウズとね。」


73、ポケモンリーグ 四天王に挑戦!
   〜レッドの場合――キクコ




『さあ、四天王も いよいよ3人目となりました!!
 四天王の副将は、トレーナーの中なら 1、2を争う 経験の持ち主、50を超えてなお、現役の座を守っているトレーナー、
 キクコさんですッ!!』

「ちょいと!! それは、あたしが ババァだからってバカにしてんのかい!?
 あたしは まだまだ若いよ、トレーナーやめて 研究者になるなんて、まっぴらごめんだね!!
 特に、あのオーキドみたいな、あまちゃん研究者にはね!!」
その言葉に 図鑑を開いてポケモンの状態を調べていたレッド、それに、レッドの戦いを見に来ていた
グリーン、ブルーは 反応した。
実況が 恐縮してキクコに何度も謝っているなか、レッドの『かいふくのくすり』を持っていた手が 止まる。
「・・・ばあさん、オーキド博士を知ってるのか?」
「ばあさんとはなんだい、ばあさんとは!!
 オーキドはね、あたしの昔のトレーナー仲間だよ、今は何でもないけどね。
 あのジジイ、『ポケモンのことをもっとよく知るべきだ』なんて言って、さっさと引退しやがって!!
 ジジイ、昔は強くていい男だった、今じゃ、見る影もないがね。
 『ポケモン図鑑』なんか作ってるようじゃダメだ、ポケモンは、戦わせるものさ!!」

「・・・・・・オレは、そうは 思わねーよ。
 戦っていなくても、ポケモンに 心を救われている奴もいる。
 ポケモンを友達として、心を通じ合わせて、いつも一緒にいる奴だっている。
 だいたい1年間、オレは カントー中、旅してまわってた。 そんなかで、オレは、そういう奴ら、見てきたんだ。
 ポケモンは、戦わせるだけの道具じゃない。」

『おおーっと、レッド選手、勇敢(ゆうかん)にも キクコさんに反論しまし(ギロッ)・・・・・・すみません。
 ハイ、レッド選手のポケモン、回復を済ませたようですね。
 それでは『四天王に挑戦!』、第3戦、スタートです!!』


「行くんだよ、アーボック!!」
「ユウッ、出番だ!!」
出てくるなり 鋭い牙で噛みつこうとしてくる どくへびポケモン・アーボックを ユウはすばやいステップで避ける。
そこは やはり若さの違いか、ユウは足を生かし、アーボックの射程外を ぐるぐると回り始めた。
「・・・このユウはな、クチバに住んでる、1人のちっちゃな女の子の心を救ったんだ。
 おびえて泣いてばかりだった 女の子の名前をとって、この『ユウ』につけた。
 その時は、1度も戦っていなかったけど、その子には、笑顔が戻ってたよ。
 ・・・・・・・・・ユウッ!!」
レッドの合図で ユウは地面の下にもぐりこむ。
ユウの姿を見失って はいずりまわっているアーボックに ユウの強烈な一撃がくわえられた。
一瞬ひるんだスキを狙って、もう1撃。
すぐにアーボックは倒れ、キクコは 苦々しい顔を浮かべる。

「・・・・・・ふん、使えないポケモンだね。
 お行き、ゲンガー!!」
キクコが レッドの持っているポケモン図鑑を睨みつけながら 2匹目のポケモンを繰り出してくる。
出てきたのは、シャドウポケモン、ゲンガー。
気体の体を持つ、通称 幽霊ポケモンだ。
「・・・ゲンガー、タイプは、『ゴースト』、『どく』か・・・・・・
 ユウ、あまり長期戦には持ちこむな、一気にたたみ掛けるぞ!!」
レッドがそう言うと ユウは得意の『あなをほる』作戦に出た。
あっという間に 地面の下に穴ができ、ユウの姿は どこにも見えない。
しかし、キクコはさすがは 年の功(ギロッ)・・・失礼、経験の豊富さからか、落ち着き払った様子でゲンガーに指示を出す。
「ゲンガー、空に飛びあがるんだよ。 奴は、おまえの姿を探せなくなる。」
すぐにゲンガーは それほど高くないところを 飛び回り始めた。
レッドのあせった表情が よく見える。
「フェフェフェ・・・地面ポケモンは、相手の動きを見て それに応じた攻撃をする・・・
 相手が地についていなきゃ、良く効く攻撃を持っていても、当てることが出来んだろ?」
「・・・・・・まずっ、ユウ!!」
レッドの声は ほとんど聞かせる相手のいない フィールドの上を走り渡る。
その声が響いた少し後から ユウは 地面の下から顔を覗かせた。
その瞬間を狙った攻撃がとび、『ナイトヘッド』の一撃で ユウは2〜3メートル先まで 飛ばされる。

