<各話の1番最初に飛べます>
78、開始 79、意地っ張りなポケモン 80、ハンディキャップ 81、心理戦 82、リザードン
78、ポケモンリーグ 決勝
レッドVSグリーン―――開始
『さあ、盛り上がっていたポケモンリーグも このバトルが最終戦!!
いよいよ、決勝戦が始まります!!
対戦者は『四天王に挑戦!』を あざやかに勝ち抜いた マサラタウンのレッド選手、
対するは2日前、素晴らしいバトルを見せてくれた 同じくマサラタウン出身、グリーン選手です!!』
「『むしず』が走るな、レッド、お前と同じ町から来たなんて 紹介されちまうとさ!!」
グリーンは 嫌味(いやみ)な笑いを浮かべながら わざわざレッドに聞こえるような大声で 話し出す。
レッドは自分のモンスターボールを握ると、グリーンへと向かって 強い視線を向け、眉をひそめた。
「『町』って、マサラタウンのことか?」
「他にどこがあるんだ、まったく、あんな田舎町から来たなんて紹介、ため息ものでしょうがないっての!!」
深く被られた 赤い帽子の下から 怒りに燃えた瞳がのぞく。
真っ直ぐにグリーンを見つめる、栗色の瞳が。
「それでは両者、構えてください!!」
審判の声の直後、それこそ自分の声も聞こえなくなりそうな歓声が 会場の中へと響き渡った。
物のたとえではなく、本当に会場の手すりもが ビリビリと震えている。
レッドとグリーンの手には それぞれモンスターボールが握られていた。
一瞬、声が小さくなったスキを見計らって 審判の旗(はた)が 音を立てて振られる。
「・・・ラ・・・・・・!!」
叫ぶような大声がラプへと届く前に レッドのほおは小さく横一文字に線を作った。
何が起こったのか分からず、レッドがほおに手を当てると、鉄の匂い(におい)のする赤い液体が 指先についている。
『(・・・・・・かまいたちって、知ってるかしら?
空気が渦巻き、真空状態を作ることによって 服や、人やが切り裂かれる現象・・・
実は、ポケモンに対しても それは有効なのよ、真空を作ることによって、相手を切り裂く・・・・・・)』
いまごろになって、ツバキの声が頭の中に再生される。
それほど難しくない仮説が レッドの頭の中に浮かぶのに 時間はかからなかった。
「・・・・・・まさか、グリーン、お前の1番手・・・って・・・」
「知ってるみたいだな、
グレンタウンの研究所で手に入れた、プテラだ。」
灰色の線が 空中を旋回してフィールドの上へと降り立つ。
筋張った体に巨大な翼、鋭い牙のついたあごを持つそのポケモンは レッドがグレンで見たものと全く変わらなかった。
「・・・ラプ、負けられねぇ。
それは、分かってるよな?」
聞こえるはずもないくらいの小さな声は ラプへと届いていた。
ゆっくりとラプがうなずいた直後、ピリピリするくらいの闘志が 感じられる。
「『れいとうビーム』!!」
凍てつくような白い息が ラプラスの口から発射される。
途方もないくらいの威力を持った光線は なんなくかわされ、フィールドに氷の柱を作った。
「相変わらず、考えなしの攻撃だな!!
プテラのスピードは並じゃない、普通に攻撃した所で、当てられるわけもないだろう?」
グリーンの嘲笑は 観客席の最後尾から見ても分かるほどだった。
大きく翼を広げ ぐんぐんと上昇したプテラは 点になるほど高いところで一旦止まり、くるりと向きを変えてラプの方へと急降下してくる。
「『とっしん』だ!!」
「・・・く、ラプ、避け・・・・・・・・・いや、ラプ!!」
風を切りながらラプラスへと猛進してくるプテラは まるで宇宙から飛んできた隕石のようだった。
誰もが攻撃を避けるだろうと思ったが、ラプは 自分に向かってくるプテラを見つめ、動かない。
「『れいとうビーム』!!」
突進してくるプテラが攻撃を与えるのより、ラプの『れいとうビーム』が命中する方が 一瞬早かった。
しかし、真っ直ぐに突き進んできたプテラを止められたわけではなく、岩のようなプテラの体は ラプに見事に命中する。
「・・・・・・プテラ・・・倒れたか。
まあいい、あれだけのダメージを与えたんだ、次で充分まき返せる。」
グリーンはフィールドの上で横たわっているプテラを ボールへと戻した。
それを腰のホルダーへと戻すと、次に控えるポケモンを取り外し、手の上で転がす。
「・・・グリーン。」
レッドは フラフラになりながらもかろうじて持ちこたえているラプの首をさすりながら言った。
「お前さ、あの町・・・・・・マサラタウンは、好きか?」
「・・・・・・・・・?
