1章 砂漠のきせき

 

第2話 未来を見る瞳

 

 それから、ハヤトはサラの案内の下、一路サラスナタウンを目指す。相変わらず暑い砂漠をすすむ。

しかし、何も変化がないようにしか感じない。

 

「くっ…こんな少しの小高い坂でも厳しいな…」

「サラスナは小高いところにあるの。坂が始まったら、もう少しよ。」

 

そんな話をしていると、ハヤトがあることに気付いた。

 

「おいサラ、お前のカバン光ってるけど、発光材でも入れてるのか?」

「え?そんなことないわ。…あら、あなたのカバンも。」

「…オレのもか?」

「ちょっと見てみましょうよ。気になるわ。」

 

2人は、淡く青い光を放つカバンを探り、それを取り出した。

「『化石か…え?』」

 

 

不意に言葉が同調(シンクロ)した。

 

 

「今、何て言った?」

「あなたこそ!」

「化石って言ったよな?」

「そうよ。」

 

二人は互いに顔を見合わせる。それも、驚きと混乱が混じった表情で。

 

「お前も持ってたのか!」

「ええ。私は何かの根っこみたいな…」

「オレは爪みたいなヤツ。」

「…復活させてみたいわよね?」

「ああ。気になる。」

 

そういうと2人は、足早にサラスナタウンへ向かうため、重い足をあげた。その時だった。

 

「おい、向こうから誰か歩いてくるぞ。」

「ほんとだ…あら、子供なのに杖ついてるわね。」

「子供っつっても、俺たちと少し違うか違わないか位じゃないのか?」

「まあ、そうだけど。」

 

その子供は、少しずつ、ゆっくりこちらへ向かってくる。2人は、気にせずそのままサラスナへ向かっていた。

 

 

そして、その男の子は目の前までやってきた。が…

 

「ううっ…」

 

その男の子は、ふらついて倒れた。杖は空を舞い、砂漠の砂に突き刺さった。杖についた鈴が、チリンと音を立てた。

 

「大丈夫か!?」

「しっかりして!」

 

化石をしまう暇もなく、2人はその子を抱きかかえ、起こした。

 

「おい、大丈夫か?しっかりしてくれ。」

「…水さえあれば…ちょっと困ったわね。」

 

すると男の子は、2人の声に気付いたのか、目を覚ました。

 

「う…」

「よかった。さあ、起きてくれ。」

「しっかりね。」

「…どうもありがとう。すいませんが、そこの杖をとってもらえませんか?」

「ああ、これか。ほら、どうぞ。」

 

ハヤトが男の子に杖を渡すと、男の子はその杖でゆっくりと立ち上がった。ふらつく体を、何とか杖で支えているありさまだ。

 

「重ね重ねありがとう。僕の名前はスーラ。君たちの名前は?」

「俺はハヤト。こっちが」

ハヤトが言い終わる間もなく、サラが叫んだ。

「は〜い、サラで〜す!」

「ハヤトさんとサラさん、ですね。あの…!!」

 

2人の名前を言うと、スーラは急に、石にでもなったかのように黙り込んだ。

 

「?どうした?スーラ。」

「あの…あの…」

「なにかあったのか?」

「お二人の横に、なにか…」

「?何もいないが…」

「でも!確かに僕には、アーマルドとユレイドルが見えるんです!ハヤトさんの隣にアーマルド、サラさんの隣にユレイドルが!」

 

この少年の目には、アーマルドとユレイドルが見えるようだった。

一時は失せていた光も、輝きを取り戻した。よく見ると、スーラの眼も同じように光っていた。

 

彼の目には、化石の未来が見えたのだろうか。

 

「アーマルドとユレイドル…なかなか手に入らないポケモンと聞いてはいたが…」

「まさかこの化石たちが、とはね。」

 

それから、ハヤトとサラは新たにスーラを仲間に加え、砂漠を歩き出した。小高い坂も少しずつ平らになり、町が少しずつ見えてきた。

 

