第1章 砂漠のきせき
第4話 砂漠のきせき
「さて…サラスナはこれで守られたってわけだ。」
「そうね…この化石を狙ってくるとは…」
「町に戻りませんか?」
「そうだな、スーラの言うとおりにいったん戻ろうか。」
「そうね。」
3人の戦いもひと段落し、町に戻ることになった。
砂漠の温かい風は、暑く、かつ気持ちよいものだった。
きれいに整地された砂利道を通る。町長の家まで、軽快な足取りで進んだ。
「…そうか。よくやってくれたの、3人とも。」
「いえ、みんなの協力があってこそです。それに、この雅が無ければ今頃どうなっていたことやら…」
「ふぉっふぉっふぉ…この老いぼれも役に立てたかの?」
「じいちゃん…じゃなくて町長!そうやって自分のこといつも低く見るんだから!」
「下手に出るのは大切じゃろ?」
「下手に出すぎなの!」
雅のこと、そして今回のことなど、みんなで語り合った。そして談笑。
町長の家の畳は心地がよい。
ハヤトは、自分の実家を思い出した。あのぬくもりのある畳のことを思い出しながら、しばらく寝転がっていた。
「ハヤト…ハヤト…!」
「ん…どうした?」
「もう!急に寝ちゃうんだから!」
どうやらしばらく寝ていたらしい。大あくびをして、そこら辺を見回す。もう夕暮れだ。
(…次の町に出発したいが、もう夜か…)
そんなことを考えていた矢先、町長のあのやさしい笑い声が響いた。
「もう暗くなってきたのぅ。どうじゃ、今日はここで一休みせんか?こんなぼろっちい家でよければの…」
「町長!いい加減にしてください!」
「ふぉっふぉっふぉ…」
結局ハヤト達3人は、町長の家に泊まることになった。おいしい食事を出してもらい、それを頬ばった。
(ん。好物のシュウマイか…)
最後の一個が残っていたシュウマイを、箸を伸ばしてとろうとする。その時だった。
「これもーらい!」
サラの箸が一瞬早く伸び、皿の上のシュウマイを口まで運んだ。
「…オレのシュウマイが…」
「んん!おいひい!」
思いっきり口にほおばっているサラは、まともにしゃべる事もままならない。
ハヤトは機嫌を悪くし、さっさと食卓を離れてしまった。
「…どうも、ご馳走様でした。」
「おや、もういいのかね?」
「ええ、もう一杯なもので。」
内心、腹一杯ではなかったが、シュウマイを食べれなかったことが相当悔しかったらしく、いじけてさっさと寝室へ向かっていった。
もう折りたたんだ布団の準備がされていて、ハヤトはそれを敷くだけだった。
あのぬくもりある畳に、暖かそうな布団を敷く。なんだかハヤトは、それだけでワクワクしていた。
さっさと布団に入り、眠ってしまった。
その後サラも、眠くなってきたので、寝室で寝ることにした。
「じい、私の部屋ってどうなった?」
「ああ、お前の部屋か…しばらくお前がこの家にいなかったから、あそこは物置にしてしまったよ。」
「ええっ!?物置!?じゃあどこで寝るって言うの!?」
「ふぉっふぉっ、ハヤト君の部屋でどうかね?」
「ヤダヤダ!まだ早すぎるわよ!」
「じゃあ、物置で寝るかね?」
「ぜえったい、そっちの方がいいっ!!」
そういうとサラも、少しいらついた調子で物置、もと自分の部屋に戻っていった。
その後は、町長とスーラで、一杯飲み明かした(スーラはまだ子供なので、おいしいソーダを飲みました)。スーラも飲んでいるうちに酔ったかのように眠くなったので、眠ることにした。
「それでは、お休み、町長さん。」
「ふぉっふぉ、また明日の。」
スーラも、ハヤトの眠る寝室へ入っていった。ハヤトの隣には、もう布団が準備されていた。
(ありがとう、ハヤトさん)
そうつぶやきながら、スーラは布団に入り、眠った。
日付は次の日に変わるころ…ハヤトは不思議な光景を目の当たりにした。
気付けば、自分がさっきまで立っていた砂漠。ハヤトは、何が起こっているかわからなかった。
「ここは…砂漠?」
しばらく辺りを見回していると、向こうから何かやってくる。
なんだろうと思い目を凝らしてみると、それは光の粒子だった。それはハヤトの前に来ると、いきなり止まった。
「…何者だ?オレに何かの用か?」
すると光の粒子は、形をかたどってそこに現れた。それは、紛れもなくアーマルドとユレイドルだった。
「君たちは?」
すると光の粒子は、言葉を話し始めた。
「(私たちは、あなたの仲間です。どうか、私たちを目覚めさせてください)」
「目覚めさせる?そもそも、君たちは何なんだ?」
「(…それは言えません。…あなたは私たちがすぐそばにいるというのに、目覚めさせてくれようとしません)」
「そばにいるのに?そもそも何かも教えてくれないのに、目覚めさせることなんて無理だろっ!?」
ハヤトは少しいらだった調子で答えた。
「(何かは答えられません。それは…それは、私たちがまだ不完全だからです)」
「不完全?…つまり、何だ…?」
いつになく、思考回路が激しく動く。不完全という言葉だけが頭を駆けめぐり、だんだん頭が混乱してきた。
(何なんだろう…不完全?いったい何のことなんだ?)
