白い花が咲くところに、レンちゃんは来ていた。甘い香りに誘われて花畑に飛び込んだ。ヘルリンは後ろの方でついて来るライムと主人のレンちゃんを交互に見ている。鼻が敏感なヘルリンは、すでに花の香りで嗅覚が麻痺していたに近い。
「いい匂い〜!これ1の島にも咲いてたねー。」
和む香り。チコリータの葉っぱから出る香りとはまた違う、花の持つ優しい香り。それに囲まれてレンちゃんは御機嫌だ。
「ライムちゃんは、この花の名前知ってる?」
「・・・これ?この花は、『夏椿』っていうの。」
「なつつばき?」
ライムはしゃがみこむと「夏椿」を一輪摘んだ。甘い香りがする花をレンちゃんの目の前に差し出して分かりやすいように話し出す。
「椿はカントーでも見るでしょ?寒い冬に。その椿に似てて、夏に咲くから『夏椿』。花の形だけしか似て無いから、分類も違うの。これはアヤメ科なのよ。葉っぱの形がそうでしょう。」
「ふーん。ねえ、夏椿は白いのしかないの?」
「そうよ。真っ白な花。夏に咲く白い花、だから『夏吹雪』とも言われるの。暑いナナシマには夏を涼しませてくれる花ね。」
「そうなの?夏椿はナナシマにしか咲かないの?マサラタウンじゃ見た事無い。」
「そうよ。ナナシマにしか咲かないから珍しい?」
「うん。・・・ライムちゃんって、夏椿の生まれ変わりみたいだよね。いい匂いがする。」
「ありがとう・・・レンちゃんは優しいパパとママと一緒にいるんだね。」
「未来から来たの?確かに信じられないけど、」
レッドは頭を抱えた。彼自身、セレビィを呼び出せるわけではなく、いつも突然やってきて、突然姿を消していくのを見送るだけ。こちらから連絡を取る方法は無い。
少し悩んだ後にレッドは小さな電話機を取り出した。
「もしかしたら実家の方に来てるかもしれない。ちょっと聞いてみるよ。」
「お願いします。」
呼び出し音の後、レッドはため息をついた。その直後、シアンはおぞましいものを耳にする。
ガトリング砲の連射。
機械を突き抜け、バクオングのごとく黄色い声を響かせる謎の通話相手。
「きゃー!!レッドレッドレッド!?また急に出かけるって!!!今回はナナシマだっけー!?」
耳から電話を離し、耳を塞いでもなおその声は壁を突き破って響いてくる。
「・・・いや・・・人の・・・用件を・・・聞いて・・・欲しいん・・・」
「そうそうちょっとさっきまでブルーが来たのよ!いないっていったら『こういうときに限ってあいつはいない』って文句いいながら帰っていったけど!」
「だから・・・その・・・」
いくらレッドが相手に話し掛けようとしても、受話器の向こうは雨霰のように言葉を投げ付けてくる。すでに受信音量は最小まで下げてあるのにも関わらず、機械を突き破り、シアンにまでその会話は聞こえている。あまりのテンションの違いに、シアンはなぜか納得してしまった。
「・・・あのさあ、僕は寝てろっていっただろ!?人の心配を押し退けてなんでそんなに起きてるかなあ?また入院するハメになるのわかっていってんの?」
「レッドが心配してくれるなんて!きっと明日は雪雪〜!!!」
この世の中には、遺伝というめんどくさい方法があるんだ、とシアンは再び納得した。
通話時間はすでに10分が過ぎていて、受話器から聞こえてくる声は止む勢いを見せない。もうレッドは沈黙したまま「ああ」とか「うん」しか答えなくなっている。端から見ても諦めている。時計を見つつ、電話を切るタイミングを見計らっていた。
「で、そういえば何の用で電話したの?」
「やっと・・・気付いた?あのね、そっちにセレビィが・・・。」
「うん、いたよ。『元気?』ってのと『レッド君生きてる?』ってきたよ。」
「えっ?いつ頃?」
「今日の朝。レッドが行った後かな。後ね・・・。」
「はいっ!できたー!!」
いきなりレンちゃんは夏椿の花畑から飛び出した。野生のポケモンが飛び出す時、こんな感じだなとライムは思う。
「できたよライムちゃん!あげる!」
レンちゃんが見せるのは、夏椿で作った小さな花の輪かざり。シロツメクサよりも大きな花びらで、ふわふわとしたレースのように仕上がっていた。
