「一体ドコだよここ・・・。」
どこだかわからない道で迷っている少年、トウタの今いる場所。そこは簡単に言って、トキワの森のおおよそど真ん中・・・・である。
「・・・・いやいや、くじけるな俺。トウタ、お前は塾でもトップクラスだったじゃんか、大丈夫だ」
そのとき、タイミングよく、ガサガサガサ、と草むらで音がした。
「・・・・よな?」
視線の先にいたグライガーは首をかしげた。
「グラー?」
「そういう顔すんなよ・・・・。はあ・・・。」
やっぱ、俺には・・・早かったのかな。トウタは、今までのことを思い返した。
 トウタがポケモンリーグへの挑戦を決めたのは、まだポケモン塾へ入る前のこと――まだアイナ達と遊びのようにバトルしていた頃のことだった。
 その日のことを、彼はまだはっきりと覚えている。その日はホワイトシティのメインスタジアムで大会が行われた日だった。町中の人々が、その試合を見ていた気がする。トウタはその試合を、近所の人々と一緒に――もちろん、アイナも一緒に――見ていた。
 そこには、いつも自分たちが遊びでしているのではない、本物の戦いが――あった。
 それは一人の、赤い帽子をかぶった少年だった。素性はわからない。彗星のごとく現れた――と、誰かが言っていた。対するトレーナーは、今もポケモン塾にその名が刻まれている、ゴールドクラスの青年だった。
 カイリューにバンギラス。強くて獰猛なポケモンばかり繰り出すその青年に対して、その少年が繰り出したのは――
「え・・?」
ピカチュウにキングドラという、小さなポケモンだった。
 『簡単だ』といわんばかりに――カイリューやバンギラスは、 “はかいこうせん”を繰り出した。
 しかし、当たらなかった。彼は油断して計算に入れるのを忘れていたのだ。彼らの――『すばやさ』を。
 ピカチュウが真っ先に使っていたのは「みがわり」で、“はかいこうせん”はピカチュウには当たっていなかった。キングドラが真っ先に使っていたのは「まもる」で、さらに当たってはいなかったのだ。
 そして彼らは相手が動けない隙をついてバンギラスの“すなおこし”を封じる“あまごい”をくりだし、“かみなり”に転じる。しかし相手も負けじと“じしん”。
 そうして息もつかせぬ展開が続いたこの試合に、トウタは感動した。
 すごい。これが、これが・・・ポケモンバトル。
 結局、最後に勝利を決めたのは、赤い帽子の少年だった。トウタはその時点で彼にあこがれていた。
 彼のようになりたい。彼のように、強くなりたい。
 後にその素性のわからない少年がポケモンリーグ最年少優勝者だと知った時の、彼の決意は固かった。
 ポケモン塾に入る。そうして強くなって、いつかポケモンリーグに挑戦する。
 強くなるための努力はいくらでもした。勉強も、バトルも。勝つたびに強くなっていくことを感じられて、自信がついていった。
 カッパ―クラスへ上がらないか。ジョバンニ先生にそう言われたときも、本当にうれしかった。しかし、彼は断った。カッパ―に上がることは、本当に名誉なことだった。
 彼には断る理由があった。それが――ほかでもない、アイナの存在だった。
 トウタには昔からアイナのバトルに感じることがあった。戦うたびにどんどん強さが増している気がしたのだ。
 アイナが自分を追って塾へ来てから、それは顕著に表れた。成績はひどく悪い。・・・なのに、実践学習だけは、重ねれば重ねるほど勝つ回数が増えているのだ。
 そのとき彼は思った。・・・いつか彼女に、抜かされてしまうのではないか。
 口げんかをする幼馴染は、いつの間にかライバルとして彼の中で大きくなっていた。
 ポケモンリーグへの挑戦を決めたのは、いつでも――とりわけアイナの上を行きたかったからだった。
 そして、ジョバンニ先生の申し出を断ったあの日・・・旅立つ前の日に行ったバトルは、その思ったことが現実になりそうになってしまった。アイナは強くなっていた。それに焦るのと同時に、しかし、彼は嬉しかった。だからこそ。別れを言うことが、つらかった。
 「・・・・そうだよな」
アイナの上を行く。そして――ポケモンリーグの、頂点に立つ。この目標を・・果たさなければならない。
「こんなところで。くじけてるばあいじゃ・・・ないよな、グライガー?」
「グライガ―!」
グライガ―が、にっこりと翼を広げる。
「さて、と!じゃあまず、この森を抜けないとな!目指すは・・・」
トウタの胸の上では、来た日に手にした――オレンジバッジが光っている。
「ニビシティ!」
続きを読む
戻る