第六章「希望」

あの襲撃があった後、
僕とソフィアさんはウツギ博士の研究所に向かった。
僕も山ほど聞きたい事があるし、
さっき襲ってきた奴が組織絡みの様な事をほのめかしていた以上
ソフィアさんを一人にしておくのも危ない。
…そんな訳だ。


「…成程。遂にネオポケモン達も動き出した様だね…。」

椅子に腰掛けているウツギ博士が、
僕の報告を聞いて額に皺を寄せる。

「話からすると、恐らくソフィアちゃんの家を襲撃したのは100%組織絡みのネオポケモンだろうね。
だとすると…厄介な事になったよ。」

ウツギ博士が大きく溜め息を吐き、
パソコンのモニターに目を移す。


「厄介な事…ですか。」


「うん。…奴等…ネオポケモン達は、此処最近になって動きが過激になってきててね。」


「やっぱり…彼等の目的は、人類の排除なのですか?」



ソフィアさんが不安そうにウツギ博士に問う。

「奴等の目的ねぇ…。十中八九人間の排除にしろ、まだまだ先があるかもしれない。」


「先…?」


ウツギ博士が再び溜め息をつき、
モニターから僕達の方へと目を移す。



「世界の掌握。これが有力だね。」



僕とソフィアさんが唾を飲む。



……世界の掌握……。


そんな連中がソフィアさんやウツギ博士を狙ってるだなんて…。



「ネオポケモンが人間の排除の為に活動を始めたのは、最近の事じゃない。
ここ10数年の間にもう不穏な動きを見せている。
…ネオポケモンの政界や軍部への進出等、奴等の魔の手はポケモン協会にも行き届いている。」

言い終えると、ウツギ博士はゆっくりと席を立つ。


「レイディオ君。唐突に言うが、今の君の姿に見覚えは無いかい?」


「僕の姿…?………!!」


そこまで言って、僕ははっとした。
今の僕の姿は、ピカチュウと人間の中間そのもの…。
…まさか。まさか…。

「察したとは思うが、君のピカキチ君の身体さ。」


「ピカキチの……!?」


僕は慌てて鏡を見る。

ピカキチはポケモンバトルの後遺症からか、頬に軽い傷が残っている。


…無論、今の僕の頬にもピカキチと同じ傷がある。



「…これで全てが解ったろう?
僕は少しでも助かる見込のある君を助ける為、ピカキチ君の身体を君に移植した。
現に君の命は、ピカキチ君と二分されてるって訳さ。」


ソフィアさんも驚いている様だが、それ以上に僕も驚いた。
こうして頬をさすっても、
やっぱりピカキチを撫でた時の電気袋の感触がする。




「………。」




何と言っていいのか解らない。
人間ってのはあまりにも非現実的な事に会うと、言葉を失うモノなんだな。


「さて…レイディオ君。放心するのは構わないがね。
君も僕に助けられたからには、
それに見合った借りがあるって訳だ。」


ウツギ博士は僕に冷たくそう言うと、席を立つ。




「君に、この腐りきった世界を変えて欲しい。」




「! ! ! ? 」



世界を…変える?

……僕が?


「君は、僕達人間やポケモンの希望だ。
それに…今の僕には、君しか救いを求める事が出来る人がいない。」


ウツギ博士は、僕の右肩に手を乗せる。




「レイディオ君。この人間とポケモンの争いの絶えない世界を変えてくれ。君は僕の…たった一辺の希望だ。」



――同時刻。
ジョウト地方ヨシノシティ
『携帯獣強制収容所』



「大変だァ―――ッ!!!すぐに警報を鳴らせぇえ!!!」

「……!?何事だ!?」

「奴が…!リリー・バレンタインが脱走しやがったぁあ!!!!」


収容所の看守が言い終えるが早く、派手な音を立てて建物が炎に包まれる。


炎に包まれる建物を背に、一人の少年がゆっくりと建物から離れる。


「…ポケモンや人間を苦しめ、殺してきたテメェ等を俺は許さねぇ。

俺の家族の分も…苦しんで死にな。腐れネオ共。」









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