気が付けば、
僕はきっと夢の中だったのかもしれない。


第十八章「僕」



君はレイ。レイディオ・デ・トキワグローブ。
元々人間の、所謂『作られたネオポケモン』。
両親を殺され、絶望に暮れるが――ソフィア。
この女性を護るという事に自分の生きる意味を見出した。


目の前の人は誰だろうか。
木すら生えそうも無い渇いた高地に立ち僕を見下ろしている、
黒いシルエット。一体誰なのか全く解らない。

…けど只、一つ解る。

……この影は、僕の事を知っている。
まるで僕自身かの様に。

「奇遇だよね。」

影が一跳びする。
その跳躍と共に、僕の前に影が降り立つ。

「僕も『レイディオ』さ。」

声と共に判別すらつかなかった漆黒のシルエットが薄くなり、
目の前の人の姿が露になる。

――僕。


その姿は、一切の紛れも無い『僕』自身だ。

「…………僕?」

「うん。君もレイ。僕もレイ。」

不思議と驚きは無かった。
鏡を見て、身だしなみを整える感じ。
何故だか解らないけど…正直そんな感覚しかない。

「なんか寂しいよねぇ。
…生きる価値を見出すのは、『護る』事だけ。
寂しい。寂しいよ。」

僕と名乗る『レイ』は、妖しい笑みを口元に残しうつ向く。

「レイ。君はそんな事だけに価値を見出しちゃ駄目さ。
…手っ取り早い『自我の誇張』を知ってるかい?」

「……何?」


「壊す事だ。」


『レイ』は右腕で拳を作り、
雷を発して僕との間に巨大な亀裂を作る。

「言ってみろよ僕!憎いだろ!
大切なお父さん、お母さんを奪った協会!ネオ!!世界!!!」

突如赤い眼を見開き、『レイ』は激昂する。

世の中に対する全ての憎しみを浸した様な汚れた眼で、
辺りの岩場を吹き飛ばし続ける。

「あの女!ソフィアが邪魔だろう!
あの女の偽善さえ憎い!
あわよくば、あの女さえ消えれば…」

言い終える前に、『レイ』は吹き飛ぶ。
…僕が思いきり殴ったからだ。

「何て事言うんだ!」

「…本音を言ったまでさ。」

『レイ』は未だ含み笑いを浮かべたまま、
口元の血を拭い起き上がる。

「君は僕だ。故に僕とは君だ。
…解らないのか?ふふ。
君が普段から意識してなくても、深層に秘める思いというのは正直さ。」

『レイ』は服の埃を払って立ち上がり、再び高地へと上がる。

「辛いだろう僕。苦しいだろう僕。
…胸が締め付けられる程の偽善を強いられるのは。
君は本当は壊したいはずさ。協会も、世界も。…あの女も!」

「黙れ!僕はそんな事…!」

何故だろうか。
勿論僕はそんな事なんて思っていない。

けど、その先の言葉がつかえてしまって出ないんだ。

「? …続き言ってみなよ。ん?あはははは。」

「ッ………!!」

「まあ、そんなに怒らないでよ。」

まるで僕を見下すかの様に、『レイ』は僕に微笑む。

「君の中には常に僕が在る。
光在る場所には必ず影が出来るのと同じ。
裏が存在する。」

『レイ』は再び影に姿になったかと思うと、今度はソフィアさんに姿を変える。

「忘れないでね。
憎悪の渦と護りたいという気持ちは紙一重って。」

ソフィアさんに姿を変えた『レイ』は、懐から刃物を取り出したかと思った刹那、

「………!うっ、うわぁぁあああ!!」

それを僕に構え、
走り向かって来た。

「く、来るな!僕に寄るな!!」

激しい拒絶。
向けるは最愛の人。

「止めてくれ!
…もう、僕に関わるのは止めてくれ!放っておいてくれ!!」

「それがお前…レイディオだ!!良く覚えておけよ僕!
最愛の人すら突き放す、常に憎悪を内に秘める冷酷な反逆者!!
それがレイディオ・デ・トキワグローブ!本当のお前自身って事をな!!」





最後に見たのは、ソフィアさんが恐ろしい形相で僕を嘲笑った顔だった。
あれが夢なのか事実なのかは定かではない。


…いや、夢であって欲しい。



「……コガネ……。
……キングダム……コガネ………?」

次に目に入ったのは、派手な装飾を帯びた看板。

眼前にそびえる巨大な街、ビル街。



…コガネシティ。

僕が目指していた場所だ…。

けど、ソフィアさんもリリー君もいない。

どうやら僕は迷子の様だ。




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