第八章「雷鎖(グレイヴ)」


「全てを包み込む優しさこそ、最強の力」


昔、母さんが言っていた言葉だ。





――数年前――





「ねーねー、おかーさん?
ポケモンにはなんで特性ってモノを使えるのぉ?」

「ん〜?特性?…そういうのは、
お父さんの方が知ってるよレイちゃん?」

金髪のポニーテールの女性は、
洗濯物を干しながらレイディオに言う。

「え〜?だってお父さんはバトルの特訓に行っちゃったもん。」

「えー!?またなの?あの人も好きねぇ……。」

レイディオの母親という女性は、額を押さえて溜め息をつく。

「ねぇ!ねぇ!教えてよー!僕もピカキチも強くなりたいよー!」

「ピィ〜カァ〜〜!」

レイディオと一緒に、
隣にいたピカキチも駄々をこねる。

「はいはい。解ったから暴れないの〜。
…全く、貴方もお父さんもバトルバトルって。」

「やったーー!ね、何なの?何なの?」

レイディオとピカキチは、
目を光らせて母親を見る。

「特性ってのはね、ポケモンに元々備わってる才能の様なモノなの。」

「……才能?」

「うん。例えばピカキチなら、特性は『せいでんき』。
これは触った相手を麻痺させる便利な能力だけど、
ピカキチには生まれながらに備わっているの。」

「へー…。じゃあさ!
ポケモンが持ってる能力は、特性だけなのぉ?」

金髪の女性は首を横に振る。

「んーん。ポケモンにはもう一つ、隠された力『特能』があるの。」

「『特能』……?」

「そ。『特能』って言うのは、ポケモンの潜在能力に関係してるの。それは…」


「んー、僕難しい事わかんないよぉ。」

「あはは。確かにそうだよね。
まあ、色々と難しい事があるのよ。」

女性は眠そうな目をするレイディオを抱き上げる。

「でもねレイちゃん。ポケモンバトルは、力や特性や特能で決まるモノじゃないのよ。」

「え、違うの?だって強い方が勝つじゃん。」

「んーん。違うよ。
…レイちゃん、ピカキチは大切なパートナーだよね?」

「うん!ピカキチは僕の大切なパートナーだよ!」

それを聞いてピカキチは、
恥ずかしそうに頬を赤らめる。

「そうよね。ピカキチだって、
レイちゃんの事を大切なパートナーだと思ってるハズよ。」

「うん!僕、その為に強くなりたいんだ!お父さんだって、
お母さんだって、
ピカキチだって護れるぐらいに!」

「フフ…。ピカキチを護るだなんて、
どっちがポケモンだかわかんないわよ。」

レイディオは恥ずかしそうに頭を掻く。

「けど、それなのよ。本当の強さって言うのは。
人やポケモンは、自分の護りたいと思うモノがある限り、何処までも強くなれるの。」

「へー…。何処までも?本当に?」

「うん。強さは、護りたいモノを護ろうという優しさ。
レイちゃんが、全てを包む優しさや強さを持てた時。
その時に初めて最強のトレーナーになれるのよ。」

「そうだったんだぁ〜…。よし、ピカキチ!早速特訓しようよ!」

レイディオは女性の腕から飛び降りる。


「お母さん!僕、きっと強くなるよ!
大切な人を護れるぐらい強くなってやる!僕も、ピカキチも!」





――全てを包む、力。――





「……言い残す事ぐらい言わせてやろうか?
テメェの連れに伝えといてやる。」

…ソフィアさんの事も、勿論ばれてるな。
尚更死ぬ訳にはいかないね。


「…ねぇ。」


「あん?」


「君は…どんな物を背負って戦っているの?」


「……何故テメェに言う必要がある。」


「いいじゃない。冥土の土産だと思っとくよ。」


少年は暫く黙り込むが、やがて口を開く。


「俺が背負うのは、殺された無念を果たせなかった親友や親の魂だ。
その為に…俺はネオ共を殺して回っている。」


彼は銃口を構え、僕に向ける。


「これで充分か?ならとっとと逝け。」


「……残念だったね。僕も背負う物があるネオさ。」


「………?………!!!」


少年が驚く。
…当然だろう。さっきの尋問の間に、
僕の尻尾から流した電流が鎖状になって、
彼の頭上に金槌へと形質を変えて浮いているのだから。



「特能発動
『雷鎖帷子の鉄槌(グレイヴインパクト)』!!!!」



僕の声と共に、
少年に雷鎖帷子の拳が振り降ろされる。
技自体はアイアンテールに近いが、
本来のそれとは全く威力も見た目も異なっている。

僕の雷の鎖は、
轟音を立て地面をえぐる。


……少年は、雷撃と衝撃をいっぺんに受けて
すっかり伸びている。
もう、戦う体力は無さそうだ。


…この鎖状の雷……


まるで、全てを包み護るというピカキチの意思すら反映している横だ。



……そうか。
大切な人を護ると誓ったのは、
何も僕だけじゃない。

ピカキチ。


お前とも誓ったもんな。

大切な人を護るって…。

現に僕はお前に助けられた。



…………。



「……有り難う。ピカキチ……。」



僕も体力を使い果たしたらしく、その場に倒れる。

「…ラジオ君!!大丈夫!?」

ソフィアさんが僕に駆け寄って来る。
良かった……無事だった。



「……なぁ………。」


安心した矢先、唐突に少年が話かけてくる。

随分と蘇生早いなぁ…。


「…お前の、背負うモノって何なんだ…?」

「……僕の?
うーん…。世界と、護るべき人かな?」


僕の世界という言葉を聞いた瞬間
少年はきょとんとするが、やがてその顔は笑顔に変わる。


「…ふふ、世界か。理由は解らねぇが…
俺の背負うモノは、テメェに比べりゃちっぽけな物だな。」


「そんな事無いよ。」

僕が否定すると、少年は不思議そうな顔をする。


「背負うモノはどんな理由であれ、重さは平等さ。
只それを背負って行こうって気持ち。
僕は君よりもその気持ちが勝ってただけさ。」


「…お前、面白ぇ奴。」


「…君だって充分面白いよ。」


波長が合うのか何なのか解らないけど、次第に僕達は打ち解け合っていった。












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