「あのー・・・カスミさん」
「なに?」
「・・・・本当にここ登るんですか?」
出会ってから一週間――二人の着いた場所は、シオンタウンの北に位置する、つい最近までジムリーダーが閉じ込められていたイワヤマトンネルであった。――もっともここに最近までロケット団がいたことや、カツキがそれを壊滅させたことなど、この時の彼女は全く知らなかったわけなのだが。
「なーに甘いこと、言ってんのよ。ジムバッジ持ってる、ってことはそれなりのトレーナーを目指してるんでしょ?あんたもそれくらい腹をくくりなさい。」
そうだ。私は――トウタに、追いつかないと。確かに、アイナはそう思ってはいた。
 とはいえ、彼女とともに行動するようになってからここへたどり着くまでは、町育ちのアイナにとっては地獄と言って等しいものだった。
「大丈夫?ヤンヤンマ、チコリータ・・・」
「ヤンー」
「チコ―」
アイナは一週間を思い返してみた。
『ほらーここまでたった100メートルしかないのよ!?ちゃっちゃと泳ぐ!』
『ほらほら、これぐらいの木の実全部とれなくてどうするの!?』
『シオンタウンはすぐそこよ!!さあ走りなさいっ!!』
『は、はい!!』
たった四日とはいえ、ポケモンたちの顔は数日前よりだいぶたくましくなっていた。
「水泳だったり木の実を100個とったりすごく大変だったけど、強くなってる実感はあるし…。」
こんなトレーニング方法を知っているなんて、カスミさんっていったい・・・何者、なんだろう。
「さーて、準備運動も終わったし…ヒトデマン!」
「ヒトッ!」
カスミの合図で、ヒトデマンがくるくると回りながらまばゆく光りだした。
「これ・・・って“フラッシュ”ですよね!?どこで秘伝わざを習ったんですか!?」
「まー、ちょっとね〜。」
アイナが取り返した“いあいぎり”を含め、秘伝マシンというのはとっても貴重なもので、一つの技につき世界に数個あるかないか、だとアイナは習っていた。もちろん“フラッシュ”もその一つである。・・・やっぱり、ただものじゃない。アイナはカスミにすでに敬意を払っていた。
「さ、行くわよ、ついてきて」
「あ、はい!カスミさん!」
 洞窟の中は薄暗く、ヒトデマンの“フラッシュ”がなければ何も見えない状態だった。・・・どうやら、中から登るということらしい。
「さて、アイナ。この山を登りきるまでに――三つ、やってもらうことがあるわ。」
「三つ、ですか。」
アイナが聞くと、そうよ、とカスミは頷いて指を折り始めた。
「一つ目。ポケモンを捕まえること。この中にいるポケモンなら何でもいいわ。・・・そろそろ二匹じゃきついと思うしね。二つ目。この中って、この通り薄暗いでしょ?だから、よく落し物が落ちてるの。で、それを回収するのもアタシ達ジ――じゃなかった、うん、まあ、ボランティアとしてやってもらうわ。」
「はあ・・・」
「これがそのリストよ。」
アイナは手渡されたリストを見た。――かなり多い。
「これ、どこに落ちてるとか…」
「そんなもんわかるわけないでしょー?」
「・・・・ですよね。」
なんだか別のことにも付き合っているような気がしたが、落し物をした人々のために、アイナは頑張ることにした。
「最後に三つ目・・・ここでアンタの技量が試されるわ。アイナ・・・チコリータをここで進化させなさい。」
「・・・・ええ!?」
アイナは横のチコリータを見た。チコリータはきょとんとしている。
「そんな・・・進化なんて、私見たことないです」
「だーいじょうぶ。アタシがわかるから。」
カスミのウインクに、アイナはほっとしたような、不安なようなよくわからない気持ちになった。
「・・・チコリータ」
「チコ?」
「ヤンヤンマ」
「ヤン?」
二匹はきょとんとしていたが、何かを察したのか、目の色が変わった。
「チコッ!」
「ヤーン!」
「・・・・やってみるしか、ないよね。カスミさん!」
アイナが呼ぶと、カスミはにっこり笑った。
「よろしく・・・・お願いします。」
「・・・うん、なかなかいい目してる。やっぱり、アタシの目に狂いはなかったみたいね。それじゃ、アイナ。一週間のことを生かして、こなしてみなさい!」
こうして、アイナのイワヤマトンネルでの試練が始まったのだった。
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