「(お分かりでしょう。私たちは、古代の生物、そして未来に生きることを望んだ者たちです。
未来に残ることを選ばなかった仲間たちは皆、新たな強い生物、そして災害などに遭い死滅してしまいました…
私たちは長い間、絶滅したと考えられてきたのです。でも、それは違います。
私達未来に生きることを望んだものが、今こそはここは砂漠ですが、大昔の海にいるのです。
そう、私たちは今、爪と根っことして眠っているのです)」
「爪と…根っこ…?」
その言葉もまた、頭の中を駆けめぐった。考えに考え、悩みに悩んだ末出した答え、それは…
「化石…か…?」
「(…正確に言えば、そういうことになります。お分かりでしたら、私たちを目覚めさせてください)」
「だが、どうやって?」
「(今日のような月の出ている日に、砂漠に私たちを置いてください。そして、私たちへの思いを念じてください)」
「念じる?どのような事を?」
「(こんなことを言うのも変なんですが…私たちへの願いを、です。私たちとの思いが同調すれば、きっと目覚めることができます。
…私たちは、あなたのことを信じています)」
「わかった。やってみよう。」
景色は何かに引きずり込まれるかのように、一変して薄れ、だんだんボヤけてきた。
(オレは今…何を…)
ふと気付くと、さっきまでの部屋にいた。不思議なことに、立ったまま眠っていたようだ。
(あれは…夢だったのだろうか…)
窓からは、明るい光が差し込んでいる。とてもキレイな月夜。
「…行ってみるか。」
ボソッとつぶやき、バッグを背負ってから部屋を出た。
それからと言うもの、なかなかサラの部屋が見つからず、しばらくうろうろしていた。
がようやく、荷物がうずたかく詰まれたところの少し奥に部屋があるのを発見した。
何者かがムリヤリ侵入した形跡がある。おそらくサラだろう。
ドアには薄れてこそいたが、間違いなく『サラ』と書いてあった。
気付かれないようにこっそりドアを開け、中に入る。すると、スゥと気持ちよさそうな寝息を立てて眠って、サラがそこに眠っていた。
(ったく…気持ちよさそうだな。)
ハヤトはそんなことを考えると、サラがいつも持っていたバックを探し始めた。が、いざ探すとなると見つからない。
数分後、やっとのことで物置の取っ手にかけられたバックを発見した。
「この中だろうな、化石は。」
つぶやきながら中身を探ってみると、これがなかなか面白い。ブラシやメモ帳、ペンなど、訳の分からないものが一杯入っていた。
あげくの果てには、なんと歯ブラシまで入っていた。
(何だこりゃ?あいつにしては、こんなの使いそうもないが…)
思わずプッと吹き出してしまった。そのとき、サラがごろんと寝返りを打った。
「うおっつ!」
驚きのあまりハヤトは、その場に腰から倒れこむところだった。済んでのところで、何とかそれをまぬがれた。
フゥ、と大きな息をつき、またあさり始める。肝心の化石は、1番奥に入っていた。
(借りてくぜ、サラ。)
ハヤトが部屋を後にしようとした、その時だった。ハヤトが前を見なかったので、ハヤトのバックがドアにあたり、ゴンッ!と言う大きな音を立ててしまった。
(しまったか!?)
