3匹目の捕獲のときは、思ったよりも早くやってきた。

「新しいアプリのモニター?」
プラチナが聞き返すと、ポケッチカンパニーの社長は最新型のポケッチを箱から取り出してうなずいた。
「そう。 いつもは社員……私の家族たちがテストをしているんだけど、今回はトレーナーさんにお願いするしかなくってね。
 博士の助手であるキミなら安心して頼めるし、お願い出来ないかな?
 もちろん、お礼はするし、テストに使ったポケッチはキミにあげるよ。」
目の前に現物を出され、プラチナは思わずうなずいていた。
だって、社長がくれるといったポケッチはまだ発売していない最新モデルで、どこのお店でも予約を打ち切るほどの大人気機種なのだ。
「社長! じゃあ、次のポケッチのCM、あたしたちにやらせてください! そうだ、『お礼』はそれがいいです!」
突然の申し出に社長は面食らう。 思わずプラチナの顔を見返すが、冗談ではなさそうだ。
「いや、そう言っても、ポケッチカンパニーはポケッチがヒットして今でこそ名前も知られてきてるが、元々家族経営の小さな会社だから、タレントさんにギャラを払うほどの余裕はないよ?」
「いいの! じゃなかった、いいんです!
 あたし、もっとポケモンのかわいさを世界に知ってもらいたいです。 そのためにはもっともっとあたし自身が有名にならなくちゃならないから……
 だから、お金なんていりません!」
「いやはや……」
すっかりプラチナの勢いに押され、社長は言葉を失っていた。
とても『博士の助手』が放つ言葉とは思えない。 社長が白髪交じりの頭を抱えながら喫煙室の方へと顔を向けたとき、唐突に物音がしてフロアにいる全員が顔を上げた。
ガシャンというか、ゴトンというか。 鈍い音が、窓の方から。
フロアには社長以外、女性しかいない。
もしかしたら泥棒かもしれないと、社長が恐る恐る音のした窓の方へと近づいていくと、窓際に置かれた鉢植えがゴトゴトと音をあげて動いている。
ブラインドを開ける。
南向きの窓に置かれた鉢植えに、小さなポケモンが突き刺さっていた。





「それが、クローバー。 いつもは略してクラブって呼んでるけど。
 あの時はまだ進化してなくてスボミーだったなぁ。
 多分、鉢植えの土を食べようとして飛び込んだんだと思うの。 食い意地張ってるのよね、この子……」
そう愚痴るプラチナの言葉を、マイはヒザを抱えながら聞いていた
彼女らは今、誰もいない砂浜を相手にワザ……コンテスト用の演技の練習をしている。
ロゼリアはスボミーの進化形だ。 身体こそ30センチと小さいが、しとやかな動作と両腕に咲いた赤と青の幾重にも重なる花がコンテストに出るトレーナーに人気のポケモンだ。
プラチナが『構え』のポーズをとると、クローバーもそれに合わせる。 「こういうのは、ちゃんとやるのになぁ」と、プラチナが肩をすくめた。
「『百花繚乱』!!」
高い声で指示が出ると、薄氷色の空に鮮やかな花びらが飛んでいく。
風に巻かれながら広がっていく花々は、やがて砂浜に落ちて波打ち際の貝に混ざった。
弾を打ち切って『こんらん』しているクローバーに『キーのみ』を与えながら、プラチナはマイの反応を見る。
「やっぱ、これはただの『はなびらのまい』……だよね。 わかってるんだけどな、これじゃダメだって。」
マイは体育座りのまま、空の1番遠くに舞い上がった一ひらを見つめていた。
「……でも、」
言葉少なな彼女が発した声に、プラチナは瞳を向ける。
「私、これを見てあなたについていくことを決めたのよ。」

