神様なんていないと思っていた




だって、もしいるのなら







どうして









私を

















カントー地方、それはもう、パソコン画面の前に座っている貴方達ならば皆知っているような所。


え? 知らない? それなら初代、赤青緑黄・ファイアレッドリーフグリーンをやるかポケスペを立ち読みしてください。
それは置いといて……
そんなカントー地方上空を、肉眼では追えないような猛スピードで疾走する影が二つ。

影は時々ぶつかり合い、その都度爆発音と疾風を巻き起こす。
それはまるで、何かが戦っているとしか思えない状況で……

二つの影は、衝突しながら南西の方へ飛んで行った。



***



≪おじいちゃん……オーキド博士に、ちゃんと断ってきたんだ≫

「しつこくて困ったけどね」

 頭上には、見渡す限り続く空。
足元には、青くおい茂った草花。

 『マサラ』、人々はこの汚れなき土地をそう呼んだ。

≪あ〜、やっぱ大切な人材がへるのを阻止したいんじゃないの?≫

「なにを、」

 そんなマサラの郊外にある草原で、座り込んでケータイと話しているのは
この物語の主人公の1人、レッド。

今年14になる彼女は、まだ、故郷を旅立っていなかった。

≪ま、レッドちゃんはレッドちゃんだし? そのままでいいと俺は思うよ≫

「お世辞いっても何も出ない」
≪違うから≫

 マサラに吹く風が、とても色素が薄く所々ハネた茶色の髪を優しくなでる
強くはないが、確かに吹いている風に飛ばされないように、白い帽子を左手でつかむ
少し、真紅の瞳が細くなった。

「アンタ、今どこに居るの?」

≪トキワシティ〜、カズキちゃんと一緒にトキワの森に遊びに行ってるの≫
「あっそ」

レッドは言葉のやり取りをしながら、話し相手の事を考えた。

 コイツの話にはよく『カズキ』という人間が出てくる、それはもう、話をしたら必ずと言っていいほど。
私は直接、『カズキちゃん』にあった事はない。
おかしいとは思う、何しろ『カズキ』もマサラ在住なのだ、もちろんコイツも。
話によれば、気さくで明るく社交的らしい。少し熱血も入っていると言ってたか
でも、詳しい説明は受けていない、あくまで話のなかでサラッと話題になる程度。
それ故に詳しい事は私にもよく分からない。

≪レッドちゃんは、ハナダシティ?≫
「切るぞ」
≪冗談です、ごめんなさい≫

 謝るなら、最初から言うな。
そう言いたい所だが私も、そしてコイツも本気では言っていない。
だいたい、今研究所にいって帰って、そしてまた出てきたっていったのに。
そんな短時間で、ハナダまで行ける訳がない、それくらいコイツだってわかる。

「……マサラの郊外の草原、『タチ』が行きたかったらしくて
めんどくさくて来たくなかったけど暴れるからしかたなく」

 そういいながら、レッドは足元にうずくまって寝ている茶色のポケモン……
オタチ≠フ『タチ』をみる。
オタチは、カントーには生息していないポケモンで、ここで見られるのは本当に珍しい。
ただし、ポケモン自体が珍しい訳では決してない。

≪……レッドちゃんが外にいるのって、珍しいね≫

 なんだか驚いたような、嬉しそうな、よく分からないニュアンスでそういった。

「不本意なんだけど」
≪ですよね〜、聞いてました〜≫

私は確かに、『カズキ』の事はよく知らない。
でも、少ない情報の中から手探りでなにか使えそうな物を拾い上げる。
そういえば、前にコイツが言ってたな、「カズキちゃんはまだポケモン持ってないんだ」って
じゃあ、トキワの森で野生ポケモンが出てきたらどうやって戦うんだ?
コイツが……戦うしか、ないよな。

「……早く帰ってきなさい、一応女でしょ? ホワイト」
≪うっわ! 禁句!!≫

 ブチッと音をたてて通話が途切れる、どちらが最初に切ったのかは分からない。
レッドの手にある、赤いメタリックのケータイが、太陽の光を反射して輝いていた。

 草原に生えた草花が、肌をくすぐる。
風が優しく髪をなで、太陽の光は夏のような獰猛さはなく、穏やかな陽気をふりまいていた。

 ……外に出るのも、悪くない。

 そう思った時、頭に二人の人間の顔が浮かんだ
1人はつんつんした茶髪に、優しそうな緑の瞳をもった少年。
もう1人は黒く長い髪の、空のような淡い青の瞳をもった少女。
この二人は、レッドの幼馴染であり、レッドが断ったオーキド博士の話を引き受けた人物でもある。
彼らはまだ、研究所にいることだろう。

 二人とも、笑っている。
さっきの言葉を聞いたら、確かにこんな顔して喜びそうだ。

 そこまで考えて、やめた。
何なんだ、何でこの2人が出てくるんだ。
たかが昔からの腐れ縁で、友達でもないというのに。
もしも向こうが私のことを友達だなんて思っていたとしても、それは向こうの思い込みだ。

 レッドは立ち上がる、考えるのを放棄して。
タチをボールに戻して、歩き出す。

「……ただの、腐れ縁だ」

 そう言って歩いて行くレッドの背を、
少し離れた所にある木陰から見ていた人影が1つ。


 マサラに不穏な影が、忍び寄る。



To be continued.
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