『おぉーっと!? レッド選手のサンドパン、ユウ、戦闘不能のようです!!
 相性上は有利だっただけに、これは痛いか!?』

「・・・・・・バカッ、なんで出てきたんだ!?
 あんなタイミングで 外に出たら、攻撃が飛んでくるなんてこと・・・・・・え?」
場外まで飛ばされたユウを 抱え上げた時、ユウがどこかを指していることに気が付く。
しばらく ユウの目を見つめていたレッドは やがて、大きくうなずいた。
「・・・わかったよ、おまえが倒れてまでやったこと、ムダにはしない。
 絶対勝ち抜くから、安心して休んでろよ。」
ユウの茶色いからだが 赤白のモンスターボールの中に収められた。
それを 腰についているホルダーの中にしまうと、レッドはキクコを真っ直ぐに見つめ、モンスターボールを投げる。
「ピカッ、何がなんでも あのゲンガーを倒すんだ!!
 ・・・・・・・・・・・って、あれ、ゲンガーは・・・どこ行ったんだ?」
「・・・フェフェフェ・・・・・・」

『なんと!? キクコさんのゲンガー、消えてしまいました!?
 これは一体どうしたことなのか、謎は 誰にも解けませんッ!!』

「ピカチュ!?」
「落ちつけ、ピカ、いくら幽霊ポケモンだからっていっても、姿を完全に消すなんて、出きるワケがないんだ!!
 今、探すから、その場を動くんじゃねーぞ!!」
辺りをキョロキョロと見まわすピカに レッドは声を掛ける。
図鑑を片手に 必至にフィールドの上を見つめて。
「・・・『ゲンガー、シャドウポケモン・山で遭難したときに 命を奪いに暗闇から現れることがあるという。』
 暗闇・・・から? ・・・・・・もしかして・・・・・・!!
 ピカ、今から オレが言うとおりに走るんだ!!
 とりあえず、まっすぐに!!」
パニックを起こしかけながらも ピカはとにかく 真っ直ぐに走り出す。
すると、ガリガリ、という 妙な音が響き始める。
「そこを 右だ!!」
べちょべちょとした ぬれたフィールドが泥しぶきを上げる、それは、少しずつ人のようなの形を かたどり始めた。
「その泥だまりを ぐるぐると回って!!」
なかば やけっぱちで ピカは泥遊びをするかのように 泥だまりを走りまわる。
すると、泥をいっぱいに被った(かぶった)『何か』が 泥だまりを飛びだして ピカの方へ迫ってきた。
「今だっ、『10まんボルト』!!」

『・・・・・・えーと、一体、何が起こったというのでしょう?
 意味もなく走りまわっていたピカチュウが 電撃を撃ったと思ったら、泥だまりの上に 突如(とつじょ)として、ゲンガーが現れました。
 キクコさんのポケモンは、ひとまず、全員戦闘不能ですから、この試合はレッド選手の 勝ちとなりますが・・・?』

「・・・・・・分かっとったというのかえ? ゲンガーが 消えたからくりを・・・・・・?」
「ピカの、影の中に 隠していた・・・?」
それだけ聞くと、キクコは 何も言わずに ゲンガーをボールの中へと収めた。
かすかな笑いを浮かべて、くるりと後ろを向いて、真っ直ぐに歩き出す。

