部屋の中には、陰鬱で湿った空気が充満していた。
カビとも生ゴミともつかない匂いに口元を押さえたくなるのをガマンしながら、ナタネは、部屋の真ん中のじっとりとした赤色のソファを見下ろしていた。
まるで大木に根ざしたヤドリギのようにそこにいるのが当たり前といった風体で、1人の女性が少年から受け取ったグラスを口紅で赤く染めている。
金属的な音を立てて細いグラスを床の上に転がすと、女性は、部屋の入り口で直立しているナタネに気だるげな視線を送った。
「ダメね。」
「ダッ、ダメじゃないでしょ!? いばらの選定もやったし!
 私、ちゃんと森の洋館の様子、見てきましたよ!」
生ぬるい息を音も立てずに吐き出すと、女性はサイドテーブルにあったライターを手に取り、カチンと小さな炎を作る。
身を固くするナタネの前でオレンジ色の炎をゆらゆらと揺らすと、女性は怪しげに光る瞳を優しく微笑ませ、唇の端をゆっくりと持ち上げた。
「だって、あなたは目的を達成出来なかった。
 悪い子ね、エララ。 私が頼んだこと、ちゃんと聞いてなかったの?」
「わっ、私エララじゃありません!」
「エララ、私は探してきて、と、言ったのよ。 街の名を冠する森の手入れも出来ないジムリーダーなんて、いらないわ。」
悔しそうに、ナタネは唇を固く結ぶ。
何も言わず、きびすを返す彼女の背中を見て、女性は炎に照らされた目元を緩ませた。





結局昨日の言葉の真意を確かめることもないまま、その夜は寝て、起きて、パールは何事もなかったかのように朝を迎えていた。
昨日の雨もすっかり止んで、快晴……とまではいかないが、深い青色の空の下にはわたあめのような雲が浮かんでいる。
ダイヤの体調はまだ戻らないらしく、自分が看病しているからと言われ、パールは外に放り出された。
いつもパッチリと目覚めるパールとしては珍しく、ボーっとした頭を抱え大通りを歩いていると、坂の上にでも建っているのか街の建物の中でも一際大きな、しかもトゲが生えている異様な建物が目に入った。
ポケモンジムだろうか、と、鈍く耳鳴りのする頭で考えながら歩いていると、前方不注意でパールは誰かの背中にぶつかった。
「あ、すみません……」
「いや、僕こそ……って、あれ?」
パールは灰色のツナギから視線を上にずらす。
コンクリートの街には少し浮いたヘルメットに、フチの赤いメガネ。 見知った顔にパールは目を瞬かせる。
「クロガネにいたジムリーダー!?」
「ひさしぶり! 確か、パール君だったよね。 ハクタイのジムに挑戦かい?」
「えっ、またヒョウタと戦うの?」
「違う違う、ジムリーダーはジムの掛け持ちはしないよ。 ここのジムリーダーはナタネさんっていう女性だよ。
 僕は、207番道路の工事が終わったから、ハクタイにいるおじさんに会いに来たんだ。」
その言葉を聞いてパールは固まった。
そもそも、パールたちが遠回りしてハクタイまでやってきたのは207番道路が工事で通行止めになっていたせいだ。
その工事が終わって。 工事責任者でもあるヒョウタがハクタイシティまでやってきたということは。
「……なんだってんだよー!?」
絶叫を聞いた通りの人が一斉にパールの方へと振り返る。
下まぶたをヒクヒクさせたヒョウタを見るとパールは我に返り、恨めしそうに南……クロガネシティの方角に目を向ける。

