第1章 砂漠のきせき
第3話 解放の手
マイナンの雷を、3人は急いでかわす。
「ズドオォォォン…」
激しい音とともに、ハヤトがつぶやく。
「…少し危なかったな。」
ハヤトはこちらも応戦しなければいけないことを悟ると、手早く指示を出した。
「スーラは下がっててくれ!サラ、こっちもポケモンで応戦だ!」
「分かったわ!行けっ、サーナイト!」
(了解しました!)
「こっちも行くぞ!頼む、ハッサム!あいつだけは許さん!」
(御意!!)
砂漠に、新たにハッサムとサーナイトが降り立った。どちらも鋭いまなざしで、ブレイクをにらんでいた。
「ほお。そこそこ腕は立つみたいだな。だが今度だけは、だ。行け、プラスル!」
「プラっ!」
ブレイクはさらに、プラスルを追加してきた。そのプラスルもマイナン同様、色の黒いプラスルだった。
「…プラスル!マイナン!てだすけ!」
「プラっ!」
「マイっ!」
プラスルとマイナンは、互いに自分の尻尾である電極を近づけた。激しい電流がほとばしり、互いを充電し始めた。電流が体中をめぐり、充電が終了して激しい静電気がピシッと音を立てるころには、先ほどとはまったく違うプラスルとマイナンの顔があった。
「スパークチャージ完了ってとこか。殺れ、プラスル、マイナン!」
「プラァァァァッ!」
「マイィィィィィッ!」
プラスルとマイナン、サーナイトとハッサムの両サイドは、互いに威嚇しあった。その時だった。
「『タスケテ』」
「…!?おい、サラ!」
「ハヤトも!?今助けてって…」
「スーラもか?」
「うん、確かに助けてって!」
「何ゴダゴダ言ってやがる。ビビッてんのか?」
「そんなわけ無いだろう?」
「行くぞ!ツインサンダー!」
すると、プラスルとマイナンを激しい光が包み、激しい音を立てて雷と化した。
「奴らのツラめがけて、放てぇっ!」
2本の鋭い雷の矢は、ハヤトとサラのほうへ飛んできた。
(つっ…速い。)
無意識に体は動き、口も動いていた。
「両脇へよけろ!」
「了解!」
「ズドォォォォォォォォォォン…ッ!」
何とか紙一重でそれをよける。相手サイドに目を向けてみる。もう、異変は起こっていた。
(…!ヤツが…消えている…)
「甘いんだよ、クズ。」
「よけて、ハヤト!」
「何っ!?」
すばやい動きでブレイクは寄ってきていた。
「これでオサラバだ!」
「チイッ!」
ブレイクの振り上げた刀は、無残にも振り下ろされた。が、一瞬の間合いで、それは服をかすめただけだった。
ハヤトの服には、刀の傷が残った。
(町長、早速これを使うときがきたようだ。)
そうするとハヤトは腰から雅を取り出し、それをブレイクに向け構えた。
「ん。貴様も剣使いのようだな。」
「まあ、な。だが、この剣は一味違う。サラスナの守護神、雅だ。」
ハヤトは、刀鍛冶の息子だ。だから、幼いころから剣の扱い方は知っていた。
が、ここしばらく剣に触れていなかったので、剣を使いこなせるかどうか心配していた。
「何が守護神だ。これだからバカは困る。プラスル、マイナン!お前たちは適当にやっていろ!俺はこっちのバカを始末する!」
(適当に殺れか。が、こっちもハッサムに指示を与えられそうに無いな…)
そこでハヤトが思いついた戦いは、少し無謀なものだった。
「サラ、ハッサムを頼む!サーナイトと一緒に戦わせておいてくれ!」
「ええっ!?でも…!」
「技を知らないんだろ?大丈夫、攻撃のパターンを念じれば、きっとそれにあった技を発動してくれる!」
「…少し心配だけど…わかった、やってみる!」
「ハッサム!頼んだぞ!」
(ハヤト様の命とあれば。)
「…ブレイク。オレはここでお前を打ち負かす。」
「やってみろ。勝負だ!」
ブレイクとハヤトの、斬りあいが始まった。キラリと日差しにきらめく2丁の剣が、キインと響く音を立てて、激しくぶつかり合う。
「なかなかの腕前だな。」
「お前こそやるじゃないか。だがっ!ここで終わりだ!」
ブレイクの横流しが、ハヤトの腹めがけて飛んでくる。
「っつ、危ね…」
「キィィィィン!」
「つあっ…何のこれしき!」
ブレイクの横流しを何とか受け止めたものの、切っ先が腹を切った。傷は浅いが、血がにじみ出ている。
「オレは負けない!サラスナのために!」
いきなり、体勢が変わった。さっきまでブレイクが押していたものが、一転してハヤトが押し始めた。
激しく響く剣の音だけが、砂漠にこだまする。
「(くそっ…奴め、どうして体勢を持ち直せた…かくなる上は…)行けっ、プラスル、マイナン!忌々しいあいつめがけて、ツインサンダー!」
「プラアァァァッ!」
「マイィィィィッ!」
あの2本の矢のような雷は、ハヤトに降り注いだ。
「何っ!?卑怯者め…!」
「うるせぇ。戦いに卑怯もクソも無いんだよ。」
ツインサンダーはハヤトの持つ雅に誘導され、その雅に伝導された。雅を持つハヤトに、一気に何万ボルトという電流が流れた。
「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!」
ものすごい電流を食らったハヤトはよろめき、その場に倒れこんだ。
「金属を持ったら、雷に気をつけな。」
次の1破がくることを悟ったハヤトは、体を起こそうとする。が…
(体が…動かない!?)
