「あ、あれ?おとうさーん?おかあさーん?」
たからの浜にレンちゃんの声が響く。その後をおとなしくヘルリンがじっとついていた。ヘルリンが何もしないでただいるというのは、主人が探しているものの手がかりさえ無いということだった。
「お、おかしいな、さっきまでいたのに・・・。ねえ、シアン君、まさかレンちゃんたちをおいてどっかいっちゃったりしないよね?しない・・・よね?」
泣きそうになりながらシアンを見る。しかし、シアンも同じ気持ちだ。それでもレンちゃんの手前、泣くわけにはいかない。なぜ両親が短時間のうちにいなくなってしまったのか、しかもいた気配さえないのはなぜか。荷物さえ綺麗になくなっていた。
「レンちゃん、マサキのおじちゃんに言われたとおり、レッドおじさん探そう。マサキのおじちゃんが言うには、どこか行ったらしいから、探そう。」
「うん・・・うん。どうやって探せばいいの?」
「・・・とりあえず、ここは1の島の一部。1の島の本島に行ってみよう。ね?泣かないの。」
手にあるマサキから預かった石。レッドを探し出し、この状態のことを聞かなければ。レッドに会えばなんとかなる、そんな気がしていた。


 ナナシマは全体的に1〜7の数字がついた島で構成されている。単純な名前だが覚えやすく、そしてここが今、何番の島か忘れやすい。シアンは1の島のポケモンセンターの前に立ち、ナナシマの地図を貰おうとしていた。
「うわあーーーーー!!!!」
ポケモンセンターの中から青空につきぬける大声。いつもの仕事のくせで、シアンとレンちゃんは思わず中に特攻。
「や、やばい〜〜〜〜。転送マシンがっ!」
ポケモンセンターの一角でみんなの注目を集めている男。ポケモンを転送する機械の前でわめいている。眼鏡に爽やかな髪型とは反対の暑苦しさに、二人は声をかけるのも忘れ、ただその男を見ていた。
「シアン君、どうするの?」
「・・・・困ってるみたいだから、話しかけてみようか。」
歩み寄り、肩に手を置いた。ゆっくり振り向く男の顔は妖怪のようで、声には出さないけれど思わずシアンも表情が曇る。その男は目に涙をためて、潤んだ声で話し出した。
「あ、あの、ポケモントレーナーの方ですか!?ああっ!!すいません!!転送マシンが・・・壊されて、修理するのも時間が・・・。」
配線の一部が大きく破壊されている。あれは爆弾か何か、しかも配線だけ吹っ飛ぶように威力を調整した爆弾で。シアンは何か嫌な予感を覚えた。レンちゃんも口を開けたまま見上げている。何かしらの未来を見てるな、とシアンはレンちゃんに話し掛けるのをやめた。
「いや、使わないので大丈夫ですが、ちょっと言いたいんです。そのパソコン、日付け狂ってますよ。今日は7月22日ですから、一週間以上もずれてます。」
「え?」
指摘に思わず男はパソコンを見る。レンちゃんは相変わらずヘルリンと共に破壊された部分を見ていた。
「何を・・・言ってるんですか?今日は7月12日ですよ?やだなあ、いくらナナシマが田舎だからって、日付けまでカントーと違うわけないじゃないですか。」
その言葉にシアンより早くレンちゃんが反応した。見ていたものを放り出し、男に近寄る。自然とヘルリンもレンちゃんの後を追って。
「お兄ちゃん嘘つかないでよー!!レンちゃんだって今日が何日だか解る・・・。」
突っかかりそうなレンちゃんの口を封じた。まだ言い足りないことがあるらしく、シアンに抱き上げられてもじたばたとしている。
「あ、そうですか、すいません、勘違いで。ちょっと間違えてたみたいです。」
暴れるレンちゃんを押さえ付け、目的通りにポケモンセンターで地図をもらう。大人しくなったレンちゃんはすでに他のことに興味があるらしく、ポケモンセンター内をあちこち歩きまわっている。ついでに、出会う人に金色のキーホルダーのことを聞きながら。


「んー、どうしたのー?」
レンちゃんはさっきから見て来る男の子に話し掛ける。興味半分、そして恐怖半分で、男の子は口を開いた。
「知らない人だよね?どっからきたの?」
「レンちゃんはマサラタウンから来たんだよー!」
「・・・マサラタウン?」
男の子は首をひねる。
「聞いたことないや。」
「カントー地方の街だよー。トキワシティの南にあるのー!」


