第十三章「悪魔とヒトとポケモンと」

セキエイ高原上空。
不規則に羽根を動かしながら飛んでいる男が一人。

「……。さて。どう言い訳しようか困ったぞ。
困った困った。
何せ興味が湧いてきたもの。」

そうは言うが、言うだけ余裕ならば別段困ってもいないだろう。
目深に被った笠。丈の長い袴。
そして腰に付けるは葱を収納してある鞘。

…何処か変態的な雰囲気を醸し出しているこの男。
これでもポケモン協会に対する反逆者の殲滅を担当している。

「言い訳はどうしようか?
…えーと、見つかりませんでしたは聞く訳無ぇわな…。
んじゃ、敗けちゃいましたとか…。
…うーん。俺が殺されちまうな。」

男があれこれ言ってる内に、ポケモン協会は目前に見えてくる。

人間が台頭を握っていた時代から協会は本部をセキエイに構えている。
リーグの実施等の影響もあってか、外観も大きめなスタジアムと大差は無い。


…が、それは所詮昔の話。
現代の協会は不気味なまでの変貌を遂げている。
演習様に造られた広大な広場。
その広場の奥地に構える、西洋風の巨大な建造物。

…紛れも無く其れは、ポケモン協会。
ネオポケモン以外の生物の完全抹殺を計る協会の、紛れ無き本部である。
一見すれば聖城の様な神々しい外観をしているが、
以前に醸し出すオーラが違う。
…仮にも、此処は自分以外の生物の抹殺を目的とする者が集う場所。
建造物そのものが凶悪な殺気を放っている。
生半可な者であれば、近付いただけで脚がすくんでしまうであろう。

「とりあえず腹を決めておくか…。
トホホ。ホントに俺もヤキが回ったモンだよ。」

男は軽く上空で旋回すると、窓から内部へと侵入する。

「や。今戻ったよ。」

「遅ぇよイズモ。」

協会の一室。
派手な装飾を施された椅子に腰掛ける男は葱男…イズモに問う。

「まぁまぁ。そう急くなよダン君。
…一応、殺って来た…かなぁ?」

「何だその曖昧な返事は?
葱だけじゃなく命も鞘に収めてぇのか?」

「ははっ、そりゃ勘弁だ。
ま、大丈夫だよ。」

苦笑するイズモに目もくれず、
腰掛けている男は椅子を揺らす。

「まぁいい。…それよりも、だ。」

男のそれを聞くと、にやついたイズモの表情が変わる。

「…近いね。『世界祭典』は。」

「間違い無く当日は…世界の歴史が大きく動く。
相手がどう動こうがな。」

男が部屋のポスターに目を向ける。

「……猶予はあと1年か。」

「はてさて。人とポケモンは滅びるか、生き残るか。
…愛玩すべき少年が居る限り、
人間の文明は続いて欲しいとか考えちゃった。」

「その変態思考を正せば価値観は変わると思うが。」

「価値観は自由だよダン君。
君の趣味の悪い服装も何とかならんかね?」

まるで汚い物でも見る目でお互いを凝視する両者。
黒いキャップに黒コート、
あちこちに見られる骸骨のアクセサリー。
体格のせいかかなりの強面とも取れる男、
ダン・レオパルディック。

室内にも関わらず深々と笠を被り、
鞘に刺すは葱のショタコン、
霧咲出雲(キリサキ イズモ)。

…変態二人の片割れ、イズモは言い合いに飽きてきたらしく、
大きく伸びをしてドアノブに手を掛ける。

「ま、とりあえずだ。
ダン君。そろそろ下らない事は止めにしようか。」

「同意しとく。興が醒めた。
とっとと出てけ変態。」

「(やれやれ。
中々ヒヤヒヤしたが…とりあえず誤魔化せて良かったよ。)」

「今何か思ったか?」

「……。
相変わらず鋭いね君は。」

……この巨大な建造物……ポケモン協会の造りとしては、
大きく分けて二つの構造から成る。
中央に位置する
『携帯獣世界政府・セキエイ本部』。
協会に辿り着いた際には、まず一番初めに目に入るであろう場所と共に、
世界を統治すべく活動をする携帯獣政府の中枢と言っても過言では無い。

そして東に位置する
『携帯獣統治軍・セキエイ本部』。

ネオポケモンが政治の台頭を握って以来、
今までのリーグ制度やジムリーダー制度は勿論廃止されている。
もはやポケモンを戦わせて競うという風習すら無くなった事の影響とも言えるだろう。

…その代わりに採用された制度こそ、
軍の使用。
ネオポケモンが世を統治するべく設けた、唯一の戦力の集大成とも言えよう。
もはや世界の台頭を握るのは、ポケモンでも人間ですら無い。

…時代の移り変わりは、
即ち新時代の幕開け。
強者が世界の台頭を握るのは自然の摂理。
それが、偶々ネオポケモンに役が回って来た。
それだけの話だ。


だが、それを甘んじて受ける者が居ようか?


…自らが滅ぶのを、黙って見ている者など居ない。

「…ダン君。」

「何だテメ、まだ行って無かったのか。」

「昔、悪魔と戦った人間とポケモンの話を知っているかい?」

「……いや。知らんな。」

「悪魔は、人間とポケモンに言いました。
『お前達の、どちらか一人は私達悪魔の配下として使ってやろう。
だが一人は、その場で首を撥ねる。…さあ、選べ。』

人間は言いました。
『私はヒト。ポケモンと共存し合い生きてきた者。
今更大切なパートナーを捨てる事が出来ようか?』

ポケモンは言いました。
『私はポケモン。ヒトの助け無くして何が共存であろうか?
生きる意味はあるのだろうか?』

力を持っている悪魔は、
その人間とポケモンの誇りを憎みました。

『何故汚く罵合わない。
生にしがみ付き、汚く罵り合うがいい。』


『嫌だ。私は戦う。ポケモンと共に最期までお前と戦う。』


『私はヒトのパートナー。
いつでもヒトに必要とされてきた、ポケモン。
ヒトと共にお前と戦ってお前に敗れるのであれば、甘んじて運命を受け入れよう。』

悪魔は激昂しました。

悪魔には決して無い物。
それは、大切な者を護るという誇りでした。」



「…この話、此処で途切れてるんだよね。」

「その『悪魔』ってのは、俺達を指すのか?」

「んん?
…はは、そりゃ解らんね。何せだいぶ昔の話らしいし。」

イズモは再びノブに手を掛ける。

「これから先、勝つのは力有る『悪魔』か、護るべき者が居る『ヒト』か『ポケモン』か…。」

「…俺は、悪魔として是非見届けたいモンだな。」

「ハハッ、俺は……、
どうだろうねぇ。」



手を掛けていたノブを捻り、
イズモはドアを開け部屋から出る。


「…少年よ。君は悪魔かヒトか、ポケモンか…。
どの様な形で事の顛末を見届けるのを望むか楽しみだよ。」











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