「いっておくがね、次の四天王、ワタルは あたし達の将・・・・・・
 今までの四天王より ずっと強いんだから、覚悟しておくことだね、フェフェフェ・・・」


74、ポケモンリーグ 四天王に挑戦!
   〜レッドの場合――ワタル




「でてこい、コウ。」
レッドはモンスターボールの中から ラッキーのコウを取り出す。

『おぉっと? レッド選手、ラッキーを出しています。
 早くも、次の相手と戦うのでしょうか?』

「・・・・・・違うって、こいつに 回復を手伝ってもらうんだよ。
 コウッ!!」
レッドがコウのまわりにモンスターボールを並べると、コウは笑って腹の中から キラキラと光る球を放り出す。
それらは、吸いこまれるようにモンスターボールの中へと消えていった。
同時に ふらふらとコウが 倒れる寸前まで疲れ切った様子を見せる。
「『たまごうみ』、ごくろうさん。
 ホラ、『かいふくのくすり』だ、使えよ。」
「・・・・・・なるほどな、体力の高いラッキーに 他のポケモンの回復をさせることで、
 『かいふくのくすり』を使う数を 減らしたのか、俺の相手は、ずいぶんと頭の回る奴のようだ。」
差し出された薬を コウがおいしそうに飲んでいる時、バサバサとした音と共に 四天王の入場口より、人影が現れる。
翻す(ひるがえす)マントの色は黒、堂々とした風格を持ち、その男は、いかにも最強とすらうたわれる 四天王のリーダーらしき人物だった。
「俺は、四天王のリーダー、ドラゴン使いのワタルだ。
 よろしく。」

『さあ、いよいよ『四天王に挑戦!』も 最高潮に達してきました!!
 最後の四天王は、扱いの難しいとされる、ドラゴンを自在に操る、四天王の若きリーダー、ワタルです!!
 それでは、各自用意はいいですか?』

2人のトレーナーは モンスターボールを構える。
試合開始の旗が振られると同時に モンスターボールは地面の上へと打ち下ろされた。
「ギャラドス!!」
「ピカ、頼むッ!!」
ボールから出た途端、ピカは得意の スピードでかく乱する作戦へと出る。
直後、ギャラドスは6メートルはある 巨大な体をうねらせ、なんと空中を飛んでピカへと急接近する。
「叩きつけるんだ、ギャラドス!!」
「ピカ、こっちだ!!」
2人の声が同時にフィールド上にこだました瞬間、ギャラドスの尾は地面を撃ち、ピカチュウの姿は消え去った。


「・・・・・・消えた?」
そう、ピカの姿は、どこにもないのだ。
あるのはただ、動揺して 辺りをひたすら見回しているギャラドスと、2人のトレーナー、
それに、対戦ポケモンが消えたことでどよめいている観客たちだけだ。
間違いなく、レッドはそれを知っているのだが、声を出さない。
ずっと、チャンスを待っている。
「・・・ラチがあかないな、ギャラドス、『あばれる』!!」
ワタルの一声で ギャラドスは辺り構わず じたばたと暴れ出した。
しかし、体は巨大、体重は200キロを超え、力だって半端ではないギャラドスがそれを行っているのだ、辺りの被害は半端ではない。
「よしっ、しびれを切らしたな!!
 ピカ、出てきて『10まんボルト』!!!」
レッドが叫ぶと、何もなかったはずのところから 突然 黄色い球体が飛び出してくる。
それは、一瞬光ったかと思うと、その光をギャラドスの方へと 弾き飛ばした。
ギャラドスは 光の固まりの電撃に当てられ、すぐに戦闘不能へと追いやられてしまう。
「・・・くっ、戻れ、ギャラドス!!」

『・・・・・・な、何が起こったのか分かりません!?
 消えていたと思われていた ピカチュウが現れ、そのまま、ギャラドスへ攻撃、ギャラドスはダウンです!!』

2つ目のボールを構えたワタルは 泥だらけのピカをなでているレッドを見据えて話し出した。
「地面に潜らせていたのか、地面ポケモンが柔らかくした このフィールドを利用して・・・・・・。
 なかなか、面白いじゃないか、普通の人間にはない発想だ。
 しかし、次も上手くいくとは限らないぞ?」
レッドはそれに 挑戦的な視線で応える。
ワタルのハイパーボールが 音をたてて開いた。
「ドラゴンポケモンのカイリュー、俺の、切り札だ。
 どうする、挑戦者、その小さな電気ねずみで また戦うのか?」
「い〜や、交代させてもらうよ。」
レッドは2メートル近くある 巨大な翼(つばさ)を持ったポケモンを見つめ、ピカをボールへと戻した。
代わりのモンスターボールをそっと、地面の上に放つ。
その中から飛び出してきたポケモンには 誰もが驚きの色を隠せなかった。