一気に何万ボルトと言う電流を食らったハヤトの体は、マヒしていた。
「とどめだ。食らえ、オレの刀の餌食となれ!」
「くっ…オレはこんなところで…!」
「ハヤト…ハヤト!」
遠くから叫ぶサラの声だけが、悲しく響いていた。その時だった。誰かの声が、サラの頭に呼びかけていた。
(あなたが助けなくては、誰が助けるのですか?このままではハヤトは…)
(でも!私にはどうすることも…!)
(できるのです。あなたの行動さえあれば、きっとそれに応えてくれるパートナーが、救ってくれますよ。さあ、2匹の中に眠っている技を解放さ せ、目覚めさせなさい。サーナイトには「アルケミーパープルブラスト」と、ハッサムには「シルバークロー」と念じなさい。それが、2匹の新たな 力を目覚めさせるのです。さあ、行きなさい。)
(アルケミーパープルブラストに、シルバークロー…?)
(そうです。さあ!)
(はい、やってみます!)
長いようで、一瞬だった出来事。一時たりとも時間がたっていなかったようにしか見えなかった。まだ、ブレイクは剣を振り下ろしていない。やるなら…今だ!
「行け、サーナイト!アルケミーパープルブラスト!ハッサム、シルバークロー!」
「サラ…?」
「何?この期に及んでまだ力を…!?」
紫の大きな球体が、サーナイトとその周り半径3メートルほどを包んだ。激しい重力の波が、その中を駆け巡っていた。
「今よ、サーナイト!発射ぁぁぁぁぁっ!」
(充填180%!発射、アルケミーパープルブラスト!)
「ズドォォォォォォォォォォォォォォン…!」
いつに無く激しい音、そして紫の光線弾は、一気に突き抜けていった。ブレイクに回避の余地を与えないほどの、猛スピードだった。
「ぐああぁぁっ!」
ブレイクは何メートルも吹き飛ばされた。光線がほとばしり、砂漠の砂はあまりの激しさにえぐられていた。
その光線の光の影から、ハッサムがすばやいスピードで現れた。
「ハッサム!シルバークロー!」
(了解!)
さすがのサラも、ポケモンの技で生身の人間を攻撃するのは気が引けた。
だが今回ばかりは、そうも行かなかったようだ。勇気を振り絞って命令を下した。
ハッサムはそれに応え、あの鋭い爪のような手を銀色に輝かせた。
(今回ばかりは…我も甘えを許さぬ!)
「やめろ…やめろぉぉっ!」
(シルバークロー!)
「ザシュ…ッ」
「が…っは…」
銀色に光ったつめは、ブレイクの腹を叩き落し、切りつけた。ブレイクの口からは、大量の血が流れ出た。
(ハッサム…新技を使えるようになったのか…?)
ふとハヤトがブレイクから、マイナンとプラスルに目をやってみた。どうやら怯えているようだった。
「大丈夫だ。オレたちは敵ではない。」
「そうよ、安心して。あなたたちは自由よ。」
2人はいつの間にか、プラスルとマイナンの手を握っていた。
その時だった。
プラスルとマイナンの目が美しい青に光り、同じようにハヤトとサラの手も光っていた。
「そ、それは…!」
スーラが叫んだ。
「どうした、スーラ。」
「その光っている手は…解放の手って言うんだ。」
「解放の…手?」
「心を汚されたポケモンを、下のように浄化できる神の手…それが、解放の手なんだ。」
「神の手だと?」
すると、ハヤトとサラの手の光は、2匹の体へ伝わっていった。
黒かった体も青に染まっていき、あのいかにも悪そうな目つきも、かわいい普通の目に戻って行った。
その光はやがて消えたが、プラスルとマイナンは、ごく普通のプラスルとマイナンに戻っていた。
「プララッ!」
「マーイ!」
そのうれしそうな声は、3人には「ありがとう」と聞こえた。プラスルとマイナンは砂漠の砂を蹴り上げ、消えていった。
笑い顔で2匹の後ろ姿を見つめていると、あの鋭い声がした。
「くっ…貴様ら、覚えておけ…!このブレイクは、何度でも潰しに行くぞ…!」
そういうとブレイクは、よろつきながら逃げていった。
「
待ちなさい!逃がさないわよ!」
「やめろサラ、放っておけ。」
「…」
「それにしてもサラ、ありがとうな。」
「何が?」
「おかげで、新技が使えるようになったよ。助かった。でもどうして?」
「フフッ、分からない。」
「…そうか。」
気持ちのいい一陣の風が吹く。カンカン照りの砂漠の暑さも忘れていた。
そこらじゅうに汗をかいて、なんだか笑い顔だった。
スーラの杖の鈴がチリンと鳴り、しばらくはその時間が止まったかのように、皆がそこに立っていた。