第七章「反逆者リリー・バレンタイン」

「ラジオ君、どうしたの〜?早く行きましょうよ?」

「あ、うん。今行くよ。」

僕とソフィアさんは、
何やら大きな物を背負ってしまった。
ウツギ博士の言う
『世界を担う希望』……。

思えば、僕も随分な大役を任されてしまったなぁ。
あの後、僕はウツギ博士の交渉を受け入れた。
相手は命を助けてくれた恩人だし、
僕だってこれ以上悲しい思いをする人を増やしたくない。
それに…
なんて言ったって僕には護らなければいけない人がいる。
ソフィアさんが笑っていられる世の中にする為にも、
僕の戦いは避けられないだろう。

「いい天気だね、ソフィアさん。」

「あ、さん付けはいらないよ。
ソフィア、でいいからね。ラジオ君。」

ソフィアさんはウツギ博士の研究所で匿うには危険が伴うと諭されたので、
ネオポケモンと渡り合える僕がソフィアさんと行動を共にする事にした。
ソフィアさんも僕も身寄りの無い孤児同士だからか、
ほぼ初対面の割には会話が弾む。

「僕の一族は礼儀作法に厳しいんですよ。日常会話でも敬語を使うとか。
だから僕も小さい頃にだいぶ躾られてて…。」

「へぇー、礼儀正しいんだね。ラジオ君は。」



…本当に、この時間がずっと続けばいいと思う。



……けど、本当の平穏を取り戻すには血を見なければならない。



……辛いなぁ。



凄く辛いし、恐いよ。


けど、貴方の笑顔さえあれば、

僕は何処までも戦える様な気がする。

世界を取り戻す為に。

そして大切な人を護る為に……。

「どうしたの?ラジオ君。」

「…へっ?あ、あぁ。ごめんね。ちょっと考え事してたよ。」

また僕はボーっとしていた様だ。
…ま、考え事していても仕方ない。
今は僕の出来る事をやろう。
確かウツギ博士の話では、
コガネシティのマサキって人にこの手紙を渡せばいいって事だったな。
マサキさんは確か…ポケモンコレクターで有名な人だった様な気もするけど、
あまり解らないや。興味無いし。

「!! ラジオ君、あれ……!」

「? ………!?」
早速目の前にヨシノシティが見えてきた所だが、
幾分様子がおかしい。
焦臭いし、
焼けて炭の様になっている建物も見える。
大火災が起こった様な、
災害を彷彿とさせる光景だ。



――そんな事を思っていると、
突然全身に電流が走った。

攻撃する為に流す電流とは違う、
本能に伝える危険信号の様な電流…。

本能的に僕はソフィアさんを押し倒して伏せた。
よく見ると、腕を何かかすった様だ。
僕のコートの腕の部分が不自然に焦げている。


「……まだ生き残りが居やがったか。」


突然後ろから声がする。
振り向くと…赤髪の、
額に包帯を巻いている少年がいた。
そのオレンジ色の尻尾から灯る炎……、
さしずめリザードに近いネオポケモン。
僕と同じ種族か……!

「まぁいいや。テメェも消し炭にしてやらぁ。」


僕はソフィアさんを近くの安全な岩場に隠れる様に諭し、
少年の前に出る。


「……いきなり、なんなんだい君は。危ないじゃないか。」

「黙れ。喋んな腐れネオが……!虫垂が走る!!」

少年は懐から拳銃を取り出す。
それを僕に向け、引金を引く。


「俺の視界から消え失せろ!!」


とっさに脚に電気を流し、
横っ跳びで銃撃を避ける。
銃撃を受けた草むらは音を立てて焦げている。

妙だな…。普通の拳銃だったら
幾らなんでも草むらを焦がす程の威力は出ない。

…炎の塊を飛ばした様な感じだ。

「ッ……!どうやら話し合いで解決する気はなさそうだね。」

「ハナからねぇよそんな気は!」

良く見ると、彼の拳銃の持ち手の部分には所々穴が空いている。
何かを送り込む様な穴……。
やっぱりネオ同士の戦闘は普通のポケモンバトルとは全然違う。

本当の命の取り合いってのが犇々と感じられる。

少年は僕に向けて再び炎の塊を発射する。
僕はそれを電撃で相殺する。

「……どうやらさっき焼き殺したネオよりは出来る野郎みてぇだな。」

「焼き殺した…!?やっぱりヨシノシティを焼き払ったのは君かい!?」

少年は僕の言葉に耳も貸さず、
銃を懐にしまう。



「特能発動『喰い破る焔緋獣』」



少年の尻尾が、みるみる内に
狙撃銃…ライフルの様な形状になる。
何やら特能とも言ってたし、
妙な能力なのかもしれない…。


……油断は禁物だ!


「【光の壁】!!」


僕は光の壁を張り、
特殊攻撃に備える。
この身体はピカキチと二分しているだけあり、
ピカキチの元々使えた技は発動出来る様だ。

これで暫くは攻撃に耐えれるハズ…!


「光の壁か。
俺の拳獣からすりゃ、格好の餌だ。」
少年は尾の炎を集束させてレーザー状の炎を放つ。

僕は光の壁で防げると思っていたが、
炎は簡単に光の壁を貫通し、僕の肩を貫く。

「いっ……!!?痛たたたたたッ!!!」


「俺の『特能』は、炎に貫通能力を持たせる能力だ。
テメェがいくら防御壁を張ろうが、
俺の能力の前じゃ無意味ってこったな。」


無慈悲にも相手は僕に尾の銃口を向ける。

「次は外さねぇよ。
心臓にブチ込んで終わりだ。」

「…そうは…いきませんよっ!!」

電流を脚に流し、僕は
目にも止まらぬ速さで相手の後ろに回る。
そのまま攻撃に入ろうとするが、
肩の激痛がそれを拒む。

…そういえば、さっき思いっきり撃たれたんだっけ。

「諦めな。テメェも其処らのネオ共よりは出来る野郎みてぇだが、
まず実戦経験が乏しいだろう。

…いつも死の淵から這上がってきた俺を相手に、勝とうとなんて思うなよ。」

僕は再び銃口を向けられる。
折角形勢逆転出来たと思ったのに……。


その時、ウツギ博士から預かっていた僕のポケギアの音がが唐突に鳴り響く。


…そういえば、ラジオモードにしていたのを忘れていた。




「たった今入った情報です。
今日未明、ヨシノシティの収容所から
リリー・バレンタイン容疑者(13)が、脱獄しました。
尚、バレンタイン容疑者は元協会の軍人で、
協会とのトラブルにより収容所送りになっていた模様です。
協会は各地域に警告を呼びかけると共に、
バレンタイン容疑者を反逆者として全国手配をする方針…」




……なんてこった。




出発早々凶悪犯に会っちゃうなんて。

全く…僕もソフィアさんも何処までついていないんだ。

けど、此処で立ち止まる訳にもいかない。

立ち止まる訳にもいかないけど、
それ以上に僕は死ぬ訳にはいかない。


状況は最悪。


けど、護るべき人が居る僕は全く負ける気がしないな。



…さて、生きる為にトコトン坑ってやりますか!





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