第十六章「合格」

よろめく脚を無理に動かし立ち上がり、
再び鎖を浮かせ迎撃態勢を整える。

…とうとう全貌を露にした相手の特能。
周りには、球状の炎が暗闇を薄紫に照らす鬼火の如く浮いている。

「飽きた。死ねよ。」

「…嫌です。」

少年は球状の炎…火球を膨らまし、
僕に放つ。
とっさに鎖を身に巻き、
火球を防ごうと努める。


瞬間、爆発。


辺りの壁や柵が派手に倒壊する。

…爆発したのは、紛れも無く少年の放った火球だ。

「…爆撃能力…!!」

「御名答。消し炭になりたくなきゃ頑張って動きな。」

「言われるまでも無いですよ。」


兎に角相手に遠距離攻撃の手段が出来た以上、
迂濶に直接戦闘に出るのは危ない。

…此処は鎖の本数を増やし、攻撃に備える事にする。

あの爆発する火球さえ撃ち落とせれば、
無理矢理にでも接近して直接戦闘に持ち込める。

「まだ二人残ってんだからさァ…。
とっととッ!!」

少年は無数の火球を、倍以上に巨大化させる。

「くたばれって!!」

「嫌ですって!」

…ん、二人?
この人…どうやらリリー君にソフィアさんも標的にしてるみたいだ。

なら、尚更退く訳にはいかないね。

そう思ってる矢先、少年の火球は勢いを付けて向かって来る。
僕は素早く脚に電気を溜め、
【電光石火】で少年の居る方向へと走り出す。

「俺は殴られるのは嫌いなんだよ!」

「知りませんよ!」

次々と我が身に振り掛かって来る火球。
僕は鎖を勢い良く振り回し、火球を迎撃する。
鎖が火球に触れた瞬間頭上で爆発が起き、
爆風が視界を奪う。

目前に映る影。

直感的に爆風にまみれる相手の影を見つける。

僕は躊躇無くそれを掴むべく手を伸ばす。
掴んだ相手は少年。攻撃の為、僕は再び拳に電撃を溜める。


…それと同時だった。
少年が口の端を吊り上げ、笑みを浮かべたのは。

「至近距離の花火ってのも一興だろ?」

…考える間も無く、僕は全身がバラバラになりそうな衝撃を受け吹き飛ぶ。
僕は火球を一つ残らず撃ち落としたハズだ。

なのに、何で……!?

「綺麗だったか?特等席での花火は。」

少年はケラケラと僕を嘲笑う。
鈍い衝撃音と共に地面に激突する。
地面に接する寸前に、少年の全身から紫の煙が上がるのが目に入った。

…まさか、自身の能力で全身を爆破させたのか…!?
だとすれば相当厄介だ。
相手にカウンター能力があるならば直接攻撃が主流の僕には手に負えない…!

それに…、爆撃の威力は最初の比では無い。
全身の骨や内臓有りとあらゆる箇所が軋み、
口内に鉄の味が充満する。

「察した?そ。お前は俺に触れる事すら出来ないで此処で死ぬしかないよ。諦めな。」

「うっ、ゲホッ!ゴホッ!」

喉に灼熱感を感じ慌てて口元を押さえると、
真っ赤な血が掌から滴り落ちる。先程の爆発のダメージもあってか、
身体も限界が近いらしい。

「事実として受け止めろ。
現にお前は俺に対抗出来る余力があるんか?」

…確かに余力は少ない。

目も霞んできた。

けど…!

「敗ける訳には…いきませんよ。」


「…なーにがお前をそこまで突き動かすんだかなぁ。」

少年は今までで一番大きな火球を作り、
脚を振りかざす。

「じゃーね。」

それだけ言い終えると、
巨大な火球を僕の方へと蹴り飛ばす。

…僕はまだ、ネオポケモンの戦闘やらを殆ど理解していない。

前にリリー君に言われた通り、僕は実戦経験が乏し過ぎる。
今までトレーナーである僕がいそしんできたのは、
通常のトレーナーとポケモンのタッグにより真価を発揮する、
文字通りのポケモンバトル。
単独での戦いを主とするネオポケモンの戦闘とは形式が違い過ぎる。

けど、大体の辻妻は合う。
戦闘経験こそが自らの『レベル』を指し、
自らの意思で動き、全身を制御する事を『指示』と指すはずだ。
大体のシステムは通りが合う事が解る。