マイは立ち上がると、流れ着いた流木の枝を折り波打ち際にポケモンの絵を描いた。
いや、ポケモンかどうかも怪しいような、マイが描いたそれはプラチナが今までに見たこともないような形をしていたが。
「……氷空の花束。」
描き終えたのかすら良く分からなかったが、手にした枝の先が折れるとマイはそれを海の方へと投げ捨てた。
「大切な人に、感謝を伝える。
 ……私、これを渡したい人がいる。 だから、探してるの。」
絵を覗き込もうと波打ち際まで走ったクローバーが、7回目の波にさらわれそうになって慌ててプラチナの足元まで逃げた。
『氷空の花束』という単語にも消えかけた絵にも心当たりはなく、プラチナが考え込んでいると、マイは彼女の足元にまとわりつくクローバーに視線を送り、自分たちが来た方向へと視線を移す。
「……あの日……あなたたちがショーをやっていたとき、私、1番上の席にいたの。
 ロゼリアの『はなびら』、私の席まで飛んできた。
 思ったの。 もしかしたら……あなたたちといたら、私の探しているものを見つけられるかもしれないって……」
「そ、そこまで言われたら、なんか照れちゃうな……
 ほら、クラブ! 練習再開するよっ!」
照れたついでで休憩時間を縮められたクローバーは不満そうに彼女の足元で暴れまわった。
弾みで、花の影に隠れたトゲにヒザを刺されたことをきっかけに、プラチナとクローバーはケンカを始める。
目を丸くしてその様子をじっと観察した後、マイは、少しだけ勇気を振り絞っていつもより大きな声を出した。
「ねえ!
 あなたには……プラチナには、いる? 感謝を伝えたい人。」
「感謝? 感謝……ねぇ……」
足元のクローバーとケンカするのも忘れ、プラチナは空をあおいだ。
まるで、何かを思い出すように。







「渡せ。」
「イヤ。」
「渡しなさい。」
「イヤ。」
「渡せと言っているのだ。」
「イーヤッ!」

コトブキシティではトラブルが続いた。
用事を済ませ、ポケッチカンパニーを出てから半日も経っていないというのに、訳のわからない男女3人に絡まれ上のやりとりだ。
身体を小さくしたプラチナの腕の中では、先ほど捕まえたスボミーが小さくうなり声をあげている。
「オジサン、オバサン、いい歳して恥ずかしくないの?
 大人なんだから、ポケッチくらい自分のお金で買えるでしょ?」
「バッ……!?」
プラチナの目から見て30歳前後の女性が彼女に掴みかかろうとして同じ集団の男になだめられる。
もう1人、サラリーマン風の30か40かといった男が前へ進み出て小さなスボミーの収まったプラチナの胸元を指差した。
「ナナカマドの助手よ、ワレワレは穏便に話を済ませてやろうと言っているのだ。
 速やかにそのポケッチを渡しなさい。 それがキミやナナカマド博士のためでもある。」
「オジサン仕事は?」
プラチナが聞き返すと、サラリーマン風の男の目つきが豹変し、プラチナに向かって拳を振り上げる。
その瞬間、食事をしていたテラス席からキングが走り出し、テーブルの上からハートが電撃を放ち、プラチナの足元にポッチャマの電撃焼きが出来上がっていた。
ぽかんとしていると、目の前のサラリーマン風の男が「ぐっ」とうめき声をあげ、振り上げていた方の手を抑えてプラチナを睨みつけている。

