………頭、重いわ……。


いつの間にかPCの起動終了もしない内に眠ってまったみたいやな。
クソ、電気代勿体無ぇ。
俺の所の旧式PCは、ほっといたらスリープする気の利いた機能すらついてないんや。

…しっかし嫌な夢見たわ。

あの時の事件の追憶…。

見てて気持ちええもんやなかったな。当たり前やけど。

「…………はぁ。」

こんなモンばっか研究しとるから、あの日の夢を頻繁に見る様になったんやろか。
いや、そりゃ考えが卑屈過ぎやな。

…ああーっ…。
こう、なんつーか…
暗い話題しか耳に届かへんとどうしても考えが卑屈になって敵わんわ。
こういう状況だからこそ、俺が頑張らんといかんのにな。

『圧力破棄』についての研究は滞り無く進んどる。
今はもう殆ど何も残っておらんが、物事は確実に良い方向に進んどるはずや。
この能力の詳しい解明まで研究を進める事が出来りゃあ、いくらでも奴等への打開作は考えられる!はずや!

…おっしゃ!卑屈になっとってもしゃあない。
兎に角今は俺に出来る事をやるんや!うっし、まずは……。


…………おろ?


何や、これ。

……鉄線?

何でウチの床から鉄線が突き出しとるんや?
痛ぇ!ケツの辺りにも沢山生えておるわ!
クソッ、欠陥工事が今になって浮き彫りになってきおったか?
つーかどんな家の建て方すりゃあこんなに鉄線が……。


……な…なんや?
なんやこの鉄線!?
どんどん俺の足に巻き付いて………ちょ、やめ………!!


「うわぁぁぁああああ!!!!」










僕はてっきり勘違いしていたらしい。
マサキさんは元・ポケモンコレクターと聞いていたから、
きっと家も大きくて、中も収集したポケモンでいっぱいなんだろうと思ってたけれど…。

第二十五章「"匣庭"」


「大きな箱みたいだね。」

「うん。ていうか箱そのものの様な気が…。」

僕の予想は大きく外れた。
目の前に聳える、まるで箱の様な鉄臭い奇妙な建物。

…これが、マサキさんの家らしい。
ドアが付いてなければとても家には見えない。
と、いうか…家なのかな?どちらかというと要塞みたいな感じがする…。

兎に角この異様な雰囲気からして、とても元コレクターの実家だとは思えない。
まあ、マサキさんだってウツギ博士と同じ立場なんだし、
ネオポケモンに狙われててもおかしく無い。
頑丈な家に立て籠っていたって何も違和感は無いはずだ。

…うーん。
でも、これはやり過ぎな気が…。

「…お邪魔しまーす。」

ギシギシと鈍い音を立てて、重たい扉は開く。
ひやりとした鉄の感触が気持ち良い。

中は……なんだか鉄臭いし、なによりも暗い。
けど、先が見えないって程ではない。ちょっと薄暗い、ってくらいかな。
もう目が慣れてきた。
薄暗い森を生息地とするピカチュウは、暗闇に強い目を持つと聞いた事がある。
たぶんそのお陰だろう。

「人なんか住んでるのかなぁ…。」

「でも、場所的には此処で間違いなさそうよ。
ちょっと進んでみましょう?」

「そうだね。」

手探りで進んでいく内に、このマサキさんの家らしき建物の構造もわかってきた。

…マサキさんって、超が付く程の変人なんだと思う。
だって外観はともかく、普通家の中を迷路みたいにすると思う?
どう考えても普通じゃないよ…。
昔にバラエティ番組で見た、ホウエン地方のカラクリ屋敷みたいだ。
単に隠れるだけならこんなに目立つ外観にする訳も無いし、やっぱり変だなぁ。



『カチッ』



「…………?」


………ん?
今、何か踏んだ様な気が……。

「ッ!!危ないソフィアさん!!」

「?……きゃぁあ!!」

鋭い音を立てて壁に突き刺さる鋭利な矢。
まるでボウガンで発射された様な威力のそれは、僕の頬を掠めて壁に突き刺さるだけに留まった。

ソフィアさんを突き飛ばすのが少しでも遅かったらと思うと…ゾッとする。

「大丈夫、ソフィアさん?」

「私は大丈夫…。ラジオ君は?」

「僕は大丈夫だよ。」

…どうやら僕達は招かれざる客らしい。
こんなに手荒な歓迎を受けたのは初めてだ。

「こんにちは〜。はじめまして〜。」

何処からともなく、幼い女の子の声が鉄の壁に反響して響く。

「…………!?」

「うふふ。ビックリした?キャハハハ!アンタ、冷や汗が凄いよぉ?」

まるで僕達を嘲笑うかの様な楽し気な声。
…マサキさんとはかけ離れた存在であろうその声の主は、明らかに僕達を挑発している。

「おい!君は誰だよ!マサキさんは何処だ!」

「何?そこのチビ。自分の立場わかってるの?」

「うるさい!チビって言うな!」

「ラ、ラジオ君…。」

いけない。小さい子相手にムキになってしまった。
…冷静に見ても、確かに僕が大きな態度を取れる立場じゃない。

どうりでおかしいと思ったよ。
こんなヘンテコな家がある訳が無い。

…さしずめ、僕達はまんまと罠にはまってしまったという所か。

「ねえ、君は協会のネオポケモンなの?」

「どうかね。ところでさあ、アンタ達は噂の反逆者かな?かな?」

はぐらかしているみたいだけど、誤魔化しきれていない。
反逆者の話題を出すなんて事は協会の人に決まってる。

「…君達から見たら反逆者かもね。」

「そっか。んふふ♪」

声の主の少女は心底嬉しそうな笑い声を残す。

「ようこそアタシのパーティ会場"匣庭"へ。
アンタ達がマサキと接触するって聞いて、ワクワクして待ってたんだ。」

「待っていた…?」

「そっ。この匣庭も、アタシが特別に創ったんだ〜♪ねぇねぇ、こんな陰気臭い迷路抜けてさ、早くメイン会場まで来なよ。アタシと踊ろうよ?」

この鉄の箱を創った、だって?
…意味がわからない。
こんな巨大な建造物、一人で作れるはずが無い。
流石に生物が可能とする常識を超えすぎている。
…たぶんハッタリだろう。

「…マサキさんは今、何処にいるの?」

「メイン会場まで来たら教えてあげる〜。到着までに生きてたらだけど?死んだりしたら冷めるからメイン会場まできちんと来てねぇ。」

嬉々とした感じで、少女は狂気じみた言葉を淡々と放つ。
…少女のこの狂気を目の当たりにし、ソフィアさんの顔が恐怖で青ざめる。

「大丈夫だよ。ソフィアさんは、僕が絶対に護るから。」

「ラジオ君…。」

今一度、ソフィアさんの手をぎゅっと握る。

…これ以上、僕の大切な人を奪われてたまるか。
ソフィアさんには指一本触れさせるつもりは無い。

「手なんか繋いじゃって。お姫様を護る騎士ってか。可愛い顔してるくせにカッコいいね〜お兄ちゃん。」

少女再び嘲る様に言葉をは発する。

「せいぜい楽しませてよ。アタシは退屈と人間が大嫌いなの。
…メイン会場でアンタ達が、どんな風に悶え苦しんで踊るか想像しながら待ってるね♪」






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