「わーっ!海だ!」
ジム戦から数日後、アイナは十二番道路の真上にいた。
「地図によると…この先の右の道をずーっと歩いていけば、セキチクシティにつく…はず、なんだよね」
 ジム戦に勝利し、クチバシティを出るとき、アイナはマチスから、トウタのことを聞かされた。
「え・・・トウタが、『ディグダの穴』を通って、ニビまで行ってしまった…と?」
「そうだったはずだぜ?お嬢ちゃんも、そのルートで行くのか?」
マチスに言われ、アイナは少し考えてから――にっこり笑っていった。
「いいえ。私は私の冒険をします。」
トウタと違う方向から、世界を、見てみたかった。
「しかしなあ・・・今休止してないジムってえと、こことニビのほかにはセキチクぐらい・・だとおもうが。自転車は持ってるか?」
アイナはいいえ、と素直に首を振る。
「あ、でも、さっき船長さんに【じてんしゃけん】をもらいました。」
アイナは券を取り出して見せた。
「おおっ、船長も気が利いてるな。ただな・・・どっちにしろ・・まあ、お嬢ちゃんの行きたい道を行きな。」
マチスの言いかけたことが少し気になったが、アイナはにっこり笑ってうなずいた。
「じゃあ私、いきます。」
「goodlack!」
こうして、アイナは町を出た。――そして、これはアイナも知る由もない出来事だが――そのわずか数分後、ジムに一報が届いた。
「少佐、少佐―!!」
「なんだ、タツヒコ?」
タツヒコは息を切らしつつ、言った。
「それが・・・いま、博士から連絡があって…消息不明のジムリーダーが全員、解放されたそうです」
「really?本当かそれは!」
そう、アイナは・・・その時、知ることができなかった。
「うーん・・・どうしよう・・・右に行くか、左に行くか・・・・。」
そんな風に迷っているアイナを見かねてか、ヤンヤンマとチコリータがボールから飛び出した。
「ヤン!」
「チコッ!」
「・・・・どうしよっか?」
そうやって、みんなで考えていると――
「どいてどいてええ〜!!」
「!?」
自転車に乗った女性が――全速力で、突っ込んできている!
「ええええ!?」
「ちょっとそこのあんた!!どいてって言ってるでしょ!?」
とはいえ、よけるも何も――狭い桟橋の上である。
「や、ヤンヤンマッ!!チコリータ、ボールにもどって・・・って間に合わない〜!!」
「ヤーン!」
「チコ〜!」
間一髪、ヤンヤンマが一人と一匹を持ち上げ――
「ヒトデマン、出てきて“れいとうビーム”!!」
暴走自転車に乗った少女が、水中にポケモンを放って――
「早く!」
「ヒトッ!」
“れいとうビーム”が、少女の前輪の動きを――止めた。
「ヤン〜!!」
「わあっ!?」
「チコッ!?」
じてんしゃの乱暴な着地音とともに、重さに耐えかねたヤンヤンマが――桟橋の上に、二人を降ろした。
「いたた・・・・」
「大丈夫〜!?ほんっとーに、ごめんね!」
しりもちをついた彼女を見下ろしているのは――橙色の髪をした、お姉さんだった。
「あたしももう少し年相応に落ち着けって、いっつも言われてるんだけどね〜。ちょーっとスピード出したら…ブレーキ壊れて止まんなくなっちゃって。」
「は・・・はあ・・・。」
パワフルなお姉さんだなあ。それが、アイナの彼女に対する第一印象だった。
「んん!?・・・あれえ、あんたのそのかばんに光ってるのって…。まさかオレンジバッジ?」
少女にそう言われ、アイナは素直にうなずいた。
「ええ。この前ジム戦で勝って、もらったんです。」
「へえ〜・・・・あんたが、マチスをね…」
彼女はそうつぶやくと、少し考えたようにうつむいてから、アイナに向かって言った。
「ねえ、これからどこへ行くつもりだったの!?」
「え!?え、えっと・・・セキチクシティに」
「ふ〜ん・・・。」
少女はアイナのことを見回し、それからヤンヤンマとチコリータを見た。
「人一人とポケモン一匹持ち上げるヤンヤンマ・・・と、何やら他にはなさそうな力を持っていそうなチコリータ、ね。・・・ポケモン、これで全部?」
「あ、はい。そうですけど・・・」
アイナが戸惑いながら答えると、少女はにっこりと笑って言った。
「うんうん。なかなかいいじゃないの。・・・決めたわ。予定変更!ね、あんた名前は?」
「アイナ・・ですけど?」
「アイナ!うん、いい名前ね。アタシはカスミ。さっそくだけどアイナ、あんたあたしと一緒にハナダシティに来なさい。」
「・・・・・・・・はい?」
アイナは自分が何を言われているかわからなかった。何よりも――目の前の少女、カスミの正体すら、まだこの時の彼女は知らなかった。
「と、いうわけで〜まずはシオンタウンまで競争!よーいどん!」
「へ!?え、あの、ちょっと、カスミさん!?」
しかし彼女によって、アイナの秘められた才能が開花することになるとは、やはり、この時の彼女は知らなかった。
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