砂漠の中にある町、サラスナ。

水不足になったことも、飢饉が起こったことも当然のようだった。

だが、決してそれは辛い事ではなかった。

当然のことのように、住民は動かなかった。動じなかったのだ。

 

「さあ、もう一息!サラスナは目の前よ!」

 

サラがそう叫んで励ます。そしてようやく…

 

「…これが…サラスナか…」

 

砂漠の中に立つ、小さな町。舗装こそされてはいないが、しっかり整った美しい道。家並みも砂漠の中という雰囲気が現れている。

 

「ようこそ…こんな辺鄙な町までいらしてくださってのう…」

 

町の入り口に立っていたのは…

 

「じい…じゃなくて、町長!」

「おお、すまんなサラ。わしはこの村の町長、シャウランじゃ。孫のサラがお世話になっとるようでの…ほんとに助かるわい。」

「『孫!?』」

 

ハヤトとスーラは、思わず叫んでいた。

 

「…そうなの。サラスナ町長は、私のじいちゃん。口が軽くってほんとに困るのよ。」

「何、そんな事はない。ささ、中に入っとくれ。ぼろっちい家じゃが、これで勘弁しとくれ。」

「じいちゃん!じゃなくて町長!」

 

3人は町長シャウランに連れられ、町長の家に入った。

 

「シャウラン町長は、ずっとこの町を守ってたんですか?」

「ああ、そうじゃ。ワシ1人ではない。この町のみんなでな…」

 

それからシャウランは、この町のことについて話してくれた今までの事、このサラスナが襲われたことなども教えてくれた。

そして、さらに興味深い話までしてくれた。

 

「奴らが前この村を襲ってきたときは、それはもうひどかった。

なにしろ、『化石をよこせ』と止まらないのじゃよ…この砂漠のどこかにあるという化石をやつらは狙っているそうじゃ。

何が目的なのかは知らんが…じゃが、それがどこにあるのかはワシらも知らん。」

「町長、それ、私たちが持っています。」

「何?いま、化石を持っているとな?」

「ええ。私たちがいる限り、またこの町は狙われます。」

「そうです。僕たちは早急に、この町を出て行くつもりです。」

「そんな…」

「嘘ではありません。ほら。」

 

その言葉とともに全員の視線が集まったのは、息をハアハア言わせ、今にも倒れこみそうな1人の男だった。

 

「で…伝令です…!奴らが…すぐそこまで…」

「…よくやってくれた。…すまん。この町の平和のために、おぬし達も何か手伝ってはくれまいか?」

「何なりとお手伝いいたします、わが祖父にして偉大なる町長、シャウラン様。」

 

なんだかサラは、急にかしこまって言った。サラは自分が町の一員であることを誇りに思い、一時も忘れたことがなかったかのようだった。

 

「僕も、お手伝いさせていただきます。」

「ありがたいのう。そうじゃ、お前の名は?」

「ハヤトと申します。」

「そうかハヤト…これを持って行くがよい。ワシが作った剣、『雅』じゃ。役に立てばよいのじゃが…」

「ありがたく使わせていただきます、シャウラン町長。」

 

ハヤトは町長自作の剣、雅を腰にしまい、ひざまずいた。

 

「時間がないわ。行くわよ、ハヤト!」

「わかった。行こう。」

「待って!」

「!どうしたんだ、スーラ。」

「僕も…僕も一緒に連れて行って!」

「だが…その体で大丈夫か?」

「うん!だから僕も!」

          「スーラ、休んでたほうが…」

「いや、連れて行こう。無理はするなよ、スーラ。」

「はい!ありがとうございます!」

「それではシャウラン町長。これにて失礼します。」

「うむ。頼んだぞ。」

 

そうして、ハヤトとサラ、そしてスーラは、足早に町長の家を立ち去った。

 

「急がねばならんな。」

「何よ、かしこまっちゃって。」

「…そんな事はどうでもいい。さっさと行くぞ。」

 

