夜の闇が地平線に追いやられる。

 空に朱が差した。

 朝が、くる。



 マサラの名もなき森のなか、ガーディ達を従えているのは一人の少女。
その少女は、黒い帽子に黒いワンピースに黒いブーツ、と本当に黒尽くめな
十人が十人振り返るような、突飛な格好をしていた。

 その少女は、マサラタウンがあるであろう方向を
まるで刺すように……酷く苦しそうに睨んでいた。
ピリピリした雰囲気が、辺りを包む。

「(まさかほのおのうず≠ナも足止め出来ない、なんて)」

 逃げ出した、白と紫のポケモン……ミュウツーの事を思い出す。
頭に浮かぶのは、炎で出来た渦のなかからサイコキネシス≠ナむりやり逃げ道となる亀裂を作り出し。飛び出したあの雄姿。

 ブウウン……と音がして、少女の近くに七色の光があらわれる。
その光の中から、ミュウツーと呼ばれたポケモンと全く同じ姿の、黒いポケモンがあらわれた。

「遅かったわねミュウツー、ミュウツーは捕まえられなかったの?」

 挑発するように、けれども心底おかしそうに少女は言う。
緑の瞳は冷静なまま……無機質なままで、反応は無い。

≪トレーナーに、邪魔された≫

 少し高い、まるで青年と少年の中間のような声が響く。

「……それって、言い訳にならなくない?」

 少女は考えた。
ミュウツーの戦闘能力を考えると、一般トレーナーにはダメージを負わせる事はもとより
小手先の戦術も効かないとみて間違いはないはず。
だとすると相手はジムリーダークラス? 馬鹿な。
ジムリーダーがジムを開けたなんて噂、私の耳には入っていないし
ジムリーダークラスの人間がマサラにいるなんて報告はなかった。

≪トレーナーだと、気付かなかった≫

「不意を突かれたって言いたいの? まったく、あんたはそこらのノラとは違うんだからしっかりしなよ
で、相手はどんなやつだったの?」

≪マントをはおっていて、顔はよく見えなかったが……赤い目をしていた≫

 その言葉を聞いた途端、少女の顔色が変わった。

「(赤い……目?)」

 少女の脳裏に一人の姿が映し出される。
とても幸福そうに笑っているのは、赤い目をした癖のある短く淡い茶髪の――……

≪『タチ』という、茶色いポケモンを連れていた≫

 少女のなかで、何かが確定した。

「……今日は撤退する」

 ガーディ達に指示を出す
上空に炎が打ち上げられた。

 少女は朝焼けを背にし、暗い森の奥へ。

 黒いミュウツーは、少女の背に付いていく。


 人影は、闇に溶けて、消えた。



To be continued.
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