けど……

「理屈じゃないんだよね。戦うって事はさ。」



さっきから、全身を駆け巡る血が沸騰する程熱いのが解る。
自分の目は彼以外の何物も捉えていないのが解る。

…何よりも、ピカキチが戦いを望んでいるのが全身を伝わり、感じる。

――楽しい。

心底からの笑みが止まらない。

追い詰められている人間にしては奇妙な状態とも取れるだろう。

短期間の間の連戦のせいかは解らないけど、
確実に僕はピカキチと同調しつつあると思う。
最初は、戦うのが怖くて怖くて仕方無かった。
これからの事を思うと、不安が止まらなかった。
でも違う。少なくとも、僕の経験してきたポケモンバトルは違う。
トレーナーとポケモンとの駆け引き。それに伴う『楽しむ心』。
父さんは、戦いを楽しめといつも僕に言ってたな。

「(…おぉ?いい眼になってきたなコイツ。)」

僕を驚きの眼で見る少年、
時間に比例し迫る巨大火球。
…否、時と比例して変わる物は火球だけじゃない。

「…うん。楽しくなってきたよ。」

徐々に高ぶる僕の気持ち。
垂れていた耳が天を突く。
極度の興奮状態になると耳が逆立つのは、ピカキチの典型な特徴だ。


「……ピィイ〜〜…
……カァァア〜〜〜………!」

ピカキチの自我が僕の自我を上回ったのかは解らない。
本能的に四つ脚の態勢になり、頬に莫大な量の雷を溜める。

「……、あ?」


「………チュ―――――!!!!!」


僕の咆吼と同時に溜めていた雷が爆ぜ、
レーザーの如く標的へと一直線に向かう。
それを追って雷鎖がレーザーへと巻き付き、
超威力とも言える攻撃で火球を掻き消す。

「っ、うぇえ!?」

風船の様に爆ぜ消えた火球。
それを見た少年は慌てて空中に逃げる。

けど既に空中を制していたのは僕。
少年が逃げ込んだ位置に既に居たのは僕だ。

「!!!」

「逃がさないよ!」

僕は少年の襟首を掴み、再び頬に電撃を宿す。

「うぐぁぁぁあああッッ!!!!」

述何万ボルトか解らない程の莫大な電圧を解放する。
雷が落ちる様な轟音と共に電撃が少年の全身を駆け巡る。

「ぐぁあッ……!がはっ!」

少年は襲い来るショックに耐えきれず、
その場に膝を着く。
全身から吹く煙を見れば、
僕が解放した電気は、間違い無く従来の【10万ボルト】を軽く凌駕していた事さえ解る。

…これがネオポケモンの力、か……。

ウツギ博士の言う、究極の生物ネオポケモン。
頷ける話だと思う。




「…うっ。き、効くなぁ。」

膝を着いていた少年がむくりと立ち上がる。

「殴られたり痺れさせられたり…。
ロクな事無い。」

血濡れの頭を掻き、少年は僕に詰め寄る。

なにくそ。
今ので倒せないのならもっと攻撃するまで!

「……、あれ?」

攻撃に出ようと構えたが、一筋の違和感。
なんと眼の前の景色がぼやけている。
丁度薄目を開けている様な感じだ。

「不本意だったけど…。
ま、合格だ。レイディオ。」

…へ?この少年は何を言って…

「ご、合格…?……うぅ。」

身体から迫り上がってくる物を感じ、口元を押さえる。
激しい咳と共に僕は再び血を吐き出す。

「無茶するな。
俺の爆撃を受けて無事なハズがないよ。」

ニコリと笑む少年。
状況が状況だけに多少不謹慎だと思う。

更に狭まる視界。
息が苦しい。
…気付けば、僕は少年の胸元に倒れ込んでいた。

「…全く……。
やはり乱暴過ぎマースよ。アメジスト様。」

ゆっくりと近付いて来る人影。
声が聞こえるけど…、誰だかは解らない…。

「言うなよジョバンニ。…しっかし面白い奴だった。
まさかパートナーとの『同調』現象まで見せてくれるとはね。」

「…で、どうでした?
結果の程は。」

「合格だよ。ごうかく。
…イズモさんの話なら、もしつまんない奴なら殺していいって話だったんだ。」

「なんデースかそれは…。」

人影は呆れた様に首を縮め、溜め息をつく。

「私だって心を痛めたんデースよ。こんな良い子達をみすみすハメるなんて。」

「解った解った。悪かった。…ったく。」

アメジストはポケモン塾の方向をちらりと見る。

「で、どうだったよ。
お前の方はよ。」

「無論合格デースよ。
リリー・バレンタインが一般ピープルに手を加える様であれば問題アリでしたでしょう?
…彼は何処にでも居そうな優しい少年でしたよ。」

「よし。なら決まりだな。」

アメジストはレイディオの顔に向き直る。

「コイツ等をマサキの所に連れて行く。
…異論は?」

「ナッシングデース。」







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