第十四章「回転塾長ジョバンニ」
「うぅ、痛たた…。」
「おい、大丈夫かテメェ?」
「大丈夫そうに見える?眼科行くかい?」
「…いや。」
おはようございます。レイディオです。
僕が語り口で進行するのも久しぶりですね、読者の皆さん。
まぁ、それは置いときましょう…。
昨日のリリー君に蹴られた傷がじくじくと痛むまま、
僕達はキキョウシティに脚を運ぶ。
目指すはコガネシティ。
此処からだいぶ遠いけど、
ウツギ博士の急ぎの以来だ。仕方無い。
「大丈夫?ラジオ君…」
「勿論ですよ。
心配いりませんよソフィアさんv」
「あれ?何か俺と態度違わね?気のせい?」
「気のせい気のせい。
いいから君は僕を蹴った事に対して一生懺悔でもしてな。」
リリー君とは行動を共にする事となった。
正直ちょっと怖いね。
何か腹いせに蹴られそうで。
…嫌味っぽくなっちゃった様だ。
僕は寝起きが悪い。
「…そう怒らんでくれよ。
いや、昨日はホント悪かったよ。な?」
「…ホントに反省してる?」
「……あぁ。」
「もしかしてさ、
あれって照れ隠しだったの?」
「………、、、、。」
やっぱりリリー君は照れ屋さんの様だ。
「あれ?リリー君。顔が赤」
「五月蝿ぇぇえ照れてるとか言うなテメェェエェ!!!」
「痛゛ぁ゛あ゛あ゛―――!!!」
「ちょっ!景色を楽しんでた矢先何してんのリリー君!!
ちょっと目を離した隙にまたやったわね――!!」
痛いですもうホント。
爪先で傷を蹴られたら痛いのなんのって。
「俺に向かって照れてるとか金輪際言うんじゃ無ぇえ!!
ぶっ殺すぞテメ――!!!」
「うわ――ん!!
ごめんなさいごめんなさい!
だから蹴らないで〜!痛いよぉ〜!!
うえ〜〜〜ん!!」
「いい加減にしなさいッッて――!!
リリー君は何をそんなに怒ってるのよ――!!」
完璧に立場逆転ですね、うん。
…何故一人が混ざるだけでこうも騒がしくなるんだろう?
三人の派閥の賑やかさじゃないだろう……
常識的に考えて……。
それに痛いし…。
もうおっかないよリリー君が。虐待だよ。
「うぇっ……。ぐすっ、ぐすっ…。そこまで蹴らなくても……。」
「解りゃいいんだよ。」
「リリー君。貴方いい加減にしなさいよホント。怒るわよ。」
「…反省はしてる。少々過激になり過ぎた。」
よし。もうリリー君をからかうのは止めよう。
そうして僕も大人になってゆくのでした。
「…そういや、キキョウシティで何か調達する物はあるのか?」
「別に調達する物は無いなぁ。
食事だって現地で採ればいいし。」
あれやこれや言ってる間に、
僕達はキキョウシティの土を踏む。
…人やポケモンはあまりいないと思ったが、
別段そうでも無い。
ネオポケモンの動きが活発になってきたと言えど、
流石にあからさまな襲撃はまだ無い様だ。
「リリー君、尻尾隠してね。」
「テメェも耳と尻尾隠せ。」
「解ってるよ。」
そう。僕達は耳や尻尾を隠さなきゃいけない立場。
なんたってネオポケモンだもの。
コスプレで隠し通せればどんなに楽な事か。
…とりあえず、キキョウシティに用は無い。
適当に宿でも探して、朝一で町を出よう。
「あ、あれ見て!」
ソフィアさんが指差す先。
何やら汚い建物がある…。
何だ彼処は?廃虚かな?
「うわっ…。きったねぇ建物。」
「こら、リリー君。そんな事言っちゃ失礼でしょ!」
ソフィアさんがリリー君にゲンコツを喰らわす。
…その時、僕の足元に小さな子が居るのに気付いた。
「…お兄ちゃん達、誰なの?」
「へ?」
「あぁ――!!駄目デースよ!
外は危ないんだから!!」
声と共に、何か回ってる様な擬音が耳に入る。
…回ってる。人が。
妙なおじさんが、くるくると回りながらこっちに向かって来る。
「…ま、回っとる。」
「見事に…。」
「(し――っ!失礼な事言わないの貴方達!)」
ソフィアさんはそう言うが、
おじさんの寄行に驚きを隠しきれていない。
「いやはや、ご迷惑をお掛けしましたデース!
何しろこの子はやんちゃ者で…。」
「あ、いえいえ。全然迷惑してませんよ。」
おじさんは僕の足元の子を抱き上げる。
「私、此処で塾長を勤めさせて貰ってるジョバンニと言いマース!」
「………。……塾、?」
この建物が?廃虚じゃなくて?
「(おい…。廃虚じゃなくて塾だったみたいだぜ。)」
「(だから失礼な事言っちゃ駄目でしょっ!
仮にも此処の塾長さんの御前よ!)」
リリー君の顔面にソフィアさんの拳が飛ぶ。
「あはは、このお兄ちゃん達面白い〜♪」
「うん、そうでしょー?
特に赤い髪のお兄ちゃん面白いでしょー?」
「(レイ…テメェ後で殺す…!)」
鼻を右手で押さえてるリリー君が睨んでくる。
怖いから見えないフリ見えないフリ。
「お、そうデース!