「ごめんね、ちゃんと工期を伝えられればよかったんだけど、突発的な土砂崩れだったから、なかなかメドが立たなくてね。
 そうだ、お詫びになるかどうかわからないけど、これからシロナさんと地下通路に行くから、キミも一緒に来ないかい?」
「シロナさん? チカツウロ?」
ペラップのように聞き返すパールに薄く微笑むと、ヒョウタは腰にさげたバッグに入れていたハンマーを取り出して彼に見せる。
「地下通路っていうのは、このシンオウに張り巡らされている昔の坑道を使った通路のことでね、めぼしい石炭やなんかはあらかた取り尽くしちゃったんだけど、まだ化石や進化の石、アクセサリーに出来ない宝石なんかは出てくるし、一時期は何千人という炭鉱夫が働いていたからそれなりに丈夫に作られているってことで、観光地も兼ねて一般解放されているんだ。
 ここに来るまで……っていうか、クロガネシティでも、傘のあるエントツを見ただろう? あれは空気のこもる地下通路の換気をするためにあるんだよ。」
「へぇ〜……」
生返事をしながら、パールはヒョウタが指差した青いエントツに目を向ける。
通りから目に付かない場所に設置された青い傘は、低い音を出しながら周囲のホコリを舞い上げていた。
空気のこすれるような音を上げ続けるエントツにパールが気を取られていると、カスタネットを叩くようなリズミカルな音が近づいてきて、同時にヒョウタが手を上げ、パールの頬に小さな風を送った。
ヒョウタに手を振り返すと、駆けつけた女性は金髪の下にある顔を覗かせた。
黒いコートを着た、背の高い女性だった。 彼女が小首を傾げると雫のような髪飾りが揺れ、パールは開いた胸元に視線を向けないよう、必死にその髪飾りへと目を向ける。
「ごめんなさい、遅刻かしら?」
「いえ、まだ5分前ですよ。
 パール君、こちらシロナさん。 シロナさん、こちらはパール君です。 先日、クロガネジムを勝ち抜いたトレーナーなんですよ。」
「よろしくね、パール君。」
冷たくて細い手と握手を交わすと、パールはヒョウタと、シロナと名乗った女性の会話に耳を傾ける。
どうやらもう1人、待ち合わせの相手がいるようだ。 その相手は、約束の10時から5分遅れてやってきた。



遅れてきたにも関わらず焦る様子もなくやってきたヒョウタの待ち合わせ相手を、『おじさん』というよりは『おじいさん』だな、と言いかけて、パールはダイヤに叩かれたような気がして止める。
ゴツゴツでしわだらけの手で3人それぞれと握手をすると、浅黒い肌の老人はパールとシロナに体育袋よりひとまわり大きなナップザックを握らせた。
「いや、嬉しいな。 こうして新たな地下ベンチャーを迎えることが出来て。
 廃坑されたまま朽ちていくだけかと思っていただよ。」
「おじさん、地下通路ってそんなにさびれてましたっけ?」
「何言ってるだ、ヒョウタ? ジムに貼り紙しても効果なくて、頭を抱えていたのはお前じゃないか。」
また、パールの中で耳鳴りがした。
ほんのわずか、誰にも気付かれないくらい小さく眉を潜めると、ヒョウタは、それじゃあ、と、左手を上げて全員をマンホールのような小さな穴へと導いた。

地下と言うからどれだけ薄暗くて陰気くさいところかと思っていたのに、地面に足をつけたパールは外とそれほど変わらない景色に目をパチパチさせていた。
確かにさびれるのもうなずけるほど何もない。 壁は岩肌ばかりだし、店のひとつどころか横穴のひとつすらもみつからない単調な景色だ。
「どうしたの?」
「いや、べつに……」
パールは顔を覗きこんできたシロナから目をそらす。
そう、と、小さく返して目を細め、シロナはヒョウタの方に視線を戻した。
当のヒョウタは使い込んだ跡のあるハンマーを右手に、ピッケルを左手に持ち、シロナとパールへと振り返った。
おもむろにハンマーを岩の壁に打ち付けると、鋭い音が響き地下道の中をどこまでも反響していく。
パールの目の前でボロボロと崩れた岩の壁から、ピカピカと光る丸い石が転がり落ちた。
「すごい、1回で『かみなりのいし』が取れることなんて滅多にないのに!
 あ、失礼。 こんな感じに、この地下道の壁をハンマーやピッケルで叩くと『タマ』や『進化の石』、あとは『げんきのかけら』みたいなアイテムが出てきます。
 今は運よく1回で取れましたけど、あまり叩きすぎると壁が崩壊するので、ある程度、形が見えたらこっちのピッケルで少しずつ周りを削っていくといいですよ。」
「よーし、今日こそ伝説のポケモンの化石を掘ってやるだー!」
「あ、ちょっとおじさん!」
遅れてやってきた老人がさっさと駆け出すのを止めきれず、ヒョウタはため息をついて遠ざかっていくツナギの背中を見送った。
もうひと息ついて「それじゃ、気をつけて」とパールとシロナに言い残し、発掘講座の終了を宣言する。
パールは変な空気を飲み込んだまま、渡されたハンマーとピッケルを持って地下通路を散策する。
ふと振り返り、首を傾げる。
ここには初めて来たはず。 なのに、パールはこの岩肌ばかりの景色を見たような気がするのだ。