何を言っているんだ、あんな、何もない田舎町を好きになる物好きが、一体どこにいるって言うんだ?」
グリーンは 軽く笑いながらモンスターボールを開く。
飛び出してきたのは 3つ頭を持つ、ナッシー。
そのポケモンにも レッドは 全く反応を示さなかった。
「オレは、マサラタウンが好きだ。
何も無い町、真っ白な町、ハナと初めて会った町、オレが生まれた町・・・・・・
あの町がなかったら、オレは『始まらなかった』・・・」
「ふっ、相変わらず あまちゃんだな。
そんな、町の一つ一つに 思い入れなんてかけてたら、いつまでたっても強くなんてなれない、判っていることだろう?
・・・ナッシー、『サイコキネシス』!!」
3つ頭のポケモンから 強力な念波が発せられ、ラプラスは3〜4メートル吹き飛ばされた。
直前に『れいとうビーム』を放っていたらしく、グリーンのすぐ近くに立っている氷柱が 1メートルくらい太くなる。
「・・・・・・大丈夫か、ラプ?
ゆっくり、休んでろよ・・・・・・な〜んて、オレじゃ、不安かな、やっぱ?」
半透明のスーパーボールの青い空間からは ラプラスが首を横に振る姿が見えた。
そして、気付きこそしなかったが、首を縦に振るピカの姿も。
「・・・分かっちゃいるんだ、人や町やポケモンに思い入れを入れない方が、効率がいいってことくらい。」
「(・・・・・・へぇ、ラプラス、っていうのか、お前・・・
それじゃ、ラプだな、今日からオレたちのチームに入る、ラプラスの『ラプ』!!)」
レッドは 真っ直ぐに前を見た。
ナッシーとグリーンが 合計8個の瞳で レッドが次のポケモンを出すのを待っている。
「でも、そんなの、人間らしくないし、オレらしくない。
だから、オレはオレらしく強くなる、もっと、強くなる!!!」
レッドはモンスターボールを開いた。
中からは 鋭い爪をこれでもかとばかりに磨き(みがき)上げたユウが ナッシーを睨む。
「・・・・・・そうだ、ここは、ゴールじゃない。
先へ進むぜ、ユウッ!!!」
79、ポケモンリーグ 決勝
レッドVSグリーン―――意地っ張りなポケモン
『・・・・・ったく、たいしたやつだよ、おまえは。
いいか? 今日から おまえの名前は『ユウ』だ!! 夕焼けの『ユウ』!!』
ユウはフィールドの上に立つと、うっすらと笑ったように見えた。
それを2人のトレーナーが確認できないうちにナッシーの放った『タマゴばくだん』が飛んで来て、
表情は一転、きびしい顔へと戻り、小さい体つきながらも 驚くべきスピードでフィールド上を走りまわる。
「分かるよな、ユウ、オレの考えてる作戦・・・・・・」
レッドは歓声にかき消されそうな声で ユウに語り掛ける。
ユウはうなずくことはしなかったが、代わりに走り出した。 3つの頭と6つの瞳で自分を見つめる 対戦相手のポケモンへと向かって。
『さぁ、レッド選手とグリーン選手、両者の1匹目のポケモンはすでに倒れ、お互いに2匹目のポケモンへとなりました!!
グリーン選手は 前回の試合で素晴らしい活躍を見せてくれた ヤシのみポケモン・ナッシー、
レッド選手は『四天王に挑戦!』で 暴れてくれた、ダークホース、サンドパンです!!』
実況が言葉を終えるのを待たず、ナッシーは無数のタマゴ型の物体をユウへと向かって打ち出していた。
ユウも、のんびり構えることなどはせず、すばやい動きでその1つ1つを避けていく。
地面に落ちた途端にタマゴ型の物体は爆発しているのだから、その判断は間違ってはいないのだろうが・・・
「どうした、避けてばかりでは 決定打なんて与えられない。
分かっているんだろう、マサラタウンのレッド!!