3人は今来た砂漠を戻った。砂が足を取り、早くは先へ進めない。が、力の限り走った。

 

「!見えてきた。謎の集団が。」

「奴らは…この前のロケット団ね。」

「今回こそ、何とかしてやる。サラスナは守る!」

 

 

3人はそこで立ち止まった。両方でのにらみ合いとなり、やがて向こうサイドから、1人の男が進み出てきた。

 

 

「何だ、貴様らは。」

 

1人の男は冷たく言い放つ。

 

「お前こそこのサラスナに何のようだ。」

 

それに対してハヤトもいう。

 

「ハッ、化石を頂きに来たんだよ。あそこのクズどもはよ、化石を出そうとしねえ。出し惜しみしやがってよ。

だから、潰しに来てやったって訳よ。」

「貴様ぁぁ…」

 

ハヤトは、自分の頭に血が上る感覚を感じ取った。こいつは許してはならない存在だと、歯を食いしばりながら考え、男を睨み付けた。

 

「ほんとに意地汚ねえ野郎共だよ。命より化石が大事なんだよ、町長のジジイは。町の野郎どものことなんて、どうだっていいんだよ。」

 

とうとう我慢の限界に達したハヤトは、その男を怒鳴りつけた。

 

「言わせておけばよ、このクソ野郎っ!」

「ん?何か言ったか?」

「そんな口二度と聞けないようにしてやるよ。貴様は黙ってろ!」

 

ハヤトは、その男ののどぶえに飛びかかろうとした。その時だった。

 

「町長のことをああだこうだ言いやがって…!お前がサラスナを語る資格はないんだよ!」

 

いつに無いきつい言葉が走った。

それは、あのサラが放った言葉だった。

その後すぐに、バシッという音がした。

 

サラの手はその男の頬を打ち、目からは光るしずくが零れ落ちた。

 

男はその一瞬の出来事のあまり、動揺し、頬を抑えていた。

 

そしてもう一度、サラは振り絞るように言った。

 

「町長は…誰よりもこのサラスナを思っているはずだ!なのに…なのにお前はそれを踏みにじりやがって…!

お前はサラスナを知らない!ならお前にサラスナを語らせはしない!私のじいをああだこうだ言わせたりしないんだよ!」

 

サラは右足を大きく引き、一気に男を蹴落とした。そのキックは腹に入り、男は何の抵抗も無いまま、砂漠に倒れこんだ。

 

「思い知った!?このバカ男!」

「…ゴホッ…この…このアマがあぁぁぁっ!よくもこのブレイク様を!貴様ごときがあぁぁ!」

「ブレイク!?あんたには似合わない名ね。このゲス男!」

「許さん…許さんぞ!」

 

怒りのあまり、サラは自分を見失っていた。

 

いつものサラには無い言動、行動…ハヤトまで驚くほど、その怒りはすさまじかった。

サラスナに対する気持ちは町長が1番、といっていたサラだが、

1番このサラスナを思っていたのは、サラではなかったのかとハヤトは思っていた。

その沈黙を破るかのように、あの男、ブレイクが叫んだ。

 

「お前らなぞ、殺してやる!行け!マイナン!」

「マイ!」

「…マイナンか。」

 

ブレイクが召喚してきたのは、色の黒いマイナンだった。いかにも心の黒そうな、怪しいマイナンだった。

 

「お前らなんか、このクズで十分だ。まだいくらでも道具は余ってる。」

「貴様…ポケモンをクズ扱いしやがったな?サラスナだけでなく、ポケモンまで…!…何があってもお前だけは許さない!許さないぞ!」

「何とでもほざけ。行けマイナン、かみなり!」

「マーイ!」

 

ブレイクの命令とともに、砂漠に雷鳴がとどろいた。そうして青い稲光が走り、雷は3人めがけて落ちてきた。

 

「よけるぞ!」

「当たり前よ!」

 

 

 

 

 

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