同じころ――タマムシシティ某所。
地下のライトが付いた通路を、カツキは歩いていた。
「ここの・・・壁、かな」
目星をつけた壁のライトとライトの間を、ぐっと押し込む。すると、何かが動く音がして、数秒後に壁にぽっかりと空間が現れた。
「あら、おかえりなさい、カツキ君。」
何食わぬ顔で空間の中からカツキを出迎えた人物こそ――クチバシティでアイナが遭遇した女性、コウネだった。彼女の隣では、カントーやジョウトにはいない、ホウエン地方のポケモン……ビブラーバが羽を震わせている。
「ただいま、コウネさん。ビブラーバも相変わらずだね。」
「うふふ。あともう少ししたら、もっとすごい子になっちゃうかもね。」
彼女がビブラーバの頭を撫でると、彼は嬉しそうに目を細めた。
「さてさて、報告に来たのよね?とりあえず、ジムリーダーの救出お疲れ様、カツキ君。さすがわがPIAの選抜試験をその年でクリアしただけのことはあるわね。」
「いやいや。七年前に四つ目の図鑑をもらって、カントー支部サブリーダーまでなった貴方にはかないませんよ。」
「もー、謙遜しちゃって。」
にこにこと笑うコウネに対し、カツキは静かな笑みを浮かべた。
「……それで?何か収穫は得られたのかな?ロケット団のたくらみ、それから…妹さんのこと。」
妹、と聞いた瞬間、カツキの表情が変わった。
「詳しくは、報告書に記載してありますが…。ホーホー。」
ホーホーがくちばしに加えていたのは、何かの粉の入ったビニール袋だった。
「これは?」
「おそらく、ねむりごな=B少量ですがジムリーダーの縄についていたものを、相棒が集めてくれたんです。」
「なるほどね……。これでジムリーダーたちは誘拐された、と。」
「はい。犯人というか、このポケモンは相当の実力の持ち主。そしてトレーナーは……。」
「強力な『どく』使い、ね。かなり有力な手掛かりになるわ、ありがとう。」
それと、と、カツキはぽつりと言った。
「……妹の手がかりは…まだ。」
コウネは気づいていた。静かに告げた彼の拳が、痛いほどに握りしめられているのを。
「ねえ、カツキ君。妹さんは私達が必ず見つけるわ。だから、貴方はそんなに無理しなくてもいいのよ?元はといえば私達大人が――」
彼女はその先を言えなかった。カツキ本人が手で制したからだ。
「心配しないでくれよ、コウネさん。俺は必ず、この手で妹を見つけ出して……ロケット団をつぶす。それが、生き残りである俺の宿命だから…。」
「カツキ、君……。」
「じゃあ、俺、行きます。行くよ、ホーホー。」
ホーホーはホホーッ、と一声なくと、去っていくカツキの後ろについて行った。
「……お兄ちゃん。私には、もうどうしてあげることもできないのかな……。」
コウネは部屋に立てかけた、七年前の写真に向かって、ぽつりとつぶやいた。
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