このままでは、いずれナッシーの放った『タマゴばくだん』が 命中するのは!!」
「走れ、走れ、ユウ!!」
地面で次々と起こる爆発をかいくぐり、ユウは茶色い体を、その姿を現した。
スピードを生かして ナッシーの周りをぐるりと一周すると、砂煙を上げて停止し、ナッシーの方へと向き直る。
「ユウッ!?」
レッドが指示したのかどうかはともかく、ユウはナッシーの方へと突然、走り出した。
打ち出されてくる『タマゴばくだん』をかいくぐり、するどく磨かれた(みがかれた)爪で ナッシーの体に傷をつける。
「・・・・・・何のつもりだ、ナッシー、『ふみつけ』!!」
「ユウ、『あなをほる』で逃げるんだ!!」
自分の体に傷をつけられた怒りか、ナッシーの全力の『ふみつけ』を ユウは地面に潜って(もぐって)かわした。
潜った先の穴に 思いっきり踏みつけた足がはまり、ナッシーの動きが一瞬止まる。
「ナッシー、焦るな(あせるな)!!
サンドパンが出てくるまで、一瞬の間がある、『ソーラービーム』の準備をするんだ!!」
グリーンの鋭い声が 会場中に響き渡る。
その瞬間、レッドの目元が ピクッと反応した。
「ユウ、聞こえたか!?」
すぐに ユウは地面の下から這い(はい)上がってきた。
目の前には 対戦相手のサンドパンへと『ソーラービーム』を構える ナッシーの姿がある。
歓声にまぎれて聞こえるはずもないのに ユウの鋭く息を吸う ひゅっ、という音は 会場中の誰にも聞こえていた。
「チャンスは、今しかないッ!!!
ユウ、やるんだ、『じわれ』攻撃!!!」
会場中の誰もが、息を飲んだ。
滅多(めった)なことでは見ることの出来ない、1撃必殺の大技。
ユウが地面に爪の先を当てていくと その部分から地面が音を立てて割れていき、巨大な地割れが発生した。
大技を構えていて 一瞬反応の遅れたナッシーは その空間へと足を踏み外して まっ逆さまに墜落していく。
「まさか、最初から狙っていたのか?
サンドパンを出した瞬間から、決め技は、『じわれ』だと・・・・・・」
墜落したナッシーをモンスターボールへと戻すと、グリーンは眉をひそめながら レッドに尋ねた。
レッドはそれに ゆっくりと頭を縦に振って答える。
「もっと言うと、ナッシーを出した瞬間から、な。
一応、ナッシーも草タイプ、グリーンだったら、同タイプの技を持たせてないはずがないと思った。」
それを聞くと、グリーンの顔から一瞬、笑みが消えた。
しかし、すぐに 強大な笑い声が フィールドいっぱいに響き渡る。
「・・・・・・ハハハハッ!!!
まさか、あの単細胞が、ここまで考えるようになっていたなんてな、正直、驚いた!!
だけど、最後に勝つのは俺だ。 俺は、最強のポケモン達を集め、そして、育て上げた!!
絶対に負けたりなんてしないんだ!!」
レッドは 怒りすらも誘いそうなセリフに 全く反応を示さなかった。
指の先でモンスターボールを転がし、ひたすら次のポケモンが出てくるのを待っている。
「・・・次のポケモンが出てくるまでの時間を埋めるために言っておくけどさ、
オレは、最強のポケモンは、そろえてねーな、育て切ったわけでもねーし・・・・・・
だから、今、すっげー楽しいよ、こいつらと一緒に、強くなれる、育っていける。」
「そんな強がり、いつまで言っていられるか?
すぐに、俺の言うことが正しかったって、証明されるさ、
レッド、お前が敗北することによってなっ!!!」
グリーンはモンスターボールを放った。
ボールが開かれる時特有の 一瞬の閃光とともに グリーンのポケモンとしてはよく出てきているポケモン、フーディンが姿を現す。
「出たな、ひげオヤジファイナル・・・!!
ユウッ、引き続き、頼むぜ!!」
レッドの声と同時に ユウはフーディンの方へと向かい、弾丸のように飛び出した。
その真っ直ぐな瞳をグリーンは笑って見つめている。
「フーディン、『サイケこうせん』。」
真っ直ぐに進んで行ったユウを フーディンは迎え撃った、エスパータイプの技、虹色に輝く光線で。
避けるひまもなかったユウは 光線にまっすぐに命中し、攻撃をフーディンに届けることの出来ないまま、弾き飛ばされる。
「大丈夫か、ユウ!?」
レッドが叫ぶと、地面の上で横たわっていたユウは ふらふらと起きあがった。
そのまま、指示を待たずに 再びフーディンへと向かって走り出す。
「・・・・・・やれやれ、トレーナーがバカだと、ポケモンにも それが移るものらしいな。
思い知らせてやれフーディン、『サイコキネシス』!!」
グリーンの指示で 強力な念波がユウへ向けて発射される。
ユウがフーディンへと攻撃の手を向けた一瞬、再び、ユウの体は遠くへと弾き飛ばされた。
「・・・ユウッ!?」
自分の背後へと弾き飛ばされ、壁に叩きつけられ、ユウはぐったりとして動かなくなった。
近寄って様子を見て 命に別状がないことは分かるが、それでも、全身は傷だらけで とても戦える状況ではない。
「まったく、暑苦しいったらありゃしない。
単細胞のポケモンは、こんな熱血することしかできない奴らばかりか?