「なんだってんだよーっ!!」
パールの叫び声は、崩れていく壁のガラガラという音にかき消されていった。
せっかく何か、すっげーいいかんじの物が手に入りそうだったのに。 崩れた壁に埋まってしまい、それが一体なんだったのかも分からなくなってしまった。
つま先に乗った茶色い土を蹴飛ばすように払っていると、見覚えのあるズボンのスソが見えてパールは顔を上げた。
「あまり力いっぱい叩くと崩れやすくなるから、ある程度叩いて土の中にあるものが見つかったらピッケルでその周りを少しずつ削っていくんだよ。」
そう言うとヒョウタは苦しそうに壁の中から顔を出しかけている岩の塊のようなものの周りをピッケルで丁寧に叩きだした。
はがれかけた木の皮を剥くように壁の中から茶色いプレートを取り出すと、それをパールへと渡してみせる。
「なんだ、これ?」
「プレートだね。 シンオウで発掘していると時々見つかるんだよ。」
「何か字が書いてるけど……」
読めない。 外に比べたら薄暗いせいか、土の中にあったせいで文字が潰れているのかもわからない。
後でダイヤに読んでもらおうとバッグにしまっていると、ほんの少しヒザを曲げたヒョウタの鼻先が光を反射した。
「ちょっといいかな?」
声を潜めるヒョウタにパールが顔を上げると、その表情からふざけた話ではないことが読み取れた。
「前にキミたちがクロガネシティに来てくれたとき、ダイヤ君と一緒にキミもクロガネ炭鉱に入ったんだよね?
 そのとき、何か変なものを見なかったかい?」
「変なもの?」
「そうだね、あまりこういう洞窟の中では見ないもの……って言った方がいいかな。」
そう言われ、パールは記憶を辿ろうとしたが、そもそもパールは炭鉱に入ってすぐ気絶してしまったわけで、思いだせるほどの記憶は残っていなかった。
難しい顔をするパールにヒョウタも察したらしく、小さく首を横に振って二言三言話すとその場を去っていく。
入れ違うようにシロナと呼ばれていた女性がパールのところにやってきた。

白い指をヒザの上に乗せると、シロナは金髪の下から長いまつ毛の瞳をパールへと向けた。
「ヒョウタ君と何を話してたの?」
なぜ直接聞かないのだろうと、パールは首を傾げる。
少し考え、辿り着いた答えに何か違うものを感じながらも、パールは相手の胸元を見ないようにしながら返事として返した。
「ヒョウタのこと好きなのか?」
「違うわ。 決して、全く、全然。」
曲がり角の向こうに見覚えのある赤いヘルメットを見つけ、パールは心の中で手を合わせた。
視線を外そうとして揺れる長い髪を視界の隅へと追いやると、不意に誰かの名前が口を突きかけ、また引っ込んだ。
口元に当てようとした手を冷たい何かが刺す。 一瞬遅れて、何かの破裂するような高い音がパールの耳を叩いた。


