少し黄色がかった淡い水色の空。

 まだ少し、人々が起き上がるのには早い時間帯。

 そんな朝早くに、一番道路を疾走する黒い塊が一つ。

「……こんなに、遠かったっけ?」

 ローラー音を響かせながら、一番道路をトキワ目掛けてまっしぐら。
いつも彼女が履いている白いスニーカーからは、ローラーが飛び出している
もしかしてわざわざ家から持ってきたのだろうか?

 黒いマントは所々破けてぼろぼろになっていた。
少し息を切らしている所からすると、結構体力は消耗しているようだ。

 ふわり 風が吹いた。
緑の匂いが香る。

 ジャッ 音をたてて立ち止まる。

「……ついた」

 トキワは緑、永遠の色。



***



 機械音とともにポケモンセンターの扉があく。
今は朝の五時、まだ人が来るのには早い時間
それ故に、外の空気を吸いに出てきたジョーイは、まだ誰もこないと高をくくってあくびをしていた。

「すみません」

 凛、とした声が静かな空間に響く。
ジョーイは振り返って、声の主をかえりみた。
その姿にぎょっとする「何なんだろうこの人、なんでマント?」みたいな事を思いつつ、要件を聞いた。

「何も聞かずに、このポケモンを見てください」

 マントから微かに見えた、赤い瞳がやけに真剣みを帯びていて
一つ返事で急いでポケモンセンターの中に入る。
少女……レッドもその後に続いた。



***



 集中医療室への廊下に灯った緑のランプ、レッドはそれを仏頂面で睨みつけていた。

 そわそわして落ち着かない、変な感覚。
何なんだろう、なぜ自分はこんなにも彼の事がきになる?
最低限とは言え手当てもしたし、後は腕やらの骨折だけだ。
なのになぜ? 考えた末に、一つの答えが頭に浮かぶ。

 心配、している?

 馬鹿な、なにに対して? 誰に対して?
私は、誰かを心配してやるほど、いい奴じゃない。
それくらい自分自身わかってる。わかってる……

 かたかた と腰に装着していたボールがゆれた。
タチが入っているほうじゃない、研究所から持ってきた方のボールだ。
ボールを手に取り、じっと中のポケモンを見つめた。

 そう言えば、こいつの心はまだ聞いてない。
図鑑完成のためにこいつを連れてって欲しいと言うのはオーキド博士の志だ。
こいつからはまだ、なにも聞いてない。まだ話すらできていない。

 ぼんっ 音をたてて現れたのは燈。
トカゲのような姿の、尻尾に火がついたそれは
とかげポケモン、ヒトカゲ。

 真剣な眼差しで相手を見る。
ヒトカゲはまったく動じずににらみ返してくる。
このポケモンも、結構勝気なようだ。

「あんたは、どうする」

 一緒に行くか、行かないのか。
こいつが戻りたいのなら戻ればいい
一緒に来てくれるというなら戦力になって有難い。
でも、結局は私がどうこう言うべきではない事だなんて分かってる。
こいつが、自分で決めなきゃならないんだ。

 ポケモンをジッと見つめているなんて、傍から見たら変人だと思われそうだ
そうとは思うが、やはり目は逸らさない。
すると、炎をまとった尻尾の一撃がレッドを襲う。

「?!!」

 が、なんとか避ける。

 な、なんなんだ今のは!
ヒトカゲの目を見ると、そこに映るのは拒絶ではなく煮えたぎるような闘志。
意味が分からないと思った、何がしたいんだこいつは。

 ポケモン図鑑を取り出し、ヒトカゲにかざす。
瞬時にデータベースから情報が出てきた。

「……勇敢な性格、暴れるのが好き?」

 出てきた情報に、眉を潜めた。
こいつ……まさか私と一緒に行動して、暴れ回ろうとでも思ってるのか?
いや、多分きっとそうだ。理解してるんだ、自分が置かれた状況を。
その上で、旅にでると……危険な目にあうと解っていてわざとそれに飛び込もうとしているんだ。

 なんて、愚かな。

 自分から危険に飛び込むなんて、私じゃ考えられない。
でも、こいつにもこいつなりの世界があるんだろう。

「一緒に来たいんなら、攻撃じゃなくちゃんと行動で証明しろ」

 そう言うと、ヒトカゲは床に転がっていたボールの開閉スイッチを足で踏んづけ、中に入った。
どうやら一緒にくる気はあるようだ。

「……リザ、あんたは今日から『リザ』だ」

 リザードン……リザの進化後を思い浮かべてつけた、相変わらずそっけない名前。
そういえば、『彼』にまだ名前を聞いていなかった。
何て名前なんだろう、少し気になる。

 そう思い緑色のランプを見る、落ち着かなかった気分が今は落ち着いていた。

 ふ と緑の光が消える。


 扉の中から出てきたのは、桜色の髪のジョーイと……
白と紫色の色彩を持つ、彼。


 紫水晶の瞳が、私をとらえた。



To be continued.
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