もっと、きちんとポケモンを選んで・・・・・・」
「黙れッ!!!」
レッドが突然叫び、グリーンの動きが一瞬止まる。
その驚いた視線の先には 怒りの表情を真っ直ぐに向けた マサラのトレーナーがいた。
「・・・・・・オレのことなら、バカだろうが単細胞だろうが、勝手にののしっててもかまわねーよ。
だけどな、ポケモンたちをバカにすんのは、絶対にゆるさねぇ!!
こいつらは、オレの大切な、仲間たちなんだ!!!」
80、ポケモンリーグ 決勝
レッドVSグリーン―――ハンディキャップ
『太陽みたいに いっぱい笑えるように、『サン』!!
決まりったら決まり!!』
モンスターボールから飛び出してきたサンは 天に向かって1鳴きした。
ピカチュウよりも小さく、女の子の気を引くために存在するような 可愛らしい長い耳と大きな尻尾、
明るいブラウンの毛に引き立てられて 一層(いっそう)柔らかく見える首の周りの毛が 太陽の光で金色に輝いた。
「・・・・・・イーブイの、まま、だと?
レッド、一体何を考えているんだ、進化させないと、ポケモンなんて強くなれるわけがないだろう?」
グリーンの疑問を持った、軽蔑しているようにも見える眼差し(まなざし)を レッドは軽く払って追い出した。
息を整えて精神を統一させると、迷いのない目で相手の方を見つめ続ける。
「きゅ・・・・・・」
サンの方も、どうして自分が出ているのか分からず、不安を持っているようだった。
びくびくしながら構えているサンを見て、レッドはうっすらと笑って サンにしか聞こえないような声で話しかけた。
「大丈夫、おまえは強いよ。
いつだって そうだったじゃねーか、相手は サンがかわいらしーからって、油断するんだ。
ずっと、一緒にやってきたんだ、負けたり、しねーよ。」
レッドの言葉を聞くと サンの顔から 迷いが少しずつ消えていった。
相手のフーディンがスプーンをくるくると回し始めると、勇敢な顔つきとなって、足に力を入れる。
「・・・・・・交代だ、フーディン!!」
グリーンはレッドたちの様子をしばらく観察すると、不意にそんな指示を出した。
瞬時にフーディンがモンスターボールの中へと戻ると ほぼ入れ違いざまに別のボールをフィールドの上へと投げつける。
登場した4つ足の1メートルくらいのポケモンは 泡の弾けるような鳴き声で自分の存在を知らせた。
「シャワー・・・ズ?」
「そう、イーブイの進化系だ。
お前がそこまで言うのだったら、こいつを相手に勝って見せればいいだけの話だろう?
『出来ない』とも、言わないよな?」
レッドは答えの代わりに『でんこうせっか』の指示を出した。
風のように飛び出した攻撃は 避けようとしたシャワーズの耳先をかすめ、小さな傷をつける。
それを見て グリーンがうっすらと笑った。
「シャワーズ、『バブルこうせん』!!!」
「サン、『かげぶんしん』!!」
シャワーズが吐き出した泡を サンは得意のスピード戦法を使って 次々と避け続ける。
無数に弾けた攻撃の後には 色の変わった土だけが残っていた。
「『みずでっぽう』!!」
「かわして、『でんこうせっか』だ!!」
イーブイの走りまわった後に 次々と水の爆発が起こった。
どちらの出している攻撃も 簡単なゆえ、軌道が読まれやすく当てることが難しい。
戦いは 長引きそうだった。
イーブイが避けてはシャワーズが撃つ、それを ひたすら繰り返している。
「レッド、ムダだとは思わないのか?
撃っては避ける、ひたすらこれを繰り返すばかりでは、いつまで経っても『らち』があかないと・・・」
「・・・・・・・・・」
レッドはだまって腰のモンスターボールに手を当てた。
それを見て 突然イーブイの動きが速まる。
「・・・ポケモンの方が、シビレを切らしたようだな。
シャワーズ、迎え撃て『ハイドロポンプ』!!!」
「『とっしん』だ、サン!!」
レッドの一声で、サンの動きがますます速まった。
シャワーズ最大の攻撃、『ハイドロポンプ』を受けてなお、その動きがとどまることは ない。
「『とっしん』だ!!!」
レッドは攻撃の指示を止めることはなかった。
その気持ちに応えるように、水の動きの切れた瞬間、サンはシャワーズに向かって走り出す。
激しい音と共に、シャワーズの横っ腹に サンの体が衝突した。
『おぉっ!? イーブイの『とっしん』攻撃、シャワーズの急所に当ったようだぁ!!!