だが、サラはそれに気付かず、またスゥッと静かな寝息を立てた。
(フウ、危なかったな…)
何事もなかったかのように、ハヤトは部屋を後にした。廊下に出て、玄関の鍵を開け、ドアを開ける。キイッときしむ音でさえ、ハヤトはびくびくしていた。
外に出ると、心地よい風が吹いた。
昼こそ暑いが、夜のサラスナはとても快適なのだ。
とても涼しい夜。キレイな月。
何もかもが最高としか思えない町。夢なのか夢でないのか、とにかく教えられた砂漠に向かう。
昼ごろまでいた砂漠にやってきた。昼間ブレイクとこの場で戦ったとは、到底思えないほど時間の進み方が遅かった。
「月夜の下に、2つの化石を対に置け。そして、彼らへの思いを念じろ。」
ハヤトは自分のツメの化石、そしてサラのねっこの化石を、砂漠のやわらかな砂の上に置いた。
月明かりを浴びた化石は、白く、美しく輝いた。そしてハヤトはその前に座り、手を合わせて念じ始めた。
(オレは、キミたちと、一緒に冒険をしたいと思う。
一緒に楽しんで、一緒に悲しい事も乗り越えて、一緒に強くなりたい。
俺はただそう思うだけだ。だから、この誓いのもとに目覚めてくれ。ほかの仲間も、そう思っているはずだ。)
「ええ、きっとそうね。」
後ろからした声に、ハヤトは驚いて後ろに後ずさりした。こんな真夜中に砂漠にいるのは、オレただ一人と思っていたからであった。
(…!オレの思考を読み取ったのか!?)
「もう!勝手に持っていかないでよね!?驚くでしょ!?」
先生が怒鳴るように、サラはハヤトを怒鳴りつけた。
「そうですよ、ハヤトさん。水臭いじゃないですか!」
スーラも笑いながら言った。
「すまない。あまりに気持ちよさそうに寝てたから…」
「じゃあ、私も座るわね。」
するとハヤトの隣に、サラとスーラが座り込んだ。
「何やってたの?」
「ああ、化石に念じていたんだよ。この化石たちを目覚めさせるためのな。」
「…目覚めさせる?」
「そうだ。この化石たちの思いを念じるだけでよいそうだ。」
そうハヤトが言うと、サラとスーラも化石の前で手を合わせ、何かを念じ始めた。
(長いこと、ずうっと独りぼっちだったんだね。さびしかったよね。さあ、もう独りじゃないよ。長き眠りから、その身を解き放って。)
(僕も、あなたたちの姿を見てみたいんです。だから…)
(…これがオレ達の仲間だ。彼らも皆オレと同じよう、そう思っているはずだ。一緒に笑おう。一緒に悲しいことを乗り越えていこう。さあ、仲間たちよ、目覚めてくれ。)
すると、その化石は細い糸のような光を放ち始めた。
突然の出来事に、思わずサラも口を押さえた。
だんだんその光は増していき、終いには3人の目をくらますほどの光となった。3人は目を隠して、その光の中にかがみこんでいた。
その美しく細い糸のような光から目覚める化石…
それは、あの「七夜の願い星」、「眠り繭」が長き千年の眠りから目覚めようとしているのとそっくりであった。
光はおさまった様だった。ほんの一瞬の出来事も、何もかもが長く感じていた。目を覆っていた手を離す。
見上げれば、キレイな月があがっている。白く、淡い光はこの世の象徴のようだった。
なんだか知らないうちに、オレは立ち上がっていたようだった。それにハヤトが気付くと、足元には何かがいた。
それは、長き眠りから目覚めなおも眠る、かわいらしい姿のアノプスとリリーラがいた。
もうこれは、永久の眠りではない。幸せの、ひと時の眠りなのだ。だから人は、夢を見る。永久の眠りとは、すなわち…
「ね、ハヤト。ありがとう。…かわいいわね。」
自分がそう思っていたことさえも、ハヤトは忘れていた。サラのかける声にも気付かず、ただぼう然と立ち尽くしていた。
しばらく3人はその場で美しい月を見上げていた。
ようやく、スーラが一時の眠りについている、アノプスとリリーラを拾い上げ、「もう帰りましょう。夜も遅いですからね。」と声をかけた。
その一言がなければ、3人は永遠にそこに立ち尽くしていたのではないかと思われたほどだ。
「帰ろう。新たな仲間と共に、な。」
「なによ、カッコつけちゃって!」