貴方達、ちょっと寄って行きませんか?」
「え、でも何か悪いですし…。」
「構いませんヨー。
うちの子も懐いてる様ですしネー。」
あ、本当だ。さっきの子が僕の脚にしがみついてる。
とりあえず、僕達はお邪魔させて貰う事になった。
中は…言うまでもないだろう。
外観と同じと言えば解りやすい。
机や椅子等の勉強できる環境は一通り出来ているが、
肝心の勉強道具が見当たらない。
それどころか勉強出来る年頃の子すら見当たらない。
…皆、小さい子達ばっかりだ。
「…さっきから不思議に思うデショ?
塾なのに周りは小さい子ばかり、
勉強道具一式すら揃って無いって、ね。」
「あ、いえ。」
テンション高めのジョバンニさんが、ふと暗い顔を見せる。
「初めは普通のポケモン塾だったのデスが…
経営が難しくなり、塾は閉鎖。
今はこうして身寄りの無い孤児を預かってるんデース。」
「それで小さい子が多いんですか…。」
辺りを見回すと、あちらこちらで子供がチョークを使い遊んだり、
食器を使いおままごとをしている。
「ご苦労されてるんですね…。」
ソフィアさんがジョバンニさんに言う。
「いえいえ。私は今充分幸せデースよ。」
ジョバンニさんが椅子に腰掛ける様に僕達に諭す。
僕達は遠慮しがちに(リリー君を除き)椅子に座る。
「この子達が居てくれるお陰で、私全然寂しくないデース。
閉鎖した当時は、凄く寂しかったデスよ…。
何せ一人ぼっちでしたからね。」
ジョバンニさんが苦笑する。
「一人、ですか…。」
ソフィアさんが呟く。
「一人は寂しいよね。」
「…ああ。」
「僕も一人は…もう嫌だな。」
僕達が口を揃えて言う。
「? どうしたんデースか?」
「あ、何でもないですよ。」
今此処で僕達も身寄りが無いと言うのは少々野暮な気がしたので、
僕はジョバンニさんにそれを伏せておいた。
二人も察している様だ。
「そうだ。良かったら子供達と遊んでやって下サーイ!
せっかく人が来た事ですし、喜んでくれるでショー!」
「ええ、勿論ですよv」
「俺は遠慮しておく。餓鬼は好かん。」
「リリー君。」
「…はい。」
ソフィアさんが睨んだ影響か、
渋々リリー君も子供達が遊んでいる庭に向かう。
ソフィアさんも後に続き庭へと脚を運ぶ。
「そういえば、名前を聞いてませんでしたネー。」
「あ、レイディオって言います。
レイディオ・デ・トキワグローブ。…レイでいいですよ。」
一通り僕も自己紹介を済ませる。
だいぶ遅い自己紹介だけど…。
「レイ君ですか。よろしくデース。」
「よろしくお願いします。」
僕とジョバンニさんは軽く握手する。
ふと、ジョバンニさんは庭の方へと目を移す。
「やっぱり、愛着が湧くんですヨー。
…例え血が繋がっていなくても、自分の子供みたいで。
子供達が可愛くてたまらないんデース。」
僕にはまだそういう事が良く解らないけど、
ジョバンニさんの顔を見れば解る。
…この人は、本当に幸せなんだなぁ。
例え貧乏でも、大切な人が居てくれれば幸せになれる、か…。
「幸せは、お金で買えませんもんね。」
「そうデースよ。
…私、塾の経営が順調な時は何とも満たされない生活をしてましてネ……。」
僕も、ふと庭に目を移す。
子供達は変わらず楽しそうに遊んでいる。
「いつも考えてたんデースよ。
自分の心は、どんなにお金があっても満たされない。
ならば本当の幸せは何だろうって…。」
…幸せ、かぁ…。
人は幸せの為に生きているって聞いた事がある。
……この人は、自分なりに幸せを掴む事が出来たのかな。
大切な人が出来たっていう結果で…。
「ラジオくーん!こっちに来なよー!」
ソフィアさんの声がする。
「うん!今行くよー!」
「あ、そうだレイ君!」
走り出す僕をジョバンニさんが呼び止める。
「良かったら、君達今日此処に泊まっていきませんか?」
「へ?」
ジョバンニさんの唐突な申し出に僕は困惑する。
「でも、なんか悪いですし…。」
「遠慮しないで下サーイよ。
貴方達は子供達とも遊んでくれてる事デースし。」
そうだなぁ…。
どっちにしても宿は決まって無かったし、
御言葉に甘えるとしますか。
「じゃ、御言葉に甘えて…。」
「オー!きっと子供達も喜びマースよ!」
ジョバンニさんは気分を良くして、
くるくる回りながら奥の部屋へと行ってしまう。
たぶん客人用の部屋の用意でもしてくれるのだろう。
…有り難い事だ。
「ラジオくーん!」
「はいはーい!今行きますよー!」
ソフィアさんに急かされ、僕は庭へと向かう。
…でも何でジョバンニさんは、
見ず知らずの僕達を泊めてくれる気になったのだろうか?ちょっと気になるな。
…ま、いいか。
――同時刻――
「………。もしもし。」
『…現地には着いたか?』
「うん。標的の特徴は?」
『……イズモ様によると、
一人は反逆者リリー・バレンタイン。
赤髪に額に包帯を巻いた、リザードのネオ。
もう一人は…金髪の可愛いらしい少年だか何だか。』
「……可愛いらしい少年?」
『真に受けるな。
あの変態上司の言う事だからな。
…もう一人は人間の女。茶髪に赤いリボンが特徴らしい。』
「…解りました〜。ぢゃ、ソイツ等を始末すればいいと?」
『嫌でもそういう事になるな。
…さっきジョバンニから連絡が入った。
奴等はもうキキョウに入っているらしい。』
「そっか。なら任せといてや。」
『…ああ。協会直属機関の名に恥じない様にな。
…アメジスト。』
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