シャワーズ、これには耐えられなぁい、たまらずダウンです!!!
・・・・・・・・・あっ!?』
「サン、・・・・・・・・・大丈夫か?」
レッドは審判が止めるのも聞かず、フィールド上のサンへと駆け寄った。
小さなイーブイは 全ての力を使い果たし、水の張った地面の上で ぐったりと倒れこんでいる。
自分の服がぬれるのも気にせず レッドはサンを抱き上げると、首の後ろを軽く くすぐった。
「お疲れさん、後は、他のやつらに任せて、ゆっくり休んでいろよ。
お前は勝ったよ、強い・・・ポケモンだ。」
それだけ耳元でささやくと、レッドはサンをボールへと戻した。
丁寧に腰のホルダーにそれを戻すと、自分のいるべき場所まで戻り、残ったモンスターボールをゆっくりと取り外す。
「引き分け・・・・・・か、自分の進化前のポケモンにすら勝てないなんて、たいしたことないな、シャワーズ・・・
しかし、こいつは違う、伝説のポケモンだ、行くぞ!!」
グリーンはハイパーボールを投げた。
途端、ほつれた糸のような雷が、レッドの横をかすめ、飛んで行く。
まぎれもなく、それは伝説のポケモンの1匹、でんげきポケモン・サンダーだった。
「さぁ、レッド、お前も持っているんだろう? 伝説のポケモンを・・・
こいつに対抗できるのは、伝説のポケモンだけだ、出してみろよ、フリーザーを!!!」
レッドは ゆっくりと手に持ったモンスターボールを天にかざした。
そして、大きく振りかぶって フィールドの真ん中へと それを投げる。
中から出てきたポケモンには会場中の誰もが言葉を失った。
81、ポケモンリーグ 決勝
レッドVSグリーン―――心理戦
『しあわせポケモン、か!!
それじゃあ、今日から おまえの名前は『コウ』、幸運を呼んでくる仲間だ!!』
40センチの小さなでんきねずみは バチバチと音を立てて空を飛ぶ 巨大、そして強大なポケモンを見上げ、電気袋をパチパチといわせた。
会場中のどよめきは レッドの耳にも届いている。
しかし、まったくそれを気にする様子は見せていなかった。
「ピカ、分かってるよな?」
レッドが顔を見ることなく ギリギリ届くか届かないかくらいの声で話しかけると、
ピカは真っ直ぐにサンダーを見つめたまま うなずいた。
その向こうでは、グリーンのイライラしたような顔が 見えていた。
真っ直ぐにレッドの方へと指を突き出すと、上空のサンダーを見上げ、指示を出す。
「サンダー、そのふざけたピカチュウに『かみなり』を見舞ってやれ!!」
サンダーはバチバチと羽根の間から音をさせると、ピカ目掛けて 強大な雷撃を放出した。
ピカは 避ける様子を見せることなく、真っ直ぐに自分に向かってくる光の固まりを見上げ続ける。
レッドが一瞬、大きく息を吸った。
「ピカ、今だ、飛べッ!!」
レッドの声とほぼ同時に ピカは大きく横に1メートルほど飛びあがった。
直後、耳を割りそうな音を響かせ、サンダーの放った『かみなり』が 水の張ったフィールドに衝突する。
ピカはその一瞬後に、ゴムまりのように地面の上へと転がった。
「・・・自然に起こる雷が狙うのは、地面の上に立った、他より背の高い物体。
雷雲に突っ込んだ場合なら別だけど、普通、空を飛んでいる物を 雷は狙わない・・・・・・
こないだ、試したもんなぁ、ピカ?」
レッドが顔を上げると、ピカは もぞもぞと立ちあがった。
観客がざわめく中、ピカは水の張ったフィールドの上を ぐるぐると走り出す。
冷静な瞳で戦況を見つめ続けるレッドに グリーンの顔から、余裕の表情が消えた。
「サンダーッ!!」
グリーンが叫ぶと、サンダーは大きな羽根を動かし、急降下し始めた。
チョロチョロと動きまわって ピカは襲いかかってくるサンダーをかわし、レッドの足元へと走り寄った。
「よくやった、ピカ。
1度交代だから、休んでろよ?」
レッドはピカチュウをボールへと戻し、手に持ったモンスターボールを手際良く入れ替えた。