「ありがとうレンちゃん、上手だねえ。作ったことあるの?」
受け取ったものを見て、レンちゃんの器用さと細部までのこだわりを感じた。
「うん、お姉ちゃんに教わったの。」
「お姉ちゃん?」
「本当のお姉ちゃんじゃないんだけど、すっごく優しくて、本当のお姉ちゃんみたいなんだよ!でも怒るとすっごいキツイこと言うの。」
左腕にはめてみる。羽のように広がる夏椿たち。海風に煽られてたなびく。
「でも、本当は優しいの!でもね、いつも見えないひとが一緒にいるの。」
「みえないひと!?幽霊とかじゃぁ・・・。」
「うーん、違うみたいなの、ひとじゃないんだよね、なんていうのかなあ・・・うーん、まもってくれるお日さまみたいなの。」
何か見えないものを見てる子だと思った。ふしぎな子。今みているのは幻影で、本当はいないんじゃないかとライムは手を伸ばす。それでも、そこにいるのはレンちゃんで、高い体温が伝わってきた。
「レンちゃん!ライムちゃん!」
耳なれた声に振り向く。シアンが何かを持って、マヨと一緒にいた。
「暑いでしょ?これ差し入れだって。」
シアンに隠れるようにしてマヨが見ている。いつもの通りに「ありがと!」と言うと、その差し入れを受け取る。
「これなぁに?」
「木の実で作ったジュース!」
マヨは言った。きのみの森でとれる木の実だけを使って、秘密の方法で作ると、栄養満点のきのみジュースになると。それにしても不思議な色で、麦茶のような色をしているのに、焦がしたクルミのようないい香りがする。
「秘密なの!?」
「うん!」
「教えて!誰にも言わないからー!!」
しつこくマヨに作り方を迫っている。そんなレンちゃんを見て、ライムも一口含んだ。
「美味しい。それにしてもレンちゃんはまだ言ってるのね。」
「レンちゃんは作るの好きだからね。」
騒いでるレンちゃんを通り越し、ライムは気付いた。追っているレッドがいない。
「シアン君、レッドはどこいったの?」
「ああ、レッドさんなら、報告をしに1の島まで行ってます。あと、今日の最終便で、4の島に行こうって話です。どうやら、そこに知り合いがいるらしくて。」
「そう。そうなの。わかった。最終便は、夜にならないとないわね。」
大きな山が見える。ともしび山を目印にして行けば、すぐに1の島に着ける。そういえば、神話の方に「火の鳥が火山に帰ると、夏が来る。」という一節があった。
その当時はその瞬間を見てみたいと思ったが、今では人の手に負えないポケモンは恐ろしくて会ってみたいとすら思わなくなった。以前のふたご島での戦いの記憶は新しい。
「マサキさん〜。」
ポケモンセンターに入るなり、レッドは名前を呼んだが、すぐに視線は上を向いた。派手に壊された壁をみて何も言葉が出て来ない。
「あ、レッドさんっ!!!」
転送マシンの前でため息をついていた人がよって来る。
「ニシキさん、どうしたんですかこれ!?」
「それがです、聞いてください・・・。」
ニシキと呼ばれた青年はことを話す。時限式の爆弾がセットされていたこと、それに気付かなかったこと、あの爆破にも関わらず、けが人は全くなかったこと。
「・・・なぜケーブルを爆破したんでしょう、僕には解りません。」
「えと、このケーブルが直らないと転送マシン使えないんですよね?他には何かつないでるものは?」
「後は・・・そう、あれです、情報ネットワークのケーブルもやられてて・・・。」
「情報?」
「はい、ナナシマに配信する情報は全てここに集めてから1から7の島まで飛ばします。ですから、ここのケーブルがやられると、ナナシマに届くニュースはなくなってしまうんですよね・・・。」
再び爆破されたケーブル跡を見る。思わず眉間にしわがよるほどに。情報とデータのやりとりを封鎖されたナナシマは孤立。
さっきも電話中にいきなり切れたのもそれがあるかもしれない。封鎖しようとしてるやつらがいる。レッドの中で何か答えが出た。
「解りました。とりあえずニシキさんはケーブルの修理お願いします。」
そういうと、再び大きな海竜、セイの背中に乗って空を飛んでいった。行き先はカントー本土、タマムシシティ。そこに行き、確認することがあった。