驚いて振り返ったパールの前に地下通路を貫くほどの大きな水柱が立っていた。
地面から立ち昇っているように見えたそれは不意に途切れると、決して高くない天井から1匹の小さな生き物を落っことす。
「ポケモン!?」
「ブイゼルだわ!」
キツネ色の小さなポケモンはバタバタと水たまりの上を泳ぎまわると、唐突にパールたちの存在に気付き2本の長い尻尾を立てて威嚇した。
天井を見上げると、黒っぽい土に丸い穴が空き、床を見下ろせば円柱の形をした機械が地面の上に転がっている。
瞬間的にパールは理解した。 恐らくだが、何かの弾みでこのポケモンは通気口に入り込んでしまい、地下通路まで落ちてしまったのだろう。
とにかくこのままにもしておけない。 外に連れ出そうとパールが踏み出した瞬間、小さな流線型のポケモンはパールの足に向けて鋭い攻撃を繰り出してきた。
「なっ、なんだってんだよ!?」
勢い余って壁にぶつかると、ポケモンはぐるぐると自分の尻尾を追うようにその場を走り回り、パールとシロナの姿を見つけ再び鋭い牙を向ける。
「『こんらん』しているのよ。
 無理ないわね、さっきまで地上にいたのにいきなり別世界に放り出されたわけだから……」
曲がり角から飛び出そうとしているヒョウタを制すと、シロナはモンスターボールを構えるパールの背中に視線を向けた。
パールはやる気だった。 荒れて攻撃的になっているとはいえ、相手は野生のポケモン。 勝てない相手じゃない。
大きく振りかぶってモンスターボールを投げ、ナエトルのギョクを呼び出す。
頭の葉っぱがピクピクと動くのを見て、パールは白い牙を向けるポケモンを強く指差した。
「行けっ、ギョク!! 『はっぱカッター』!!」
「あ?」
頭の葉っぱをピクピクと動かし、ギョクはパールを振り返って首を傾げる。
パールは握っていた空のモンスターボールを取り落とした。
行けって言ってるのに。 技の指示だって間違ってないのに。
尻尾をピクピクさせるポケモンの前で大きなあくびをすると、ギョクはのっしりと相手の前に座り込んでしまった。
「おい、ギョク! ちげーだろ、バトルだって、バトル!」
パールは慌てて相手のポケモンを指差すが、ギョクは立ち上がり直して首を傾げるだけだ。
あまりの温度差に毒気を抜かれたのか、身を低くしながらキツネ色のポケモンはそろそろとギョクへと近づき、黒い鼻先をわき腹に近づける。
ギョクが頭の葉っぱをピクピクと動かすと、小さなポケモンは背中からギョクの上へとのしかかった。
それを嫌がる様子もなく、ギョクが再びその場にのそのそと腰を下ろすと、小さなポケモンはギョクの頭の葉っぱの匂いをかいでパタパタと長い尻尾を振る。
「すごいわね、あなたのポケモン。」
「どこが?」
「だって、あれだけおびえていたブイゼルをあっという間に落ち着かせちゃったじゃない。」
目を丸くするシロナを見て、改めてギョクと落ちてきたポケモンとに目を向けると、確かに、落ちてすぐは殺気立っていたキツネ色のポケモンはギョクの上でくつろいだ顔をして鼻をピクピクうごかしている。
様子を見ていたヒョウタがそろそろいいか、と、顔を出し、パールとシロナは同時に唇に人差し指を当て「しー!」と彼をけん制する。
足音を潜めてやってきたヒョウタが小声で2人へと何か話し掛けようとしたとき、バサバサという大きな足音と、老人のしゃがれた声が地下通路の中に響き渡った。