あまりにも接近しすぎているサンダーを避けて、交代するポケモンのボールを フィールドの上へと放る。
「それじゃ、頼んだぜ、コウッ!!」
ボールがフィールドの真ん中へと転がると、1メートルほどのポケモンが飛び出し、観客へと向かって愛想を振りまいた。
その様子を、グリーンは気に入っていないようだ、
眉を吊り上げ、短く聞こえそうな息遣い(いきづかい)は やや荒立っている。
その息を落ちつけようとしているのか、一瞬、グリーンは深く息を吐くと、レッドのピカを睨みつけた。
「サンダー、さっきの手でかわされる恐れがある、
『ドリルくちばし』を使え、絶対に そのラッキーを逃がすな!!」
勢いよく スパッとグリーンが言いきると、サンダーは大きな翼を横に広げ、高く上昇し始めた。
太陽に隠れ、眩しさ(まぶしさ)で眼がくらむほどまで飛びあがると、翼の方向を変え、コウへと向かって降下し始める。
翼の動きを利用してか、急速に回転しながら。
「コウ、オレの指示は、グリーンと同じだ。
『絶対に、サンダーを逃がすな』よ、チャンスはきっと、1回しかめぐってこない!!」
レッドの栗色の眼が 黄色い光となってコウに襲いかかるサンダーを見つめる。
4つの瞳が 同時にサンダーを睨んだ時、レッドの口が動き出した。
「コウ、『カウンター』!!!」
地が唸り(うなり)、割れるような音を上げた。
ただでさえ、威力の高い『ドリルくちばし』を、コウは体で受けとめ、ダメージを倍にして、地面へと叩きつけたのだ。
いくら伝説のポケモンと言えど、これで耐えられるわけがない。
水浸し(みずびたし)のフィールドの上には パチパチと音を立てる 巨大な雷の鳥が転がった。
「・・・・・・まさか、サンダーが、こんなろくに攻撃力も持たないポケモンに・・・!?
あのピカチュウも、この展開に持って行くための・・・・・・!!」
グリーンはサンダーをハイパーボールへと戻すと、一気にモンスターボールを投げ、
フーディンの『サイコキネシス』で コウを気絶させた。
フィールドの外まで弾き出された勇者を レッドは抱き上げ、『ありがとう』の声を掛けてボールへと戻す。
そして、ゆっくりと息を吐き、何もかもを見透かしたような目つきでレッドのことを見つめる、フーディンを睨み返した。
「(・・・トレーナーに必要なのは、知力、体力、逆境に打ち勝つだけの精神力・・・
状況は2対2、相手はフーディン、その後には絶対にリザードンが待ちうけている。
どうする、マサラタウンの、レッド!!)」
「ピカッ!!」
レッドはモンスターボールを投げ、さっきまで戦っていたピカを呼び出した。
ピカは水だらけのフィールドの上で 軽く飛び跳ねると、攻撃を受けまいとスピードをつけて走りまわる。
「フーディン、『サイコキネシス』!!」
フーディンが放った強大な念波は 地面の上にたまった水たまりに波を立てた。
その動きで ピカは攻撃の方向に気付き、間一髪のところで 飛んでかわす。
地面の上をころころと転がると、ピカはフーディンへと向かって軽い電撃を放った。
「『でんこうせっか』だ、ピカ!!」
攻撃の合間をぬって、細かいダメージをフーディンへと与えていく。
2発めの『でんこうせっか』が当った時、レッドは攻撃の指示を変えた。
「『10まんボルト』!!!」
目の眩むような光が 会場中、渡り歩いた。
まったく同じタイミングで フーディンの『サイケこうせん』が ピカへと向かって発射されたのだ。
82、ポケモンリーグ 決勝
レッドVSグリーン―――リザードン
『名前の理由?
だって、分かりやすいじゃねーか、ピカチュウの、ピカ!!』
攻撃は、ピカとフーディン、両方に当った。
それぞれ、威力のある攻撃、そして、フーディンはふらふらと力を失いながら ゆっくりと横になる。
しかし、ピカは持ち前の意地を見せつけ、ゆっくりと立ち上がった。
『フ、フーディン、ダウン!!?
グリーン選手、後が無くなってしまいました!!