「・・・セイ、右だ!」
いきなりセイは急旋回。飛行予定進路だったところには、容赦ない氷の塊。食らってはひとたまりもない。軌道から推測し、レッドはその方向を見た。
季節外れのサンタクロースのような鳥。見た事もなかったが、ポケモンのようだ。最近発見されてきた新しいポケモンの一種。
「よし、ヒート!」
向かって投げたボールからあらわれるのは鳥よりも遥かに大きな炎の竜、リザードン。しっぽの炎を翼で煽り、強い風に乗せる。オレンジ色の炎は鳥を包む。
「ヒート、追撃は要らない。逃げるぞ!セイ、4の島の方向だ!明日までカンナさんがいる、頼るぞ。」
セイは大きく方向を変えると大きな翼で風を起こし、あっという間に見えなくなった。後には多少の炎で攻撃しながらついてくるリザードン。彼も逃げざるおえないことを承知した。目の前には何千もの飛行部隊のごとくポケモンがいたからだ。
「教えてもらっちゃったー!」
笑顔でレンちゃんは特製きのみジュースが入った水筒を下げている。ほとんど強制的にマヨに教えてもらっていた。彼女はほとんど泣きそうな顔していたけれど。教えてと頼んで来るレンちゃんの勢いでなく、何か違うプレッシャーを感じたようだ。ちなみに、その後でなぜかシアンとライムがひたすら謝っていたことは事実。
「レンちゃん、あんまり人に無理言っちゃダメよ。」
「うん、でもこれは教えてもらいたかったの。」
一口なめてヘルリンは拒否した。その代わり、ガラリーノは好きなようで、いくらでももらっている。
「レンちゃんは、いつもその二匹しか使わないね。どうして?」
「そんなことないよ!クラッチとラッチェとフィーリンがいるよ!」
軽くライムは混乱した。同じような名前を立続けに、しかもまくしたてられても初めて聞く人なら誰でも解らない。
「あ、でもね、でもね・・・クラッチとラッチェはあんまり外に出たくないっていうから!フィーリンはあんまり戦いたくないって!」
シアンに言われたことを思い出し、レンちゃんは慌てて言い直した。この時代に見つかっていないポケモンは絶対に出してはいけないと。レンちゃんが捕まえたころはすでにどこにでもいるフライゴンとヌケニンだが、この時代ではまだいないはずだ。そう考えて言わなかった。
「・・・待って、フィーリンってさっきのバタフリー?」
さきほど、夏椿の中を嬉しそうに飛んでいたバタフリー。野生のバタフリーだと思っていたのだが、それにしてはレンちゃんと仲がよかった。いつの間にモンスターボールから出したのかは解らないけど。
「うん、そう!フィーリンは綺麗なお花大好きだから!」
鋭く照りつける太陽の中でもレンちゃんの元気は減ることがない。むしろ光を受けていきいきとしている。ひまわりのような、そんな気がした。
地面から数メートルのところでセイをしまい、飛び下りるようにしてある一家に駆け込んだ。家の主は何ごとかと突然の来客を見る。そこには、息を切らせたレッドが座り込んでいた。
「ああ、カンナさん、すいません、ノックも、できない、で。」
「いいけど、どうしたの?」
「そう、いえば、このまえ、は、あり、がとう、ござい、ました。」
「いいけど、落ち着きなさい。ね?」
椅子に座らされ、冷たいコーヒーをいれてもらう。
「で、どうしたの?」
ほとんど一息で飲み干し、コップをテーブルにおく。するとなぜか落ち着いたようだ。
「カンナさん、しばらく四天王は休んだ方がいいですよ。ナナシマはヤバいです。誰かが封鎖してようとしてます。」
「あら、そう。」
興味がないようだ。カンナは終わったコップを片付け、干していたぬいぐるみをしまっている。
「『あら、そう』じゃなくてですよ!カントー行くのにも謎のポケモン軍団がいます。統率が取れてるんで、どうもあれは・・・。」
「連絡船がまだ使えるわ。明日欠航にならなければワタルにでも話しておくから。」
あのポケモン軍団は突破できるのかレッドは口に出さなかった。四天王のカンナのことである、撃破できるに決まっている。