「……厨二病?」
「いいや、国際警察秘密道具『犯人威嚇MBランチャー』だ。」
どこからともなく声がするのと同時に、黒こげになったキングの横にモンスターボール柄のビニールボールがテーンと音をあげて落ちた。
カチャリと音がして4人が振り向くと、プラチナが食事をしていたレストランの、道1つ離れたビルの壁がはがれ、茶色いコートを着た男が現れる。
「感心せんなぁ、トレーナーとはいえ小さな女の子相手に大人3人がかりで取り囲むというのは。」
「あれ、昨日の……?」
プラチナが目を細めていると、変わりかけた信号を見て大慌てでコートの男はプラチナたちの方へと走ってくる。
肩で息をする男は持っていたパイプのようなものを投げ捨てると、奇妙なものを見ている目つきの3人に向かって寄せた眉根を持ち上げた。
「どういう事情なのか、聞かせてもらおうか?」
「アナタは感じたことはないか? この世のリフジンを。」
「……また始まった。」
プラチナは歩道で焦げているキングを足でつつきながら、テーブルの上のハートに視線を送った。
「ワタシは大いに感じている。 十数年前、ワタシはタマムシ大学の入学に全てを賭けていた。 夜も寝ずに勉強し、面接の受け答えもシミュレートし、ワタシの受験対策は完璧だった!
 なのに! 肝心の受験当日、ワタシはそれまで1度もひかなかった風邪をひき受験に失敗。
 それからというもの、就職もうまくいかず、家庭に恵まれることもなく、それどころか家から追い出され、毎年同じ時期になれば風邪をひき……
 こんな世界間違っている! それぞれ事情は違えど、皆、そう思う気持ちは同じだろう?
 だから、ワレワレ、ギンガ団がこの間違った世界を再生させるのだ!」
「…… ……えーと……?」
「あたしに説明を求められても困ります。」
茶色いコートの男に視線を向けられ、プラチナはスボミーを抱えたまま、そう答えた。
実際、30分ほど前にプラチナたちがここのテラスで食事をしている真っ最中に呼び出され、切り出されたのがこの話だったわけで。
おかげで飲みかけのお茶がすっかり冷めてしまった。 代わりのお茶でも要求したいところだが、今となっては面倒くさい気持ちの方が強い。
「そこの娘はナナカマド博士の助手、ならば、持っているのだろう? この10年で完成されたポケモンの英知の詰まった結晶、ポケモン図鑑を!
 その情報は必ずやワレワレギンガ団にとって有用となる、だからもらってやろうと言っているのだ。」
「そうよ、アナタのつけているポケッチも見たことのないタイプ!
 何か、研究に役立てるためのアイテムなんでしょう? ワレワレが使ってあげるから、よこしなさいってさっきから言ってるのに!」
「しつっこいなあ! もう!
 こっちも同じ事言うけど、図鑑はすぐ博士に返さなくちゃいけないものだし、ポケッチだって2ヶ月経てば同じもの売ってるってば!」


あまりにも同じ問答の繰り返しにイライラしてプラチナが声を荒げたとき、腰の辺りに何か細いものが伸びてきて彼女は思わず悲鳴をあげた。
いつの間にモンスターボールから出したのか、銀色の毛の猫のようなポケモンが相手の女の足元で低くうなり声をあげている。
「おいッ!?」
「穏便にって言ったのに……アナタが大人しくしないから痛い目みることになるのよ。」
ケガとまではいかなかったが、プラチナの左腕は冷たいものを当てられたようにヒリついていた。
プラチナと集団との間に起き上がったキング、それとコートの男が守るように立ちふさがるが、3人組はそれを意に介す様子もない。
「ニャルマー、『ひっかく』!!」
「キング、『はたく』!」
ニャルマーと呼ばれた猫は細い体をしならせると、鋭い爪をプラチナに向けて振り下ろす。 間に立ったキングが細い羽根でそれを打ち返す。
「サイホーン、『とっしん』だ!!」
「きゅ……!?」
着地の瞬間に合わせた指示にキングが身体を反応させる間もなく、地響きをあげて突っ込んできた灰色の何かにキングは吹っ飛ばされた。
そのまま自動車数台をなぎ倒しながら進んでいく後姿を見てプラチナは相手のポケモンを確信する。
別称カントーの力馬鹿、岩タイプのポケモン、サイホーンだ。