「・・・おかしい・・・。」
最新版だといわれて渡された地図。その割には記載されていない島がある。これが最新と誰もが言うならば、一体どのくらい違う世界なのだろう。
「まさか・・・しかしどうやって・・・。」
そんなわけない、とシアンはポケットに地図をしまった。
「レンちゃん、行こう。まずは2の島から探索しよう。」
騒いでるレンちゃんを引っ張るようにして連れ出す。
「うん。・・・ねえ、シアン君?なんでレンちゃん達の意見全部おさえなきゃいけないのー?」
その問いには答えられなかった。ただ、シアンはある予感がしていたからだ。ここがナナシマであり、ナナシマでないこと。その答えをシアン自身、なんとなく出かけている。はっきりさせ、そしてそれを解くことが先決だと思っていた。
「うーん、レンちゃんなら何か見えると思うんだけど、見えない?」
「・・・見えない。」
「そう。無理して見ようとしなくていいよ。またいつか見れるようになるから。」
この子なら無理してでもシアンの役に立とうとする。それを避けようとしていた。好きな人の為には多少どころか、限界まで無理をする。そういうところまで遺伝していると、シアンの父親は言っていた気がする。


「被害はあれだけか!?え!?」
頬を打った音が火山に響いた。帽子が飛び、草むらに倒れこむ。長い髪が乱れた。咲いていた白い花が揺れ、香りが辺に立ち篭める。左の頬が熱を持って、痛みを手で押え、睨み付けた。
「言った通りにしただけよ。転送マシンを妨害することだって言ったでしょ。何でもかんでも貴方たちの言うことを聞いてきた。私は間違っていない!」
黒い服を着た男は無言で髪をつかんだ。その力は強い。手加減などしない。痛みで表情が歪む。
「お前、自分の身分がなんだかわかってんのか?この売女が!」
髪を叩き付け、つばを吐き捨てる。前髪にかかったそれを拭うことなく、顔を伏せたまま。男が去った後、地面にぽつりぽつりと涙の後が残った。
「姉さん・・・姉さん・・・。」
『大丈夫、私が汚れた仕事するから。何も心配は無いわ。必ずお父さんとお母さんと一緒に帰って来るから。』
「嘘つき・・・。」
鞄に手をのばし、姉と別れる直前にもらった金色のキーホルダーを触ろうとした。つけていれば姉がいてくれるような気がして。しかし、いつもある鞄にはそれは無い。何度も底から探しても見つからなかった。まわりを探してもそれらしきものは無い。落としたことをはっきり自覚する。
「どこかに・・・落とした?」
慌てて今日の道のりを思い出す。ここ、ほてりの道に来るまでに落としそうなところ。ポケモンセンター、たからの浜、そして2の島。5の島を出る時には確認していた。一番落とした確率が高いのは、買い物をした2の島だ。そう思うと帽子を拾いあげ、ほてりの道を後にした。


「レンちゃん。」
船のデッキでヘルリンと、さらにガラガラのガラリーノと遊んでいる。後ろから声をかけられて、レンちゃんは我に帰ったようだ。ひまわりのような笑顔でシアンに駆け寄る。
「なにー?」
「あのね、僕がいいと言うまで、本当の名前、言っちゃだめだよ。仕事の名前を使うんだ。」
「お仕事の?・・・その必要は無いと思うよ!」
「え?なんで?」
レンちゃんの目の色が少し変わる。未来を見てきた時の目だ。
「大きなおじちゃんが教えちゃうし、おにいちゃんもすぐに解るから!あともう1人、とっても大切な人と会うみたいだし。」
なぜレンちゃんだけが未来を見て来るのかは解らない。時の使いかのようにレンちゃんは未来を見て、そして告げる。それは確実に起こる未来。シアンはとりあえずレンちゃんの言うことを信じた。嘘をつく子ではないと知ってる。
「うん、レンちゃんが言うなら心配ないね。」
「ほんと?じゃあシアン君って呼べるね!」
のんびりと語っている。そのうちに船は減速し、港に接岸する。この先は2の島だ。シアンは地図をしっかりと握りしめ、レンちゃんと共に船を降りた。


「ええ、マサキさんの使いで僕が来ました。」
最近出来たゲームコーナーの経営者に、話し掛けているポケモントレーナーがいた。マサキの知り合いということで、話題は転送マシンの話と、最近になって彼が発明した「タイムカプセル」の話で盛り上がる。
「はい、まあ事故もあったんですけどね。それでも安全に運行できるようになって。ただ、まだ一部での運転で、それで上手くいったら今度はジョウトーに持って行くらしいですよ。」
「うんうん、あんときの事故ったら、聞いた俺らもびびったものよ。なんたってお化けだらけだったからなあ。」
やけに時計を気にしている。それに気付き、それとなく口に出した。
「どうしました?」
「いや・・・娘のマヨがお弁当を届けにもうすぐ来るはずなんだが今日は遅いなあと。連絡船はもう来る時間だし・・・。」
「じゃあ僕が探してきましょう。まだ家で作ってるのかもしれませんし。」
「いいのかい?ここから離れた3の島の赤い屋根の家だよ?」
「いいですよ、セイなら飛ぶなり泳ぐなり、この辺の海流くらいなんともないですから。」
立ち上がる。セイの様子を確認すると「いってきます。」とだけ言い残し、出ていった。直後、元気なカイリューの鳴き声が聞こえてきたのであった。
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