「ま、この前みたいな余動もないし、そんな大変なことじゃないと思う。変に気を使い過ぎよ。楽にして。」
「はぁ・・まぁ・・・そうさせていただきます。」
年上の人と、綺麗な人には逆らえない。それが昔からの性格だから仕方ない。いつまでも長居するわけにもいかないので、みんなが来るまで、4の島を探索しようと失礼した。
何か引っ掛かる。自分と同じ匂いをかすかに感じるのだ。しかし、それは無いはず。もう2年も前になくなったはずだ。リーダーのサカキの失踪により、何もかも・・・。
「いや、まさか・・・。」
否定すると大きく深呼吸し、目の前の景色を見る。
柵の中にいるポケモンたち。夏の日差しでみんなバテている。
輝く海、今日は波が強いようだ。
「どこ行ったんだろう。本当、人のこと何も考えないで行動する・・・。」
海風にのって、一段と煌めく風が舞い上がる。
「君はお父さん似だね。」
ふとそんな声がした。
砂浜で星を見ているレッドを見つけたのは、4の島に到着してから間もなくのこと。珍しく騒ぎもせず、足音も気配も消して、彼の隣で一緒に星を見上げる。
「きれーだねー!」
「そうだねえ・・・ってレンちゃんかびっくりした!!!」
反動で転がる。それほど気付かなかった。いつもまわりには気を配っていろと教えられ、それを実行してきたつもりなのに。輝く星に魅入っていたわけでもない。
「びっくりするよーなことかなあ?」
「だって、気配なかったよ!?どうやってやってんの!?」
「おとーさんに教えてもらったのー。」
世の中には奇妙なことを教える父親がいるものだ、とレッドは思った。自分ならともかく、こんな普通の子が必要あることなのかと疑ってしまう。後から来るシアンがレンちゃんのお守役が上手いことを見ると、親はかまってやってないのではないか、と思った。
「レンちゃん、お父さんとお母さんは何してるの?」
「おとーさんはお仕事してて、レンちゃんとシアン君とか、あとお姉ちゃんとお兄ちゃんも手伝ったりするよ。」
「な、なんの仕事?」
「なんだっけシアン君?なんていえばいーい?」
レッドはますます心配になってきた。20年というのは、そこまで変化する物なのか、まだ14年しか生きていないが恐ろしく感じる。あと6年で、生まれた時と全く違うなんて、想像ができない。
「あ、そうそう、『ポケモントレーナー』だって。」
意外に普通な答えに安心した。それならば、気配を消して野生のポケモンに近付いたり、父親の手伝いをしなきゃならないな、と納得する。
「それより早くどこかいこーよ。夜だからレンちゃん眠いー。」
眠くなってきたせいか、言葉のどこかにトゲがある。なぜかシアンが謝って、レンちゃんをおぶった。この光景は何度か見た。わがままにつき合っているというよりも、レンちゃんの性格がまわりを動かしてるようだ。こんな人、やっぱりどこかで一度出会っている気がする。
「流れ星に願いごと?」
デジャヴに襲われているレッドに、ライムが不意打ちのごとく話し掛けた。
「いや、そんなんじゃないけど、ただ綺麗だなあって。タマムシシティで育ってたから、こんな大量の星空みたことなくてさ。」
「そうなの。ナナシマにいれば毎日見れるわ。田舎だし、カントーから遠いからね。」
「でもこんなにあったら、どれがどの星、なんて名前解らないなあ。せめてさそり座くらい見てみたいけど。」
黄道に大きく広がる赤さそりは、多くの星にまぎれて何も見えない。マサラタウンにいた時はかろうじて見えたけれども、ここまで来ると、専門家でも無い限り分類は不能だ。
「星座とか、人が決めたことなんてどうでもいいじゃない。星がそこで光りたいと思ったから光ってるんだから。」
「そうだね。その通りかもしれない。」
ヘルリンが二人を急かした。真っ黒なポケモンだから見失わないよう気をつけて。
物音に気付き、シアンは目を覚ました。仕事を手伝うようになってからこんなこと毎日だ。ゆっくり眠れたことがない。
特に今日のような野宿だと野生のポケモンが通り過ぎただけで目が覚めてしまう。万が一のことも考え、シアンは星明かりで確認した。
砂浜にいる、2つの人影。
「・・・ライムちゃん?」
