第五章「Give and take」
「もう大丈夫?」

「……はい。」

やっと泣き止んだ僕を、ソフィアさんが優しくなだめてくれる。

こんなに泣いたのは、本当に久しぶりだった。


…泣いた事によって、胸のつかえが取れたらしい。




もう、僕は泣かない。




たった今、大切な人が出来た。

接点は…ほんの数秒。
けど、彼女は僕に生きる活力を与えてくれた。



僕の生きる理由は…これだけで充分さ。




「そういえば、貴方はなんて名前なの?」

「僕の名前は、レイディオ・デ・トキワグローブです。
レイディオは長いんで、レイとでもディオとでも好きな方で呼んで下さい。」


「レイディオ…?ふふ、何だかラジオみたいな名前ね。
解った。貴方の事、ラジオ君って呼ばせて貰うわ。」


ラジオで来ましたか…;


彼女のネーミングセンスには感服する。

僕が苦笑して頷くと、彼女も微笑んでそれに答える。


その平穏も、長くは続かなかった。


家のドアが勢い良く蹴破られる。


思えば、僕の運命はその時点で
分岐していたのかもしれない。


何やらダークスーツの男達が、どかどかと家に入り込んでくる。

真ん中の大男は、僕とソフィアさんを見るなり嫌な笑顔を作る。

「は〜〜〜〜い。こぉんにちは〜〜お嬢ちゃぁ〜〜〜〜ん。
まぁだ生きてたんだねぇ〜〜アンタもぉ〜〜。」

入ってきたのは、数人の奇妙な集団。
数人の男はコラッタの様なヒゲを生やしているが、
真ん中の…いわゆるボス的なガタイの良い男は、
まるで岩の様にイカツイ腕をしている。
このイカツイ腕は…まさにゴローンのそれだ。


まさか、コイツ等が…ネオポケモン…!?



ソフィアさんが真っ青になり、床にへたり込む。


「あ…あ、貴方達は………。」

「いやぁー、はっはぁ〜。中々綺麗になったねぇ、あん時の鼻タレ餓鬼がよォ〜!!」


ダークスーツに身を包み、無表情に構える部下を後目に
下品に笑う男。

ソフィアさんの震えは増してゆく。


「ソフィアさん…、あの人達誰なんですか?」

「あ?そんなのも知らね〜のかィ餓鬼ィ!!」

ソフィアさんの代わりに、大男が答える。


「俺はねぇ〜、このお姉ちゃんのおかーちゃんやおとーちゃんや妹ブッ殺した男さぁ〜。
ロッキーって言うんだぁ。よ・ろ・し・く・ねぇえ!プフッ!」



僕は、男の突然の激白に一瞬思考が止まった。



「俺等の組織はさぁあ、人間共をブッ殺して回ってんだわぁ〜。
…ぉ?餓鬼ィ、君よく見ると、俺等と同じネオじゃないのォ〜。
指令状でも貰って、このお嬢ちゃんブッ殺しにでも来たのぉ?」


指令状… …?
何の話だよ…!


「まぁい〜ぃや。プフッ!!先頂くよ?俺だって手柄欲しいしぃ?」

ロッキーと名乗った男は、口元に下品な笑みを浮かべ、
ソフィアさんに歩み寄る。

「あん時のテメェの家族みてぇ〜に、苦しめて殺してあげるよぉ!
ヒャハハハハハハハハハハ!!!」


「い…!いやぁぁぁああああ!!!」





ソフィアさんに振りかかる毒牙。
制したのは、僕の細腕だ。




「…… あぁ?」

「何……してんだよお前!!」


理性よりも怒りが自我を上回る。

本来ならば戦えるポケモンを場に出すだろうが、
生憎僕にはもうパートナーはいなく、
そんな事を考える余裕も無い。

全身の力を込めて、大男のアゴを思いきり殴り飛ばした。



声にならない悲鳴をあげて吹き飛ぶ大男。

回りの取り巻きが襲いかかって来たので、
一人に肘打ちを喰らわす。
盛大に鼻血を吹いて倒れる。
間伐入れずに、他の取り巻きの顔面を殴り飛ばす。

僕の細腕からは想像出来ない程、相手は盛大に吹き飛ぶ。

「…ラジオ…君…?」

「………!?」

自分でも驚き、改めて自分の手をみる。
僕の白い手は、よく見ると電気を帯びている。
それに反応するかの様に、頬の電気袋も青白く光る。


「…痛ぇ〜〜っ……。」

大男が瓦礫を吹き飛ばし、起き上がる。
相当ご立っ腹の様だ。


「餓鬼ィ……どうすんのぉ〜?鼻血出ちゃったよぉ……。ォオ、コラァ!!?」

さっきので鼻血か。
丈夫な奴だなぁ。

「血ならもう自分ので見飽きたよ。
鼻血ぐらいで騒がないでよ。」

「コルァ。訳の解んねぇ〜事言ってんじゃねぇよ…。
ツケ、デかいよぉお…?プフッ…。
何せさぁ〜、親にも殴られた事の無ぇ俺をヨォオ」


全く、デかいのはガタイだけにして欲しいな。


大男が僕に一瞬で近付き、
腕を岩石に変えて、拳を振り上げる。


「殴っちゃったモンなぁァァアアアア!!!??よぉ゛ぉ゛お゛!!!!!」

肘に電気を集束させて、迫ってくる腕を殴り壊す。

馬鹿にデかい音をたてて、大男の腕にヒビが入る。

「ッッ………!!!イギャぁぁぁあああぁあぁああ!!!!」

腕は派手に崩壊し、一気に肩口まで崩れる。

「…痛いだろ?殴られるってのは。」

「う゛がぁぁあああああ!!!俺゛の゛ッッ!!俺の腕ェェエエッッ!!!ぁぁあああぁあぁあ」

「でもね。身体を殴られたり…斬られたりするなんて……!!」

「大切な人を失う痛みに比べたら……そんなモノ……ッ!!!」


「…ヒッ!?」

僕は腕に電気を集束させて、大男に迫る。




「糞みたいなモンなんだよォォオ!!!」




爆音と共に雷が爆ぜる。

壁際は真っ黒に焦げ、
大男が「元」居た場所には、炭しか残らなかった。



「…………。」




ソフィアさんも僕も暫し唖然としていたが、
ソフィアさんが先に口を開く。


「……、有り難う…。」


それに答え、僕も微笑む。

最後に笑ったのは…だいぶ昔の様な気がする。

考えてみれば、笑い方すら忘れてたからなぁ。


そんな事を考えていると、ソフィアさんが唐突に抱きついてくる。




「……凄く寂しかった……。
…平気な顔して暮らしてたけど…、凄く寂しかった……。」






ソフィアさんの嗚咽が聞こえる。
きっと泣いているのだろう。

それに応え、僕も彼女を優しく抱く。


「…これからは、僕が貴方を護ります。
どんな事があろうと…
もう貴方に哀しい思いはさせません。」











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