「2人がかりで攻撃するとは卑怯な!」
「親切にも話し合いしてやったんだ、それを拒んだ方が悪いってモンだ。 ナァ?」
片手でモンスターボールを転がしながら、スーツ姿ではない方、ホスト崩れといった感じのまだらに髪の色が抜けた男がにやつきながらプラチナへと視線を向ける。
軽々と吹っ飛ばされたキングは何とか起き上がったが、2匹同時に相手するのは無理だ。
ホスト風の男が声をかけると、サイホーンは小さめのトラックを角に引っ掛けたままプラチナたちの方へと向き直る。
プラチナはチラリと後ろを見た。 避けられなくはないが、避けたら確実にサイホーンは店に突っ込む。 そうなったら大惨事だ。
「あぁ、もう! キング!」
「ギョク、『たいあたり』だ!!」
プラチナが指示を出しかけたとき、ふらついたポッチャマの脇から小さな影が飛び出して突っ込んでくるサイホーンとぶつかった。
鈍い音が響き、空気が振動する。
それと同時にガツンという別の音が聞こえてきた。
振り返ると、サイホーンを操っていたホスト風の男がテラス席の椅子にもたれかかり、その横に見覚えのあるオレンジ色のボーダーが転がっている。
「ジュンちゃん!?」
「てめーらッ! ヒカリになにしてやがんだ!?」
すぐさま起き上がって少年が叫ぶと、どさくさに紛れて攻撃しようとしたニャルマーをキングが跳ね返した。
「ギョク、『すいとる』攻撃だ!」
彼が指示を出すと、サイホーンと押し合っていたポケモンは頭の葉っぱを相手へと向け緑色の光を放った。
途端、押され気味だった少年のポケモンがサイホーンを押し返し始め、道向こうのビルの壁へと相手を叩きつける。
同じタイミングで、プラチナのふくらはぎをハート型の尻尾がちょんちょんと突っついた。
最初に話しかけられたとき、席に置いてきてしまったプラチナのバッグをハートが持ってきてくれたのだ。


プラチナは少年、パールの腕を引くとそれほど小さくはない声で話し掛けた。
「ジュンちゃん、逃げるよ!」
「でも……!」
「話通じないんだもん、しょうがないよ!」
口を尖らせしぶしぶといった表情ではあったが、パールはナエトルをボールへと戻し、怪しげな3人組に背を向けた。
途端、プラチナがつんのめって転びかける。
慌てて支えると、プラチナは見たこともないような形相で自分たちの後ろを睨みつけた。
「ハート、『でんきショック』!!」
物陰から飛び出したピカチュウが頬袋に貯めた電気を空へ向かって放つ。
一瞬、フラッシュが焚かれたのではないかというほど辺りは明るくなったが、プラチナの表情は険しいままだった。
視線は、空の上へ。 そこに黒い何かがいる。
「ヤミカラスの『くろいまなざし』。 確かに『でんき』タイプのワザならこうかばつぐんだが、届かなければ何の意味もない。」
ギャア、と、人の悲鳴にも似た気味の悪い鳴き声が降ってくる。
「……まったく、おてんばも過ぎればケガに繋がりますよ。 オジョーサン?」
近づいてくるサラリーマン風の男にプラチナは鳥肌を立てた。
パールが両腕を広げ、プラチナとサラリーマン風の男の間に立ちはだかる。 コートの男は……ポケモンが暴れだした辺りから、あまり役に立っていない。
サラリーマン風の男は少年越しに手のひらを向けて見せた。

「さあ、そのポケッチとポケモン図鑑を渡すのです。」
「何の話……!」
さえぎって怒鳴ろうとするパールを制すると、プラチナは姿勢を正してサラリーマン風の男に向き直った。
パールを自分の背中へと動かし、スボミーを抱えたままポケッチのついた左の腕を男の方へと突き出す。
「フン、最初からそうすればいいのです。」
男の手が触れ、握られた拳が固くなる。 飛び掛ろうとするパールを、プラチナは肩でブロックする。
羽音を立てるヤミカラスを1度見ると、プラチナは小さく息を吸い込み両腕に力を入れた。
「クローバー!!」
高い声に男が顔を上げるのと同時に、長く絡まったスボミーの弁から白い粉が噴き出した。