しかし、レッド選手のピカチュウにも 相当のダメージがあるようです、これは、勝負の行方はわからなくなったか!?』
「グリーン、どうして、そのフーディンが倒れたのか、知ってるか?」
レッドの言葉に、グリーンは『?』といった表情を向けた。
「意地だよ、ピカと・・・・・・ユウの、な。
あいつ、倒れる直前に『きりさく』を 間違いなく命中させていたんだ。
熱血熱血って、おまえは笑うかもしれないけど、でも、オレたちはそれでも進むぜ!!
どれだけ笑われたって、真っ直ぐに、突き進むんだ!!!」
「つきあっていられないな。
根性だけじゃ、どうしようもないことだって あるんだぜ?」
グリーンは笑い、モンスターボールを開いた。
「リザードン、レッドに見せつけてやれ!!
お前より俺の方がすごい、ってな!!」
リザードンは登場するなり 炎を吐いた。
高熱の火炎は フィールドの上に厚くたまった水を 一瞬で蒸発させる。
それを見たピカは 触発されたのか、ほおの電気袋を パチパチと鳴らした。
「・・・ピカ、逃げろ!!!」
レッドから発せられた言葉に ピカは訳が分からなくなった表情で 振り向く。
「逃げて、避けて、とにかく、リザードンの攻撃にあたるなよ!!!
攻撃は、出きるときだけでいい!!」
レッドの表情は真剣だった。
それを見て、ピカは不服そうながら フィールドの上を走り出す。
「・・・・・・まぁ、そうだろうな、
そのピカチュウがいなくなったら、お前に残るのは、フリーザーか、フシギダネの進化系だけだ。
意地でも、そいつを残しておきたいんだろう?」
リザードンは またしても高熱の火炎を吐いた。
必死で避けるピカの後ろに ジュウジュウと熱い湯気が立つ。
立て続けに『かえんほうしゃ』を放ってくるリザードンを ピカは睨みつけた。
「ピカ!!」
レッドは大声を出して、ピカに呼びかける。
「(・・・・・・・・・・・・ごめん、ピカ・・・)」
レッドは声こそ出さなかったが、口がそう伝えていた。
涙目になっているレッドの表情を見て、ピカはもう一度、リザードンの方を睨みつける。
「ぴかちゅうッ!!!」
リザードンに向けて、ピカは甲高い(かんだかい)鳴き声を上げた。
表情に、迷いと苛立ち(いらだち)はなかった。
勇者の顔を持ったピカは 温泉のような湿気の中で 乾きだした地面を走りまわる。
「まったく、そろいもそろって・・・・・・
逃げ回るのなら、逃げ場をなくせばいい、それだけだ。
リザードン、『ほのおのうず』!!」
グリーンが攻撃の指示をすると、リザードンはフィールド一杯に火炎を吐き出した。
技の名前の通り、渦(うず)となった炎は 徐々(じょじょ)にその範囲(はんい)を狭めて、ピカへと迫ってくる。
真っ直ぐにその炎を見つめたピカは ほお袋に電気を溜め(ため)はじめた。
炎がピカの体を囲う(かこう)直前、リザードンの顔を睨みつけ、放電を始める。
「・・・・・・そうだ、暴れてやれ、ピカ!!!
見苦しくったって、お前の意地、リザードンに見せてやれ!!!
『10まんボルト』!!!」
今までの電撃よりも、はるかに強いものが ピカから発射された。
炎に取り囲まれながら放った電撃は リザードンの羽根の先をかすった。
そのまま、熱に打たれ ピカはゆっくりとフィールドの上へ横たわる。
「・・・ピカ!!」
感情を押さえきれず、レッドはピカへと駆け寄った。
抱き上げると、意識はあったらしく、ピカはうっすらと瞳を開け、レッドの栗色の瞳を見つめ返す。
「・・・・・・ぴかちゅ、ぴぃ・・・ピカチュ・・・」
ピカはレッドの瞳を睨みつけた。
でんきぶくろに、雫(しずく)が落ちて、跳ねあがる。
「・・・そうだよな、オレらしくもない。
オレは、リーダーなんだ、どんな時だって、弱気になってちゃいけない・・・!!」
レッドはピカをボールへと戻した。
走って立ち位置まで戻ると、最後の1個、モンスターボールをグリーンへと向かって突き付ける。
「グリーン、こいつがオレの、最後のポケモンだ!!
オレは・・・オレたちは、絶対に負けない、
オレたちは、チームレッドだ!!!」
レッドは赤い色の目立つモンスターボールを 宙へと放った。
それは、地面に落ちた途端、光を放って割れる。
『さぁ、レッド選手の残りポケモンも1体になり、これが、最後のバトルとなりました!!
レッド選手、最後のポケモンは・・・・・・、フ、フシギソウ!?
