第十二章「帰るべき場所」
「あっ、こんな所に居たのね!
…急に飛び出して行っちゃったから、驚いちゃった。」
「とりあえず野郎は無事だ。
ま、無事って言えるかどうか解らんが。」
来た道を戻っていた矢先見えたのは、
人間の女…ラジオの連れのソフィアだった。
「………、
キャ―――!!!」
「やかましい。騒ぐな。」
俺の背中で寝息を立てるラジオを見て、
ソフィアが嫌に騒ぎやがる。
「何か変わった事でもあったか?」
「大アリよ!
ラジオ君血まみれじゃない!!」
「いや、大丈夫大丈夫。大した事無ぇよ。」
「悠長な事言ってる場合!?
早く手当てしないと!」
やれやれ。あんま傷は深くねぇってのに…。
よっぽど大切にされてるらしいなコイツは。
…それとも、デキてんのか?
……まぁ、無事の是か非かは個人の価値観として捉えて貰う。
「…手当て、済んだか?」
「うん。何とかね。」
日が暮れてきたので、
俺達はとりあえず空き家を利用して野宿する事にした。
ラジオの野郎は未だにグースカ寝てやがる。
軟弱野郎め。
「リリー君って、これからどうするの?」
「…さぁ。どうしようかねぇ…。」
軽く一服しようと思い、
胸ポケットから煙草を出すが、
ソフィアに素早く取り上げられる。
「未成年が煙草吸っていいとでも?リリー君。」
「俺の勝手だ。返せタコ。」
「勝手な訳ないじゃない〜。
私達だってもう他人じゃないでしょう?」
「五月蝿ぇ。テメェは俺のmotherか?
大人しく返さねぇと…」
「あら、どうするの?」
何やらコイツの微笑みには異様な黒さがある。
迂濶に手を出すのが怖い。
「……ちっ。」
「そうそう。それで良いのよ。」
明日の朝一で奪ってやる。
…たぶん無理そうだが。
「…ねぇ。」
「あ?」
「リリー君、私達と一緒に来ない?」
「……俺が、お前等と?」
「…うん。」
ソフィアは手に持っていた紅茶のカップを手元に置く。
「私達ね、コガネシティのマサキって人に会いに行くつもりなの。」
「…マサキ?」
聞いた事はある。確か幾分有名なポケモンコレクターだか何だか…。
興味無ぇが。
「………。」
「リリー君は、現実にラジオ君の事を助けてくれた…んだよね?」
「…まぁな。」
「…少なくとも、私は気持ちの通じ合える人に嬉しいの。
ほら、今まで一人ぼっちだったし…。
君はどう思ってるのか解んないけど、さ。」
「、、、、………」
「? 何で顔赤いの?」
「う、五月蝿ぇよ馬鹿野郎――ッッ!!」
思わず俺は空き家の奥に閉じ籠っちまう。
……はぁあ……。
照れ臭ぇ……。
今までの暮らしが悪かった影響だろうか?
マトモに人に優しくされるのなんて…もう、ホント無理。
眼すら真っ直ぐ見れません。
照れ臭いです。
ハイ。
「…どうしたの?」
「―――ッッ!!」
迂濶だった…。
この部屋にゃラジオが寝てたじゃねぇか…。
「…何でも無ぇよ。」
「そっか。いきなり入って来たからビックリしたよ。」
「そりゃ悪うござんしたね。」
「…何?ソフィアさんに何か言われてイジケてんの?」
「あんま調子乗ってると脇腹蹴るぞテメェ。」
「…ごめんなさーい。」
ラジオは布団に顔を埋める。
…どうもコイツと話していると調子が狂う。
女だか男だか判別し難い見かけしやがって。
話し方も女っぽいし。
…遺伝か?母親が中世的な人とかか?
そんな馬鹿な話…と思うが、
普通に有り得そうで困る。
「…おい。」
「…ハイ。」
「お前って変わった名前してる様だが、
本名ラジオってのはマジなのか?」
「違うよ。本名はレイディオ。
レイディオ・デ・トキワグローブって言うんだよ。」
…レイディオ?
……ああ〜。だからラジオか。
ラジオの英語読みって訳ね…。
しっかしネーミングセンスの無ぇ仇名だ。
「勝手ながら、縮めてレイって呼ばせて貰う。」
「ご自由に。リリー君。」
コイツの中では俺は『リリー君』で決定らしい。
許可位取れカス。
「…あのよォ。」
「…うん。」
「お互い帰る場所無ぇよな。」
「…僕はあるよ?」
「……?」
「日常。僕は其処に帰って来るつもり。」
……日常、か。
上手い事言いやがる。
「…日常、ねぇ。」
「うん。…僕、ポケモンと人間は仲良くする世の中が、日常だったんだ。」
「誰しもそうだ。俺だってそう思う。」
日常…、俺はそれをすっかり忘れてたな。
目先の復讐に駆られる毎日。
…正直考える余裕すら無かったしな。
「…お前って、これから綺麗に生きていこうって思う気はあるのか?」
「無いよそんなの。
泥にまみれても生にすがるつもりだよ。
目的を果たすまでは、ね…。」
「…辛いぞ。」
「辛いだろうね。
でも決めたんだ。」
さっきから淡々と言い切っているが…俺には解る。
コイツ、本気だ。
「…大切な人を…泣かす訳にはいかないじゃないか。」
「…………。」
コイツ等には、コイツ等なりに帰りたい場所はあったんだな。
「……俺も、お前等と一緒に来ていいか。」
「……急にどしたの?」
「俺も帰りたくなっただけだ。
…日常、によ。」
帰りたい。
…理屈抜きで、ふと思ったんだ。
「…そっか。」
レイは顔に被せた布団を剥ぎ、
笑顔でこっちを向く。
「これからよろしくね、リリー君。」
「…………、、、、」
「…ん?何赤くなってるの?」
「五月蝿ぇぇえ――!!!」
「痛ぁぁあ――い!!
痛いよー!何で蹴るのー!!?」
「おまッホント黙れ!!
むしろ死ね!!!」
「痛い痛い痛い〜!!
脇腹蹴らないでよー!」
「ちょっと何やってんのー!!」
大騒ぎにより第三者登場。
勿論俺は強かに殴られる。
「何でラジオ君蹴ってんの貴方!いじめ!?」
「違ぇよ!うわ――ッッもうホント勘弁してくれぇえ!!
俺に優しく笑いかけるとかホント勘弁!!!
うわぁぁあ――!!!」
「うぅ…ヒック。痛いよぉ…。
何で?僕何か悪い事言ったっけ…?」
…はぁ〜。
…これから、今までに無く賑やかになりそうだぜ。
……見てるか?お袋と親父。
俺、やっと自分の居場所……見つけたよ。
俺は昔っから不器用だ。
勿論これからも。
けど、不器用のままで構わねぇさ。
今の俺には…正してくれる、
『大切な人』がいるからさ。
「…照れ臭くて、口でなんか言えねぇけどな///」
「何が?」
「うわ―――ッッ!!テメェいつの間に――!!?」
…ホントに賑やかになりそうです。ハイ。
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