ギャアッ、と、鳴き声をあげてヤミカラスが羽音を鳴らす。
プラチナはパールの腕を引いた。 一瞬後に意味に気がついたパールが逆にプラチナの手を引き、大通りの方へと向かって走り出す。
「逃がすかッ! ……か……か……ブァーックショッ!?
 ら……らんだこれ……ッ!? 鼻が……ッ!? 目が……ッ!?」
涙と鼻水を顔中溢れさせてうずくまるサラリーマン風の男に、プラチナは走りながら勝ち誇った笑みを向けた。
「教えたげる、スボミーの花粉を吸い込むと、アレルギー症状を引き起こすの。
 オジサン花粉症なんでしょ? 毎年受験の時期に風邪ひくんだもんね!」
「か……!? か、かふ……ブエェーックション!?」
「気付いてなかったの、10年以上も……」
追ってきたヤミカラスをハートが『でんきショック』で撃ち落とすと、プラチナとパールは大通りから手近な店へと逃げ込んだ。
キングとハートをモンスターボールへと戻し、プラチナが一息つこうとすると、下ろしかけた手を再び掴まれ、プラチナはパールに引かれ再び外へと連れ出される。
「もうちょっと踏ん張れ。」
「階段?」
ビルの側面に寄り添うような円柱の螺旋階段を見上げると、パールはプラチナの返事を待たず彼女の腕を引いたまま上がりだした。
「ほっといたら、あいつら仲間を呼んでくるかもしれないし。
 逃げとくべき、と、思うんだよな。」
「でも、行き止まり……」
「町も出た方がいいだろ、ポケモンセンターからなら3方に道が繋がってるから動きやすいはずだぜ。
 ポケモンたちも回復してやんなきゃいけねーしさ。」

プラチナの質問には答えず、パールはビルの5階に位置する屋上まで上ると、まるで泥棒のように大人ほどの高さの鉄柵を乗り越え、内側から鍵を開けた。
「しばらく、ここに隠れてた方がいいんじゃないの?」
鉄柵の鍵を閉めながらプラチナが尋ねる。
返事がないのを疑問に思った彼女が顔を覗きこむと、パールは一瞬慌てた表情をしてプラチナから顔を背ける。
どうしたの、と、訊く間もなくプラチナの背中にパールの腕が回っていた。
「ちょ、ちょっと……!?」
「跳ぶぞ、しっかり掴まってろ!」
「へ?」
身体を締め付ける感覚が強くなったかと思った瞬間、プラチナの足元から地面が消えた。
空の青さだけが瞳に映り、他の感覚が全て失われていく。
一瞬後、ひじの裏に強い衝撃を感じプラチナは我に返る。
辺りを確認すると、パールとプラチナは先ほど上った螺旋階段のビルから1つ離れた、一回り小さなビルの屋上にいた。
訳がわからずプラチナが目をパチパチさせていると、大きく息を吐いたパールが直線状の赤い建物を見ながらプラチナに声をかける。
「こっちから行けばあいつらに見つからずにポケモンセンターのある交差点まで行けっから。」
「こっちって……」
その先を見るのも怖くて、プラチナは無意識にしがみついていた腕に力を込めた。
自分の力ではないナニカに身体が運ばれていく。
悲鳴をあげる間もなく、プラチナの髪が浮き上がった。







あの春の日と同じように、プラチナの髪は海から流れてくる風にあおられ、空を飛ぶように舞っていた。
話を聞いていたマイは風に飛びそうなリボンを手で押さえつけながら、唖然とした表情で続きを待っていた。
「だから、あたし、感謝したい人なんて、いっぱいいすぎて数えらんないなぁ。」
足元にいたロゼリアをプラチナが持ち上げると、マイにはそのシルエットがブーケを抱えた花嫁のように見えた。
口元が緩む。
まるで恋をするような目で夕暮れの空に鼻先を向けると、プラチナは口角の上がった唇で先を続ける。
「それでも、1番をつけるとしたら……」
真横から当たるオレンジ色の光に、マイの赤い頬が隠れた。
プラチナはクローバーのひたいにキスをすると、マイに顔を向けパチンと片目を瞑ってみせる。

「ポケモンたちかな!」
期待していたのと少し違う答えに、マイは「あれ」と小さく声を漏らした。
「野生のポケモンや変な人たちから、あたしのことを守ってくれるし、それに、いつでも一緒にいてくれるもん!」
「ねー!」と、同意を求めると、クローバーは「きゅう!」と鳴き声をあげてそれに同意した。
拍子抜けしてマイは人が見ても分からない程度に肩をすくめる。
そして、会ったこともない『パール』に、少しだけ同情した。


続きを読む
目次に戻る