よく見えないが、知らない人と歩いているのが見える。知らない、というのは隣にレッドもレンちゃんもいるからだ。ナナシマの人間とも思えるが、違うともとれる。シアンは荷物の中からモンスターボールを取り出した。
「パン、野生のフリして飛ぶんだ。」
ボールから出たモルフォンはライムと知らない人のまわりを何度も飛んでいる。パンには小型のマイクを取り付けて。シアンは寝るフリをして、ヘッドフォンをつけた。
『・・・そうよ・・・・ええ。』
『めずら・・・ヤル気に・・・・て・・・いま・・・い?』
『・・・の・・・るわ。そうしたら・・・消す・・・ら。』
『こえ・・・だ・・・。』
『つい・・・万で・・・る?』
パンにつけていたマイクが風の音を拾う。思わず外れそうになり、それを気にしていたら、二人を見失った。残念そうに帰って来るパンを迎え、ボールにしまう。そしてかけてあるタオルケットを蹴飛ばしているレンちゃんの分とレッドの分を直すと、眠りについた。やはり遺伝ってあるんだと思いながら。
もういなくなってしまったんではないかと心配したライムは、翌日にはちゃんとそこにいた。いてだきの洞窟から流れる川の水で顔と髪を洗っていたのを確認すると、なぜか物凄く安心した。
「おはようライムちゃん。」
「あ、おはようシアン君。」
昨日のことは口に出せなかった。次の話題に困っていると、寝癖のままのレッドが来る。
「おはよう。シアン君とライムちゃん、好き嫌いある?」
「ないですよ。」
「私もないかな。」
「じゃあ御飯にするよ。早くおいで!」
火をレンちゃんに任せてるらしく、レッドは足早に戻った。ライムは髪を絞り、バスタオルで大雑把に拭くと立ち上がる。
「あの人、髪赤いのね。」
ふとそう言った。帽子に隠れて解らなかったが、意外に赤い。茶色を通り越して赤い。
「なんでも生まれつきらしいよ。だから『レッド』って呼ばれてるんだとかなんとか。」
「へぇ・・・ますます間違い無いわね。」
「何が?」
「なんでもないわ。いきましょ。」
レンちゃんは頬張るようにして魚を食べていた。なんでも好きだけれど、とても美味しいらしく、次々に骨だけの魚が出来上がっていく。そんな主人の隣で、ヘルリンは大人しく食べていた。
「あれ、ライムちゃんもフシギダネ?」
焼けた魚を手渡す。元気いっぱいのフシギダネはライムに身をとってもらいながら食べている。
「ええ、そうよ。」
「・・・やっぱり僕の知り合いじゃあないよね?いや、フシギはもうフシギバナだったし・・・。」
独り言のようにつぶやいて、考えついては否定することをくり返す。ナナシマは怪奇現象が起こるところだ、と結論づけて、こげそうになった魚を救出する。
「この子はりむよ。中々進化しないけれども結構強いんだから。」
「だよね。やっぱり違うよね。」
「ところで、今日はどこか行くの?」
ライムの質問に、みんなが黙る。シアンはどこにいっていいか解らないし、レッドはセレビィの手がかりが全くつかめていない。
「あのね、いてだきの洞窟ってあるじゃない。行かない?寒いけれども。」
「さんせー!」
レンちゃんは乗り気だ。シアンは別にいいよと言っていたが、レッドが何か引っ掛かる。
「・・・僕はやめと・・・。」「いいじゃん行こうよ!」
言い終わらないうちにレンちゃんが既にいくことを決定していた。深いため息をつき、先を思い遣る。
「ため息ばかりついてると、幸せ逃げるわよ。」
ライムは言った。引っ掛かりが抜けないレッドは再び疑問を起こしてみた。たまに同種族の匂いもするけれど、全く違う普通の人のような匂いもある。全面的に信用は出来ない。
「わかった。行こうか。」
いてだきの洞窟は氷の洞窟だと聞いている。用意は多くてもいいだろうとリュックの中を確認する。楽しそうにしているレンちゃんを裏切るわけにもいかないな、とため息をついた。
「やっぱり幸せ逃げるよ」
「幸運なんてつきたかもね。」
2年前を思い起こすと、そうとしか言えなかった。
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