『・・・・・・、え〜と、レッド選手、私の考えでは、てっきりラプラスが出てくると思ったのですが・・・
 一体、どういう選択なのでしょう、
 ・・・イーブイです、レッド選手、相手のカイリューに対し、イーブイを出しました!!』

「準備はいいな、サン?」
レッドのしっかりとした口調に サンはゆっくりと大きくうなずいて応えた。
その態度が このミスとも取れるポケモンの選択が 間違っていないことを告げている。
「・・・驚いたよ、その進化しそこなったポケモンを わざわざ選ぶなんてね。
 同情をひこうという作戦なら、まず それはあり得ないと言っておこう。
 行くぞ、カイリュー、『りゅうのいかり』!!」

「サン、『かげぶんしん』!!」
レッドが叫ぶと サンはスピードを生かし、その小さな体の幻影を いくつも繰り出した。
しかし、そこは進化前と進化後、相手のほうがスピードが速かったせいか、『りゅうのいかり』の攻撃をまともに受けてしまっている。
「もう1度だ、サン!!」
レッドは叫んだ。
サンは急いで置きあがると、飛び掛ってきた攻撃をかわし、さらに幻影の数を増やす。
「・・・やはりな、体力の低いイーブイでは、回避率を上げて 小さな攻撃を重ねていくしかない。
 しかし、これはどうかな?
 カイリュー、接近して『たたきつける』攻撃!!」
「『こうそくいどう』!!」
ワタルの余裕を持った攻撃を サンはギリギリの所でかわし、フィールドの端の方へと逃げ出した。
その小さな茶色の物体を カイリューは飛んだり跳ねたり走ったりしながら追いかけて行く。
「どうした、追い詰められてばかりじゃないか?
 これでは・・・・・・・・・!?」

ボコンッ!!

突如(とつじょ)、カイリューの身長が 半分以下になった。
地面が抜け、穴になった所に カイリューの巨体が見事にはまったのだ。
「・・・っしゃ、成功、サン!!」
レッドが声を出すと サンはくるりと体を反転させ、カイリューへ『でんこうせっか』をしかけてから戻ってきた。
すぐに モンスターボールの中へと戻り、レッドはそれを受け取った直後に 今度はラプのモンスターボールを放り出す。
ラプはレッドの指示で すぐさまカイリューの翼を凍りつかせた。

『・・・・・・な、な、なんと!?
 カイリュー、突然の地盤沈下により、動きが取れなくなり、ダウン!?
 これで、ワタルのポケモンはいなくなってしまいました!!
 よ、よって、レッド選手、決勝進出ですッ!!!』

恐らくは どうしてそうなったのかも分かっていないはずだが、会場は割れんばかりの歓声に包まれていた。
その中でワタルは ゆっくりとした足取りでレッドの方へと近づき、右手を差し出す。
一瞬、眼を瞬いた後、レッドはそれを ぎゅっと握り返した。

「カンナと戦っていたとき、か?
 あの仕掛けを思いついたのは・・・・・・」
ワタルはカイリューをボールへと戻す。
その後には 大きな穴があいていた。 カイリュー以上の 大きな穴が。
「いいや、実はさ、ユウが勝手にやったことなんだ。
 おかげで、こっちの大型ポケモンまで、うかつに出せなくなっちまったんだけど、でも、チームメイトだしさ、オレたち。」
「・・・・・・ずいぶんと、頭の切れる仲間のようだな、君のポケモン達は。
 まさか、フィールドの下全体に 空洞を作るなんて、本当に、思いもよらなかったよ。
 久々に楽しいバトルだった、ありがとう。
 ・・・本来は 言ってはいけないことではあるんだが・・・決勝、がんばってくれよ。」


レッドは笑って大きくうなずくと、後ろを向いて ポケモンたちを連れて一気に走り出した。
恐らくはまた、期限ギリギリまで修行を続けるのだろう。
数日後に控える 決勝戦のために。


<次に進む>

<目次に戻る>