その言葉は、単なるからかいではなかった。どこか、「ありがとう」という気持ちのこもったような、そんな一言だった。
「帰りましょうか。」
スーラの眼も生き生きとし、砂漠で倒れていた少年があのスーラだとは、思えないほどの変貌振りだった。
「それじゃあ僕は、先に眠りますよ。」
そういうとスーラは、大あくびをしてさっさと寝室へ入ってしまった。
「…オレもだいぶ眠いな。昼散々寝たのにな。んじゃ、お休み。」
「…おやすみ。」
「…どうした、浮かない顔して。」
するとサラの表情は、浮かない顔から一変し、明るい表情になった。
「
私たちが大人になったら、夜いっしょに…」
「バカ、何を言い出すんだ。寝ぼけてるんじゃないのか?寝不足だろうから、さっさと寝な。おやすみ。」
そういうとハヤトは、足早に寝室に入って行った。顔は少し赤かったように、サラには見えた
「…何考えてたのかしら?夜一緒に一杯飲もうよ、って言おうとしただけなのに。」
変な疑問を抱えながら、仕方なくサラも寝室へ入って行った。閉めかけの玄関のドアが、キイッと音を立てて、閉じた。
チュンチュン…
小鳥のさえずりで、目を覚ましたハヤト。窓からは明るい日差しが差し込んでいた。
(…まだ光はオレンジか…朝焼けだな。)
そんな推測をした後、視線を窓のほうから自分の腕のほうに回す。まだ5時を少し過ぎたばかりだ。
(…みんなには悪いが、オレは旅の身だ。さっさと行かなきゃならん。)
ハヤトは突然、スクッと立ち上がった。荷物をまとめ、布団も手短にたたみ、さっさと片付けた。
結構な音がしていたが、隣で眠っているスーラは、寝返りひとつ打たなかった。
(ごめんな、スーラ。それじゃあ、またどこかでな。)
悲しげにボソッとつぶやくと、スーラの寝顔に笑顔を送り、寝室のドアをキイッと開けた。
廊下は、まだ朝早いだけあって、非常に静かだった。そのまま足音を立てず、さっさと歩いた。
玄関まで、軽いような、重いような足取りで歩いていった。
たった1日しかいなかったこの家も、なんだか懐かしみのある感じがしていた。別れるのが辛かった。目には熱いものがこみ上げていた。視界がぼやけてしまう。
見つからないうちに帰ろうか。ハヤトは、思い切って玄関のドアを押した
あの、キイッというドアの音、そしてサラスナの美しき朝焼け空を見た。次の瞬間…
「だ〜か〜ら〜!昨日も水臭いって言ったばっかりでしょ!?」
しまった…!ハヤトは思った。が、時はすでに遅かった。あのサラの力で、無抵抗に引きずられていくしかなかった。
「もう!何ですぐ、こっそりいなくなろうとするワケ?」
「だって、すぐに行かなきゃいけなかったんだよぉ〜!」
あのハヤトが、駄々をこねるように言った。
「じゃあせめて、じいが起きるまで待っててよ。」
「町長、だろ。分かった。だが、それまでの間だけだぞ。」
せっかくの勇気は、何もなかったことになった。廊下を、カンカン音を立てて歩いていく。すると町長が、自分の部屋から出てきた。
「おはようございます、町長。」
「ふぉっふぉっ、おはよう。」
ハヤトは、ある点に気付いた。町長は今起きたはずなのに、目がさえているように見えた。
それでも差し支えなかったので、ハヤトはそのまま続けた。
「僕はもう、次の街に行かなくちゃいけないんです。まだどこに行くかは、決まっていませんが。」
「ほう、朝ごはんも食べずにかね?」
「はい。これ以上ご迷惑をおかけするわけには行きません。」
「ふぉっふぉっ、迷惑なことなどないわい。じゃが、おぬしがそういうなら、な…
できれば、町をあげて見送りがしたかったのう。じゃが、まだ朝も早い。皆をたたき起こすことはできんのでな。」
そういうと町長は、部屋に戻っていった。それからもう一度ドアを開け、言った。
「ワシからの餞別の品を用意するでな、しばし待っておれ。」
町長は、また部屋の中に戻っていった。それからと言うもの、部屋の中ではガチャガチャ言う音が聞こえてきた。
5分ほど待ったが、それもあまり長くは感じなかなった。
ようやく、町長が出てきた。
「これから先、これが役に立つじゃろうよ。」
そう言うと町長は、何かの装置のようなものを出してきた。