炎タイプに草、とは・・・レッド選手、運が悪かったとしか言いようがありません!!』
「・・・ふっ、やはり、フシギソウか。
さっきのピカチュウの電撃も、リザードンにはたいしたダメージは与えていない。
レッド、ここまでだな・・・・・・」
グリーンは勝ち誇った笑いを見せる。
しかし、タイプの相性上の不利を分かっているはずなのに、レッドの瞳は死んでいなかった。
胸を張り、ポケモン図鑑を閉じ、あくまで強気な態度をとって見せている。
「すぐに、その意地も崩してやるさ。
リザードン、『かえんほうしゃ』!!」
グリーンは ハナを指差した。
吐き出された火炎を ハナは何とか 走りまわってかわす。
直後、最初のバトルでラプが作り出した氷柱に ハナは逃げ込んだ。
「やはり、そうきたか・・・・・・
リザードン、レッドに敗北の味を教えてやれ!!!
『かえんほうしゃ』で その氷ごと、焼き尽くせ!!!」
リザードンのオレンジ色の炎は ラプの作った氷柱を溶かしだした。
それを見て、レッドの瞳が光る。
「(・・・・・・チャンスは、1度きり・・・・・・
それも、勝てる可能性は、きわめて低い・・・・・・)」
レッドのこぶしが きつく握り締められた。
『――――――おまえ、背中に種しょってるだろ?』
まるで、アルバムを開くように、レッドの頭の中に ハナと初めて会った日のことがよみがえった。
『―――いつかそれが、大きな花に なるだろうから、』
「(そう、オレが、初めてトレーナーになった日・・・・・・!!)」
『―――――だから おまえは 今日から『ハナ』だ!!』
「自信を持て!!!
おまえは・・・おまえは、オレのポケモン、ハナなんだ!!!
どんな相手だって、絶対に負けない!!!」
ハナの背中のつぼみが 激しい光を持った。
むっとした空気の中に 甘い匂いが 渡っていく。
ラプの作った氷が パリンという音を立てて 砕け散った。
「『ソーラービーム』!!!」
ハナの背中から 激しい光の光線が発射された。
それは 1筋の線を描いて リザードンの喉もとを直撃する。
一瞬気絶したらしく、リザードンはぐらりと揺らめき、墜落していった。
「・・・リザードン!?
早く、早く そのフシギソウに『かえんほうしゃ』を放つんだ!!」
「ハナ、『のしかかり』!!」
地面の上に墜ちた(おちた)リザードンを ハナは力いっぱい踏みつけた。
衝撃で リザードンは完全に戦う力を失う。
地の上に横たわった 紅い龍(りゅう)の上には 暑い地方から持ってきたような 見事な花が咲いていた。
会場は 静けさに包まれていた。
恐らくは、レッド以外の誰もが 何が起こったのか、分かっていないのだろう。
ずいぶんと長い時間がたってから どよめきの中でようやく思い出したように 実況の熱い声が響く。
『・・・リ、リザードン、倒れました!?
グリーン選手、6匹全員、戦闘不能です、
――――――よって、勝者は、レッド選手、レッド選手です!!!』
実況の声を合図にして ポケモンリーグの会場は一気に沸き立った。
目の前にいるハナに 体全部を使って感謝の気持ちを示しているレッドを グリーンは呆然と見つめている。
「・・・・・・・・・・・・負けた?
俺が、負けた、何故(なぜ)、どうしてなんだ!?」
レッドは 呆然としているグリーンを 栗色の瞳で見つめ返した。
「負けた理由?
おまえが、ポケモンたちのことを ちゃんと見てなかったから、じゃねーか?」
「ポケモン達のことを・・・?」
「フーディンにユウが攻撃を加えたとき、おまえは気付いていなかった。
それと同じように、リザードンが、この湿気で 炎の力を弱めていたことも・・・・・・
ポケモン1匹だけの力の勝負だったら、どうなっていたかは 分かんねーけどさ、
でも、オレたちは、1人じゃなかったから、7人で戦っていたから、だから 勝てたんだ!!」
魂(たましい)の抜けたような顔で レッドの言ったことを理解しようとしているグリーンを横目に レッドはハナを引き連れて歩き出した。
途端、第1回ポケモンリーグの優勝者へのインタビュアーに囲まれ、レッドは動きが取れなくなる。
「レッド選手、なにか一言、言うことはありませんか?」
記者の口から そんな質問が飛び出した。
すっかりパニックを起こしていたレッドはそれに笑いかけ、含むように息を吸いこんでから 口を開いた。
「オレたちは、チームレッドです!!」
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