「おおーい、ヒョウタ! すごいぞ、大発見だ!!
 見てみろこれ、ポケモンのフンの化石だぞおっ!!」
「みゃっ!?」
「おじさん、静かに……!」
全身の毛が逆立ったブイゼルに、ヒョウタは慌てて地下おじさんの口をふさぐ。
ヒョウタは慌てて辺りを見回した。 先ほどまで一緒だったナエトルのところにブイゼルがいない。
まさか、どこかへ行ってしまったのかとヒョウタが周囲の通路に視線を移しかけると、なぜか自分のことを指差しているパールが映り、続いてその腰にしがみついている、先ほど落ちてきたブイゼルの姿が赤いメガネに映った。
「なにそれ?」
「なにこれ?」
パールは自分の腰に張り付いているキツネ色の尻尾を見下ろしていた。
シロナがクスクスと笑い声をあげる。
「すっかり、なつかれちゃったみたいね。」
変な顔をしながらも触ってみようとブイゼルに手を向けると、小さなポケモンはパールの体をよじのぼって胸元に巻きついた。
小さく息を吐き、パールは両手でブイゼルを抱え上げる。
「しょーがねーな。 じゃあ、お前はリュウ! 水のポケモンだから、今日からリュウな!」





地下通路を出た途端、明らかに自分に向けられた「あっ!」という声で、パールはまぶしい光の方向に視線を向けた。
振り返るとメインストリートの鏡ガラスに映った女性の姿に、思わずパールも「あっ」と声をあげる。
草色のポンチョに前髪だけ黒く染め抜いた茶髪。 間違いなく昨日、ハクタイの森でパールたちにゴタゴタごとを押し付けてきた女性だ。
何か言ってやろうとパールが口を開きかける前に、女性はずかずかとパールたちの方へと寄ってきた。
「やあ、こんにちは、ナタネさん。 珍しいですね、この時間だったらジムの温室にいると……」
「ねえっ、あんたたち昨日『森の洋館』に行ったよね!? そこから何か持ち帰らなかった?」
「はっ!?」
行ったもなにも、押し付けたのは彼女本人だろうに、一体何を聞いているのだろう。
思わず聞き返したが、相手はパールの考えなどまるで無視する形でヒョウタを押しのけ迫ってきた。
「持ち帰ったよね!? それ、あたしに渡してくんないかなぁ?
 ジュピターさん怒らせるとすっごい怖いんだから、早く! ねえ!」
「知るかよ! つーか、何の話してんだっつーの!?
 つーか! オメーが変なこと押し付けたせいで、ダイヤのやつ調子崩してんだからな! そっち先に謝れよ!」

パールが怒鳴り返した瞬間、目の前を桜色の花吹雪が通り抜けた。
甘い匂いをただよわせる女性の前で、固いツボミのようなポケモンがパールのことを睨んでいる。
「もうっ、なんでわっかんないかなぁ?」
「なんだってんだよ! 訳わかんねーのはそっちだろ!」
「ナタネさん、僕にも分かりませんよ。 事情を説明してください!」
「あら、ヒョウタ君知らないの? 今や街の代表はジムリーダーではないのよ?」
話に割り込んだシロナの声に、ヒョウタは「えっ」と、小さな声をあげる。
「……どういうことです?」
言葉を継いだシロナは指先に長い髪を絡ませながらパールとヒョウタに黒い瞳を向ける。
「赤字ばかりのポケモンジムに手をかけていられるほど、ポケモンリーグに余裕はないということよ。
 ヒョウタ君のところは副業の鉱山が順調だからジムを保っていられるけれど、ナタネちゃんのところは、ここ数年、赤字続き……不足分をギンガ財閥に補ってもらっている。 実質的なパトロンね。
 当然、彼らに何か言われたら、逆らえるわけがない。」
「言われても分かりませんよ!
 ナタネさん、ジムリーダーの……トレーナーとしての誇りはどうしたんですか! これじゃ強盗ですよ!」
「うるっさいなあ! ジムを受け継いだヒョウタ君にたたき上げのあたしの気持ちなんてわかんないよっ!」
ヒョウタが眉を潜めた瞬間、メガネのレンズに麦の穂のような金色の髪が移りこんだ。
小さな羽根が空に舞い上がる。
街灯にとまった小さなムックルに視線を向けてから、パールはツボミのようなポケモンを構えるナタネを睨みつけた。
「うるっせーな。 知らねーよ、お前んところがビンボーかどうかなんて。
 つーか、思い出した。 森の洋館調べたら真っ先にバトル受けるって約束だったはずだぜ。
 今、ここでオレが勝ったら、ハクタイジムのバッジもらうからな!」


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