「これは、簡易組み立て式刀鍛冶セットじゃ。刀鍛冶の息子のおぬしには、とても役に立つことじゃろう。」
「…なぜそれを?」
ハヤトは、自分が刀鍛冶の息子であることをまだ誰にも言っていなかった。なのに、町長が断言したことに、非常に驚いていた。
「ふぉっふぉっ、おぬしに雅を渡したとき…それはそれは、美しい瞳じゃったよ。生き生きして、輝いておった。
そして、剣の性質を理解した、剣による戦い。さすがは刀鍛冶の息子さんじゃ、よーく刀のことを知っとる。
おぬしの親は、さぞすばらしい刀鍛冶じゃったんだろうな。」
ハヤトはしばらく、物を利けなかった。確かにハヤトは父を尊敬していたが、誰よりも優れているとは思っていなかった。
第一、ハヤトは父の作業以外には、ほかの人の作業を見たことがなかったからだ。
「それに、その袋の中には、剣に必要な軟鉄と硬鉄が入っとる。
…そもそもこれを渡したのは、おぬしが旅の途中で見つけた良い鉱物を、おぬしの力で剣にしてほしかったのじゃよ。
これを使うもよいが、旅の途中で見つけた鉱物で、すばらしき剣を作ってくれ。」
「はい。重ね重ねありがとうございます、シャウラン町長。」
「ふぉっふぉっ…ではこれが、最後に刻む時かのう。」
シャウラン町長は、暖かくもあり、かつ淋しいような別れの言葉を言った。
「では、僕はこれで。今までありがとうございました。」
「いやいや、こちらこそ大切なものをもらったよ。形にはできないものを、な。サラ、スーラ君と一緒に、見送りに行ってあげなさい。」
「もちろん、言われなくっても!」
「それでは…」
勇気を持って、今度こそこげ茶色の大きなドアを押す。美しき砂漠、朝焼け空。砂漠に惹かれるように、一歩足を踏み出した。
もう、未練などないはずだ。未練なんて…
なんと表現していいか分からないが、サラサラとした、やわらかくて、涼しい風が吹いた。
それはいつもの風とは違う。このサラスナに来て一番の風だったに違いない。
別れの風は、何を告げたのだろうか…そんなことを考えながらハヤトは、順調に歩を進めていく。三人は、一言たりとも口を利かない。
やがて、あの夢の中の砂漠。化石たちが永久の眠りから目覚めた砂漠。あのブレイクと戦った砂漠。
いろんな思い出が詰まった砂漠にやってきた。
「サラ、スーラ。こんな所まで連れてきちゃって、悪かった。オレはこれから旅に出るよ。サラもスーラも、もう戻ったほうがいいぞ。」
だが、サラとスーラは顔を見合わせ、ニコニコし始めた。オレが居なくなるのがそんなに嬉しいのか!?
心配のあまり、思わず聞いてしまったハヤト。
「何がおかしいんだ?」
「フフッ、教えてほしい?」
「ああ。」
「…私、あなたに着いて行く事にしたから!」
「…は?」
「ハヤトに着いて行くのよ!ダメって言ってもついていくからね!」
「…シャウラン町長には言ってあるのか?」
「うん。じい…じゃなくて、町長には言ってあるよ。」
「…スーラは?」
「うん、僕はそんなに体が強くないんだ。だからそんなに遠くにはいけない。…どこに旅するか、決まってるの?」
「いや、まだだ。」
「なら、トールに行こう!あそこはサラスナの隣だから、すぐ行けるはずだよ!」
「…じゃあ、その…トールだっけ?そこに行ってみよう。」
ハヤトは今、新たな一歩を踏み出す。
「後戻りできないわね。」
サラの眼も生き生きとしていた。
「大丈夫ですよ!ハヤトさんなら!」
スーラの言葉には、自信が満ちていた。
ハヤトの中には、新たな決心、望みが生まれていた。いつかこの砂漠に帰ってくること、旅の間で立派な刀を作ること。
もう1度、この砂漠の風を受けたい。だから、この町に帰ってくるぞ!
そう言わんばかりのハヤトの、美しい瞳はどこを見ていたのだろうか…
(オレは負けない!どんなヤツにもだ!オレは強くなる!仲間と共にだ!)
そして、あの因縁のブレイクと戦うことまでも、ちょっと望んでいたハヤトだった。一方のサラは、「絶対やだ」としか思っていなかったはずだ。
3人は砂漠の風を受け、柔らかな砂を踏みしめながら、スーラの導きの下で“トール”を目指す。